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大学を訪ねて三千里

「要塞都市トルメク・ニアーラへようこそ。さて御用件は?」

「観光と休養で。」

「期限は?」

「1週間。場合によっては伸びるかも。後期限内に出入りします。」

「何か身分を証明出来る物は?」

「ない。」

「ならば人頭税を貰おう。銀貨3枚だ。」

「えーと....これで良い?」パラパラ

「...銅貨で支払いか。銀貨は無いのか?」

「そんな大金持ってません。」

「はぁ...ならば良い、少し待て...足りてるな。宜しい、許可証を渡そう。」

「ありがとう。」

「金がないならギルドへ所属しろ。この街の支部なら登録が出来る。街の中の方のギルドだ。」

「知ってる、その為に来たもの。」

「そうか、ならば私は君の来訪を歓迎しよう。」


 

(今のお爺さん、親切だったね。)

(見た目によらねぇなあ。それより早ギルド行くぞ。金って思ってたより手に入らん。)

(急ごう。確かダイナリのおっさんが言ってたのは....)



 ここは要塞都市トルメク・ニアーラ。国の都市の一つであり、”皇帝”を守る為の大きな砦でもある。大学は”皇帝”が作ったものだから、大学も首都にあるらしい。ダイナリのおじさんが教えてくれた。トレードマークは「威風堂々とした無骨な要塞」。要塞のこちら側に伸びるように家家が立ち並ぶので、遠くから見ればすぐ分かる。

 ダイナリのおじさんに色々と学んだ結果、ウチらには「金と身分」が必要だと分かった。後大学というか、”都市に暮らしてる人間”がどういう暮らし方をしているのかも知りたいのでやって来た。デカい虫たちは流石に連れてこれないので、今回は近くの森に隠れてるよう指示してる。「人間には見つかるな」「見つかった場合は即座に食え」「見つかった場合以外で人間を襲うな」としっかり命令している。



「えーとギルドのマークは.....」

(剣と金槌が重なったマークだな。多分人間の多い通りにある筈だ。)


 ギルドというのは、何でも屋だ。派手なところだと「魔物の討伐」「とある魔石の確保」、地味な所だと「庭の草むしり」「家の掃除」まで色々とある。登録は必要だが、手っ取り早く金を稼ぐには1番の方法だ。幸いにして文字が読める人間はこの街には少ないので、看板の絵を見れば大体何の建物かすぐ分かる。

 街を取り囲む外壁をくぐってみれば、すぐ大通りが広がっていた。石畳の道を大勢の人間が行き交い、巨大な車が通りに面した建物に荷物を下ろしている。ただしウチが前乗った()()()()ではなく、馬や魔獣が引く馬車だ。ただ()()()()特有のガス臭が微かに残ってるので、全くないわけではないらしい。




(えーと....果物屋?いや野菜屋?.....家具屋.....あれ何の店だろう?)

(ヤブあったぞ。右手奥。)

(あ、あれだ!)



 大通りを半分ほど行くと、広く開けた場所に出た。色んな人が地面に布を広げて商売したりして、それを取り囲むのは大きな店ばかりだ。その一角にギルドが存在した。


 上げ放たれた扉を潜ると、中もまた人間がひしめき合っていた。意外にも小綺麗で、人間もそれなりの身なりの者ばかりだ。左右の壁にカウンターがあり、身なりの良いものは左手で何やら問い合わせてる。右手のカウンターにいるのは身なりの荒い人間だ。おそらくギルドに職を斡旋してもらうのはこっちのカウンターなんだろう。


(いざ行かん!)


 意を決してカウンターの人に話しかける。



「スーッ......仕事が欲しい!」

「おや求職ですか?ギルド登録証はありますか?」

「ない。」

「でしたら登録からですね。こちらにいらして下さい。」


 

 カウンターの女の人に案内されて小部屋に入る。小部屋の中には机と、机を挟むように椅子があり、机には水晶玉が乗っていた。

 ディムは密閉空間が嫌なようで盛んに見回している。見つからないでよ?


「ギルド登録証ってどんなの?」

「”ギルドの人間である”と証明するためのものですね。仕事の給与はギルドから出されるので、これを雇用先に提出しないと給与は受け取れません。あと簡単な紹介文も含みますね。」

「わかった。ウチは何をすればいい?」


 登録証の発行自体は即座に終わった。登録したのは「名前」「生まれ」「どんな仕事がしたいのか」の三つだけだった。因みに「魔物であること」「虫を召喚できること」以外は特に嘘はついていない。隠すべきことは殆どないしね。




「確認ですが、求めているのは”奉仕・給仕系”で宜しかったですか?」

「問題があるの?」


 水晶玉にカウンターの人が手をかざすと、水晶玉から魔力が放たれる。それはカウンターの人が用意した登録証に、ウチの情報が刻まれていく。


「貴族の方は奉仕の者にもそれなりの品格を求めます。もし貴族の方からの給与や覚えを求めていらっしゃるなら、正直ヤブローニャ様ではお声がけが叶わないかと...」

「うーん......まぁ貴族の方?で間違ってないのかな?」

「そのー、一応どちらが志望か聞いても宜しいですか?」

「大学。」



 カウンターの人が手を止め、キョトンとした顔でこっちを見る。



「おやそれは....入学ではなくて?」

「にゅうがくきん?を出してくれる人がいない。でも大学には行きたいから、せめて掃除係として。」

「言っておきますが、用務員では卒業の資格は貰えませんよ?」

「構わない。」

「随分と奇特なんですねー。まぁそれでよろしいなら発行は致しますよ。」

「うん、ありがとう。」

「まぁ、大学は新しい施設で、用務員は常に募集していますからね。職自体にはすぐありつけると思いますよ。」

「本当?なら早速....」



 登録証が出来たんで、それを受け取る。名前、顔、求めてる仕事...うん、ばっちり書いてある。擦っても消えない、不思議な文字だ。後でディムにもしっかり見せよう。



「でもヤブローニャさんん、奉仕や給仕の経験は?」

「うーん.....村の酒場で一晩働いたくらい?」

「あーではダメですねぇ。それでは大学用務員の仕事は回せません。」

「!?何で!?」

「お貴族様もこられる場所ですからねぇ。全くの素人を行かせられません。」

「うぅん...だったら何か給仕系の仕事教えて。勉強する。」

「あら、思ってたより熱心ですね。」

「どういう場所でも良いから、大学で働けるようになりたい。」


 カウンターの人の顔が苦々しいものから、明るいものになっていく。



「そういう細々した仕事ってなっかなか人気ないんですよねぇ。それを優先して回すので、そこで勉強して下さい。私はデアルタ、ヤブローニャさんの仕事をサポートします。」

「ありがとう、デアルタ。


 デアルタとしっかり握手する。デアルタの顔はいつの間にか清々としたものになっていきつつあった。

(何だろう、俺は今猛烈に嫌な気配がする。)


「いやー、依頼人がもう我慢の限界っぽいんですよねぇ。ヤブローニャさん、今日の宿のアテはありますか?」

「いや、まだ何も決まってないけど...」

「でしたら!此方に向かわれて下さい!」

(どれどれ、「依頼、掃除係をよこせ」...)


 デアルタが渡した依頼文は、どうやら宿屋の雑用係を求めるものだった。だがそこは荒くれ者が集まる場所のようで依頼人も困っているようであり....正直、文面はかなり刺々しかった。



「旅生まれなら、暴漢や荒くれ相手は慣れていますよね?ここのおばちゃんとこはそういうのが多いので、安心して任せられます。」

(こいつ!?素人にこんな厄介な仕事押し付けんなよ!?)



 あれ?不思議だな....紙面にあるのはただの文字なのに、物凄い怒りが伝わってくるぞ?

 ギルドって言っても冒険者ギルドではなく、日雇い業を斡旋する互助組織のようなものです。俗称としてギルド所属者を「冒険者」と呼んだりしますが、公的には「冒険者」という身分は存在しません。

・なんでそんなものがあるの?

A.土地柄。土壌が余り豊かではなく、しかし魔物が闊歩する世界なので、平民は栄えようのない地元に閉じ込められます。娯楽もほとんどない時代に1つの土地に閉じ込められればもうヤる事ヤるしかなく、無駄に子供がポンポン生まれます。なのにその子供に分け与える土地も、子供を送り込む戦場も魔物が闊歩しているせいで殆どない。昔から仕事に困る人間の多い土地なのです。故にそれを見咎めた領主や貴族は無職に開墾させたり、自分の屋敷を掃除させたり、邪魔な魔物を倒すよう命令します。金のない若者は喜び勇んで飛び付きます。これが長い時間をかけてギルドに進化していきました。

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