嫌よ嫌よは何の内?
今日も今日とて人間研究。近頃はめっきり話しかけて来なくなったディムを置いて、ウチは地上を地下を駆ける。
実は地下では、時々人間を見かける。何をしてるかは分からない。遠くからこっそりついて行くだけだ。ついて行くと、大抵は決まった場所から地上に登る。ウチはその場所が、地上でも特に大きい、いくつかの工場に繋がっていることを知った。時々工場から離れた場所にあることもあったけど、地下水道独特の臭いを辿れば必ずどこかの工場に辿り着く。ウチの嗅覚を舐めるなよ。
この工場は、ウチらが目をつけていたものだ。勝手に動く箱がよく出入りしている。この車に捕まれば外に出て行くことは可能だ。実際、色蜻蛉や絡繰蜘蛛を、これに仕込んで送り出したことがある。でもウチが乗ることは出来ない。なぜなら色蜻蛉と絡繰蜘蛛は見つかっているのだ(虫だから見逃されたけど。色蜻蛉は追い出された後追走した)。
でも勝手に動く箱は魅力的だ。絶対欲しい。
実際、この考えはディムも持っているようだ。工場の近くに行くとちょいちょい空糞や子蜘蛛を見かける。手を振ってくれるから、ディムが勝手に呼んだやつだ。
「いい加減、仲直りされては如何ですか?」
ナビンに言われたことがある。
「いやだよ。あんな奴知らない。」
ぷいとそっぽを向く。
「本当に嫌いなら、なぜアヤツラのように閉じ込めてしまわないのですか?」
最近、慧肢蚕は大変な魔力喰らいであることが解った。でも捨てるのは勿体無いので、何匹かはナビンの蜜を固めて閉じ込めてる。すると気絶したようで、体に恐ろしく活力が満ち満ちた。
「そもそもそんなに嫌うことではないのでは?」
いや....いや違うもん。違うったら違う。
「とべ、転寝蝶。」
車の入った工場の一つに目をつけ、眠りを誘う蝶を放つ。時間は夜、中でも人の数や出入りの少ないところを狙う。
「紛れられるような荷物があれば良いんだけど.....。」
人間がいたときは暗転蛾の毒で眠らせる。今回はただの調べ物だから、騒ぎは起こさず慎重に。
「ヤブローニャ様、近くに人間は見えません。」
「よし、今の内にちゃっちゃと確認しよう。」
工場の中身は想像以上だった。何とそこには、魔石があったのだ。
魔石を燃やして動く機械、魔石に何かを押し付ける機械。機械のあちこちにも魔石が埋め込まれており、そこら中魔石だらけだった。
「ヤブローニャ様!こんなにも魔石が!これほど魔石があれば....」
「んー、これは無理かな?」
魔石を一つ、手にとってみる。魔石には大きな刻印があり、その内側はヒビだらけだった。力を入れるとすぐ崩れる。魔力ダダ漏れで、そんなに長くは持たなかっただろう。
周りに沢山の人間は、大体この魔石の交換が仕事であったようだ。他にも、魔石に何か彫り物をする人間や、魔石を運んだり、機械の周りで雑用をする人間も居た(全員寝てるけど)。
工場を隅々まで探したが、綺麗な魔石はどこにもなかった。でもどうやら、車はこの魔石を運んでいるようだった。1、2個だけ残っている。
「決めた!この魔石は全部ウチのもの!この街にある魔石は、全部手に入れてやる!」