筋肉がある人が好きなんです
勢いだけで書きました。
ある日、私は告白された。私自身美少女というわけでもないがブスと言われる程でもない。
「好きです! 僕と付き合ってくれませんか!」
女子校生として当然告白というのは嬉しい……だが告白されても顔が好みじゃなかったり何だか性格が合わなそうだったりと付き合わないこともあると聞いたことがある。
今、私のことを好きだと言ってくれている彼と私は全くの初対面である。いや本人が言うには一年前に隣の席で教科書を見せたらしいがそんなこと覚えていない。
そして私にとって初対面の人と付き合うとかちょっと信じられないというか、上手くいかなそうというか。そんな考えであるために私はその告白を断ることにした――しかし理由が見つからない。
理由は大事だ。私には付き合う理由もなければ断る理由もない。だからまあ一生懸命考えた言い訳じみた断る理由は本当に言った後で後悔するようなものだった。
「私、筋肉がある人が好きなんです。だからゴメンなさい」
私は何を言っている? いや筋肉が好きって言ったのは分かってるけどこれは理由としてどうなんだ?
「そっか……筋肉か……筋肉」
「あ、えっと――」
「分かった! 僕は筋肉になる!」
君も何を言っている? いや言いたいことは何となく伝わったけどその言い方だと人間辞めて筋肉になるって聞こえるんだが? あれか、石仮面でも被るあの悪のカリスマみたいな人のように君は人間を辞める気か?
だがこう言っては失礼だが彼は筋肉など全くない、力こぶなどできもしないだろう。そんな彼が必死に筋トレしたとして果たしてどれだけの効果が認められるというのか。というかこれでもしマッチョにでもなられたら私の断った理由が無にかえされるじゃないか。
だから私は彼がした決意を聞き流し、その日のことをなかったことにした。
そして一年が経ち、あの日の私が出したヘンテコな理由を後悔することになる。
私は下駄箱に入っていた手紙を見つけ内容を確認、すると恋文だった。この時代にまだこんなやつがいるのか、中々興味は惹かれるな。だが差出人を見ればあの時の彼の名前、そういえば彼を今までほぼ見たことがないな……学校に来ていたか?
そして私は放課後に指定された場所で待っていた。
「……ねえ、あれ」
「凄いよねあれ」
「あれ本当に人間なのか?」
「あの筋肉、正に俺の目標とするべきものだ!」
ズシンッ! ズシンッ! と巨人が歩く度に音がする。そうか彼か……身長百六十もなかったのが今では二メートルを超え、全身はとんでもない量の筋肉に包まれ、かつての彼の面影など微塵も感じられなかった。
いや本当にあの時の彼だよな? 名前一緒だけど別人じゃないか?
「お待たせしました」
「いや、待ってないよ」
まあ、この人が今時あまり見ない恋文を私に送ったのは間違いないようだけど。
「今まで僕は自身を高め続け、貴女を想い続けてきました。一年前の告白をやり直させてください」
「え、あ、うん」
やっぱりあの時の彼なのか……君どんなトレーニングをしたらそうなるんだ? もはや骨格から変わってる気がするんだが気のせいだろうか? 一年でその筋肉量はおかしすぎる、一体何をした?
「好きです!! 僕と付き合ってください!!」
その瞬間、轟音が校舎に鳴り響いた。近くの窓ガラスにヒビすら入るほどの声量、絶対に今の告白は学校内の全員に聞こえただろうな。
しかしどうしよう、これもっと筋肉がついてる人が好きなのとかほざいてみろ……彼もう人間辞めかかってるのにこれ以上なんて言ったら正真正銘人間卒業だ。もう地上最強生物とか霊長類最強の高校生だとか超高校級だとかそんな化け物になるんじゃ……いや既になっていそうだ、というかなっている。
これはもう答えを決めるしかないな。
「こちらこそよろしくお願いします」
ああ、負けたよ君の私の為にそこまで出来る熱意と執念。男性にここまでしてもらえるなんてる女性と言うのもそうはいないのではないのだろうか。
「本当ですか!? ありがとうございます!! 嬉しいです!!」
完全に窓ガラスが割れた。あれ、私の鼓膜破れてないよな? 大丈夫か?
あぁ、廊下の人倒れてるじゃないか。耳から血が出ていたような気さえするが私が平気なんだし平気だろう。
こんなに尽くしてくれる男性を彼氏に出来て私は幸せ者だ…………多分。
私「その……その筋肉は一体どうしたんだ?」
彼「筋トレしたり山籠もりしてサバイバルしたりで」
私「明らかにそんなことでつくとは思えない量なんだが……」