大聖女ローザの秘められた思い
ヴァーリの街を歩きながら、俺は無限初回ログインボーナスで得た『SSS級インビジブルヘルム』の存在を思い出した。
そういえば透明すぎて、まったく触れていなかった。なんとなく効果を覗いてみた。
【インビジブルヘルム】
【レアリティ:SSS】
【部位:上段頭装備】
【詳細】
無色透明な兜。
MHP +5000。
MMP +2500。
DEF +30、MDEF + 30。
任意で魔法スキル[ブロセリアンド]Lv.1を使用できる。
【ブロセリアンド】
【Lv.1】
【補助スキル】
【詳細】
消費MP:300。
相手の“心”を一定の範囲だけ読み取る。効果の持続時間は30秒。
スキル使用後、12時間のクールタイムが存在する。
……なんか凄い防具だな。
もっと早く使うべきだったけど、すっかり忘れていたんだ。
心を読めるというスキルに興味がわいた。少し試しに使ってみるか。
ブロセリアンド Lv.1を発動し、俺はローザに向けた。
なにを考えているのかなっと。
……お? なにか聞こえてきた。
(……アビスさん、わたしの胸とお尻ばかり見てる。でも、いいんです。男の子はそういうものだって知っていますから)
んなッ!?
ローザのヤツ、俺の視線に気づいていたのかよ。
あと15秒残っているので粘ってみた。
(アビスさん、好き好き好き。あぁ、もう、全部かっこいいっ。早く情熱的に告白して欲しいです。キスもいっぱいしたいですし、いっそ押し倒して……)
俺は興奮しすぎて――思わず鼻血が出そうになった。手で鼻を強く押さえた。ちょっと出てるかも。
「……? アビスさん、なんだか慌てていますね。どうしたんです?」
「んや、その、ローザお前……結構スケベぇだな」
「はい?」
俺はとんでもないスキルを覚えてしまったな。
スキルが使用できなくなったので、一旦忘れて前を歩き続ける。それにしても、静かだ。閑散としているというか、過疎っているというか。
「アルフレッドさん。人気がほとんどないけど、どうなっているんだ?」
「私のことは呼び捨てで構いません、主様。
ええ、実は海よりも深い事情がありまして――元主、ルーカン辺境伯のお屋敷がよからぬ輩によって不法占拠されているのです」
「なんだと?」
「一週間前です。『マッドネス』なるギルドが現れ、この街を占拠したのです」
だから、こんなにも人気がないんだ。
聞く所によれば、マッドネスは三人組の男たちらしい。暴力で支配し、ルーカン辺境伯の婚約者だった女性たちを侍らせているようだ。
そうか、不在の間を狙われたんだな。
「だけど、アルフレッドは強そうだし、なんとか撃退できるんじゃないのか?」
首を横に振るアルフレッドは、肩を落とす。
「残念ながら、彼らはS級ランクの冒険者。おそらく、奪ったレアアイテムで肉体を強化しているのでしょう」
「へえ、犯罪者にしてはランクが高いな」
「ええ、なので先程は新たに来られたアビス様の力を試そうとしたのです。ご無礼をお許し下さい」
「それなら何も問題はないよ」
ローザもミランダもうなずく。
とにかく、そのマッドネスとかいう犯罪者ギルドを倒す必要がありそうだな。
そうして屋敷の前に辿り着いた。
「おぉ~、大きいですね、アビスさん」
「これは予想以上だな」
恐ろしいほど広い庭。
噴水がいくつもあって、花壇が各所にあった。綺麗な花を咲かせ、どこか神秘的。まるで神殿だな。
「聖地アヴァロンでもこんな場所はないですよ、アビス様」
「そうなのか、ミランダ」
「ええ、これほど隅々まで手入れされているお庭は滅多にありません。かなりの腕の庭師さんがいるんですね」
通路にはゴミひとつないし、完璧だな。
そんな歩くのも勿体ない庭を歩くと、ようやく屋敷の前に辿り着く。
アルフレッドに案内され、中へ入る。
「こちらでございます、主様」
「へえ、中も清潔で汚れひとつない。広くて快適じゃないか」
「すべて、私の仕事ですから褒めに戴き光栄です」
まさか庭も全部やっているのか。
このアルフレッドという執事、かなり有能なのでは。
彼が俺の執事になってくれるのなら助かるな。
先を進み、大広前の前にやってきた。
どうやら、この扉の向こうに『マッドネス』はいるらしい。
アルフレッドが扉を開けてくれた。
俺は中へ入り、部屋を見渡した。
おー、いたいた。
「お前たちか。俺の領地を支配しようとしている犯罪者集団」
「あぁん!? んだテメェ!」
ギルドのリーダーらしき男がこちらへ向かってくる。目つきが悪すぎだろう。それに、柄もかなり悪い。
男三人は、筋肉質で明らかに暴力的な雰囲気があった。……犯罪者なのだから、当然か。
「俺はアビス。新たに辺境伯となり、このヴァーリの主となった」
「辺境伯ぅ!? 馬鹿か、お前。ピエトロは死んだって聞いたぜ。ギガントメテオゴーレムを倒しにいって犬死だったらしいじゃないか!」
ピエトロ?
と、首を傾げているとアルフレッドが「ルーカン辺境伯の名でございます」と囁いて教えてくれた。そういうことか。
そうか、風の噂くらいは聞いているらしい。
「前の主のことは俺も知らん。だが、今はもう俺の領地。勝手は許さん」
「許さんだと? 言っておくが、俺様はマッドネスを纏め上げているS級冒険者のモルガンテ様だぞ!!」
筋肉モリモリマッチョメンのモルガンテか。見るからに筋力パラメータは高そうだ。武器は“片手斧”らしい。
「そうか、そりゃ怖いな」
「馬鹿にしてんのか、てめぇ! だがまあいい、オイ!」
モルガンテが部下に指示を出す。
部下の二人は奥から三人の美しい女性を引っ張ってきた。
「きゃっ」
「ら、乱暴はやめて」
「お、お姉さま……」
可哀想に、恐怖で支配されているようだな。
「いいか、小僧。この女共はピエトロの元婚約者たちだ。花のように綺麗だろう」
下品な笑いをあげながらモルガンテは、一番か弱そうな年下の女の子の肩に触れていた。女の子は怯えて泣いていた。
それを庇うように姉らしき女性が前へ出た。
だが、モルガンテは彼女の頬を強く叩いた。吹き飛ぶ女性は、床に転がっていく。なんてことしやがる!
「おい……モルガンテ。その女性たちをどうする気だ」
「俺たちは丁度三人いるからな、花嫁にするさ! それとこの街にいる女共も全員、俺の女にしてやる。いいか、小僧。この街には美人がいっぱいいるんだぜ。俺たちが怖くて隠れているようだけどな……これから手あたり次第、女共を屋敷に拉致って毎日お楽しみパーティさ」
「もういい、お前の企みなんて聞く必要もなかった」
すでに、ローザとミランダはブチ切れて今にもグーか魔法が飛び出そうだった。でも、俺が止めた。俺がモルガンテをぶっ飛ばすからだ。
「やる気か、小僧!」
「お前は消えろ」
目には目を。
斧には斧を。
インビジブルスクエア――“斧”モード!
「あぁ!? 武器も持たずにS級冒険者の俺とやろうってのか!!」
「特別大サービスだ。モルガンテ、お前に正式な『決闘』を申し込んでやる」
「ほぉ!? この俺様に決闘だと!! 上等だ、オラアアアアアアア!!」
モルガンテは【受諾】を押した。
瞬間、決闘が開始されたが、俺は既にモルガンテの目の前に立っていた。
「遅すぎるんだよ」
「―――へ?」
「くらええええええええ、アースクエイク!!!」
インビジブルアックスの追加効果の大魔法を穿つ。
「なッッ、ありえねえ、ありえねえええええええ!! ぼぎゃあああああああああああああああああああああああああっ!!!」
モルガンテの体は、紙のように舞い――屋敷の壁を貫いて外へ。
【勝者:アビス】
なんだ、弱かったな。
残り二人は、ローザとミランダが撃退してくれていた。
「うあぁぁん、お姉さま」
「良かった、スクルド……無事だったのね」
「はい、ウルズお姉さまのおかげです」
「いえ、あの男の子が助けてくれたのですよ」
さっきモルガンテから叩かれていたウルズは、ローザのヒールで傷を治癒した。三姉妹は俺に何度もお礼を言ってきた。
良いことすると気持ちがいいものだな。




