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ラズーン 6  作者: segakiyui
2.灰色塔(ガルン・デイトス)
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2

「ふ…ぅ」

「お疲れ様でした」

 一通りの手配をし終わり、シートス、アギャン、ミダスの各公が各々の持ち場に引き上げた後、地下広間には3人の男が残っていた。

「ついに見損なわれてしまいましたな、シャイラに」

「そうだな」

 シートスの声に椅子に凭れていたアシャはにやりと笑って応じる。

「燻り出せるかな」

「おそらくは」

 セシ公が微笑みながら答える。

「アギャン公はテッツェが追います。ジーフォ公は馴染の私が、ミダス公は今日の会議で白黒がつけられるはず」

「恐い御方だ」

 シートスが瞳を光らせてセシ公を見る。

「私のような無骨者にはとてもできない腹芸だな」

「お褒めに預かり、恐縮ですよ、シートス・ツェイトス」

 皮肉混じりのことばに臆した様子もなく、セシ公は笑った。怯まずシートスが問いを重ねる。

「だが、万が一、あなたが裏切っていた場合はどうなるのかな?」

「そうですね」

 セシ公は生真面目な表情で考え込んでいたが、

「私がラズーンを制した暁には、その先見の明を讃えて、あなただけは命を助けましょう」

「俺は生かしておくと後々困る存在になるかも知れない」

「では、その時に殺しましょう」

 性質の悪いからかいにも、セシ公は端麗な顔に微笑を浮かべたまま言い放つ。

「なにせ殺すのは簡単だが、生き返らせるのはさすがの私でもちょっと難しくてね。生きていれば、何かと役には立つ」

「捨て駒とか?」

「よくおわかりだ」

 シートスとセシ公のやり取りを聞いていたアシャは吐息を漏らす。

「捨て駒、な」

「気になりますか」

「それは…一隊丸々消耗するとなれば」

 くすりとセシ公が笑う。

「何だ?」

「素直に認められてはどうです、あの娘が心配だ、と」

 図星を指されて、アシャは微かに顔が赤らむのを自覚する。

「まあ、あなたのことだ、ことば通りには取っていませんが」

「…事実、当たらなくてはわからないと言うのは本当だ」

 レトラデス達が囮なのかそうでないのか。それは、ユーノ達と当たって初めてはっきりする。すぐに引けば良し、死力を尽くすのなら、レトラデス達はジーフォ公の空きを当て込んで送られたと言うことになる。だが、その場合、激戦になるのは火を見るよりも明らか、まんまと策中に引っ張り込んだと言う点でラズーン側には有利になるが、ユーノの生還率は極端に減ってしまう。

 そうしてアシャは、より酷い現実をも見てしまう。

「…だが…ひょっとして」

「え?」

「何もかも水の泡、と言う場合もある」

「……」

 シートス、セシ公の促すような視線に、アシャはじっと地図を見据えた。

「ギヌアがレトラデス達を囮に使っていて、なおかつ、レトラデス達にはそれを伝えていない場合、彼らは死力を尽くしてユーノ達と当たり、しかもその戦いには何の意味もないと言うことになる」

「…やりそうなことですね」

 セシ公が同意した。

「当たってみなければ、わからない、か」

 シートスが呟く。

「いずれにせよ、兵を分散させられるのが辛い」

「その上に四大公の裏切りが加われば、ラズーン滅亡は必至」

 セシ公がことばを重ねる。髪の毛を一房、指に絡めながら、

「時間との追いかけっこというわけですね」

「…そうだな」

 その与えられる『時間』が、どうかユーノが生きている間であってくれ。

 動かさぬ表情の下で、アシャは密かに強く願った。


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