とある織識蜘蛛の話
こんなタイトルだけどヤブローニャ目線
唐突だが、魔物は種族ごとに大まかな傾向がある。蠍の魔物なら耐える力と毒であり、蜂の魔物なら毒/蜜と針であり、鈴虫の魔物なら.....あれなんだろう?
「アンデッド退散。後特別鼻や耳が鋭いわけでもないのに色んなものに敏感だから、多分幸運。」
ありがとディム。
ウチの虫はこの場に居るの居ないの合わせて、皆大体こんな特徴を持っている。進化してもこの特徴からは大きく外れない。
でも一見この法則から外れてるように見えるのが、蜘蛛群だ。こいつらの特徴は「糸を操ること」だが、この「操る」の範囲が非常に多い。
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「絡繰蜘蛛達、また鳥を仕留めてきたぞ。今度は蹴走鳥だ。」
ディムの言葉に振り向く。そこには先日の蹴撃鳥より背が高いが、細身の鳥を運ぶ大型犬サイズの蜘蛛がいた。卵やら何種類もの小鳥やらを運ぶ子蜘蛛達を引き連れ、意気揚々と闊歩する。頭には勲章のように、天頭鳥の派手な飾り羽根を乗せていた。
「お疲れ様。魔石は...今回は全部ウチに頂戴。あ、でも蹴走鳥の魔石はお前が食べていいよ。」
絡繰蜘蛛は蹴走鳥の魔石を頭の上に掲げ、すっかり誇らしげだ。
「最近蜘蛛達ばっかに魔石集まるね。」
「相性だな。動き回る鳥って拘束しちまうと、パニック起こすから連中のいい鴨らしいな、鳥だけに。」
「32点。」
絡繰蜘蛛は、最近ウチでメキメキと頭角を表してる子だ。何百匹もの子蜘蛛(繁殖で生まれた子達で、ウチが召喚したやつじゃない)を指揮して、縦横無尽に糸を貼り、複雑な罠を仕掛けてしまう。自分の何倍も重い岩でもテコや滑車を応用して動かして、空を飛ぶ鳥に巧みに当ててしまう。
「それに加えて織識蜘蛛お前は。狩りをしようとは思わないのな。」
「この子ウチが最初の方で召喚した子だよね?森を出る時置いてった。」
「そして街に呼び寄せた時には織識蜘蛛に進化してたな。」
「つまり森で自力で狩りをして魔石を集めたって事だよね?それなのに....」
トコトコ
「ほれヤブ。またお呼びだぞ。」
「まぁ、今はまだ付き合うけどさぁ...」
絡繰蜘蛛が積極的に狩りをする一方、この織識蜘蛛は半引きこもりだ。絡繰蜘蛛が何もなくても外出する一方、織識蜘蛛は
織識蜘蛛の能力は「糸の色を変える事」。野生の中だと糸を被って岩や木に擬態するんだろうけど、この子はもっぱら服を作りたがる。我が家の服飾担当だ。
「いやさぁ、分かるよ?ウチは人間界に行きたいから、人間の服は必要だよ。でもこんなに何着も必要ないんじゃないかなぁ?」
織識蜘蛛はウチの体の大きさを測り、糸を纏わせて服の大まかな輪郭を作り出していく。糸はまるで生きているかのように動き回り、あっという間に形だけの簡単な服が出来上がっていく。これに骨糸(硬めの糸を数本捩った糸)を通して硬め、織識蜘蛛の種族特性で色に糸をつけ、木材や骨材から削り出したボタンなどを嵌めていく。
あぁ、いつの間にこんなに凝り出したんだろう...?初めはコートかポンチョみたいな物だったのに、いつの間にか慧肢蚕の糸を木の実の煮濾し汁で染めてまで併用し出したし....
「そりゃあれだ。お前が近場の村に行ってからだ。」
「やっぱりかぁ.....刺激が強すぎたかぁ....」
怪鳥の巣の近くには村しかないが、大きな街道が走っており都会の情報が色々入る(だから怪鳥の巣を選んだ)。前にその村に探りを入れたことがあるのだが、その時に迷彩としての役割を求めて織識蜘蛛を連れて行った。でもその時は物凄く興奮して暴れ回ろうかというところまで行ったので、ウチが鎮静効果のある匂いを放って落ち着かせなければならなかった。
「ムゥー......これ、可愛いのかな?」
今回の服は牧場の娘風だ。裾と袖が長く口が大きくてゆったりとした服の上にエプロンが乗っかる。頭にはツノを隠すための巻き布だが、正直隠せてない。一見穏やかに見えるが見た目より破れにくく、そしてポケットだらけなので小物を入れるのに役立つ。そしてデザインで隠してるが中に紐が通っており、引っ張れば裾が閉まって動きやすい形になる。
「うん、有難う。思い出したら使うね。」
ガーン!?
「いやだって何着あると思ってんの?」
.......〜♪
「口笛でも吹いてるつもり?」
諦め顔で部屋の方を向く。そこは織識蜘蛛が作り出した服の数々が死蔵されている部屋だ。正直数が多すぎて着れる気が全然しない....。
コンコン
「ん?どうしたの絡繰蜘蛛?」
クイクイ
「え?あぁ自分にも服が欲しいって?確かに羽根糸で括り付けるだけじゃ味気ないもんね。」
コクコク
「で蜘蛛なんて複雑な形なんて無理じゃない?」
ピカん!ブンブン!!
パァぁ!!コク?
コクン!ビュっ!
スタタァー....!
「なんか2人で盛り上がっちゃったよ...」
その後、ウチの虫達の間で、打ち倒した敵の素材をあしらった服が流行った。よく狩りをする牙彩蜻蛉やナビンまでもが列を作ってまで織識蜘蛛に服を依頼するようになった。
織識蜘蛛は息を吐く間もない程の忙しさとなったが、大変嬉しそうだという事は此処に記しておく。