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ふふん、積丹のウニの時期っていつからいつまでか知ってる? 前編

 長いドライブの、海沿いの暗い帰り道。


 隣の助手席では、ミルクティー色の髪の少女が寝息を立てている。

 夏らしいブルーのワンピースの胸元で、何か小さい物を大事そうに握り締めているけど、それが何なのかは、運転席ここからは分からない。


 だけど、とても大切な物なのだろうという事だけは分かる。


(……もし、今この子が突然いなくなったら……?)


 どうしてそんな事が頭に浮かんだのかは、自分でもよく分からない。


 分からない。

 本当に、分からない。


 なのに----私の胸はギュッと締め付けられるように痛む。


(って……バカ、私ってば何勝手に想像して勝手にショック受けてんのよ……)


 この子は私の前に突然現れたのだ。

 次は突然消えたって、不思議ではない。


(初めから分かってるじゃないの……これはあくまでも契約……私達は期限付きのオトモダチ同士で、それ以上でも以下でもない……)


 私達の関係は、あくまでも偽りの関係モノに過ぎない。


 行先は分からないけど、必ず終わるドライブのような関係。


 来るべき時が来てこの子が助手席から降りれば、ドライブは終わりになる。

 私はまた一人でハンドルを握るだけ。


 ただそれだけの事だ。


 私と綸子は、ただそれだけの関係でしかない。

 私達の利害はそれだからこそ一致したのだ。


 今までも。

 そしてこれからも。


(……夕食どうしよう……キュウリがあったし……うん、今年最初の冷やし中華でも作るか……)


 近付いて来た市街地の明りに目を細めながら、私はアクセルを踏み込んだ----。


「ねぇ、ふーこはウニ食べた事ある?」

「あるけど……?」


 ソファで食後のうまいデザートを貪りながら、お嬢様は私に尋ねる。


 見た感じ、あれはもうすぐ終売になるとかで箱買いしたチキンカレー味だ。

 このペースだとあと何箱残ってるんだろう?


「え、食べた事あるんだ……?」


 ちょっとしょんぼりした声になる。

 なんでだよ。


「じゃあさ、これは分かる?」


 ふふんと鼻を鳴らして、ちょっと得意げな感じだ。

 今度は何だ?


「積丹のウニの時期って、いつからいつまでか知ってる?」

「……さあ?」


 ははぁ、さてはまたローカル情報番組知識だな。


 肩を竦めた私は紅茶の支度をする。

 定番のアールグレイがそろそろなくなりそうなので、頼んでおかなければならない。


(……ん、これって、私が聞き返すのを待ってる感じ?)


 ホントにいつも思うんだけど、会話のキャッチボールとやらがしたいのなら、なんでこんな私を選んだのか謎過ぎる。


「で、いつからいつなんですか?」


 私がそう聞くと、綸子はパァッと顔を輝かせた。


「あのね、六月から八月なんだって!」


 なるほど、そういう事か。

 つまり、ウニを食べに行きたいのだ----このお嬢様は。


「でも確かその時期の積丹って、めちゃくちゃ混んでると思いますけどねぇ……」

「うん、行列のできる店特集で見た!」


 屈託のない笑顔で即答しやがったぞこのお嬢様は。

 積丹の観光客は年々増えていて、昼時はどこも一時間、下手すると二時間待ちだという話は会社のおじちゃん達から聞いた事がある。


 炎天下の中並んでお昼を食べるとか、そういうのはあと十年早く言って欲しい。

 インスタンもフェイスブックもやってないアラサーには、苦行でしかないんだから。


「え、でも暑い中で並ぶのはやめた方が……」

「ね? 今しか食べられないんだよ? 今行かなかったらいつ食べるの!?」


 そう言って、お嬢様は私をうまい棒でビシッと指す。


「はい……言って!」

「……い、今でしょ……?」


 震える声でうっかり応えてしまった私は、こうして次の日曜日に積丹目指してハンドルを握る事となったのだった----。

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