Saria Episode.1
「サリア!!仕事中には来るなっていつも言ってんだろうが!」
「しょうがないじゃん。家に居ても暇なんだよー」
「そんなの知るか」等と口にしながらもドーマスは紅茶をティーカップに注ぐ。ゆっくりと注がれていく紅茶は湯気を出し、香ばしい香りが鼻を突く。その紅茶はお菓子ととても合いそうで、やっぱりドーマスの入れる紅茶は食欲をかきたてられるなぁと思う。
私は紅茶に息を吹きかけ、冷めるのを待つ。一口飲もうと口にティーカップを近づけると、ドーマスが口を開く。
「で、何の用だ。しょうもない話だったらそれを飲んだら帰って貰うぞ。俺にもまだ仕事があるんだ」
あ、飲むまでは待ってくれるんだ。なんだかんだ優しいドーマスではあるのだが、本当に仕事が忙しいのか少しピリついている。少し申し訳ない気持ちもあるが、どうしても伝えたい事があるので仕方がない。
言い辛さにドーマスのピリピリも相まってなかなか言い出せず、私はただただ窓の外を眺めていた。あー、兎が歩いてるかわいいーとか、ドーマスが育てている野菜の成長を確認してみたりとか、どうでもいい事ばかりに目が行く。そんな私を見てドーマスはとうとう限界を迎えたのか、声を荒げる。
「おい!そろそろいい加減に___!」
「分かった!言うから!!」
私はドーマスの言葉を遮る。さすがにドーマスもイライラしている。ここで真相を伝えなければいけないのだなかなか勇気がでない。私は深呼吸してから口を開く。
「私…」
「私??」
「私…妊娠しちゃったみたいなの…」
「はぁ…そんなことか…は?なんて?にん…しん??」
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???という獣のような驚きが村中を襲う。あまりのその声のうるささに耳が耳が無くなったのではと思い私は自分の耳に手を当てる。よかった。ちゃんとあった。
確かに齢16にして妊娠という事実は衝撃ではあるだあろうが、そこまでのことだろうか。私だって人並みにそういうことがあってもいいだろう。まぁ、人とはちょっと違うのだが。
「ドーマス…ちょっと声がでかい…」
「ハァ!?いや、おまえ、ハァ!?妊娠って…ハァ!!??」
「いや、オーバー。反応がオーバーすぎるから」
ドーマスの反応があまりにオーバーリアクションのため笑いが込み上げてくる。普段は冷静を装っている分なお面白い。
「いや、オーバーも何も無いだろう!!お前、妊娠って!!誰だ!!どこのどいつだ!!ここの村にはジジィしかいねーぞ!あれか?隣村のやつか!!確か若ぇ奴が一人いたもんなぁ!?」
「いや、待って。全然違うから!今から説明するから!!」
一心不乱に相手を探すドーマスはまるで父親のようだ。ここまで来ると若干引くまである。ありのままを伝えたいのだがなかなか話す機会を作ってもらえない。彼は一人でどこか違う世界にでも行っているのだろうか。
「説明も何もやることヤったってことだろ!」
「ちょっ!!言いかた!しかも違うし!!てかそんなに大声出したら誰か来ちゃうから!!」
「みんな畑仕事で忙しいうえに耳が遠いじじぃばばぁしか居ねぇ村じゃ誰も来やしねぇよ」
「そんなの分かんないじゃない」
「気づきゃしねぇよ。お前が妊娠したなん…て?」
ドーマスが言い終わる寸前にゴトンという音が玄関から聞こえてくる。ころころ転がってくるカボチャを横目に私とドーマスは恐る恐る玄関に目を向ける。
「サリア…おめぇ妊娠したのか…」
「お、おやじ…」
ドーマスは戦々兢々と口にする。そのドーマスの顔は、私に対する申し訳なさなのか、それとも自分の父親に知られてしまった恐怖なのか、石の裏側うにょうにょみたいな顔をしている。
「ごめんサリア…知られちった」
目の前の紅茶はいつしか冷めていた。