地下水道のディアルキア
蠅・蝿のラテン語
ムスカ
musca
因みにハエの悪魔糞山の王は元々天空の王だったらしい
ラピュ●王ってそういうこと...?
我輩は慧肢蚕である。名前はもうある。ディムである。
俺たちは新しい巣に来た後は、兎にも角にも食糧の補充に専念した。人間の街では何が食べられるかが解らず、ほぼ手当たり次第とも言える様子で全てに齧り付いた.....ヤブローニャが。凄まじく恨まれたよ。最近じゃロクに話してもくれないし。
虫達も俺たちの関係を表すように、勢力が二分された。と言っても対立までは起きてないが。ただ一度話し合った結果、「色蜻蛉を中心とする飛行系の虫達を方々に送り出すこと」だけは決定された。俺たちは地理に疎すぎる。どこかに逃げ出せる場所を知っておいた方がいい。
そう、今や俺たちはお尋ね者だ。今までは漠然とした不安感だった。俺の力〈博物肢〉により、俺たちが世界にただ1人の固有生物であることは知っていた。レアモンスターは人間の好物だからな、ただの先入観だけど。
でも今やヤブローニャは要塞?の襲撃犯だ。人間達の間でどんな風に話が伝わってるかは解らないが、まぁ間違いなく捕まえにくるだろう。その辺は調べたいが、正直怖くて出れない。
だから俺たち(の一派)はまず、この地下水道を完全把握することを始めた。もうヤブローニャは話を一切聞いてくれないので、ナビンを通して新しい虫を召喚して貰った。ハエの魔物空糞と濁ったスライム濁粘体、石を食べる丸石虫、どんなものでも食べられる虫黒小判だ。コイツらは地下水道中に溢れかえってる石や汚水やゴミを食べて生きられるから、どれだけたくさん呼んでも飯の心配をする必要はない。素晴らしい虫達がいたもんだ。今はコイツらを方々に派遣して、その様子を地面に刻んでいる。
「そんなことしてるからヤブローニャ様に益々嫌われるんですよ。」
かなり流暢に喋れるようになったナビンにそんなことを言われた。
「いやそりゃねぇだろ。ヤブローニャが虫嫌いなわけないじゃん。」
「それはそうです。ですがヤブローニャ様は匂いに大変敏感であられます。そしてあの者達は....その.....。召喚直後であれば全くの無臭なのですが......。」
その後、ヤブローニャが俺の声に返答してくれることは2度となかった。
ヤブローニャが顔も合わせてくれなくなったので、今は”力”に関して調べている。尤もナビン以降、誰も”力”を獲得してないが。手当たり次第に名前を付けてみたり、変なことをさせてみたり、持って来た書物を森に送って一般慧肢蚕達に読ませてみたり、地下水道の深いところに潜んでいた白盲鰐なる魔物に挑ませてみたりしたが、一向に”力”を得る様子はない。
「どうしたもんかなぁ.....。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ディム様に黙って出てきてよろしかったのですか?」
「いいよあんな奴。知らない。」プイ
ウチはヤブローニャである。名前は...いや名前が「ヤブローニャ」か。
ディムはめっちゃ酷い奴だ。頑張って逃げてきたウチを慰めるどころか怒鳴りつけ、その後も拷問を繰り返してきた。あんな奴なんか2度と会いたくない。ナビンは時々ディムと話してるみたいだけど....まぁ、そのぐらいはいいか。
という訳でディムの目を逃れるように、真夜中の地上にこっそりと出てきた。石と鉄で出来たこの奇妙な森は、昼も夜も意外と人間の姿は少ない。皆洞窟...いや建物?の中で寝てるか、あくせく何かをしている。仕事と言うらしい。
「にしてもこの街?は本当に煙が多いですね。目には染みますし臭いは酷いしで、本当に嫌になります。ヤブローニャ様は大丈夫ですか?」
「あぁ、臭いの元自体が近くにないなら大丈夫だよ。ほら、こんな風に....。」
かき混ぜるように手を動かして、酷い臭いや煙をかき集める。お陰で周りの空気は綺麗になった。ふらふらしていたナビンも、今は気持ち良さそうな匂いを放っている。ウチの虫達は匂いで会話してるから、匂いを嗅げば気分も分かる。
.....やっぱりそうだよね。
「お見事です。」
「今ナビンは苦しかった?」
「いえ、この程度痛刺すら」
「苦しかった?」
「....はい。正直に申し上げると、目眩が...」
「やっぱりだね。あ、ナビンちゃん蜜出して....そうもっと、落ちないようにベタつかせて....。」
普段虫を召喚するときは、胸に力、多分”魔力”を集めてる。手を添えて魔力を手に移すと、それを空に翳す。一度意識を鼻に向ける......大丈夫、周りに人間の臭いはしない。
「”やっぱり”とは?それと、一体何をしておられるのですか?」
ナビンが差し出した、枕ほどのサイズの蜜玉を見る。うん、これなら良さそうだ。
「この煙ね、毒だよ。それも石や金物を溶かせるぐらいの。」
「毒っ!?っアレは!?」
ナビンは私の言葉に驚愕して、思わず上を見上げる。そして口をアングリと開けた。
ウチらの真上は、恐ろしく厚い黒雲に覆われていた。夜空に紛れて見にくいが、その大きさはまるで入道雲のようだった。臭いを掻き集めて圧縮した結果、雲になったのだ。それが重く低く立ち込めてて、一部は霧みたいに漏れ出て来ている。...流石に集めすぎたか。
「地下水道もそうだったけど、明らかに良くないものを燃やして、その残りが空にも川にも垂れ流されてる。腐った肉とかじゃ絶対ないよ。人間がこんなに酷い生き物だとは思わなかった。」
「いやそれどころじゃないですよヤブrony様!?何してるんですか!?!?!?!?」
「動かないで。これ吸ったら1発で倒れるよ、多分。あ、蜜出して。」
「ハァァぁぁ?!!?!?!?!?!」
ナビンが出した蜜に、掻き集めた毒煙を混ぜ込む。蜜を渦巻かせて、空気と一緒によくよくかき混ぜ込む。それまで黄金色だった蜜玉は、瞬く間に黒とも青とも緑ともつかない、毒々しい液体へと進化した。進化...もしかしたら?
「やぶろにゃ様ぁ!?!?!?なんか触覚も掌もヒリヒリしてるんですがぁ!?!??」
「あ、もう手を離していいよ。それから石か宝石探してきて。透き通ってるのがいいかな?」
いうが早いか、ナビンは蜜玉からパッと離れる。そしてとても透き通った破片を放り投げた。
それに関わらず、ウチは祈りを込める。虫を召喚する時と同じ要領だ。でも祈りの先はこの蜜玉。
初めてやることだから、上手くいくといいな.....
「あの、ヤブローニャ様?本当に何を...。」
次第にウチが光だし、それが蜜玉に吸い込まれる。
【確認しました。”大地”に無い新種族を確認しました。対象の因子を元に命名します。...決定しました。対象は塩鹼粘体です。種族特性は”水素イオン支配”です。】
【以上の事象を”主”に報告いたします。】
やった、成功だ。
「アシパルスライム?よし、お前は”アシパル”だ!」
目の前の濁った黄色のスライムは、ぷにょんと跳ねた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「....de?その”あしぱるすらいむ”?”あしぱる”?ってのはどうなったんだ?」
「...はい。ああやって地下の空気や地下の水を綺麗にしております。どうやら毒を溜め込んだり、中和したり出来るみたいで…私達も飲めるので、大変重用しております。」
「ヤブローニャは倒れなかったのか?」
「はい、至極壮健です。アシパルも”力”の類は何も得なかったようで...」
「スゥぅぅ.....何してんじゃあのドアホはぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!」
頭の向こうから、「あかんべー」をするヤブローニャの姿が見えた気がした。
ヤブローニャの価値観(現在)
人間<<<<<<ディム<<<ゴキブリ連中<<<<<甘いお菓子<<ナビン
「食えるかもしれん」って唆されて生ゴミとかよく解らん葉っぱとか口に突っ込まれたら誰だって嫌うと思うんですよ
鹼/ケン、セン、カン、あく:灰汁、アルカリの意味
水素イオン:液体は常に電離と反応を繰り返しており、液中の水素イオンの濃度で具合で酸性かアルカリ性が決まる。