未だ夢に見る理想郷
カミキリムシ→天牛
えぇ...?
「あぐ。あぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ。」
「あー待て待て。今切り分けるからそんなガッツくな。」
「だって腹減って仕方ないんだもん。早く切ってよ。」
「あーったよ。しっかしよく食うな。」
「そっち.....ディムがジャンジャン召喚するからでしょ?」
「『もっとジャンジャン召喚してよ』ってのは誰だっけ?」
「ごめん。」
「冗談だよ。」
森の奥、見上げるように巨大な鬼の死体にかじり付く子供の姿があった。その周辺には無数の虫がいる。全てがディムとヤブローニャが召喚した虫だ。
転生から一週間。2人は己の能力に着いて研究を重ねていた。ヤブローニャに関しては遊んでいただけだが、それこそが能力の研鑽に繋がるので問題ない。
まず召喚能力だが、ヤブローニャは使う事が出来ない。にも関わらず、召喚に伴う魔力はヤブローニャから支払われるのだ。更にこの虫達は生きる為の生命力もヤブローニャから貰っているのだ。生命力に関しては虫達自身の食事でも賄えるとは言え、彼女の食糧事情は火急の問題となった。
因みにディムは食事が出来ず、ヤブローニャから直接エネルギーを貰っている。
「あー、断切螂は大鬼の解体、天牛隊は断切虫のサポート、運蟻隊は肉と油を仕分けて纏めて、魔蜂隊は解体された皮を鞣して、色蜻蛉は伏蝉の確認行って来て。大鬼級の大物以外は個人裁量で食べて良し。」
「大螻蛄も運んでくれてありがとね。戻ったら洞窟をお願い。」
彼らの指示を受け、無数の虫が動き出す。断切螂、運蟻、色蜻蛉は戦闘部隊として、毎日獲物を確保している。
因みに虫は戦闘部隊以外にもいる。
「ングっ。ングんんんn?」
「飲み込んでから言ってくれ。」
「大鬼なんて良く見つけたね?」
「迷い込んで来たのを伏蝉が知らせた奴だ。それにコイツ狩るために断切螂も運蟻も魔蜂も結構やられてる。」
「そっか。補充お願いね。」
「その為にもガンガン食ってくれよな。」
「まかされよう!あ、魔石。」
「悪いが、それ蜘蛛連中にやってくれ。」
「進化させて罠係にするんだっけ?今どんな感じなの?」
「その大鬼をイライラさせる事は出来た。」
「まだまだだねぇ....。それこそ大鬼とか召喚出来れば良いんだけどねぇ。」
「何でかお前が知ってる生き物しか召喚出来ないけどな。というかゴブリンすら召喚出来ないってお前.....。」
「だって彼奴ら臭いんだもん。」
お前もそのゴブリンだったのだぞ。ディムはこの一言を飲み込んだ。
彼女達は森の奥に入ると、穴掘りに特化した大螻蛄と無数の岩染蚯を使って、自分達が住み着けるような大穴を掘らせている。
実の所、ただ住むだけならもう十分なだけの空間はある。だが、ヤブローニャの我が儘により、豪邸かのようなレベルの空間を確保しようとしていた。実はディムも腹案があり、これを推している。
「あ”ぁ”ー。久しぶりの大鬼美味しかったぁ。」
「初っ端は日に何度も大鬼が襲ってきたのに、今じゃすっかり見なくなったな。」
「食べ過ぎたのかなぁ?虫達を賄うのも結構大変なんだからもっと来て欲しいのに。」
「.....狩場の替え時か?」
虫達は弱い。大物を倒す為には数で押さなければならないが、そうなると大量に魔力が必要だし、大量に餌が必要だ。
「やっぱり浅い場所に移ったが良いんじゃない?」
「それはもっと虫の数が増えたらするとして.....森を出る事を考えなきゃなぁ。」
「何で?」
「この勢いじゃあ森の魔物食い尽くしちまうぞ。そうなったら飢え死にだ。」
「でもウチら森の外の事何も知らないよ。色蜻蛉増やして送ってみる?」
「それも良いけど......人間を見つけるべきだ。」
とんでもない爆弾発言に、ヤブローニャは目を見開く。
「えぇ!?倒されちゃうよ!?」
”人間を避けるべきだ”という意見を受けてこんな森の奥に来たのだ。ヤブローニャからすればまるで意味がわからない。
「無論人間は全滅だ。基本お前は見つからないようにして、人数が少なければ襲いかかって全滅させる。人数が多ければアイツらをはっつけて、人間の街に潜らせる。」
「ウェぇ.....やめようよそんな危ない事。そんな事しなくても他の森ぐらい見つかるって。」
「いーや。俺たちみたいなのが見つかったら絶対に狙われる。慎重すぎるくらいで丁度良い。」
ディム・レストンは熱弁する。
「うーん.....そこまで言うなら。でもそこまで言うなら私の行きたい場所に行かせてね?」
「......そう言われりゃアテはないしな。良いぞ。何処行きたい?」
「竜の楽園。」
「は!?」
ディムは驚きの顔を向ける。
「ばっかおめぇ、そんなゴブリンの御伽噺を信じてたのか!?」
「御伽噺って事は、元ネタがあるって事でしょ?つまり”竜の楽園”はどっかにあるんだよ?」
「そんなもんいつまで経っても見つからねぇって!」
「見つかるよ!何年も探せば見つかるよ!」
「いやそんな.....何年も掛かっても?なら...まぁ...」
「”約束”だからね?絶対守ってよ!」
何年かかるかも、掛けても守れるか判らぬ約束。虫の頭には壮大すぎる目標だった。
「.....ハァ。どうせお前からは離れられないんだ。良いさ、その約束、守ってやる。」
だが、どうせ義務も仕事もないのだ。ならばその夢、乗ってやろうではないか。
断切螂:骨をも断ち切るカマキリ。ゴブリン並。
天牛:皮膚を噛みちぎるカミキリムシ。(1匹では)ゴブリン以下。
運蟻:車のタイヤをも持ち上げる普通サイズの蟻。(1匹では)ゴブリン以下。
魔蜂:魔力の篭った蜂蜜を生み出す蜂。養蜂している農地が何人かいる。
色蜻蛉:カラフルな魔力を纏うトンボ。ゴブリン並。
蜘蛛:粘着性の糸を操る蜘蛛。ゴブリン並。
伏蝉:音を操る蝉。爆音から可聴域外の音まで自由自在。ゴブリン並。
岩染蚯:地面に溶けるように潜るミミズ。益虫として農家で飼われる事も。ゴブリン以下。
大螻蛄:虎のようにデカいオケラ。希少種。これ召喚した時ヤブローニャは餓死しかけた。ゴブリン以上。
今回で連続投稿は終わりです。次回から隔日21:00投稿となります。