衣の中の鬼っ娘、大海を見る:前編
ヤブローニャはディムのテレパシー翻訳で人語を理解してます。
ちょっと短めです
「......此処ならもう大丈夫だろう。君、大丈夫か?」
「.........プッハァー、怖かったぁ.....。」
「討伐しようなどと言い出す馬鹿が出なくて良かった。あの迫力には流石に負けたのだろう。」
三角帽を被りため息を吐くデカいコートの少女。ヤブローニャである。頭の上のディムは、今は帽子に隠れていた。彼女は身なりの良い男子学生に連れられていた。
彼女達はあの砲撃の事は予め知っていた。小鬼時代に群れが砦から攻撃を受けた事があったのだ。ヤブローニャの貧弱な肉体ではどう頑張っても突破は無理であり、陽動作戦を起こした。
もっとも当時はレベル1兵装であり、此処までのインパクトはなかったが。
「さぁ君、倒れていたが傷はないか?医務室へは行かなくて大丈夫か?」
「っ!?い、嫌大丈夫です.....。」
「そうか?だがまぁ服が汚れてるのは行けない。ひとまず私の部屋に来るがいい。確か予備の制服があった筈だ。」
この要塞......エドマンド王立魔物公園要塞は、その名の通り王家が運営する要塞であり、その資産は潤沢である。特に王家肝入りの大学の生徒ともなれば、個室を用意する程度の事はなんでもない。
まもなく大きな部屋に出た。広い部屋であり、綺麗で豪華だった。しかし同時に白く空っぽな印象を抱かせる。
「じゃあ私は引率の監督官に報告と確認を行なってくる。君はここで身を整えていなさい。大丈夫、私の私物は特にない。」
男子学生はヤブローニャが部屋に入ると、そう言ってそそくさと部屋を出ていった。
「ふぅー.....。なにアイツ。」
1人になった途端、ヤブローニャはその場にヘナヘナと倒れ込む。
「声をかけられた時は焦ったけど、なんとかなったな。」
今まで黙りこくってたディムが声を掛ける。彼は今まで、テレパシーでずっと逃げるよう叫び続けていたのだ。
「しかし何で逃げなかった?」
「いやもう兎に角煙臭くて.....離れれば何でも良かった。さぁ、体を洗おう!」
「洗ってる場合か!?さっさと逃げろよ!」
「火薬と土の臭いがこびり着いた布なんて凄く目立つよ?」
「それは....そうか。」
2人は別れる。ヤブローニャは風呂で体を洗い、ディムが家探しする。
ヤブローニャにとって”風呂”という代物は無縁のものだ。風呂の場所は先の男子学生が指していた為場所は判ったが、その使い道にあくせく苦闘した。そして何とか水を出すと、匂いを操る香鬼の力で臭いを水に流し切ってしまう。土も綺麗に流した。因みに冷水で流した。
一方ディムは部屋中を家探する。糸を駆使することで棚を開け、何とかヤブローニャが元々来ていたのと同じ制服とコートを探し出せた。だが他に成果はない。棚の多くは空っぽであり、蚕の身では本は読めなかったからだ。
「はぁ.....”ヨクシツ”っていいものだね。欲しい。」
「そういうこと出来る虫探すか?それよりちょっと手伝ってく.....。」
コンコン「着替えたかい?話を持ってきたよ。」
2人は顔を見合わせる。逃げるか、逃げないか。
もっとも、2人に選択肢などはなかった。