彼らは足りていない
今日は相方視点
ナビンとその眷属が工場中に放たれた。残り滓でもあるなら嬉しい。それを尻目に、ウチは工場主の部屋を探す。
「あったあった。えぇと地図は.....。」
一つ一つの魔石は虫程度のものだけど、あれだけ大量なんだ。森一つ、洞窟一つじゃ足りるわけない。あっちこっちから掻き集めてる筈で、そのためには森や洞窟の場所を全部把握してないといけない。
「うーんと....これは...イケる?」
コクコク
「オッケー。記憶して。」
手元の慧肢蚕に命じる。
今更だが、慧肢蚕の〈博物肢〉は「超記憶」という能力だ。ディムはなんかよく分からない知識ばっか持ってるけど、普通の慧肢蚕は何も知らない。でも見たことは何でも覚えられて、忘れることはない。最近は人間の知識に触れる機会が多いからよく頼りにしている。.....調子に乗って呼びすぎて、維持の魔力めっちゃ持ってかれてるから普段はナビンの蜜に閉じ込めさせてるけど。
でも本当に有能でいい子たちだ。ディムと違って文句言わないし、勝手に虫召喚して魔力持ってくし。
「ヤブローニャ様、魔石を集め終わりました。今は逐次地下に運んでおります。そちらは如何ですか?」
「なーんにも分かんない。」
ナビンは空中でずっこけた。器用だな。
「そ、それは....。」
「解読自体は慧肢蚕に任せてるからね。でも次に行くべき場所は分かった。ほら、この地図を見て....」
ゴソゴソ
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「よし、次はあそこだ。」
「お供します。」
最初の工場では、何やら金属を曲げたり、魔石に何か判子で刻み込む作業が行われていた。つまり刻み込まれた魔石や曲げられた金属を送る先があるって事だ。(慧肢蚕曰く「金属を送ってくる方は街の外にある」とのこと)。
真夜中を待って、地図に示された工場を順番に襲う。別に他の工場でも良かったけど、地図に載ってて、資料に魔石の保管場所も載ってたからね。
「よし、こっちも集め切ったね。人のいない家は....」
「ヤブローニャ様、見つけました、こちらです。」
魔石は取り敢えず地下の寝床に送る。人がいない家や建物を探す。いなければ工場のトイレや水場を探す。
(アシパリ、おいで)
念じてまもなく、凄まじい刺激臭に部屋が包まれる。排水管がコゲ落ち穴が開いて、黄色いスライムが姿を現した。その穴から魔石を全部渡して運んでもらう。
「これで3件目か。だいぶ行ったな。次で最後だ。」
「これまでの魔石は全てカスでしたね。まさかどこも良い魔石を持っていないとは。」
「でも最後の場所は一番大きいから、少しは残ってるかも。」
これまでに忍び込んだ工場にあった魔石は全部機械を動かす用だったみたいで、全部小さいか魔力を消耗していた。腹の足しにはなるだろうけど、量を考えればしょぼい魔力しかない。でも魔石なんだ。何かは出来る。
最後の工場は、街の中でも屈指の大きさだった。塀に覆われてて見張りも多く、隙がない。
でもウチには関係ない。大量の転寝蝶や暗転蛾を召喚して、一気に鱗粉で眠らせ麻痺させる。腹が窶れて行くのが分かる。人の食糧を大量に奪っておいて良かった。
警備員が倒れるのを確認して、アシパリを抱えて壁をよじ登る。
魔石を運び込む車の方向に行ったが、そこからは入れなかった。中から音がして、人間がいることを表していた。ならば窓から忍び込みたいが、工場には窓らしきものが殆どない。そういえばこの辺り、地下で人間を見たあたりだな。ってことは何処かに登り口がある筈....
慧肢蚕に尋ねて、人間が上り下りしていた場所の正確な位置を探る。幸いにして外壁の極近くであった。汚水を被らないよう少し距離を置いて、アシパリに壁を溶かさせる。
入った時、そこにあったのはどうやら廊下みたいだった。すぐそばに扉がある。えーと、工場の魔石搬入口は....この向こうか。
扉には鍵が掛かってた。ナビンの【蠢蝋法】で中の仕掛けを動かして、開けてもらう。
Viiiiiiiiiiii!!!!!!!!!!
扉を開けた途端、凄まじいサイレンが鳴った。見つかったの!?
慌てて扉に雪崩れ込む。中には何人も人間がいた。無視して突撃、無理矢理振り切る。
「くっ!?」
「お、重い...」
しかし次の扉を開けようとした時、取り押さえられた。凄まじい数の人間に取り押さえられる。
扉が開かれ、黒服の人間が現れる。人間は杖の先をウチに向けた。アレは...魔石だ!魔石が杖に埋め込まれてる!
魔石から稲光が走った。
ヤブローニャが寝にしか帰ってないので描写するタイミングがないけど、地下のヤブローニャ拠点には虫が閉じ込められた琥珀がずらっと並んでます