地を這うものども
この蜂、主人公より先に戦闘してるんだけど....
岩巨人は恐ろしい魔物です。1対1ではこの森の誰も勝てないでしょう。しかし群れば勝てます。目の前のボロボロの有り様が良い証拠です。
”ブブブブブ!ブブブブ!”
岩巨人の恐ろしさはその肌の厚さです。我らの攻撃など気にかけてすらいません。
”フゴぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!??!?”
ならば肌を避けて攻撃すれば良いのです。大したダメージにこそならないでしょうが、痛そうな悲鳴には少し達成感を覚えます。
岩巨人は近くにあった棍棒を振り回し、ワタシ達に襲いかかります。当たれば問答無用で即死です。死ぬ気で避けます。
「クゥゥゥ!!!風圧で近づけない!」
棍棒の風圧だけでも脅威です。今も1匹墜落させられました。
「集まるのです!肩を組んで岩巨人に!」
正面からの突破を目論みます。固まった事で、余計に棍棒の狙いが鋭くなりました。でもこれで良いのです。
”フゴぉぉッホぉぉぉぉぉ!?!??!?”
墜落した魔蜂がやりました!青くなった場所に貼りつき、果敢に攻撃しています!すぐ振り払われましたが、もはや岩巨人は怒り心頭です。
「さぁ、早く崖に!」
崖に急ぎます。岩巨人はカンカンになって追いかけてきます。
そして遂に崖に到達しました!岩巨人は大きく重いので、少し手前から崩れおち、下にある川へと真っ逆さまです。崖は岩巨人数頭分の高さがあります。生きてはいますまい。
崖下は土煙で、岩巨人の死体は見えません。代わりに沢山の粘体が逃げ出しているのが見えます。どうやら川に住んでいたようです。
「やりました!頭さえ働かせれば我々にも狩りが出来るのですよ!見ましたか!」
誰かに見せつけたいです!生き残った僅かばかりの魔蜂を連れて、下に降りて行きます。流石にこの巨体を運ぶ事は出来ないでしょうが、魔石を取るくらいなら何とかなるでしょう。
さぁ、早速......
”フガぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!”
突然の大咆哮に、思わず怯みました。そして上から大量の土が降ってきました!い、一体何が!?!?!!??!?!
岩巨人はまだ生きていました。足を挫いてるらしく、片足立ちで動き回りこそしません。頭も変に歪んでいて、血をダラダラ流しています。しかし奇跡的にまだ生きているようです。そして怒り狂い、棍棒を無茶苦茶に振り回して崖を砕いてしました。
「な、なんて、馬鹿力.......」
森で最も強い魔物。これほどまでに恐ろしいのですか。
”フガぁぉ!”
「なっ!?いつ側ni....」
ブオンっ!!
よそ見をしている内に、殴り飛ばされました。風圧のお陰で直撃こそしていませんが、地面に叩きつけられました。
周りを見れば魔蜂はもう全滅。ワタシも目が少し潰れ、変なところから体液が漏れています。
「っく....ワタシはまだ死ねないのです!!!!」
それがどうした!
まだ飛べる!まだ噛める!まだ毒もある!あのような死にかけの岩巨人1匹ぐらい、倒して見せます!!ひとまず距離を.....
ggggggggggggggg
突然岩巨人が手を止めます。辺りに低い”gggg"という音が鳴り響いています。
「もしかして揺れてる?まっまさかまた崖が......!?」
ドッッガァァァァァァァァァァン!!!!!!!
「崖が爆発したっ!?」
突然、崖があった場所から大量の岩石が飛んで来ます。その岩石は岩巨人に余りダメージを与えなかったようですが、その轟音に、岩巨人も振り向きます。ここからだと岩巨人の体に隠れて何も見えません。
しかし何が起きたかが見える前に、何かが土煙の中から飛び出しました!い、一体何がっ!?
”フガぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!”
「...............」
「はぁ!?なんで大螻蛄がっ!?」
土煙が晴れると、そこでなんと大螻蛄が居たのです!大螻蛄が岩巨人に乗って押さえ込んでいるのです!!!
何故ここに!?というかこれは召喚主様の大螻蛄なのですかっ!?というかこんなに強かったのですか!?
「...............」
「....よく分かりませんが、相乗りさせて頂きます!!」
岩巨人の動きは止まりました!今が好機!
ジタバタと暴れられますが、無理やり顔を攻めます!弾かれたって構うものですかっ!!
「...これは....粘体?...そうだ!ちょっと失礼します!!」
何度目かに弾かれた時、運よく柔らかい粘体の上に着地出来ました。そうだっ!これだ!
”っ!?!?ンンンンンン!?!?!?!?”
「岩巨人と言えど、息が出来なきゃ応えるでしょう!?」
粘体を岩巨人の顔に押し付けます。岩巨人も抵抗しますが、それは大螻蛄が許しません!!腕を抑え、前脚で腹に切りつけます!
「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!負けるものかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
永遠にも思える時間の後、遂に岩巨人が腕を下ろしました。そのまま、動くことはありませんでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
戦いが終わった後、大螻蛄は岩巨人の死体を背負いました。
「ハァ....ハァ....ま、待って下さい。そ、それ....それをを渡すわけには.......」
「...........」
心配無用でした。動き出した時は焦りましたが、大螻蛄は土には潜らず、暫く彷徨いた後明確に森の浅い場所を目指し始めました。ヤブローニャ様の臭いを辿っています。明らかに、召喚主様達の大螻蛄でした。
「アナタ....何故ワタシを....」
「.......」
.....ワタシと慧肢蚕の話を聞いていたのでしょうか。明らかに、ワタシ程度には賢いはずです。思いもよりませんでした。
「.......」
「.....あの、何か話して欲しいのですが.....」
「.........」
「どうしたのですか?え、ちょっと何脚あげて....」
パァン!
大螻蛄に叩かれました。一瞬敵かとも思いましたが、ワタシは生きています。岩巨人と渡り合ったパワーを考えれば、手加減をしたのは明確です。
「......そうですね。ワタシの仕事は蜜を作る事なのに、出しゃばって死にかけました。自分のことも獲物のことも何も知らないのに、過剰な仕事.....栄誉を求めてしまいました。わかりました......。大人しく|蜜集めに努めてまいります.....」
ワタシは辛うじて生き残りましたが、配下は全滅です。これでは蜜を作ることもままなりません。召喚主様の役に立つどころか、逆にお手を煩わせる事となります。
「.....配下、失格です.......」
「..................................」ビュンッ
「うわぁっとと.......これは....魔石.....?いやこれはヤブローニャ様に......」
「.......」ブンブン
魔石を投げ渡されました。粘体の魔石です。
「いやでも.......」
「.............」グイ
「でも....でも、ならそれこそアナタが.....」
「..........」ブンブン
魔石は受け取ってくれませんでした。そして潰れた目を指されました。
「.....よく分かりませんが、そこまで言うなら......」
観念して魔石を食べます。
「クゥゥっ!?こ、これはぁぁ!?」
変化はすぐでした。魔石に込められた凶暴な力。ワタシ自身の体を傷つけますが、同時に鋭くなってもいくようです。
体が一回り大きくなって行きます。そして腹はもっと大きくなり、異物感が現れました。異物感はすぐに消えましたが、腹がなんだかチャプチャプします。翅も大きくなり、大きくなった腹を支えました。
「ワタシの、新しい種族。魔腐蜂姫ですか......。」
魔腐蜂。肉や草を腐らせる毒を操る蜂。毒の量自体は少ないが、決して侮る事は出来ない。希少種故、その細かい翅脈や紫混じりの体色を見ても、分かるものは少ない。
「.....」
ワタシを確かめた後、大螻蛄は無言で歩み始めました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あぁ!!やっと来た!もうすっかり夕方になって....何これぇぇ!?!?」
「やれやれ。こっちに来るのにこうも時間がかかるんじゃあ哨戒役には.....ぬぁんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
召喚主様達の元に着く頃には、日もスッカリくれていました。召喚主様達はこっちで夜を明かすつもりなのか、小さな洞窟に隠れていました。護衛なのか、新たな眷属を幾らか召喚しています。
「ちょっと待ってなんでここに大螻蛄!?それに蜂ちゃんもなんか姿変わってない!?え?え?え?何がどうなってるのぉ!?!?!?」
「おいおいおいこれ岩巨人の死体じゃねぇか!?えこれ大螻蛄が狩ったの!?!?え、はぁぁっ!?!?!?」
召喚主様達は大変混乱なされているようでした。無理もありません。ワタシだってまだ少し混乱しているぐらいです。
「.............」
「え、あ、これ岩巨人の魔石?あ、ありがとう....」
「.............」ドゴぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!!!!!!!!!!!!
大螻蛄はヤブローニャ様に魔石を渡しました。そして新たに召喚された物共を確認すると、派手な音を立てて穴を掘り、帰って行きます。
ワタシはその背中を、黙って見送りました。
「...........意外だったね。」
「いつも何も言わないから正直不気味だったんだが.....不思議な奴だ。」
いつか。いつか彼に、恩を返せる日は来るのでしょうか。
岩巨人に今回2人が勝てたのは、岩巨人が重症だったからです。判る人だけ判る例えをすると「スクラップ寸前の弾切れ陸自アームスーツを思考戦車と抑えながらバッテリー切れを待った」感じ
今回で連続投稿は終わりです。次回から隔日21:00投稿となります。