4
「おぉ、成功じゃ!成功したぞ!」
白い光が収まるとそこには如何にも魔術師然とした男が立っていた。
その隣には溢れる気品さを隠せない少女が立っている。
恐らくはこの国の王族かそれに連なる者だろう。
ここが王国なら王女といったところで。
テンプレ過ぎてつまらないが、いずれ戦う相手だ。
しばらくは成り行きに任せよう。
「こ、ここは!?」
「いつつっ…一体なんだってんだよ。」
「ぐふっ、兄貴と康介がくんずほぐれつ。」
「あれっ、あたし達さっきまで教室にいたよね?」
あからさまな勇者一行様とのご対面だ。
金髪の王子様な主人公。
筋骨隆々な黒髪の友人。
主人公を兄と言ったのは背が小さな少女…いや、幼女か。
しかも青髪だ、複雑な家族関係のようだ。
それにつり目がちな赤髪のポニーテール。
これに先ほどの王女(ピンク髪)で勇者一行の出来上がりだ。
もちろん僕は入っていない。
「皆さま、ようこそシャンゼリゼ王国へ。私はこの国の王女。シャンゼリゼ・ルイン・セレナーデと申します。」
「あっ、これは御丁寧に。僕は日本から来ました宮田勇気です。」
「この状況で自己紹介かよ…俺は佐久間康介だ。」
「結局あんたもするのかよっ!あたしは赤城華恋よ。」
「宮田心愛。」
自然と僕に視線が向く。
どうしたものか。
日本人なら僕のことを知ってるかもしれない。
迂闊に本名は名乗れない。
パラレルワールド上の日本ではない可能性があれば、僕はそこそこに有名だったはずだ。
前世(界)ではヤンチャしていたので気恥ずかしさがある。
僕は敢えて流れを断ち切る方向でいく。
「すまない、名前が思い出せないようだ。差し当たって僕のことはディと呼んでくれ。」
「外国人には見えないが…。」
「横文字の方がこの世界には馴染むんじゃないか?」
「歳はあたし達と同じくらいかしら。」
「最年少の座は渡さない。」
アルファベットでDだ。
有名な小説にKがいるんだから大丈夫だろう。
デスやデストロイなんて僕好みの単語もDから始まるしね。
この数奇な運命に掛けても良い。
…何を言っているんだ僕は。
転移酔いしたようだ。
「よろしくな、ディ。」
「馴染むの早いだろう勇気! まぁ男同士よろしく頼むぜ。」
「うん、よろしく。」
勇気と康介と握手を交わす。
康介と握手をした瞬間、僕はつい笑みを溢してしまった。
康介の手が武術をする手だったからだ。
空手かな…それとも柔道。
まぁ良いや、楽しみは取っておかないとね。
「あぁ、やだやだ男ってどうして握手しただけで友達みたいになるのかね。」
「友情と愛情は表裏一体。グッジョブ。」
お互いに軽く自己紹介が終わると、こほんと咳払いが聞こえた。
ピンク髪の王女様である。
隣の中年魔術師は露骨に怪訝な顔をしている。
王族を完全無視で話し込んでいれば当然である。
打首にはならんよね、勇者なんだし。
僕は高を括った。
「皆様をお呼び立てしたのは他でもありません。近いうちに魔王が復活する予言を聞いたからです。」
「「「な、なんだって!?」」」
心愛と僕以外が声を上げる。
いや、厳密に行っていないのは僕だけだった。
心愛からてーと聞こえたからだ。
声が小さかっただけなのね。
「そのために貴方達を勇者として召喚致しました。異世界から来た者は神秘的な力を得ていると文献にあるからです。」
「えーと、つまり王女様の言葉を訳すと俺達が魔王と戦うってことか?」
「恥ずかしながら私達だけの力ではとても。」
「ふっふっふ、私の魔剣が役立つ時が来たのね。」
「華恋は剣道。康介は柔道。二人とも道場を家に持っているんだ。」
「へぇ。」
勇気が小声で教えてくれた。
どうやら幼馴染が変人だと思われたくないらしい。
しかし、このポニーテールも戦えるのか。
二人の幼馴染が武術家なら、勇気とやらも一緒に訓練していた可能性もある。
これは意外に早く戦えるようになるかもね。
「無理を承知でお願いします。私達の国を、世界を、救ってください!」
「困っている人は見過ごせないよね。」
「はぁ、出た出た。これだから勇者様は。」
「勇気が最高のお人好しだって知ってたけどね。」
「コミュ力高い兄を持って私は自分が情けないよ。」
「あぁ、うん。僕も構わないよ。」
そのためにこの世界に来たのだから。
王女様はぱぁっと笑顔になった。
いきなり異世界に連れてこられて罵詈雑言を浴びせられてもおかしくない状況だ。
心底ほっとしていることだろう。
「それではこの球体に触れてください。レベルとジョブがわかるはずです。」
「こういうのは先にやる方がダメージ小さくて済むよな。」
「あっ、ちょっ、私が先よ。レディファーストって言葉をしらないの!」
「どこにレディがいるんだよ。」
「この筋肉達磨!」
「暴力女!」
康介と華恋がイチャついている。
てっきり勇気のハーレム候補かと思ってたけど。
肝心の勇気は笑顔で二人を見ている。
それじゃあ、殺してもリアクションに期待出来ないな、残念。
「えーと、サクマさんのジョブは聖騎士です!凄いレアジョブですよ!」
「よっしゃ! なんか知らんがよっしゃ!」
「あっ、あたしは?」
「セキジョウさんは…剣聖です!これもレアジョブですよ!」
「ふっふーん、日頃の稽古は無駄じゃなかったわけね。」
続いて球体に触れたのは心愛だった。
恐らくは十中八九勇気が勇者だから先に触れているのか。
僕もこのノリについて行くべきだろうけど、人見知りにはきついよね。
「ココアさんは賢者です!レアジョブです!」
「ぶい。」
「じゃあ、次は僕が行こうかな。」
こっちをチラ見してきた勇気。
安心しろ、お前が勇者だ。
「ユウキさんは…ゆ、勇者です!!ゆ、夢じゃないです!!」
「王女様、興奮しすぎです。」
「しっ、失礼しました。」
「あのぅ、僕はもう良いですかね?」
「えっ、いやっ、だっ、ダメです。」
ダメみたいだ。
正直勇者が誰か分かれば僕はどうでも良いんだけどなぁ。
仕方なく僕は球体に手を伸ばした。
「ディさんのジョブは…狂戦士です。」
「はぁ。」
なんだろうこの盛り上がりが急に冷めた感じは。
僕のせいなのか。
康介と華恋は笑いを堪えている。
心愛はぷーくすくすと言っている。
勇者の勇気君は僕に気を遣ってくれている。
「それではお疲れでしょうから、食事にしましょう。王への挨拶は明日にしますので。」
なんか気を遣われている感じ。
解せぬ。
ご飯を食べた後は各々の個室へと促された。
ようやく一人になれた。
僕は自分の姿を鏡で見る。
「見た感じ二十歳くらいの僕だな。」
高校生に同学年と思われるくらいには若返っている。
前世は二十六だったからね。
「体の方は、と。」
拳を突き出し、蹴りを放つ。
演舞のような動きに体は問題無くついて行く。
「ちょっと反応が良すぎる?」
前と違うことといえばレベルか。
その上限を取っ払ったことで枷が外れたような感覚だ。
「レベルはみんな1だったみたいだから、ベースでこれか。」
せっかくだから戦いたい。
でも、最初は初歩しか習わないだろう。
「うーん、そうだ。」
僕は妙案を思いついたとばかりに手を叩く。
「王様を殺そう。」
楽しい異世界ライフが始まる。