表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤブローニャ 〜蟲愛でる鬼姫は穏やかに暮らしたい〜  作者: ふぐりり
走り出した者たち
14/29

奇跡は起こるもの

故郷の星が映る海いいよね

ヤブローニャは走った。顔は見られただろうか。いや、匂いを消すべきだったろうか?それとも激臭で誤魔化すべきだったろうか?人間達はどこまで追ってくるだろうか?


(人間と会話するんじゃ無かった....)


 さっきからディムが煩い。直前まで通話(テレパシー)してたので、状況は筒抜けなのだ。

 いや、煩くて良かったかも。ディムの怒鳴り声が、怯えた背中を蹴り上げてくれる。後ろを気にしなくて済んだ。









 今更だが、ヤブローニャの生まれた森は盆地の中にあった。しかしこれを上空から俯瞰してみると、山の頂上を平たく窪ませたかのような地形だった。事実、この森はかの大魔導師、魔石革命の立役者トルルマンズ・エドルモンドが、まさしく魔石を使って生み出した地形なのだ。だからここは「エドマンド王立魔物公園要塞」と呼ばれている。


 そして要塞の部屋の窓とは即ち山の斜面であり、山の斜面は建物が密集していた。つい十年前までは原生林があったが、トルルマンズ主導の下原生林を切り拓き、公園要塞と魔石工場を立ててしまったのだ。

 この大改革を為せたのは、意外にも貧民の存在があったからだ。貴族の提供した資金と王家主導で原生林周辺に住み着く貧民を労働力とし、今では工場の下働きとして働いている。貧民自体は今なお残るが、公園要塞周辺は今や一台工業地帯であった。



 そんな訳で、見窄らしいローブを羽織った子供が1人駆けていった所で、誰も気にかけなかった。夜中に働く人間などいくらでもいるし、辺りはガラクタだらけの荒屋(あばらや)だらけで子供程度簡単に隠れられた。大貴族は競うように工場を作り、貧民は僅かな隙間にも己の家を作る。廃材などそこら中にあり、工業地帯.....「エドマンド魔石工業地帯」は日毎に姿を変える迷宮として名高かった。


 そんな迷宮の一角にヤブローニャは飛び込む。排水溝から下水へと潜り、無計画に掘られた下水の一角を目指して走る。テレパシーの聞こえる方角と、ディムの残した臭いで方角は分かる。ディムの築いた隠れ穴へと辿り着くのは、すぐだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「さて、そこに直れ。説教だ。」

「勘弁してよぉ〜、まだ続けるの?」

「たりめぇだ、下手したらお前死んでたんだぞ!?」

「だって私が残ってたのは虫達に命令してたからでぇ...」

「問答無用!」


 到着早々ヤブローニャを正座させるディム。見た目はただの蚕なディムだが、今は体を跳ねさせてまで怒りを表していた。


”ブンブンブンブンブブンンブブ”

「はぁ?このアホが死んだら俺たちも多分死ぬぞ!それでも許せと!?」

”ブンブンブブブブ”

「いやそうだが....。」


 そんなヤブローニャにも味方はいた。魔腐蜂(アスナンビー)(・プリンセス)である。彼女は運搬中にディムに「人間の目を引き寄せるための囮」を提案した。日の高い間は工業地帯の別な方角に行くと、そこを破茶滅茶に荒らし、人間の死体の破片をばら撒いて、人間の目を惹かせる。ヤブローニャはディムの指示で匂いを残しつつその場所を経由してから逃亡してるので、結果としていくらか助かってる。...「結果として」というほど状況はまだ動いてないが。


「おぉナビンちゃん!あ”り”がどう”〜......」スリスリ


 ヤブローニャは魔腐蜂(アスナンビー)(・プリンセス)に飛びつき、頬擦りする。手のひら大の蜂はかなり圧迫感があるが、今更だ。


「はぁ....。ん?ナビン?」

「いつまでも魔腐蜂(アスナンビー)(・プリンセス)じゃ可哀想だし、何より名前長いしね。」

”ぶぶぶぶっ?っぶぶぶ!!!”

 魔腐蜂(アスナンビー)(・プリンセス)は激しく羽ばたいて喜びを示す。元々、ただ虫ならぬ忠誠心と自立性を持っていた個体だった。名前を与えられたことは、彼女にとって途轍もない喜びであった。



 変化は、突然だった。


【”天”より告示します。】


 突然、声が響く。虫達含め、その場に居る皆は驚き、一斉に周囲を警戒した。


【”自己の名前”、”高い精神エネルギー”、”特別な因子”を確認しました。特殊進化処理の申請を致します....認可されました。】


 だが、虫とヤブローニャにしか声は聞こえていなかったようだ。その場にいた小さい鼠は、何か声が聞こえてる素振りは見えない。


【対象を測定....”地属性”、”魂の主”、”女王個体”の因子を確認。”大地”にアクセスし、適正種族へと進化させます。】


 声の中心たる魔腐蜂(アスナンビー)(・プリンセス)には劇的な変化が訪れる。どこからともなく光の鱗粉が現れ、魔腐蜂(アスナンビー)(・プリンセス)を繭のように包み込む。


【進化に成功しました。対象の新種族は琥珀(アンブロイド)(ワスプ)です。種族特性は「蜜蝋生産」です。続いて”(スキル)”の獲得プロセスに移ります。】


 光の繭越しに、魔腐蜂(アスナンビー)(・プリンセス)..いや、ナビンの姿形が見える。彼女の手足は4本となったが、肘がすごく伸びて杖のような形となる。一対の足と4枚の羽は統合されて一枚になり、鳥のような形状と大きさとなった(相変わらず透けているので虫羽ではある)。

 触覚は増えて頭頂には瘤が生え、王冠のように見えてきた。黄色と黒の縞模様はシンプルだが、何処となく黄金色に輝いているように見える。既に、甘い匂いのする液体が滴り落ちてくるようになった。


【”魂の性質”、”因子の適合”、”規定エネルギー量の充足”を元に、”(スキル)”を作成します.....完成しました。対象に【蠢蝋法(ティオゴス)】を与えます。】


 滴り落ちていた液は突然不自然な軌道を取り、ナビンに取り込まれる。その動きを持って、彼女の光は解き放たれた。


【処理の終了と確認の完了を認めます。】

【以上の事象を”主”に報告します。】




「これは....何が起きたのですか?」バタン

 

 それまでなかった、第四の声が聞こえてくる。その声とヤブローニャが倒れるのは、同時だった。

あの作品大好き


追記:【蠢蝋術(ティオゴス)】を【蠢蝋法(ティオゴス)】に変更しました。これこっちだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ