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星は『狩人の山』(オムニド)の上にも輝き始めていた。
人の世界、人の命を遥かに超えた時の流れの中、じっと主を待ち続けた高峰、白く雪を頂いた峰々を飾るかのように、暮れ始めた紫の空に色とりどりの炎を光らせる。
「ユーノ様」
振り返るとジノがひっそりと影のように控えていた。
「『泉の狩人』(オーミノ)の方々がお呼びです。物見がお帰りとのことでした」
「わかった」
答えてなお天空の星に見入るユーノに、ジノはそっと近寄ってきた。同じように空を見上げながら、
「美しゅうございますね」
「ああ…綺麗だ」
低く応じてユーノはことばを継いだ。
「昔、旅をしている時にアシャに聞いたことがある。あの星々の1つ1つに、私達の住むような世界を持っているものがあるかも知れないって」
「私供のような…でございますか」
訝しげなジノの声に苦笑する。
「…」
「あの星々の1つ1つにこんな世界があるのなら、その世界の人もこうして星を見上げているんだろうか。いや、ラズーンを創ったと言う『星』は、今でもやはりこの世界を見ているんだろうか………見ているならどう思っているだろうね、こんな風に戦だけを繰り返す私達を」
「………」
ジノはユーノの顔に視線を移したが、何も言わずに再び天空を見上げた。
星は瞬いている。
瞬時も止まることなく、ただきらきらと瞬いている。
それは遥か昔、ラズーンが始まった頃にも瞬いていただろう。この戦ののち、地上に生ある者が1人もいなくなっても瞬き続けることだろう。
その長い長い年月の中、ユーノ一人、何をすればいいのだろう。何ができると言うのだろう。
真実は一体何なのだろう。それはどうすれば手に入れられるのだろう。
(アシャ…)
ユーノは心で呟いた。
その名前は見る間に張り詰めた心を緩め、柔らかくしなやかに、甘い温もりを持って四肢の隅々まで広がった。
(アシャが……笑う)
旅の空の下、日の光に金褐色の髪を輝かせてアシャが笑う。
(それでいいではないか)
不意に心が答えた。
アシャが笑う、それだけでは十分ではないか。得られるものは全てまやかしかも知れない。真実などありはしないのかも知れない。
けれど、アシャが笑う、楽しげに、嬉しげに。
それが、どれほど胸を温めることか。
そうだ、アシャの幸福を願うこの想いこそは、一片の嘘も含んでいない。
(ならば、それでいいではないか)
「ジノ」
「はい?」
「この戦、荒れるぞ」
くすりとジノが笑った気配があった。
「荒れるも何も、一度は死のうとしたこの命、今更惜しくもありますまい」
「上等」
ユーノは少し息を吸い込んで、向きを変えた。




