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闘争の果てに  作者: 餅巾着
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3

微睡の中にいる。

このまま過ごせればどんなに楽か。

身を委ねたくる気持ちと共に沸々と湧き上がる感情。


戦いたい。


殺したい。


血湧き肉躍る感情。

それを認識した瞬間に全ての感情がそれに切り替わっていた。


目を開ける。

真っ白な景色しかなく、目を開けた実感がない。

ふと下を見ると足があり、身体があり、手があった。

これなら戦える。

まだ戦えるのだ。

歓喜したい気持ちがあるが、思考がクリアになると一つの疑問が浮かんだ。

僕は死んだはずだ。

核の炎になす術もなく焼かれた。

いや、それでも即死はしなかった。

放射能にやられ内臓機能が停止したのだ。

一回でも受けていれば免疫が出来て、耐えられたかもしれない。

試せないのが残念である。


「目覚めたのですね。」


ふと目の前から声が聞こえた。

突然現れた。

僕に気付かれずにこんな距離にいるなんてあり得ない。

僕はすぐに戦闘モードに切り換える。

目の前にいるのは敵だ。

僕を殺し得る者だ。

口の端を不自然なくらい吊り上げ、僕は敵を殺す。


「驚いてぐびっ!」


後ろに回り込みながら顎に手を掛け天井に向けさせる。

目の前の敵は頸椎を折られ、後ろへと倒れた。

その姿を見て、敵は女だと知った。

金髪で白布を纏った女だ。

その顔は生きていれば綺麗であっただろうが、死んだ顔は驚き顔のままだ。

そこはかとなく残念な感じだ。

僕は一息つくと、死体が消えた。

来る。


「ちょっとあんた人の話をぐっ!」


背後から声が聞こえ、回し蹴りを放った。

相変わらず気配を感じない。

声から推測し、攻撃するしかない。

一撃で仕留めなければ危険だ。

僕は気を引き締める。


「もう怒ったわよー!」


声が聞こえた。

僕は急いで足を向ける。

アキレス腱がビキビキと音を立て、跳躍する。

数十メートルは跳んだ。

勢いそのままに踵を脳天に落とす。

顔面が地面に減り込む。

頭蓋骨は粉砕できたようだ。

死体が消える。

僕はこの状況が楽しかった。

油断すれば自分が死ぬという状況が初めてで、熱にあてられた。

言葉にするならば、恋という感情が近いだろう。

この興奮が一生続くことを望んだ。

だが、それもすぐに終わりを迎える。


「「これならどうよ。」」


声が二つ。

それに随分と距離がある。

僕は瞬時に近い方へと疾走する。

女はにやりと笑みを浮かべた。

その笑みを浮かべた女の心臓を貫いた。

しかし、その死体は消えなかった。


「捕まえた。」


三度の戦いで油断した。

どうして死んだら瞬時に消えるものだと思ったのか。

そう思わされたのだ。

僕は相手の術中に嵌っていたことに気付き、纏わり付く死体を振り払うこともせずにもう一人の方へと向かう。

しかし、相手の声の方が先だった。


「バインド。」


不可視の物体が僕を中心にドーム状に展開していた。

それなら、このドームごと壊す。


「グラビティ。」


自重が何倍にも感じられるが、何とか踏ん張る。

その様子に女は焦りの表情を浮かべる。


「嘘でしょ!グラビティ。グラビティ。グラビティ。」


あまり重さに片膝を付く。

その隙にドームは完成してしまった。


「どんな化け物よ。勇者でも圧死するレベルよ、それ。とりあえずやっと会話が出来るわ。」


あれほど不可思議な力を使う相手だ。

それに何度殺しても死なない存在に立ち向かうのは骨が折れる。

文字通り重力でいくつか骨も折れている。

女はどうやら会話を望んでいるみたいなので、対話を試みる。


「僕を殺すのか。」

「はっ!? そんなわけないでしょ!あなたをこっちに来させるのにどんだけ苦労したと思っているのよ。」

「殺さないのか?僕は何人か殺したぞ。」

「私のスペアを壊したことは許し難いけど、いきなり肉体を与えた私の落ち度でもあるわ。」


女は項垂れていた。

僕は掛ける言葉がない。


「私はあなたの世界で言うところの女神よ。別に信じなくてもいいけどね。」

「そうか。だから死なないのか。」

「それより、その重力で会話も辛いでしょうから、今解除」

「確かに煩わしいな。」


僕は立ち上がり、力の奔流に気合を入れる。

ビキビキと音を立て、何かが割れる音ともに重力がなくなる。

そして、残ったドームに拳を叩き込む。

こちらも同様に何かが割れる音ともになくなった。


「嘘でしょ。女神の力を肉体の力だけで吹っ飛ばすなんて…一人で世界を壊したのにも納得がいくわ。」

「それで殺さないなら僕をどうするつもりだ。」

「それに女神に対して普通に会話しすぎでしょ。」


自称女神は溜息を吐いた。

その姿は確かに美しく、絵画のような神々しさを持っている。

どうにかして神を殺せないものか。

僕は思考の闇に飲まれる。


「なんか良からぬことを考えてるみたいだけど、あなたには別の世界を救って欲しいのよ。」

「救う? 僕は殺すことと壊すことしか出来ないよ。」

「それで良いのよ。あなたには人類と魔族の敵になって欲しいの。」

「へぇ。」


何やら面白そうなことになってきた。

異世界転生もののラノベとかだと魔王を倒したらそこで終わりだ。

勇者という肩書きのせいで人間を殺して回ることも出来ない。

それに比べて女神が言った人類と魔族の敵という言葉。

それが麻薬のように僕を誘惑する。


「そこであなたにはチート能力を」

「いらない。」

「あげ…今あなた断った?」

「あぁ。」


チート能力など無粋だ。

それでは僕が本来持っている力だったのかわからない。

僕の積み上げてきたものがそんな無粋なものであって良いはずがない。

この手は何千何万という人間の命を奪ったのだから。


「確かにあなたの力は異常よ。でも相手は何万何億と徒党を組んでくるのよ? それに剣と魔法の世界に平和な国の人間が送られても、すぐに死んでしまうのがオチじゃないからしら。」

「ふむ。」


確かに異世界は未知数だ。

ここで変に意固地になって早々に死んでしまっては楽しめない。

必要最小限の力は必要か。

なるべく戦闘に直接関係しないものなら許容範囲か。


「では言語能力、収納能力、レベルなんてものがあるなら上限をなくしてくれ。」

「最初の二つはデフォルトで付いているわ。それだと上限突破だけね。他にはないの?」

「なら不老を。あと病気や毒みたいな直接戦闘と関係ないもので死なないようにしてくれ。」

「不死はいらないの?」

「死ぬ恐怖があるから強さを求めるんだろ?」


死なないために強くあろうとするのだ。

そのために人は生きる努力をする。

だが、老いや病気のようなものがあっては長く楽しめない。

それに政と毒殺は切っても切り離せない。

そちらの方は専門外なので呆気なく一服盛られる可能性が否めない。

あいつがいれば、その辺はおまかせ出来るんだけどな。

しかし、それは高望みというものだ。


「でも良いの? 愛する人が出来たらその相手と同じ時間を過ごせないのよ?」

「ん。」

「えっ、なに?」

「お前がいるだろ。」

「へっ? あの、それって…もしかして私のことを。」

「有限の時間ではお前を殺せないだろ?」

「あぁ、はいはい。期待なんてしてなかったわよ。」


女神は何故かガッカリしている。

流石に宣戦布告はやりすぎだったかな。


「それじゃあ、転生と転移を選べるけど」

「転生だとすぐに死ぬ可能性があるから転移だな。」

「まぁそうよね。じゃあ」

「異世界転生に巻き込まれた感じで頼む。」

「注文が多いわね。まぁ、それくらいなら良いけど。」


女神が呪文を唱えると魔法陣が僕の下に現れる。

いよいよ始まるぞ。

僕は期待と一抹の不安とともに新しい世界へと赴く。

一抹の不安は僕を殺せるような存在がいなかった場合だ。

勇者に魔王。

すぐに死んでくれるなよ。

その時は目の前の神に期待するしかない。


「じゃあね。世界を混沌に陥れてきなさい。」

「あぁ、全てが終わったら」


僕と愛し(ころし)合おう。


僕の意識が白に包まれた。

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