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人のクニ 前編

前話から数時間ほど遡ります。

「.......遅いね、蜂ちゃん。もうすぐ夕方になっちゃうよ。」

「......こりゃダメだな。魔蜂(マナン・ビー)(・プリンセス)には悪いが、哨戒任務なんて無理だな。」


 人間を知る。危ないから絶対に近寄っちゃいけないと思ってたが、ディムは「危ないからこそよく知るべきだ。」と言って憚らない。せめて何処に人間が知っているのかを確認するべきだと言う。


「...もう今日はこのままここに泊まっちゃおうか。」

「おいおい、”人間に近寄りたくない”って言ったのはお前だぞ。」

「でも蜂ちゃんが来てるんだもん。到着するまで待たなきゃ。」


 その第一段階として、ウチ達は小鬼(ゴブリン)時代に住んでいた洞窟までやって来た。魔物はウチの臭いで追い払い、人間がいるかどうかは天牛(ロングホーン)に確認して貰った。とりわけ大きな触覚を持つ天牛(ロングホーン)は、ウチの虫の中で一番気配に敏感なのだ。

 この子のお陰で、ウチらは安全に洞窟までこれた。小鬼(ゴブリン)は少しいたが、ウチの臭いで遠くに追い払った。「同族に容赦ねぇなぁ」とはディムの言葉だが、ウチはもう小鬼(ゴブリン)じゃないので気にしない。


「ハァ...。まぁ俺らが来いっつったんだし、待つべきか。じゃあ見張り役に蝶なんぼか召喚するぞ。」

「オッケ。今お腹空いてるから程々にね。」

「うぃ。」


 ディムの体が眩しく光る。そして光の球が幾らか放たれ、中から蝶が何匹か現れた。何故蝶かと言われれば、「今まで召喚していなかった」ってだけに過ぎない。森の奥の巣では蝉に見張らせてる理由は、「広範囲を見張らせる以上、音で知らせられる蝉の方が良いのではないか」と考えたからだ。


「んで、蝶の報告を知らせる為に.....そうだな、鈴鳴虫(クリケット)でも呼んでみるか。」

「ディムって色々考える割に何召喚するか割と適当だよね。」

「ぶっちゃけ。特別何か必要になった時もないし。」

「ワタシがお腹空くから節約して欲しいんだけどなぁ。」

「無理。どいつもこいつも戦闘力は似たり寄ったりだから、数ださねぇとどうにもなんねぇんだわ。」

「ハァ.......虫に卵産ませて増やせられないかなぁ....?」

「そんなの無理.....いややった事ないな。おい散粉蝶(パウダーフライ)、見回りついでに卵産み落とせ。」

「ついでに芋虫(キャタピラー)も幾らか召喚しちゃって。アレなら蝶より楽だから。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 元小鬼(ゴブリン)洞窟は空だったが、幾らか人間の痕跡を見つける事が出来た。

 それはバッテン印だった。血か何かで付けたような、白い印であった。洞窟の入り口に目立つように付けられた印で、まるで誰かに見つけられて欲しいかのような印だった。


「これ....何?」

「マーキングだろうな。それも多分、人間の。」

「じゃあ、人間が来るって事?」

「多分。アレから何日経った?」

「えーと......確か7日か8日ぐらい。」

「人間の縄張りがどんくらい広いか分からんけど、多分数日のウチにくるだろうな。」

「じゃあ待ち伏せするんんだ。」

「あぁ、取り敢えず魔蜂(マナン・ビー)(・プリンセス)の到着を待ってな。」



 その後魔腐蜂(アスナン・ビー)(・プリンセス)に進化した蜂が大螻蛄(フェイクドモール)に連れられて現れ、2人を驚愕させたがそれは省略する。






岩巨人(トロール)...食べた事ない。」

「それに魔石もでっかいなぁ....」

 魔物が大きい程、魔石も大きくなる。下手な木より大きな岩巨人(トロール)の魔石ともなると、小学生くらいの子供(ヤブローニャ)の両手に収まりきらない程のものであった。また透き通ってこそいないが、光を反射して美しく輝いている。岩巨人(トロール)の強い魔力の表れだ。


「ねぇ......これ...」

「...あぁ。これは流石に蜘蛛(スパイダー)にやれない。お前、食って良いぞ。」


 ヤブローニャが食べた魔石は今まで、微々たるものだった。蜘蛛(スパイダー)を育て、糸を罠として使えるようにする方が結果的に魔石も多く手に入るからだ。

 だが今ここに蜘蛛(スパイダー)はおらず、また岩巨人(トロール)の魔石などいつ手に入るか判らない。

 ヤブローニャは今、滝のように涎を溢れさせていた。魔物の本能が訴えていた。もう、我慢出来ない。



「やったぁ!じゃあ頂きまぁぁす!!!」


 欲に任せ、ヤブローニャは魔石に齧り付く。手に持ってる時は石のように硬い魔石も、口に含むと溶けるように消えて無くなる。同時に莫大な魔力が体に.....いや、ヤブローニャの魔石に染み渡る。


「ふぅ.....おいしかった。」

 あっという間に、岩巨人(トロール)の魔石は食べ切ってしまった。





「で、どうだ?なんかあるか?」

「.....いや、何にも。むしろお腹空いちゃった。岩巨人(トロール)頂きまーす。」

「えぇ?変だな....?」


 魔蜂(マナン・ビー・)(プリンセス)は同格の魔物の粘体(スライム)の魔石を食べた事で、上位の魔物である魔腐蜂(アスナン・ビー・)(プリンセス)へと進化した。

 香鬼(ヤブローニャ)から見て岩巨人(トロール)は間違いなく格上の魔物である。通常ならば進化しなくてはいけない。


「mgmg.....うーん、ウチは何となく判るな。多分、岩巨人(トロール)じゃダメなんだよ。」

「まだ魔力不足ってか?ならそれこそ(ドラゴン)の魔石でも食わなきゃ進化しないのか?」

「gtgt.....そうじゃないって。ほら、ディム達ってウチの魔力から生まれてるわけじゃん?つまりウチの一部なんだよ。だからみんなで強くならないと、ウチも進化出来ないんじゃない?」

「うーん....そもそもなんで魔腐蜂(アスナン・ビー・)(プリンセス)が進化したのかもあんまよくわからねぇしなぁ?.....食べた魔石は特異個体(ユニークモンスター)だったのか?いやそれとも......」



 ブツブツやってるディムを放っておいて、凄まじい勢いで岩巨人(トロール)肉を片付けるヤブローニャ。

 しかし、魅惑のお食事タイムはすぐに終わることとなる。


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