表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闘争の果てに  作者: 餅巾着
2/6

1

「やめっ!」


僕の目の前で男が血を流して倒れている。

周りが担架だ担架だとうるさい。

お父さんは完成させる前に終わらせてしまう。

まるで待てを言われた犬のように僕は待つ。

欲求不満で死んでしまいそうだ。


「お前の拳には死が宿っている。そんな男に俺の道場は任せられない。」


最近いつもこうだ。

僕はもうすぐ高校生になるのに子供扱い。

目の前で転がっている男はプロの格闘家らしいがてんでダメだった。

試合前はかなり横柄な態度だったのに拳を合わせて指の骨を折ってからは庇うような動きばかり。

痛みに対する耐性がなさすぎる。

僕だったら指が折れようが切れようが隙なんて見せないのに。


「不満そうな顔だな。俺の意見が気に入らないなら出ていけ。」

「師範代!言い過ぎです!坊は誰よりも強い。それはあなたが一番わかっていることでしょう!?」


お父さんも師範の男達もうるさい。

僕は相手が死なないように我慢しているのに。

もう潮時か。

僕は道場を後にする。

この手が血に染まる前に。




「おうおう!てめぇ、ここがヤクザの事務所って知ってて来たのかおぉん?!」


強面の男が啖呵を切ってきた。

うるさくてかなわないから顔に一発当て身を入れると意識を失った。

…本来、相手を怯ませるだけのものなんだけど。


「トシがやられた!お前ら袋にしろや!この商売、舐められたら終わりだろうが!」


強面の男が何人も出てきた。

さすがヤクザの事務所。

吐いて捨てるほどに人がいるな。

僕は殺さないように倒す。

と言っても多少の障害は残るかもしれないけどね。

でも刃物持って向かってきて殺さないだけ有り難く思ってよね。

僕は笑顔で袋にしに来たやつを袋にした。


「ありっ、えねぇ。」


50人ほど相手にしたら打ち止めのようだ。

非番の人が多いのかな。

大して強い人もいなかった。

パンッ、と大きな音が鳴った。

駄々漏れの殺気に反応して避けてしまったけど拳銃のようだ。

初めて見たけど凄い。

これだけのスピードが出せるなら素人でも達人を殺せる。

でも直線の動きだし、普段使わないから殺気が漏れるのはいただけない。

日常的に拳銃を撃ってないからそうなるんだ。

僕は拳銃を持った男に接近して意識を刈り取った。

ダメだよ。

ちゃんと殺す覚悟を持たないと。


「貴様の目的はなんだ。」


和服を着た老人が言った。

この中では一番話がわかりそうだ。

だから、僕は家出したから住み込みで働きたいと言った。

老人は一瞬驚いた顔をして、再び笑顔になった。


「ステゴロでこの強さ。用心棒にはうってつけだな。」


こうして僕はヤクザの用心棒になった。

高校生になる休みの期間は別の事務所を荒らして回った。

殺しても良いかと老人に聞いたら。


「内々で処理してやるから好きにしろ。」


だから僕は気負うことなく、人を殺した。

未完成のまま完成していく人達はとても哀れだった。

僕が死ぬときは完璧でありたい。

新たな目標ができた。

そうして僕は高校生になった。



「てめぇ、ちょっとこいや。」


目の前で大きな男が言った。

高校生になっても、こういう輩は減らない。

中学生のときは必死に喧嘩を我慢してたけど今はその必要はない。

でも仕事じゃないから殺せない。

僕は憂鬱な気持ちだった。

校舎裏に行くと何人もの男女がいた。

下卑た笑みを浮かべながら僕を見ている。

一人残らず殺せたらどんなに気分が良いだろうか。

蟻の巣に水を流す子供のような気持ちになるはずだ。

周りを見ると僕以外にも連れてこられた人達がいた。

皆一様に目を伏せている気弱そうな男達。


「お前らは俺らの舎弟に選ばれた。喜べ。」


ぎゃはははと笑う男と女。

乾いた笑いを溢す気弱そうな男達。

だから僕は思わず笑みを溢してしまった。

嘲笑の類いだ。


「てめぇ、何がおかしい。」


喜んだのになんて言われようだと思ったけど茶番は終わりだ。

折角学校に来たんだから勉強しないと。

放課後や休日はアルバイトがあるからね。

でも全員を半殺しにしたら退学になるかもしれない。

そんなときは一番強そうなやつを徹底的にやるに限る。

僕は一番強そうな男に手招きする。

挑発された男は青筋を立てながら僕の目の前まで来た。


「タイタンしてやる。お前らは手を出すな。」


そう言った男が殴ってきた。

僕は避けない。

顔面を殴ってきた拳に額を当てると男は怯んだ。

恐らく指が何本かいかれたはずだ。

僕は男の顎に拳を当てる。

脳が揺さぶられた男はふらついた。

だから、間髪入れずに顔面に拳を入れた。

鼻の骨が折れ、鼻血が出ているがこれで終わらない。

倒れそうになる男の胸ぐらを掴み、再度拳を入れる。

今度は歯が何本か折れた。

男の目には恐怖しかなかった。

でもまだ心は死んでいない。

こういう輩は復讐の機会を伺っているものだ。

だから、徹底的にやる。

心を殺す。


「もうやめてくれぇっ!」

「せ、先生呼んでこいっ!このままじゃ死んじまう!」


なんとか動き出した男達は僕に向かってくることはなかった。

笑っていた女達は恐怖のあまり粗相をしている。

連れてこられた気弱そうな男達は目を伏せ震えている。

いや、一人だけ僕を羨望の眼差しで見ていた。


「な、なにをやっている!?やめないかっ!!」


先生が来たから殴るのをやめた。

男はめでたく総入れ歯になった。

そして、僕は入学早々停学になった。

その間はアルバイトに励むことにしよう。

そう思った。



「お前は一体何をやっているんだ!?どこでどんな生活をしている!」


久しぶりに親父に会った。

家出してからだから数ヵ月ぶりだろう。

学校から呼び出された親父の剣幕は酷いものだった。

もう得るものがない。

僕にとって必要ないものになっていた。

でも仕方がないから事のあらましを話した。

ヤクザの事務所で用心棒をしていること。

既に何人も殺したこと。

親父は涙を流すと立ち上がった。


「立て。引導を渡してやる。」


道場には僕と親父しかいない。

きっと一人くらいなら大丈夫だろう。

僕は一本だけ電話をした。

ヤクザ事務所の老人に対してだ。

死体の処理を頼みたい。

そう言うと、しばらくはタダ働きだと言われた。

電話を切ると、親父の目が変わっていた。

どうやら親父は僕のことを殺そうとは思ってなかったようだ。

どこまで行っても相容れない。


「ちぇすとぉー!!」


気合いを入れた親父の拳の動きは速い。

でも速いと言ってもその辺の人に比べれば、だ。

銃弾よりは全然遅い。

だから僕は伸びきった親父の腕の関節を狙った。

肘と膝で念入りに潰したが動きが止まらない。

アドレナリンで痛みを消しているようだ。

親父の蹴りが顔面にくる。

その蹴りを避け、軸足を刈る。

飛んでかわしたところに正拳突き。

左腕だけのガードでは威力を殺せない。

親父の内蔵は破壊した。

もう一生固形物は食べられないだろう。

いや、その一生は今終わるのだから大した意味はない。


「おれは、とんでもないかいぶつを。うみ、だしたのか。」


膝をつく親父に近寄り回し蹴りを放った。

親父の頭はあらぬ方向を向くと、動かなくなった。

あぁ、格別だ。

その他大勢ではダメだ。

ある程度の強さがないと。

僕を殺せる可能性のある相手じゃなければ。

歓喜にうち震えていると、黒服の男達が道場に入ってきた。

その後ろから老人も入ってくる。


「全く手間を増やしよる。」


老人の小言は長いから無視した。

あぁ、そうだ。

今決めたことを言っておこう。

ヤクザの抗争を終わらせたらアルバイトをやめること。

そのあとは日本中を回り、強者を殺すこと。

そのあとは世界中を回ること。

すると、老人は何でもないことのように言った。


「死体を処理出来るのは日本国内だけじゃぞ。それにしても抗争を終わらせるか……わしの代で天下統一とは、長生きはするものじゃわい。」


老人の枯れた体に生気が宿り、獰猛な視線となる。

あぁ、この老人も若ければきっと良い死合ができただろうに。

僕は時間の無情さを知る。

でも知識欲も人並み以上にある。

高校生もしっかりやろう。

恐らくそれが最後の日常になるのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ