ログレス騎士団へ向かえ
ギルド食堂で希少モンスター『グリンブルスティ』のステーキを味わう。
ダンジョン攻略達成の記念だ。
「このイノシシ肉、すげぇ美味いな」
「はい、アビスさん。肉汁がじゅわじゅわっと……たまりません」
ナイフで一口サイズに切り、口へ放り込むとこの世のモノとは思えないほどの食感と濃厚な味わいが舌の上で踊った。
……うめぇ。
これが勝利の味か。
幸せを噛み締めていると、見知った顔が現れた。
あのギルドの受付嬢の服装……巨乳金髪のあの麗しの女性は、グレイス・ハートレイさんだ。
「お久しぶりです、アビス様。ローザ様。戻られていたのですね」
「おぉ、お姉さんじゃん。前はありがとう。おかげでメテオゴーレムダンジョンは攻略完了したよ。あとで報告しに行くつもりだったんだ」
そう伝えると、お姉さんは顔を真っ青にした。って、なんで!?
「……え、本当に、ですか?」
「ああ、ローザも頷いているだろ」
俺の隣で“もぐもぐ”と食事を摂るローザは、瞳を星のように輝かせてステーキを味わっていた。すっかり虜になっているな。
「本当なんですね?」
「お姉さん、疑り深いな。証拠ならあるよ」
アイテムボックスから『SSS級アランヒルズ』を取り出す。
ずっしりとした重みのある刀だ。
アイテムの詳細をお姉さんに見てもらった。
【アランヒルズ】
【レアリティ:SSS】
【部位:右手武器/左手武器】
【詳細】
ギガントメテオゴーレムの流星刀。
物理攻撃力:8000。
物理ダメージを与えたとき、ダメージの10%をHPおよびMPとして吸収し、回復する。
この武器は破損しない。
ディバインエンチャント[改]が付与された場合、完全回避 +30。
精錬値が『7』以上のとき、物理攻撃力 +2000。
「こ、これは本物のレアアイテム……! 間違いなく、ギガントメテオゴーレムしかドロップしない武器アイテムですね」
グレイスさんは、びっくりして過呼吸を起こしていた。そんなに驚くなんて。
「言ったでしょ、お姉さん」
「は、はい……疑って申し訳なかったです。私はてっきり、二人が諦めて帰還したのかと、申し訳ございません」
「いや、いいよ。飯食い終わったら報告しにいくつもりだったし」
「そうでしたか! 改めて攻略おめでとうございます」
祝福され、俺は照れた。
ローザは相変わらず、もぐもぐしているけどなっ。
▼△▼△▼△
――飯を食べ終わり、俺はギルドを目指した。
グレイスさんは先に帰ったので、もういるはずだ。
「美味しかったですね、アビスさん」
「苦労したからな。これくらいの褒美があっても罰は当たらない。それに、これからはもっと裕福になるぞ!」
「辺境伯になるんですね!?」
「そう、それだ。これから攻略報告へ行く」
ローザを連れ、俺はギルドへ入った。
多くの冒険者がいて、彼らもどこかのダンジョンを攻略してきたところらしい。次々に報告があがっては、周囲の冒険者が声を上げていた。
へえ、今日は難易度の高いダンジョン達成者が多いんだな。
グレイスさんの窓口へ向かい、俺は改めて挨拶した。
「よろしく、グレイスさん」
「ようこそです。では、さっそく『メテオゴーレムダンジョン』の件ですね」
「ああ、討伐報酬を受け取りたい」
「うけたまわりました」
その直後――
【メテオゴーレムダンジョン攻略完了】
【難易度:★★★★★★】
【達成者:アビス、ローザ、ミランダ】
と、なにか飛び出た。
それを周囲の冒険者も目撃したようで、騒然となった。
「はぁ!? ★★★★★★達成だって!?」「馬鹿な……あれってS級冒険者推奨ダンジョンだろ?」「あの大手ギルドが壊滅したダンジョンじゃん」「メテオゴーレムダンジョンへ行くとか自殺行為だとか言われていたよな」「えー、マジ? アビスって人、すげえな」「あのボロボロの少年が? 嘘だろ、信じられねえ」
一気に注目が集まり、居心地の悪さを感じた。……こう視線が集中するとなぁ。まあ、悪い気分ではないけれど。
「アビスさん、人気者ですねー!」
「そうかもな。それより、これで辺境伯になれるのか?」
俺は、改めてグレイスさんに聞いた。
すると、彼女は少し複雑そうにしていた。なんでっ!?
「実は……直ぐにはなれないんです」
「なんだって?」
「辺境伯の褒美につきましては、皇帝陛下にご報告ください」
「皇帝陛下って、このケイオス帝国の!?」
「はい、そうなりますね」
マジかよ。ケイオス帝国の皇帝陛下なんて会ったことないぞ。そもそも、謁見とか可能なのか?
「どうすれば会える?」
「冒険者ギルドが“ダンジョン攻略達成証明書”を発行いたします。それを聖騎士ガラハッド様にお見せください。きっと陛下と会わせていただけるかと」
「聖騎士ガラハッド……誰だ」
「アビス様は、ご存知ないのですね。帝国最強の『ログレス騎士団』のメンバーのひとりです」
ログレス騎士団。
その名前くらいはさすがに知っていた。
騎士団という割には、たった数人しか所属していないらしい。けど、あまりに強くて少人数で事足りているとか。
「分かった。ログレス騎士団へ向かえばいいんだな」
「はい。この冒険者ギルドより北になります」
「ありがとう、お姉さん」
「いえいえ。アビス様、またご利用ください」
グレイスさんと別れ、俺とローザは冒険者ギルドを後にした。
「だってさ、ローザ」
「ログレス騎士団ですね。そこへ行き、聖騎士ガラハッドという人物に証明書を見せると。それでついに皇帝陛下とお会いできるわけですね。凄いじゃないですか!」
「そうだな、聖騎士もそうだけど皇帝陛下には一度も会ったことない。その顔も見たことないんだ」
「それは楽しみですね」
「ローザも見たことないんだな。大聖女なのに」
「はい、残念ながらお会いしたことは一度もありません」
そうなのか。皇帝って、あんまり表に顔を出さない人なのかな。
とにかく、ログレス騎士団へ向かった。
道中、すれ違う人から「なんだ、あのホームレス」「あの雑巾みたいなボロボロな服、ひでな」「大丈夫なのか、あの少年」「孤児院から抜け出したのかね」「いやけど、隣の銀髪の女の子は、すげぇ美人だ」「どういう関係なんだ、ありゃ」と、まあ俺に関しては、あまりよろしくない感想が殺到していた。
そうだな、いい加減に服装をチェンジしないとな。もう俺は、昔の俺ではないのだから。
「ローザ、さすがに皇帝陛下に会うのだから着替えたいな」
「そうですね。アビスさんの服は、引き裂かれたようにズタボロで汚れも酷いです」
「自分で言うのもなんだけど……お前、よく俺の隣を歩けるな。今更だけど」
「わたし、人間を見た目で判断するタイプではないので。別に手だって繋げますよ」
ローザは、当然のように俺の手を握る。
ドヤ顔でアピールして、周囲を更に驚かせていた。なんていい顔してやがる。これでは文句のひとつも言えないな。むしろ感謝だ。
▼△▼△▼△
この周辺では一番の仕立屋へ向かった。
貴族も利用する有名店だ。
入店早々、店員の女性が“ギョッ”としていた。
「あ、あのぉ……大変失礼ですが、お客様にはお金があるとは思えないのですが」
「お姉さん、俺の所持金を見せれば信じてくれるよね」
【所持金:30,590,100ベル】
情報を開示すると、店員のお姉さんは飛び跳ねた。申し訳ないと何度も頭を下げていた。
そう、俺は『無限初回ログインボーナス』で得た不要アイテムを売りまくった結果、これだけの大金を手に入れていたのだ。A級以下を売るだけでも、こんな額になってしまったのだ。
俺はついに、新しい貴族服を手に入れた。
「わぁ、アビスさん、その服カッコいいですね。公爵様とかの宮廷服みたいです」
「黒でカッコイイし、金の刺繍も気に入っている。ちゃんとジャボもあるし」
「ええ、見違えるようで素敵ですっ」
突然抱きつかれ、俺はビックリした。
まてまて、今までそんな積極的に抱きついてこなかったじゃないか。やっぱり、見た目を気にしていたんじゃないか――と、ちょっと疑うけど、もういいや。
「騎士団へ行こうか」
「…………」
ローザは、無言だった。
俺の顔をずっと見つめて時を止めていたのだ。なんだ、この恋する乙女みたいな表情。
「どうした、ぼうっとしているな」
「アビスさんの雰囲気、変わりすぎて別人みたいなんです」
「今まで周囲から心配されるほどのボロ服だったからな。こうも印象が変わるとは」
店員のお姉さんにも見つめられている状況だ。
ローザもなんだか、ぼうっとしているし……大丈夫か?
「その、さっきからドキドキが止まりません。アビスさんのせいで、わたし、顔が熱いんです。……責任取ってください」
「辺境伯になったら、責任なんていくらでも取ってやるよ」
ぎゅぅっとローザを抱きしめる。
すんなり受け入れてくれる。
ローザの方も腕を回してくれた。
イチャイチャしていると、店員のお姉さんが咳払いした。
「お客様、お店の外でやって下さい。あー、もう羨ましいっっ」
「「あ……」」
俺達は仕立屋を出ていく。
目指すは『ログレス騎士団』だ。




