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4.私を知っているんですか

よろしくお願いいたします。

舞台終焉のベルが鳴った。今回はアンコールも1回、パラパラと拍手が起きているだけで帰る支度を始める観客が多い。いつもならカンナは1番大きな拍手をしているはずが今回は出来なかった。どうしても横のレナルドが気になったからである。


「じゃあ、行こう」

「えっ?」

「近くに良いカフェがあるそうなんだ」

「カフェ・ベルン?」

「やっぱり知っているんだな、行ったことはあるのか?」

「いえ、興味はあったけど」一緒に行く人がいなかった。

「じゃあ、行こう」


そういって、レナルドはカンナを劇場から連れ出した。カンナを引っ張るようにエスコートしながら歩いていると、通行人はみな、目を丸くして二人を見ている。


そうよね、レナルドは目立つわよね、、、


「あなたって、話が通じませんね。いつもいつも、、、」

「いつもって、いつのこと?」

「・・・・・」


私は町娘町娘町娘、、、、と唱えながら、カンナは何が正解か分からずにいた。どうしたらいいんだろう。この人と関わると、いつも焦ってばかりで自分が惨めになる。


「ピンクの」

「えっ?」

「ピンクの髪がふわふわして可愛い」


・・・・・普通、初対面の相手にこんなことを言うだろか?やっぱり、もしかして、


「私のことを、ご存知で?」


思い切って聞いてみる。


「多分そうかなって思っている」

「はっきり言ってください」

「えと、森の老魔女で、僕に口紅を使った女性、かな」


カンナは足の力が抜け、ヘナヘナと崩れ落ちそうになった。



カフェ・ベルンは劇場区域のすぐそばにあり、今女性に大人気のお店である。着飾った令嬢たちが優雅にお茶やお菓子を楽しんでおり、庶民憧れの場所でもある。カンナも一生に一度は入ってみたいと思っていた。だけど、こんなふうに、レナルドに支えられながら、ヨロヨロ入店するとは夢にも思っていなかった。


「帰りたいです」


道端に座り込みそうになった体勢をなんとか持ち直した時、カンナは涙目になりながらレナルドに訴えた。


「いや、店で少し休憩をしたほうがいい」

「あなたが離れてくれたら、多分元に戻ります。自分のペースで帰れますので、、、」

「それなら、君をおぶって森まで送ることになるけど。カフェで休憩とどっちがいいかな」

「カフェでお願いします」


カンナは食い気味に答えた。レナルドとはほんの数回会っただけなのに、確実におぶって帰るであろうと確信している。


不幸中の幸いとでもいうのか、カフェ・ベルンはすぐそこだった。そして、もっと幸いなことに、なぜか個室に通された。入店した瞬間から令嬢たちの大注目を集めていて、いたたまれなかったので助かった。


淡いベージュで統一された部屋は、美しい装飾品と気品ある家具が並んでいる。テーブルに上品に供されたキラキラしたお菓子も、ガラスのカップから漂うフルーツティーの甘い香りも、普段なら目を奪われたであろうが、今は気にしていられなかった。


「レナルドさん、あなたはどこまで知っているのですか、なぜ私に構うのですか」

「何から話せば、、、」

「まず、あのルージュについて知っていることを教えて下さい」

「そうだね、あれを依頼した方は知っているよね」


口に出していいのかカンナは迷った。


「大丈夫だよ、オレも彼女のことをよく知っているから」

「マリ様?、、、マリアーヌ様、王太子殿下の婚約者様ですよね」

「そう。オレは彼女の近衛兵でもある」

「じゃあ」

「マリ様が最初に君の家に行ったときも、家の外にいた」

「え”」

「今は依頼内容も知っている」

「全部、知って」

「ああ、マリ様があの口紅を使おうとしたのは、オレだしね」


・・・・・最近、心臓がドキドキすることが多すぎて、もう先は長くないのかもしれない。


その時、個室の扉がバッと開いて、1人の女性が飛び込んできた。


「ちょっと、その言い方、語弊があるわ!」

「マ、マリアーヌ様!!」

「カンナ、お久しぶりね。このへっぽこ黒騎士のお相手はさぞ疲れるでしょう。語彙力が足りないというか、話の流れを読まないというか、繊細な心がまったく無いのよ!」

「聞き耳を立てていたのですね、本当にあなたって人は」

「私がお膳立てしてあげたんだから、そのくらいの権利はあります」




カンナは二人が言い合っているのをただ呆然と見つめていた。もう、頭の中はぐちゃぐちゃだ。疲れた、、、と思ったのが最後。本当に気を失ってしまった。

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