蜜蜂は誇大な夢を見るのか
虫達はフェロモンを発展させた能力で会話してます。召喚された時に皆にデフォルトで与えられる能力です。
ワタシは魔蜂姫。蜂を指揮して蜜を作らせます。その蜜は我らが召喚主の為に。
ワタシ達の巣は木の上にあります。いざという時、召喚主達の盾となる為です。でもこの辺りに鳥系の魔物はあんまりいないのですが.....。
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「定例報告。大規模な襲撃は無し。小さな襲撃多少。獲物は自由に食べられたし。」
「糸の生産性に安定を認むる。要する場合自由に持ち出されたし。」
「伏蝉が戦闘部隊の被害を確認。召喚主へ召喚を依頼。」
「洞窟の物共に連絡を。依頼内容を纏められたし。」
「洞窟の物共より連絡。召喚主は森の外へ出る事を求めている。人間を見つけた場合、監視と即時報告を。」
「「「「「了」」」」」」
「........(コクン)」
我々は毎日、このように巣の虫達と連絡をしています。ディム様の命令です。現状をなるべく分かりやすく纏める事を求められました。最も、我々の知能はあまり高くないので、報告はある物共に一任しています。
ある物共とは、慧肢蚕達です。初めは我々は森の魔物達にまるで歯が立たず、日に幾度も召喚を要しました。それを煩わしく思われたディム様が自身と同種の慧肢蚕を大量召喚なされました。「これで楽になるだろう」と。まぁ召喚能力は引き継がれなかったみたいで、項垂れておられましたが...。
ただ〈博物翅〉という、高い知能をもたらす能力は引き継がれたので、監督役として配置されています。
ワタシですか?えぇ、ワタシは知能が高いです。何せこの場の誰よりも古参なのですから。まぁ、蜜をいたく気に入られたヤブローニャ様とディム様によって蜜係に専業させられていますが.....報告ならワタシもできるのに.......
ワタシだって.....
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「ナニ?魔蜂ニ人間ヲ探サセル?」
「はい。我々は数も多く、それなりの速さも、魔蜂同士の連絡手段もあります。我々が探せば良いのでは?」
主人達が天牛と色蜻蛉を連れて出掛けた日。洞窟の奥の慧肢蚕隊に逢いに行きます。そして思い付きを話してみます。と
「魔蜂ノ仕事ハ蜜集メ。ソレヲ無視シテハイケナイ。」
「いえ、ワタシ達は花を探す為遠くにも行きます。そのついでで良いのです。」
ワタシ達は人間を警戒し、森の奥から離れない。つまり行動範囲が狭く、蜜も少ししか集まらない。そうなるとまるで命令をこなせていないようで、心苦しかった。
「イヤ。色蜻蛉ヲ向カワセレバ良イ。奴カラ仕事ヲ奪ウ事ニナルカラダメダ。」
「はい.....」
「ダガソウダナ.....確カニ人手不足デハアル。」
項垂れて戻ろうとした時、背中にそんな言葉をかけられた。
「それは...出させてくれるという事ですか?」
「イヤ。ダガ魔蜂ハ今一番数ガ多イ。少シ無茶モ出来ルダロウ。」
奥から大螻蛄が、別の慧肢蚕を乗せて表れます。彼らは遠く離れても会話が出来るのです。
「今ディム様達カラ了解ヲ受ケタ。魔蜂姫ヨ。魔蜂ヲ連レテ、今カラ主人達ノ下ヘ行ケ。途中デ小鬼カ粘体デモ仕留メラレレバ最高ダ。」
「じゃあ狩れば戦闘部隊に入れてくれるのですね?」
「ソノ為ノ試練ダ。」
主の為に仕事が出来ると分かってワクワクする。ワタシ達は皆、その為に生まれたのですから。
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決して多くは無い魔蜂を連れて、森の浅い場所を目指す。方角は臭いを追っていけば良いのです。香鬼たるヤブローニャ様は、無意識の内に魔物達が嫌う臭いを発しているのですから。
だが森に入ってすぐに、ワタシは少し後悔しました。
「.......臭い。」
臭いのはまだいい。だが魔物の恐ろしさをワタシは舐めていました。
魔物の数自体は少ないです。しかしそれでも0では無いです。そしてやってくる魔物は例外なく強いです。何せ臭いを無視してやってくる魔物ですので。
大鬼は肌が頑丈で、針や噛み付きがまるで役に立ちません。凶樹木も同じです。妖食花は我々の天敵です。猟犬に至っては相手にすらされません。
「いつも食べてる魔物、こんなに強かったのですね...」
戦闘部隊は入れ替わりが激しいです。その意味を考えるべきでした。態々”戦闘部隊”として括られるのは、彼らが強いからです。そして死んだ時、誰を召喚すればいいのかを分かりやすくする為です。そして戦闘部隊は、既に多くが4代目か5代目です。手伝いに行かせた魔蜂もよく死にます。その事を失念していました。
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「......アレなら、いけそうですね。」
そして崖の上に、座っている岩巨人を発見しました。召喚主様達も噂だけで知る、希少な魔物です。木よりも大きく、醜くゴツゴツとした、灰色の肌をした巨人です。この森で一番タフな魔物でしょう。
そして酷く傷ついていました。全身噛み傷だらけで、左腕を庇い、所々不自然に青くなっています。涎を物凄く垂らして、視線が定まっていません。恐らく多くの大鬼や猟犬の襲撃を受けたまま、何も食べていないのでしょう。冒険ですが、無視するには魅力的過ぎます。
「さぁ!あの岩巨人を誘い出すのです!」
1話で終わる筈だったんだけどなぁ?
オマケ:虫の現在数。既に死亡した分は除きます
蜂:5匹(召喚後の繁殖に因る)
蚕:3匹(ディム除く)
ミミズ:4匹
蝉:3匹
他:1匹ずつ
(大体のイメージ)