2
「ところで親を殺してしまって良かったのか?未成年だと色々不便だと思うがの。」
そこで僕はしまったと思った。
ついつい昂って殺してしまったが、半殺し程度がベストだったかもしれない。
「かっはっはっは!ようやく人らしい反応を見たわい!お前さんは気にするな。わしが面倒を見てやるわい。」
有能な手駒は近くに置いておくに限る、とぼそりと呟いた。
聞こえているぞ。いや、聞かせているのか。
恩は売っておくに限るからな。
しばらく大人しく従ってやろう。
どうせやることは一緒だ。
そろそろ停学があけるな。
学校で僕はどんな扱いになるのか。
うるさい連中に絡まれなければ良いが…。
結論から言おう。
誰も絡んでこなかった。
僕はぼっちになった。
「ねぇ、あれって…。」
「近寄っちゃダメよ。うちの不良たちが怖くて近付けないって話よ。」
「可愛い顔して獰猛なのね。ちょっとタイプかも。」
中学校では上手くやれてるつもりだったが、人を殺してからは感情に歯止めが効かなくなってしまった。
でも気持ちは不思議と満ち足りている。
友達は諦めよう。
そう思っていた矢先に声を掛けられた。
「あのときはありがとう!お陰でいじめられずにすむよ!」
気弱そうな男だった。
あの不良を半殺しにしたとき。
僕に羨望の眼差しを向けていた男だった。
多分だけど。
「あのとき感動を伝えるためにカメラが買ったんだ!それでちょっと相談があるんだけど…。」
気弱そうな男が語気荒く熱弁してきた。
僕もまさかこの男と腐れ縁になるとは思わなかった。
「てめぇがあのふざけたサイトの管理人かよ。」
「そうだよ。そして、君が最初の被害者だ。」
気弱そうな男が考えたのは、僕の戦っている動画をネットにあげることだった。
奇しくも僕が考えていた強い人間と戦う目的と一致していたので快諾した。
老人に意見も聞いたら、処理は任せろとのことだった。
手加減して不完全燃焼は嫌だからね、うん。
「じゃあ、好きなタイミングで始めて良いですよ。ただ全ては自己責任ですよ。」
「あぁ、わかってるさ!」
それが男の最後の言葉となった。
しかし、気弱そうだと思っていた男だったが、人殺しの現場を目撃しても変わった様子がなかった。
むしろ再生数が、とか。
顔はとりあえずモザイクしておくか、とか。
ぶつくさと呟いていた。
そして、気まぐれで始まったサイトは総再生数が軽く億を越すようになった。
会話に字幕を付けることで世界中から再生してもらえたらしい。
一言二言話して戦うだけだが、そのやりとりが面白いらしい。
コメントに「淡白ww」「よく喋る奴は負ける」「俺にはわかんだよねw」と決まったものが流れた。
どうやら、フィクションかどうかの判断が難しいらしい。
明らかに首が変な方向に曲がっても特に問題なく活動を続けられた。
もちろん抗争の方も真面目にやっている。
気弱そうな男も同伴したがり、老人は渋った顔をしたが快諾した。
さすがにネットにはあげられないが、DVDにして敵対勢力に送っていた。
お陰で無条件降伏することも増え、戦う機会が減った、解せぬ。
そうして、高校を卒業する頃には抗争は終わった。
それに日本中の強い奴も狩り尽くしてしまった。
絶望しかけていた僕に気弱そうな男は言った。
「次は世界ですね!なんだったら戦争にも参加しますか!」
動画の再生数で既に働く必要はなくなり奔放とした生活をしていた。
だが、二人とも贅沢は特にせず、カメラなどの機材が新しくなっている程度だった。
僕は戦いの度に服をボロボロにしてしまうので、それにお金が掛かるだけだ。
身バレしないようにスーツで戦うのが基本になっていた。
一度学校の制服で行ったら、凄く怒られたのを覚えている。
気弱そうな男も怒るのだと知った瞬間だ。
世界は広かった。
色んなものを食べ、色んなものと戦い、色んなものが死んでいた。
特に戦争は人の命がゴミのように扱われていた。
僕はついつい興奮してしまった。
未完成の完成が、酷く哀れで、酷く滑稽で、酷く美しく見えた。
だが腕っぷしだけの僕では銃の相手は骨が折れた。
しかし、肉体とは不思議なもので、銃弾を何度も受けているといつしか貫通しなくなり、傷すら付かなくなった。
毒を食らっても、地雷を踏んでも、僕の身体は傷付かなくなった。
その様子をネットにあげると「嘘乙ww」「今までのは全部ヤラセですた」「失望しました。ファンやめます。」と荒れに荒れた。
そうして戦争に介入しまくり、世界情勢を変えていった。
いつしか僕は災厄と呼ばれていた。
しかし、僕の一生は呆気なく終わりを迎える。
「見てくださいよ!あれって核ってやつじゃないですか!?すげぇ、初めて見た。」
遠くの空からミサイルの群れ。
各国の国旗がペイントされているのが見える。
肉眼で見えているのは僕だけだろう。
「あっ、本当ですね。いやぁ、あんなに遠くのがよく見えますね。」
僕たちは少しやり過ぎてしまったようだ。
世界に出てから10年。
戦争は僕らの気まぐれで終わり、そして始まる。
一個人が持つには大きすぎる力。
それを世界は恐れた。
だからこそ、この地を犠牲にしてでも僕を殺す決断を下したのだ。
「よし!俺らが死んだら、この動画があがります。すべての動画のモザイクも取れるおまけ付きです!世界が震撼しますよ!」
気弱そうな男だった男は随分逞しくなった。
まぁ、戦争を駆け回った結果だ。
二人仲良くミサイルをバックに最後の撮影が始まる。
「えーこほん。今まで動画を見てくださり、ありがとうございました。この動画を持ちまして、チーム闘争の果ては解散します。やめないでーコメントありがとうございます。だが、しかし、俺らの命も風前の灯なのです。かなしぃーw 稼いだお金は全額寄付するので、少しは平和になるかもですね。さぁ、それではこのチームの立役者からのお言葉です。」
「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、あとゆみちゃん。今からそっちに逝くので、よろしくお願いします。」
「えっ、それだけ?!まだ着弾まで少しありますよ!」
「んーじゃあもう一言。世界弱すぎです。僕を殺す方法がこれしかないのは怠慢です。もっと頑張って下さい。僕を殺しても第二、第三の僕が現れないとも限らないですしおすし。」
「だっはっはっは!それは世界に求めすぎですよ!あと何気にネット用語使いこなしてるw」
楽しい雑談。
何ともアットホームな雰囲気。
これから彼らが死ぬなどとは誰も思えなかった。
だが、現実に彼らは死んだ。
それはひとつの大陸が人の住めない環境になっていることから容易にわかる。
歴史の教科書には二人若者の姿が記されている。
災厄の二文字とともに。