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ラズーン 6  作者: segakiyui
8.夜襲

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75/88

6

『うおおおお…』

 獣のような、暗く不吉な叫びが『泉の狩人』(オーミノ)の、くわっと開かれた歯列、闇を呑む口から吐き出される。ユーノを中心にした左右両翼が『穴の老人』(ディスティヤト)の群れを包み込むようになだれ込んで行く。猛る金目馬の足元で、あちらこちらに転がっていた戦士達の体が、骨と言わず肉と言わず容赦無く踏み潰され、砕けて土に埋め込まれる。

『おお、この時を待っておったぞ! 「穴の老人」(ディスティヤト)!!』

『再び「死の女神」(イラークトル)の御膝元へ追い返してやろうぞ!』

『負けはせぬ、もう二度と負けはせぬ!!』

聖女王シグラトルに捧ぐ!』

『ユーノに捧ぐ!』

 口々に叫びながら半月形に突進していた『泉の狩人』(オーミノ)の隊列が不意に崩れた。中央のユーノが見る間に一人抜きん出たのだ。真横にいた『泉の狩人』(オーミノ)ミネルバが、すぐに追いすがる。だが、ユーノの頭には残される者に配慮もない、かなりの速度で走る馬の背に吸い付くように身を任せたまま、すらりと剣を抜き放った。蒼みを帯びた剣が空を薙ぎ、露を含むように妖しい光を宿す、や否や、誰より早く『穴の老人』(ディスティヤト)の1人を葬った。遅れを取ったと言いたげに、ミネルバが、カイルーンが、ディーディエトが、各々の配下を引き連れ切り込んでくる。

 『穴の老人』(ディスティヤト)も負けてはいなかった。ことばこそ発していなかったが、嘲笑うように紅の口を開いて『泉の狩人』(オーミノ)達を挑発し、確かに最初に不意を突かれた形の1人2人は他愛なく殺られたが、2人1組となって1人の『泉の狩人』(オーミノ)を襲う手段を講じ始め、『泉の狩人』(オーミノ)側にも被害が出てきた。

『カイルーン!』

 叫びにユーノが振り返ると、今しも彼女が『穴の老人』(ディスティヤト)の触手に捕まったところ、剣を持った右腕、左脚に『穴の老人』(ディスティヤト)の不気味なぬらぬらとした触手が絡みついている。馬から引き摺り下ろされたのだろう、汚れた青衣、振り乱した髪が荒々しい。

『うっぐっ』

『カイル……くそっ!』

 呼んだディーディエトにも、馬をめがけて3人の『穴の老人』(ディスティヤト)が走り寄り、そちらの相手で手一杯となる。ミネルバは少し離れたところで『穴の老人』(ディスティヤト)の囲みを突破中、他の面々も多勢に無勢、いささか苦戦気味だ。

 助けに走ろうとしたユーノの耳に、舌なめずりするような音、同時に剣を持った右手首に『穴の老人』(ディスティヤト)の肉の樹根が絡みついて思い切り引っ張られた。かろうじて落馬を堪えたものの、拮抗するのが精一杯、振り返った目に飢粉シイナの黄色い煙が漂う中にのっそりと立つ、『穴の老人』(ディスティヤト)の金の虹彩が映る。

聖女王シグラトル…」

 相手は、肉袋のような頭についた金の瞳をこちらに据えて、ぼそりと呟いた。にまりと目を細める。瞳孔が紅に光ってユーノを射る。

「お噂は、かねがね…」

 ぬろりとはみ出た舌でゆっくり口の周囲を舐めた。じりじりと相手の手元に引き寄せられるのに、ユーノも腕に力を込めながら言い返す。

「喋れるとは知らなかったよ」

「……わしはディオング……何時ぞやの洞窟では幸運でしてね…」

「……」

「その前に『食べた』のに当たったのか、体調を崩しましてな……あの時は洞窟へはお迎えにいけませなんだ」

『ぐ…っ…うっうっ…』

 背後でカイルーンの呻きが大きくなった。チャリン、と剣の落ちる音が続く。だがユーノも振り返れない。少しでも隙を見せれば、一気に引き摺られて飢粉シイナの煙の中へ転げ落ち、そうすれば戦うことはおろか、飢粉シイナで命を落とすという虚しい末路を晒すことになってしまう。

「が…神々は我ら『穴の老人』(ディスティヤト)にも恩恵深く…」

 ディオングはふざけたように一礼した。

「あの時洞窟へ行けなかった代わりに、今夜あなたをお迎えできたと言うわけだ」

『あっ……はうっ!!』

 ボキッ、グシュッと言う鈍い音と一緒にカイルーンの悲鳴が響く。それでもユーノは動けない。

「光栄ですな、聖女王シグラトル

 ディオングはお構いなしに話を続け、右手首を引っ張る力を増した。踏ん張るユーノ、馬が耐えきれず、ずずっと蹄を泥土に滑らせる。

「さあ、いらっしゃいませ、古くからの知り合いの近くへ…」


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