パーティから追放したヒーラーは最強のネクロマンサーでした〜今更後悔してももう遅い〜
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「シェリー、お前はクビだ。このパーティから出ていけ。」
ある宿の一室で、俺、勇者クロノはヒーラーのシェリーにそう告げた。
周りにいるのは大柄な剣士フィリポ、無愛想な暗殺者ジャスミン、眼鏡をかけたウィッチのブライトの3名。俺たち5名は勇者パーティとして魔王を討伐するために旅をしている。していた。
「クロノ様!どういうことですか!?」
「お前の能力は勇者パーティにふさわしくない。既に他のヒーラーを探している。お前よりよっぽど腕が立つし実績もあるヒーラーだ。」
「ですが!私には復活魔法があります!」
確かにシェリーは復活魔法が使える。復活魔法は世界的に見ても珍しい魔法で、死後1日以内であれば死者1人を復活させられる強力な魔法だ。
「しかし復活魔法を使う機会は一度もなかっただろう。」
「それは一度使うと30日は使えないからで…」
「使わない復活魔法は無いのと同じだ。それに、これは4人で決めたことだ。おとなしく従え。」
シェリーは他の3人を見る。フィリポは顔を背け、ブライトは憐れむような視線を送る。感情の希薄なジャスミンもどこか悲しそうだが、首を横には振らなかった。
「ということだからさっさと出ていけ。これまでの報酬は出してやる。」
「…分かりました。明日には出ていきます。ですが、後悔しないでくださいね。パーティの誰か、あなたの大事な人が亡くなっても助けられませんから。」
シェリーがそう言って、ふらふらと部屋を出ていった。ジャスミンとフォリポも出ていったので、俺とブライトの二人になった。
あなたの大事な人が亡くなっても、か。
「さっきのだが…」
ブライトが口を開く。こいつは子供なのに老人のように話すやつだ。
「わざわざ嫌われるような事を言わずとも、直接言えば良かったのではないか?『僕は愛しきシェリーちゃんを危険に晒したくないんだ!』とな。」
「お前なあ…シェリーにそんな事を言ったら絶対に嫌と言うだろ。"逆効果"なんだよ。それに俺はそんな口調じゃない。」
「ふう、やれやれ。大人はなぜ本音を隠したがるのか。仲間内で隠し事など邪魔以外の何物でもないのに。」
ブライトは動作が一々芝居がかっている。
「いくらお前が天才だろうとも、子供に理解できるほど人間ってのは簡単じゃねえんだよ。」
「あ!また子供扱いしたな!ワシはもう大人じゃ、15歳じゃ!」
ブライトは子供扱いされると異常に反応する。こうしてこの場は誤魔化せた。
次の朝にシェリーは旅立った。どうかお元気で、達者でな、そういうことを言うのはズルイと思ったので、挨拶はなかった。
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そして数年後のある日、俺は死んだ。
とあるダンジョンに潜む死霊術師を討伐しに来た俺達は、100を超える数のアンデッドに達に囲まれ体力が消耗したところに胸を刺し貫かれた。
しかし死なば諸共と死霊術師に捨て身の特攻を仕掛け、見事袈裟斬りにしたところで力尽きて倒れた。
そして走馬灯を見た。
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「はじめまして!ヒーラーのラピスって言うっす!よろしくおねがいします!」
新しいヒーラーはラピスという移動民の少女だ。移動民とは名前の通り、移動を繰り返して生きる民族の総称だ。移動民には優秀な魔法使いが多いが彼女はその中でも飛び抜けていて、死者蘇生とまでは行かないが大概の傷は治せるそうだ。
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「はい、クロノ様。あーんっす!」
「ああ、ありがとう。」
ラピスはよく俺に構ってくれた。たぶん好きだからとかではなく、俺が上の空でいる事が多かったからだろう。
頭に浮かぶのは主にシェリーの事だ。今どうしているのだろうか。安全に家まで帰れたか。それとも良い旦那を見つけて幸せに暮らしているのだろうか。
正直、後悔している。シェリーを有無を言わさず追放したことを。しかしシェリーを追放せずにシェリーが死んでしまえば、俺はもっと後悔しただろう。
そんな事ばかり考えて俺は今日も上の空だ。
今日も空が青いなあ。
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走馬灯が解かれた。
俺の目には廃教会の床と、共に倒れた死霊術師のフードが見えた。死霊術師は女性だったらしい。
死霊術師は瀕死とはいえ、まだまだアンデッドは尽きない。仲間に俺を助けに来る余裕はないだろう。ああ、俺は、ここで死ぬのか。そう思うとむしろ安らかな気持ちになった。
アドレナリンのせいかもしれない。
死霊術師の顔すらシェリーに見えてきた。そんなことはありえないが、それでも良い。シェリーの顔を見ながら死ねるならそれはそれで幸せだ。
俺はかすれた声で
「シェリー、すまなかった。」
死霊術師からすれば良い迷惑だろう。
困惑した死霊術師は何かを言おうとして、声にならずに口だけを動かし…
俺は死んだ。
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目が覚めた。木の天井が見える。
俺は確かに死んだはずだが…
「あ、クロノ様!よかった、目覚めたんすね!」
「おうクロノ、おはよう。よく眠れたか?」
ラピスとフィリポが話しかけてくる。
「ああ。俺は死んだんじゃ…ウッ。」
「まだ寝てろって。今ブライトとジャスミンを呼ぶからな。」
お言葉に甘えてもう少し寝かせてもらった。
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パーティが全員集まった。
「クロノ!よく生きたのじゃ、偉いぞ!」
「ありがとう。でも俺は確かに死んだはずだが…」
シーン。部屋の中に気まずい沈黙が流れる。俺は困惑する。
「あー、それなのじゃが…」
ブライトまでもが半端な顔をする。
すると、普段は全く口を開かないジャスミンが口を開いた。
「あの死霊術師がシェリーだった。死ぬ間際にクロノを蘇生した。」
俺は頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
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泣いて、泣いて、吐いて、また泣いて、俺が落ち着くにはかなりの時間を要したが、仲間達はずっとそばにいてくれた。
「すまない。少し、一人にさせてくれ。」
「…分かった。」
仲間達はそれ以上なにも言わないでくれた。それは多少の救いになったが、気休めにもならない。
シェリーはもう、いないんだ。なんでいないんだ?俺だ。俺が追放したからシェリーは死んだんだ。
俺がもし追放しなかったらどうなっていただろう。四天王や魔王からシェリーを守ることぐらい簡単なはずだった。俺がもっと強ければ。シェリーを守れるぐらい強ければ。
後悔しても、もう遅い。
裏設定
①シェリーが死霊術師になった理由
シェリーの復活魔法は30日に一度しか完全復活させられないが、アンデッドとして不完全ながら復活させることはできる。その力故に迫害されたシェリーは村に戻ることもできず、ダンジョンでひっそりと物資を奪いながら生活していた。
②暗号
話と話の間の区切り線はモールス信号になっている。
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