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魔法学  作者: qp
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第一話:からすと少女

初投稿です。長い目で見てください!

 ワーーー・・・

 大衆が大聖堂に集い、拍手と歓声で迎える。今日はガーネット帝の第一子、フレアの戴冠式である。フレアの妹リゼは、馬車の中フレアの隣に座って、外の様子をうかがう。

(すごい人の数・・・)

 フレア達の到着を待つ人々が、行進する予定の道の周りをいっぱいに囲んでいた。

「リゼ、父上が降りた。いくぞ。」

「はい。」

 フレアに促され、リゼは一緒に馬車から降りた。一挙に大きくなる歓声に圧倒される。フレアは正面を向いて、ゆっくり歩き出す。カーペットの中央、真紅で彩られた道。リゼはフレアのそばを、小さくうつむきながら歩いてついていく。

 フレアが登壇し、神父が高らかに宣言した。

「ここに新たな王の誕生を歓迎しましょう。」

 一斉に送られる拍手。皆が笑顔で祝福する。

「おめでとうございます。リゼお嬢様。」

 後ろに退がっていたリゼに、貴族の一人が話しかけてきた。

「ありがとうございます。」

 リゼは笑顔で応対する。

「リゼ様も、頑張ってくださいね。」

「・・・はい。ありがとうございます。」

 厳かに儀式が執り行われ、フレアは戴冠を受ける。リゼはその姿を後ろから静かに見守っていた。

(リゼ様()・・・か)

 リゼは夢見る少女だった。自分も、兄のように・・・魔法を使えるようになって人々を導くのだと。無理なことはわかっていた。女だから、魔法の発声はできない、王位は継げない、そう言われ続けた。

(いつか・・・)

 リゼは目を閉じ、人々の風を肌で感じる。

(私はリゼ=ガーネット。偉大なガーネット帝国の、第一王女・・・)

 ささやかな"魔法"を、心の中で唱えながら。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「リゼさまー。どこですかー?」

 家政婦の声が小さく聞こえた。わたしを探しているのだろう。

 今日は家庭教師による授業の予定があったのだが、誰にも言わずに抜け出したのだった。

(どうせ王位は継げないのに、なんの意味があると言うの?)

 屋敷の裏庭、人のほとんど来ない森林の影がリゼのお気に入りの場所だった。

 地べたに座り込んで、空を見上げては自由に飛び交う烏を眺めるのだった。

 リゼはかつては聡明な少女として名を馳せていたのだが、ここ最近は授業にはでない、愛想はよくないで評判を下げていた。

 人々は反抗期だと言っていたー全くなんなんだろう、わたしを心のない天使だとでも思っているのかしら?

 リゼは持ってきた本を広げる。


『炎の魔法はもっとも原始的です。私たちの言語では'fire'という発音に近いでしょう。この言葉はかつて炎を意味する単語でしたが、今では使われなくなりました。というのも、これを発すると場合によっては炎ができてしまうからです!』


 リゼは前を向いて魔法使い達がするように右手を前に出し、本を脇に抱え、そして唱える。

「...ファイア!」

 それはいつものように、何も起きなかった。そして続きを読む。


『もしあなたがファイアと読んで、何も起きなかったとしても、それは落ち込むべきことではありません。魔法には、厳密な発音が必要なのです。きちんと正確に発音できなければ魔法は発動しません。反対に、発音できていれば、それは必ず発動するようになっています。発音という繊細なものを扱うだけに、教師に直接教えてもらうのが普通なのですが、この本では、なんと読むだけで練習できるような構成にしてあります、ワオ!』


 リゼは夢中でページをめくる。


『この本の読者として想定してあるのは主に成人した男性です。変声期を迎えていない男性や女性はこの本の対象ではありません。それは、声が魔法に向いていないからです。残念ながらもしそうであれば今すぐ男の人にわたして、fireで焼いてもらー』


 文末まで読み終わらないうちに、リゼは本を閉じ、膝を抱えてうつむいた。

(これは、ひどい本だ。)

 本を地面に放り投げる。地面にぶつかって転がり、無残に土汚れたページを開いて止まった。

 リゼにとって本を読むことは何よりの取り柄だった。本は自分の味方だとまで思った。リゼが魔法に向いていないと知った時、思春期の彼女は大きなショックを受けた。

 投げ捨てた本の周りにからすが数羽あつまる。食べ物をよく与えていたから餌だと思ったのだろう。

「ちょっと待ってね...」

 リゼは包んであったパンを取り出して、からすに与えた。キョロキョロと用心して、ついばんだり、ついばまなかったりするのが可愛らしかった。

「リゼ様!こんなところに!」

 後ろから声がした。まずいと思った。

「げっ。ユンさん...」

「もう、みんな総出で探したんですよ!」

「ごめんさない、ユンさん。」

「全く...とにかく見つかってよかったです。お父様がカンカンですよ、いきましょう。」

「はい...」

 リゼは急いで落ちた本を拾って土を払った。からす達が興味深そうに私たちの方を見ていた。わたしはからす達に小さく手を振って別れの挨拶をした。

「お嬢様、何してるんですか!」

「はい、只今!」

 急いでユンのあとについていく。ユンさんの小言を聞きながら、裏庭から屋敷をぐるっと回って玄関に向かって言った。夕暮れ時の空の向こうでは、からすがカアカアとないていた。


毎日投稿目指します(できるとは言っていない)

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