たった一つのチープな方法
突然、建物が揺れ始める。間も無く鈍い轟音が轟き始め、床が傾き始めた。
ゴッガァァァァァァァァァァァァァン!!!!!
「大丈夫か!?」ガラガラ
シャー!!!ジャキンジャキン
壁を突き破り現れたのはディムだった。初めてみる、巨大カマキリに乗っている。
「........大丈夫、じゃ、ないかも。」
「.......悪かった。」
巨大カマキリからディムを受け取る。巨大カマキリはそのまま人間たちへと突進していった。昔召喚した断切螂ではない。
「.....あの子、誰?。」
「....刀裁蟷螂。森に残してた断切螂を進化させた。」
「.....どうやって?」
「アイツ、森でメキメキ腕を上げてたみたいでな。お前が集めてきた魔石ですぐに進化した。」
「ウチの魔石、勝手に使ったんだ。」
「...ごめん、少し残してる。」
カマキリ...刀裁蟷螂は人間相手に無双していた。巨大な体格から繰り広げられる剣戟は変幻自在で、射程に入った順に人間を切り裂く。鎌の根元には折りたたみ式の出っ張りがあり、人間が真後ろに回ろうが巧みに出っ張りで突き飛ばしてしまう。出っ張りはまた盾のように、人間の攻撃や雷撃を防いでしまった。
「.....また、そうやって勝手に。」
「ごめん、良かれと思って...」
「っ!?なんでそう勝手に決めるの!?アンタはウチの付属物!ウチがリーダーなんだよ!何でウチのことアレコレ勝手に決めるの!?」
「かっ!?それいうならこっちだって言いたいことあるぞ!何でいつも考えなしなんだ!何で思いつきで人間の巣の中に突貫するんだよ!?そっちが信じられねぇわ!?」
気づけば近くの人間は全員倒れていた。でも遠くから何かが壊れる音がする。ディムはどうやら大軍を引き連れてきたらしい。刀裁蟷螂は隣で静かに控えている。
「リーダーはウチだよ!ウチがやりたいようにやるの!大体ナビンが進化した時だって.......」
「それはお前の為を思ってだよ!お前がそうやってウカウカしてるから俺が音頭を取らにゃあかんのだろうが!」
ディムを床に置いて、真っ正面から指を突きつける。ディムはその指に、噛み付かんばかりの勢いで頭突きしてくる。
「そういう割に召喚で勝手に魔力持ってってるよね!?ウチは知っているよ!」
「お前がこういう無茶するから俺がこうやって戦力増強する必要があるんだろ!?ヤブが死んだら俺たちも終わりなんだぞ!?」
「の割にディム地下に閉じこもってたよね!?あんだけ魔力持って行きながら全部死蔵しようとしたよね!?」
「そりゃあ、ヤブお前がガンガン外に出て行くから寧ろ変に動かさな方がいいかなって....。それをいうならさぁ!」
今までに溜まってたあれこれが一気に吹き出す。声を振り絞ってディムにぶつける。ディムも負けじとコチラに言い返してくる。
「はぁ...はぁ....あのね、ディムが何しようが知らないけどさ、リーダーはウチ。文句ある?」
思いの丈をぶつけ切った時、今までとは違う理由で疲れ切っていることに気づいた。言うべき文句がなくなって、ヘナヘナと倒れ込む。側で呆けていたアシパリを頭の下に持ってくる。
「フゥーーーー.............だったらそれらしい行動をして欲しいモンだな。」
ディムも疲れ切っていた。ピクリとも動かない。心なしか自重で潰れてる。
「.....................」
「.....................」
気づけば天井が壊れていた。壁も穴だらけで、遠くにはデカい蜻蛉やミミズが見えた。寝転んでるから、夜空がよく見える。...もう夜明け前だな。
「.....ごめん。無鉄砲に動き過ぎた。」
「.....すまん、身勝手にやり過ぎた。」
「.....最初っから、そういえば良かったんですよ。」
!?
「ナビン!?気がついた!?」
「些か前から.....何故か突然力が湧いてきて....」
「アイツらを進化させたから、オーバーフローが流れこんで来たんだな。」
「あと苦しいので蓋を開けてください...」
「あぁごめんごめん」
蓋を開ける。ナビンは顔を出した。かけた顔だが、もう蜜は垂れ流れていない。少しずつ治り出している。
「お二人ともつまらぬ意地を張りすぎなのです。最初っから”ごめん”の一言が言えれば、ここまで事態は困窮しませんでした。」
「はい...」
「おう.....」
姿勢を正させる圧があった。うん、そういえばナビン、今までずっとディムにウチの事報告してたよね。もしかしてディムを呼んだのもナビン?良い子だ.....
「ナビン...今度ご褒美あげるからね.....」
「欲しいもんがあったら何でも言ってくれ。マジ助かった。」
「では考えておきます。そんなことより...」
そんなことより!?クール過ぎない!?
「外に人間が集まっているようですが、如何なさいますか?」
それは知っていた。夜風に乗って人間臭がプンプンしてる。火薬臭もしてるから、このままだとかなりヤバいな。
「あぁ、考えはある。でもちょっと不安でな....」
「それなら!ウチに案があるよ!....」
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その騒動は早くから人々の注目を集めていた。侵入者が現れた時点でサイレンが響いていたのだ。それは深夜シフトの人間たちの耳に届き、好奇心の強い者・仕事がなくなった人から順に集まってくる。それが街の一角を支配する貴族”ツェビシアド家”の工場ともなれば、寝ていた者の耳にも噂が届く。
「おいおいマジかよ.....」
だが彼らは工場を遠巻きにするだけであった。警備員がいるからではない。人を飲み込めそうな大きさのミミズが何匹も敷地内に陣取っていたのだ。ミミズは地面を穿り返し、人が近づけば威嚇するように首を垂れる。そうでなくとも、工場には巨大昆虫の影があり、工場を無惨な姿へと変えつつあった。近づこうとする恐れ知らずは居なかった。
「お、おい揺れてるぞ!」
「な、何だ!」
「あ、あれを見ろ!」
ミミズが地面の下へ潜り込む。同時に一層大きく地面が揺れ、そこから巨大な虫が現れた。見たこともない姿をしたその虫は口に何かを咥えていた。
「あ、あれは竜じゃないか!?」
「こっちにくるぞぉ!?」
強力な魔物として有名な竜を、あろうことかその魔物は咥えていたのだ。バリバリと音を立てながら骨を咀嚼するその姿は、恐怖以外の何者でもなかった。
まもなくその虫が正門へと突進してくる。人間たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「よっしゃぁ!今だぁ!!」
その巨大昆虫の後を追うように一台のトラックが突進してくる。しかし人間たちにそれを気にする余裕はなかった。工場から何匹もの虫たちが放たれ、手当たり次第に攻撃を始めたのだ。しかも竜を咥えた巨大昆虫が地面に潜り、ボロい家が倒れるほどの振動が起こった。人間たちは大パニックに
陥ったのだ。
その騒動の最中、警備員も門も吹き飛ばしながらトラックは街の外に飛び出していく。その行方は、誰も知らないい。