とある鈴鳴虫の話
ちびケ●って畜生にしか見えないけど、ちびケ●がいなかったらチビゼ●の人生って暗いままだったよね多分
僕は鈴鳴虫である。名前は特にない。
僕には主人の考えなど分からない。ただ僕に分かるのは、主人は巣の場所を変えたということのみ。
「飛蝗よ、人間は来てるか?」
「うんにゃ。来たとして多分2、3週間かそこいらだな。女王様が着く直前だな。」
隣にいるのは鼻のよく効く飛蝗である。僕らの任務は縄張りの中で人間を探す事。主人達が巣に選んだ岩穴に篭っておられる間、周りの森に人間が近づいたかどうかを調べるのが僕らの仕事だ。自分達の食糧確保も兼ねてる。
「なぁ鈴鳴虫よ、こんな場所に人間が来るのだろうか?前の毒臭い場所から大分距離があるだろう?」
「でもそんな場所に数日で来れたのは間違いなく人間の力だぞ?」
僕らは主人が生まれた森にいた時に召喚された組だ。長く生きているのでそれなりに器用がある為、とある折にレストン殿に呼び出された。呼び出された数時間後に人間の乗り物に詰め込まれて移動することになった。そのまま3度か4度の日の出を見た後、高山を抱く森に辿り着いた。そこで人間の乗り物ごと洞窟に入り込み、そこを巣にして活動している。
「なぁなぁ、いっちょこの臭い辿ってみようぜ?」
突然飛蝗が提案する。
「は!?飛蝗何を言っている!?それは命令に反するぞ!?」
「別に”縄張りから出るな”という言葉は貰ってないぞ?」
「臭いの筋は長い、成果を上げようとするならば数日は帰れぬぞ!?」
「平蠍組も絡繰蜘蛛連中も1週間ぐらい戻ってこなかったことあるだろ?」
「それはそうだが....!?」
この山は主人達曰く怪鳥の巣、飛べる・飛べない関わらず多くの鳥が住んでいる。鳥は虫の天敵だが、我らにとってはそうでもない。例えば牙彩蜻蛉や岩食蚯蚓のようなエリート組なら仕留めてしまう。
平蠍組と絡繰蜘蛛組はそれに当てられたらしく、1週間ほど姿を見せなかった。姿を表した時平蠍組は蹴撃鳥、絡繰蜘蛛組は天頭鳥という鳥をそれぞれ仕留めていたのである。両者とも一地点でひたすら待ち構え、通りがかった所を毒/罠で仕留めたのだ。その日はご馳走だった。
「いいじゃねぇか喧嘩するわけじゃないし。それにお前がいるなら大丈夫だろ?」
「そりゃ確かに感知力じゃ天牛にも負けない自信はあるが...」
「ならOK OK。ぱっと行ってぱっと帰ってくれば良いじゃないの。」
「あぁ待ってっ!?」
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「なぁ…やっぱ戻ろう?」
「なーに!せめて一昼夜経つまでは帰らんぞ!」
今更だが、森は僕たちが生まれ育った森よりは拓けている。巨大な鳥達が動きやすい場所であり、どうやら人間にとっても同じようだ。主人が縄張りと印した臭いの外に出ると、存外人間臭い。
「…僕は興味ないが、人間はどう動いているんだ?」
「んー、ちょい待ち。慧肢蚕へ、慧肢蚕へ、こちら飛蝗。この花はなんだ?人間が集めているようだ。」
飛蝗が指すのは紫色の花。群生しているようだがヤケに疎であり、何者かが採取したらしい。
そして飛蝗が確認したところによれば、コレは「コロン花」と言い、人を眠らせる匂いを出す花だそうだ。人間の"いりょう"とやらには欠かせないものらしい。飛蝗はそのまま運蟻連中に連絡し、この花の回収を依頼する。匂いならば主人の役に立つだろう。もしかしたら転寝蝶が気にいるかもしれない。
「成る程、どうやら人間は植物を集めているようだ。」
「それでこの辺りは人間臭いのか。でもなら何故主人の周りには人間が来ないのだろう?」
「そりゃアンタ、女王様が人間臭の薄い場所を選んだからに決まってんだろ。」
「そりゃそうか」と納得しつつ、人間臭の濃い方向へと動く。人間臭の特に強い草花はいくつかあり、それに惑わされる内に日が暮れてしまった。匂いは無くとも主人の方角はなんとなくで判るが、帰るにしても遠い為、その日はここで休む事にした。
「しかし初めは"怪鳥の巣"だと聞いて震え上がったもんだが、意外に鳥はいねぇんだな?」
「そりゃ僕が避けてたからだ。蹴撃鳥に似た鳥が結構居たぞ。」
蹴撃鳥は飛べない鳥だが、その代わり岩をも砕ける足を持つ。そして主人や人間より遥かに大きく、トラックですら転がせられそうだ。それの小さいバージョンを昼間から何度も感知しているので、飛蝗を遠ざけるように引っ張っていた。
「ふーん、蹴撃鳥に似てるか…。それってこんなの?」
「あーそうそうこんな…ってうぉぉ!?」
飛蝗が差したモノは蹴撃鳥によく似ていた。そこで漸く、僕たちは側にソレがいることを知った。
「に、逃げるぞ飛蝗!」
「合点承知!」
KeAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!
僕らは逃げ出した。飛蝗も鈴鳴虫も、後ろ足が大きいのでサイズ以上の速さで逃げられる。
しかし追いかけるソレも早かった。持つれた脚でフラフラと追いかける為距離の余裕はあったが、濁った目でバランスもクソもない姿勢で迫られる光景は背筋を凍らせる。
「というか目玉、溢れてるじゃないか!」
後で知ったが、この敵は目溢れ丸鳥。死した丸鳥が動き出した、尋常ならざる敵だった。
「飛蝗急げ!急がないと食われるぞ!」
「そうは言っても暗くて…あ"だぁ"!!」
夜闇が飛蝗を苦しめ、遂に木にぶつかってしまった。僕は慌てて戻るが、その時には眼前まで目溢れ丸鳥が迫っていた。木の葉の間から溢れる月明かりに照らされたその身体はあちこち腐っていて、恐ろしく悍ましい。
KeAAAAAAAA!!!!!!
「動けるか?」
「無理だ…体が動かねぇでやんの…腰抜けたっぽい…あぁ、俺たちにも力が有れば…」
飛蝗の力は「有機食」、肉でも草でも食べられる力だ。だがこれは「腹の減りが早い」という弱点を生み出しており、飛蝗は常日頃から嘆いていた。
それは僕も同じで…
KeAAAAAAAA!!!
目溢れ丸鳥は僕らの目の前で吠える。遊んでいるのだ。
「くっ…責めて!」
RRRRRRRRR!!!!!!
あらん限りの力を込めて、精一杯羽を鳴らす。頼む、誰か来てくれっ…!
「おい見ろアレ!」
KeAooooo…
踏ん張る顔を上げると、不思議な事が起きていた。目溢れ丸鳥の身体から白い煙が挙がっていたのだ。苦しんでる?
kiAAAAA…
「声だ!お前の声を嫌がってるぞ!」
飛蝗が復活した。
「俺が囮になる!お前はその声を奴の耳に叩きつけてやれ!」
「了、解!」
僕の声は目溢れ丸鳥を疲れさせているようだ。口に入るなら何でも食べたいらしい。
「ほーらコッチだ!コッチ向けホイホイ!」
目の前を彷徨く飛蝗など食べたくて仕方ないに違いない。しかしソレと同じくらい、僕の事が気に入らないようだ。
声とはいうが、真相は羽を打ち鳴らした音だ。なんとかジャンプ出来ても、飛ぶのは無理だ。敵の体をよじ登るのは想像を絶する困難だった。振り回され、時に落ち、気を抜けば踏み潰されるか噛み潰されそうになる。
「くっ…でもここまで来たぞ!さぁ、タップリ味わえ!」
RRRRRRRRR RRRRRRRRR RRRRRRRRR!!!!
KiOOOOOOOO…!!!!!
耳元の爆音が応えたのか、ソレとも今までの積み重ねが応えたのか。目溢れ丸鳥は目を回し、堪らず倒れてしまった。長い時間音を聴かせていたから、全身から白い煙が濛々とあがっている。
「さぁ、今の内に逃げて…」
「ソノ必要ハ無イ。」
覚えのない声が聞こえた。そして瞬く間に、目溢れ丸鳥の体は大量の蟻に覆い尽くされた。
「無茶ヲスルモノダ。鈴鳴虫ハ大人シイト思ッテイタノダガナ。」
「アンタは…築蟻!」
「築蟻隊長ダ。」
その場に現れたのは、築蟻隊長 だった。彼女は築蟻を従えて 目溢れ丸鳥をどんどん解体していく。
「驚いた。アンタらあんなの食うんだな。」
草臥れた飛蝗が感心する。
「食ベハシナイ。埋メテ肥料ニスルノダ。我ガ一族ハ草木ヲ育テル。」
「築蟻よ、来てくれて助かった。」
「隊長ダ。近辺で大キナ音ヲ出サレレバ気付ク。」
「近辺?近くに来てたのか?」
「コロン花ノ回収要請ヲ出シタノハ誰ダッタカナ。」
「あ。」
築蟻は 目溢れ丸鳥の肉体をドンドン毟っていく。途中激痛で 目溢れ丸鳥が目を覚ましたが、僕たちには目もくらず走り出した。追いかけようとしたが隊長曰く「我ガ一族ハ巣ノ場所ヲ見失ワナイ」ので大丈夫だそう。
「隊長、コンナモノガ。」
「コレハ…敵ノ魔石カ。オイ鈴鳴虫、貴様ニヤロウ。」
「え?なんで僕に?」
「此度ノ戦、MVPヲ決メルトスレバ貴様ダロウ。」
「だってさ。俺もいいぜ、鈴鳴虫。アンタへの勲章さ。」
震える手で魔石を受け取る。確かにルール上、この魔石は僕のものだった。しかし僕は非戦闘組だから魔石なんて普通は回ってこない。こ、これが魔石…僕の魔石…
「そ、そうだな。喜んで受け取ろう。古馴染みの無茶に付き合わされた褒美だ。」
「オイオイなんじゃその言い方。」
「君が無茶言い出さなきゃ僕は今頃巣でスヤスヤだったぞ!」
「俺が無茶言わなきゃお前一生魔石にありつかなかったぞ!賭けても良い!」
「役立たずの君が何を賭けるって!?」
「ハイハイソコマデ。巣ハ遠イ。早ク帰ルゾ。」
朝日が登り巣に帰り着くその時まで、僕らはずっと言い争った。
"アンデッド"というのはこの世界では状態異常の1つ。不可逆である程度進化すると決まった種族に収束する厄介な生物群。分かりやすく言うとシャガルマガラ