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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

錬金術師は魔剣を作って使わせる

作者: 彗鈴

 王国の辺境の街に二人でパーティを組む冒険者がいた。

 一人は男で一人は女。

 あぁ、良くある冒険者同士がくっ付いたパターンの話か、とは少し違う二人。

 男は中肉中背、イケメンでもブサメンでもないフツメンの黒髪青眼の青年。

 特徴的というか特徴がないというべきか、冒険者として男を見た場合、何の職業なのか判断しづらいという特徴を持つ。

 何故なら装備がただの服なのだ。

 街中にいるような普通の服。

 きっと彼の私服なのだろうシャツとズボン。

 動きやすくはあるのだろうが、森や山に入って魔物を倒す冒険者としては何ともお粗末な装備だ。

 せめて急所くらいは守れる防具を着ろと誰もが言いたくなる。

 対する女はこれはこれで特徴的。

 まず人族ではなく獣人族で、種族特有の獣の耳と尻尾を持つ。

 更にその毛並みは髪の毛と同じく白い。

 汚れを知らぬ雪のような白い毛並みは見る者を魅了する。

 顔立ちも幼いながらとても整っており、その瞳は白に良く映える真っ赤。

 年はまだ幼く、青年が成人の十五をとうの昔に過ぎた二十歳で、少女はまだ成人前の十歳といったところ。

 そして特徴的なのはそれだけでなく、少女の装備を見た者は更に驚く。

 腰に携えた剣、腕や足、胸元を守るための皮鎧、どう見ても前衛職の剣士にしか見えない。

 ただの一般人と少女、いや幼女剣士。

 そんな凸凹な二人の冒険者。

 しかし、これでも彼らはこの街で最強の冒険者パーティ、『白狼』と呼ばれている。

 そこに男の要素は一切無い。

 人々は彼らのことをこう評価している。


『最弱のヒモと最強の剣士』と。


「という訳で、実際のところどうなのですか?」

「えぇ、巷の噂通り──」

「──違いますっ!」


 バンっとテーブルに手を叩きつけ、大きな音を立てながら立ち上がる白髪赤眼の幼女。

 突然言葉を遮られ、驚きつつもすぐに溜め息を吐いて小さく「またか」と呆れる黒髪青眼の青年。

 喫茶店にて現在王国内でも知名度が急上昇中の冒険者パーティである『白狼』の取材をしていた記者もまたその反応に驚く。

 そしてそんなことは御構い無しに幼女は語り始める。


「良いですか記者さん。ご主人様は素晴らしいお方なのです。そんなご主人様がヒモなどとあり得ません。逆に私がヒモと言っても過言ではありません。私はいつもご主人様のお力に助けられて──」

「──おいポチ」


 ペラペラと自慢気に語り続ける幼女に対し、記者が困惑する中、青年が言葉を遮るように割って入った。

 青年の声を聞くとポチと呼ばれた幼女は語るのをやめて青年に向き直り、満面の笑みで問いかける。


「はい、何でしょうかご主人様!」

「ちょっと黙れ」


 満面の笑みを浮かべる幼女に対し、その幼女を何処か冷めた目で見つめる青年。

 青年の異様な雰囲気を感じ取ったのか、幼女は笑顔を崩して狼狽える。


「え、いやで──」

「──『黙れ』と言ったぞ?」

「っ!?」


 幼女が何か言い繕おうとした所に、青年の力ある言葉が発せられた。

 その言葉に反応して幼女の胸元の紋章が光り、幼女に苦痛を与えた。

 幼女は痛みに耐えるように顔を歪め、胸元を手で押さえて蹲る。

 その光景を間近で見ていた記者は噂が本当であることを知る。

 冒険者パーティ『白狼』。

 二人の男女によって構成されるこのパーティは圧倒的上下関係によって成り立っている。

 明らかに実力差のある二人が組んでいる訳。

 それは男が女の主人であり、女が男の奴隷であること。

 奴隷は胸元に奴隷紋を刻まれ、主人の命令には絶対。

 どのような経緯でこんなことになったのかは未だ明らかにはなっていないが、男が非人道的なやり方で女を強制的に奴隷に仕立て上げ、今の関係を築いたと言われている。

 この絶対的な主従関係によって『最弱のヒモと最強の剣士』という図式が出来上がっているようだ。

 記者がその光景に圧倒されていると、それ以降黙り込んでしまった幼女を放っておき、青年は手元にあったティーカップを持ち上げて中の紅茶を啜る。

 そして喉を潤した青年はティーカップを置いて記者に話しかける。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。これも躾ですので」

「は、ははっ……」


 なんてことはないように語る青年。

 記者はその姿を見て、このようなことが日常的に行われていることを察した。

 恐らく先程青年を庇うような発言をした幼女の必死な様子は、主人である青年が記者に貶されることで機嫌を悪くし、その後幼女に向けられる怒りを軽減させようとしての行為だったのだろう。

 記者はそれだけで目頭が熱くなる思いだった。

 何故このような幼気な幼女がこんな最低な青年に服従しなければならないのか。

 この街で最強の冒険者パーティという素晴らしい実績の裏に潜む闇。

 それを垣間見て記者は気分が悪くなる一方だった。


「それで何でしたか……あぁ、あの噂ですけどね」

「は、はい……」

「生温い噂ですね」

「は?」


 生温い、とはどういう意味なのだろうか。

 記者にはその真意がイマイチ掴めなかった。

 青年は最弱のヒモと呼ばれ、幼女は最強の剣士と呼ばれているのだ。

 青年にとっては途轍もない侮辱の筈。

 それなのに何故。

 記者が考えている内に青年から答えが出された。


「言うなれば、『最悪の主人と使い勝手の良い奴隷』というところでしょうか」

「なっ!?」


 生温いとは、そういうことか。

 最弱のヒモ程度では自分を言い表しきれていないと。

 最強の剣士などこの幼女には勿体無さすぎると。

 この青年はそう言いたいのか。

 記者はテーブルの下で拳を握り締める。

 有名な冒険者の取材は今まで何度かしてきたが、こんな冒険者は初めてだ。

 どんな冒険者も取材となれば多少取り繕うものだが、話している内にやはり有名になるべくしてなったのだと思わせる雰囲気というものを感じた。

 しかしこの青年は違う。

 こんな奴が有名になって良いわけがない。

 だが青年を有名たらしめている要因である幼女は青年の奴隷。

 恐らくこの青年は他者にどう思われようとも意に返さず、のらりくらりとその名を知らしめていくことになるだろう。

 記者は自らの力の無さを心の中で嘆いた。


「奴隷は所詮奴隷。私が楽をするために傍に置いているのです。多少見てくれが良いので勘違いされがちですが、所詮奴隷なのですよ?これは」


 そう言いながら幼女の頭を片手で無造作に叩く青年。

 そう、青年は間違っていない。

 奴隷とは本来そういうものだ。

 主人の命令に絶対服従、休むことも主人の気分次第。

 何事においても主人が優先される。

 どのように辛くとも酷使され続ける存在。

 青年が間違っていないことは記者にもよく分かっているのだ。

 しかし、だからこそ記者は苛立っていた。

 まだ幼い子供をこのように酷使し、全く良心が痛んでいないように平然としている青年に。

 どのような主人であれ、子供奴隷をこき使うのにはある程度の抵抗があるものだ。

 このように大っぴらに酷使するようなことはあまりなく、やるとしてもコソコソと、悪いことをしている自覚を多少は持ちながらするものだ。

 それは基本的に子供奴隷は自分のせいで奴隷に落ちることが少ないからだ。

 親の都合で売られたり、捨てられたり、不慮の事故で路頭に迷ったりした結果、奴隷となることが多いからだ。

 この目の前の幼女もそういった経緯で奴隷になったのだろう。

 そしてそのことは青年も承知の筈。

 その上で悪びれることなく幼女を酷使する青年に多少の怒りが湧いたところで、誰に文句を言われる筋合いがあるというのか。

 記者は奥歯を噛み締めながら青年に問いかける。


「あ、貴方という人は……それでも──」

「──これでも、これの主人です」


 記者の問いかけを途中で遮り、不敵に笑う青年を見て記者は椅子を倒す勢いで立ち上がった。


「もう良いです!」


 記者はそう叫ぶと、数枚の硬貨をテーブルに叩きつけ、そのまま喫茶店から出て行った。


「ふむ……」


 青年は記者がテーブルに置いて行った硬貨を拾い、その数を確認する。

 三人分の会計と今回の取材料、それを差し引いても少し多めの金額だった。

 それを見て青年はほくそ笑む。


「儲かったな」

「ご主人様……悪い顔してます」


 青年の顔を下から上目遣いするように覗き込む幼女は呆れたような声を出す。

 取材となるといつもこうだ。

 主人である青年は真実を決して語らない。

 この『白狼』というパーティの真実。

 全ての人は幼女の剣士としての腕が全てだと思っている。

 しかしそれは大きな勘違いだ。

 幼女は決して弱くはない。

 だが弱くないだけで、間違ってもこのような辺境の街であっても最強などと謳われるような剣士ではない。

 この実力以上の評価を得ているのは一重に青年のおかげ。

 幼女は割れ物を扱うように、そっと腰に下げた剣に触れる。

 それと同時に先程とは違った優しい手付きで幼女の頭に青年の手が置かれる。


「ポチも演技ご苦労さん」

「私は演技してません」


 確かに事前に主人を立てるような発言をしろと言われていた。

 しかし先程の言葉は幼女の本心から出たもので、決して演技などではない。

 それが主人である青年には全く伝わらないのが幼女の悩みでもあった。


「はっはっはっ!今夜はご馳走だぞー」

「ホントですか!?」


 ご馳走という言葉に反応する幼女。

 青年がご馳走という言葉を使う時、それは基本的にあの事を指す。

 それを知る幼女は今夜の夕食に期待が膨らみ胸が踊る。


「あぁ、あの記者に感謝だな」


 幼女の喜ぶ姿を見て微笑む青年。

 その顔を見て幼女は落ち着きを取り戻す。

 『白狼』の名が広まる度に取材の回数が少しずつ増えている。

 これはきっと冒険者としては喜ばしいことなのだろう。

 しかし幼女は取材が嫌いだった。


「でも……絶対またご主人様が悪く書かれちゃいます……」

「言わせとけばいい、実際俺はクズだからな」


 暗い顔になる幼女の頭を優しく撫でる青年。

 自らを絶対に肯定的に捉えない青年。

 そんな青年の力に少しでもなりたいと願って、一年が経つ。

 私はこの一年で、少しは貴方の役に立っているのでしょうか。


「そんなこと……ないのに……」


 消え入りそうなその呟きは、当然のように青年には届かない。



「では!」

「ではでは!」


 ジュー、ジューと脂が火によって炙られ、弾ける音が店内に響き渡る中、鉄網を挟んで向かい合って座る青年と幼女。

 網の上では良い具合に焼けた肉が二人に食べられるのを待ち望んでいるようだ。

 青年の片手にはキンキンに冷えたエール、幼女の片手にはキンキンに冷えた柑橘ジュース。

 後は恒例の掛け声と共に宴が始まる。


「「いただきます!」」


 ガチンと突き合わせられるジョッキとグラスがぶつかって音が鳴る。

 二人共一気に中身の半分程を飲み干して大きく息を吐く。

 この店内にマナーなどを気にする者は一人としていない。

 この店にいるのはただ肉を求める亡者のみ。

 それはこの二人として例外ではない。

 トングを用いて網から肉を掻っ攫い、空かさず次の肉を焼き始め、その間に掻っ攫った肉を専用のタレに付けて齧り付く。

 口一杯に広がる肉汁を噛み締め、脂で潤う喉元をスルッと肉が通り抜ける。

 肉の余韻を口内に残したまま再び青年はエールを、幼女は柑橘ジュースを飲んでまた一息つく。

 それの無限ループ。

 肉が無くなれば追加で注文し、飲み物が無くなればまた追加で注文する。

 これぞ豪遊!

 これぞ青年と幼女にとってのご馳走!

 これぞ理想的な焼肉!


「幸せですー……」


 ある程度お腹が膨れ、今回の焼肉もとても満足なものだった。

 そんな幸福感に包まれていた幼女に対し、青年は不敵な笑みを浮かべた。


「ポチ、この程度で幸せとは安い女よ……」

「っ!?こ、これで安い……そ、それはどういうことです!?」


 幼女の知る限り、焼肉は決して安くない。

 店を選べば安く済む所もあるだろうが、青年が連れて来る焼肉屋は高級とまではいかないが、中の上程度の店である。

 そのような店で何も気にせず飲み食いを楽しめば値段は相当なものとなっているはず。

 それを安いとはどういうことなのか。

 幼女は青年の発言の意図が分からず困惑していると、青年は笑い出す。


「ふふっ……ポチ、刮目して見よ!」

「そ、それは、ま、まさか!?」


 青年が何処からか取り出した皿。

 その上に乗っているのは一目で上質な物と分かる肉。

 赤みが多く、脂身の少ない、とてもきめ細かい肉質のその肉に幼女は見覚えがあった。

 値段が高く、いつもこれだけは遠慮して頼むことが出来ず、他の客が食べているのを物欲しそうな目線で見つめることしか出来なかった部位。

 それが今まさに幼女の目の前に現れ、興奮が最高潮に跳ね上がる。

 青年は幼女の尻尾が今まで見たこともないような勢いで激しく振り回され、とても興奮している姿を見て得意げになる。


「そのまさかよ……今日は何を隠そう我ら『白狼』結成一周年記念日。その記念すべき日に相応しい肉……それがこの、フレイムドラゴンのヒレ肉だ!!!」

「さ、さささ、最高級部位のヒレ肉!?!?しかもドラゴンの!?!?どどど、どうしたのですかそれ!?!?」

「奮発……しちゃったぜ☆」

「一生付いて行きますご主人様ぁ!!!」


 感激のあまり網を飛び越えて青年に跳び付く幼女。

 その幼女を優しく抱き抱え、頭を撫でる青年。

 こんな素晴らしい肉が食べられるなど、青年と出会う前の幼女には想像することなど出来なかっただろう。

 あの日、あの時、幼女は運命というものと出会った。

 きっと自分は、この主人に出会うために生まれてきたのだと、今なら本気でそう思える。


「はっはっはっ!愛い奴め!!!よし、焼くぞ!」

「はい!」


 青年がヒレ肉を網の上に乗せる。

 幼女はその肉が焼けていく様子を今か今かと待ち侘びる。

 きっとそれが良かったのだろう。

 外野の雑音が幼女の耳に届き、幸せそうな表情を崩さずに済んだのは。


「ヒモがちびっ子のご機嫌取りしてやがる」

「飴をしっかり与えてヒモの立場は盤石って所か、流石クズとしては天才だな」

「あの金も元を辿ればあの子の手柄だろうが、偉そうに」


 外野に何を言われても痛くも痒くも無い青年だが、一つ懸念するべきことがあるとすれば、外野の雑音を幼女が気にし過ぎてしまうことだろう。

 青年は自分の行なっていることがどうしようもないクズと野次を飛ばされても否定出来ないと理解している。

 幼女に対しても仕事を気持ちよく行なってもらうために最大限気を使ってやっている。

 それをどう勘違いしたのかは分からないが、幼女は常々青年に感謝しているという。

 馬鹿な娘だ。

 青年は己が目的のために幼女を利用しているに過ぎない。

 それに感謝など必要なく、抱くべきは恨みと言った負の感情であるべきだ。

 青年は今後も幼女を使う。

 飴と鞭を使い分け、最終的には使う潰すことになるかもしれない。

 きっとその時になれば、彼女は俺を恨み、憎んでくれるだろう。

 そうしてくれた方が、青年としては楽になれる。


「ご主人様!も、もういいですか!?」


 不意に声をかけられ、青年は網の上を見る。

 そこには程よく焼き色のついた最高級の肉が我が物顔で存在していた。

 まるで自らが王だと言わんばかりの圧力。

 これが最高級部位という己の自負、自信に満ち溢れた絶対者の佇まい。

 あまりの光景に意識が持っていかれそうになるのを堪え、青年は幼女に向かって言い放つ。


「仕方ない、命令だ。毒味をする権利をやろう」

「ありがとうございます!!!」


 毒味と言われてありがとうと返すのはどうかと思うが、そんな些細なことは構うまい。

 網からヒレ肉を掴み取り、タレに付けて齧り付く幼女。

 ゆっくりと咀嚼し、口の中全体で存分にその味を楽しんでいるようだ。

 そしてフィナーレに喉奥へと飲み込むと、幼女は瞳に涙を溜めた。


「幸せって……何なんでしょう……」


 幼女が何か悟りを開いたように遠い目をしていることに気付き、青年は幼女の頬を軽く叩いた。

 しかし幼女の反応はあまり芳しくなかった。

 寧ろ悪化してしまう。


「あはっ……痛いですよご主人様……でも、きっとこれも幸せの一つ……幸せを得るためのスパイス……ふふっ」


 これはダメなやつだ。

 現実に戻って来ない幼女のことを諦め、青年もヒレ肉に齧り付く。

 そしてその後の記憶が曖昧なのは、きっとそういうことなのだろうと納得した。



「では本日もお気を付けて」


 冒険者ギルドの受付嬢に心にもないマニュアル通りの挨拶をされ、青年は受注した依頼書を手に受付から離れた。

 その姿を確認し、幼女が青年の元に駆け寄る。

 駆け寄ってきた幼女に青年は依頼書を渡して確認させる。


「またゴブリンですか?」


 少し不満げにそう言う幼女に対し、青年は特に何も変わらない。

 今日の依頼は常駐依頼である森に生息するゴブリンの間引き。

 討伐数に応じて報酬の変わる小遣い稼ぎのような依頼だ。


「手頃な依頼が最近無いからな。日銭を稼ぐならこれが一番だ」

「分かりました」


 青年にとって手頃な依頼というと、幼女が戦って勝つ可能性が5割以上のもののことだ。

 勝てない相手にはわざわざ挑まない。

 挑むのが例え青年自身でも、例えそれが奴隷であっても、それは変わらない。

 負け戦には興味を持たない。

 それが青年にとっての冒険者としてのポリシーであった。

 冒険者パーティ『白狼』のランクはC級。

 個人では青年はE級、幼女はC級の冒険者である。

 S級からG級まである冒険者ランクにて、C級となるとそこそこの実力者の証である。

 実力のある冒険者は更なる飛躍を求めて都心へと向かっていくが、『白狼』はC級であってもこの辺境の街から出て行こうとはしない。

 故に辺境の街では最強なのだ。

 そんな彼らであるため、他の冒険者では手に負えない依頼が回ってくる時がある。

 そう言った時は基本的に青年の考える手頃なものが多く嬉しい限りだ。

 しかし最近はそういった依頼が無く、ゴブリンばかり狩っている現状に幼女は不服なようだ。

 ゴブリン程度ならば特別な用意も必要ない。

 青年と幼女は冒険者ギルドに来た状態のまま森へと向かうことにした。


「中々見つかりませんね」


 街の外壁の門を抜け、しばらく歩いた先にある森の中に青年と幼女はいた。

 森に入ってかれこれ一時間。

 本来であればゴブリンくらい見つかってもおかしくない時間が経っているというのに一向に現れない。

 始めの頃はそういうこともあるかもしれないと気にしていなかったが、流石にこうも出会わないのはおかしい。


「ポチ、剣に魔力を通しておけ」

「っ!?は、はい!」


 警戒する意味も込めて、青年は幼女に指示を出す。

 一般人にしか見えない青年が本業の剣士に指示を出すという奇妙な光景であるが、これが彼らのスタイル故に仕方ない。

 幼女は突然の指示に驚くものの、鞘を左手で掴み、右手を柄に添えるようにして構える。

 そして右手から淡い白い光が放たれ、その光は剣に吸収されていく。

 この淡い光こそ魔力。

 そしてその魔力を吸収する剣は世にも珍しい魔剣であることが察せられる。

 魔力を通さなければ普通の剣と相違ない。

 しかし一度魔力を通せば特殊な力を発生させる剣。

 それが魔剣と呼ばれるものだ。

 幼女の持つ魔剣の名は『風刃』。

 その名の通り風の刃を発生させる魔剣である。

 緊張感の漂う中、警戒心を強めながら森の中を進む二人。

 ゴブリンであれば森の浅い部分で巣の周辺の見回り役が何体か固まって移動しているものだが、今日はそれが全く見当たらない。

 他の冒険者が既に倒しているのであれば死体や血痕が残っている筈。

 それがないということは……。

 青年が思考を巡らせている内に森の中で少し開けた場所に出た。

 日光が当たり、明るいその場は暖かく、周囲に隠れる場所もないため奇襲に気付きやすい。

 相手が飛び道具を使う相手ならばもう少し場所を選ぶべきだが、ポチがいればなんとかなるだろう。


「ポチ、休憩だ」

「……分かりました」


 手頃な岩を見つけてそこに腰掛ける青年。

 遅れて幼女がその側に控え、座らずに周囲の警戒を怠らない。

 青年は水袋を煽って水分を補給すると、それを幼女に差し出す。


「飲んでおけ、だが飲み過ぎるな」

「ありがとうございます」


 恐る恐る青年から水袋を受け取り、ほんのりと頬を赤く染めながら一口だけ水を飲んで喉を潤す。

 それほど暑くない季節だが、森の中を歩くのは意外と体力を消耗する。

 このほんの少しの休憩がとてもありがたい。

 警戒心を張り巡らせたままの緊張状態であれば尚更だ。


「ありがとうございました」


 水袋を青年に返して再び警戒を続ける幼女に対し、青年は不機嫌そうな表情で幼女に命令する。


「ポチ、お座り」

「え……し、しかし……」

「『お座り』」

「っ……はい……」


 いきなりの命令に狼狽える幼女。

 それはそうだろう。

 幼女は青年の奴隷だ。

 しかも戦闘員だ。

 主人である青年を守るのが最優先であり、このような危険な森の中で幼女が休むわけにはいかない。

 それなのに青年は幼女に座れと言う。

 どうすればいいのか判断に困っている幼女に対し、青年は次に力ある言葉によって幼女を強制的に座らせた。

 ほんの少し胸元の紋章が光り、苦痛が伴いながら幼女はその場に腰を落とした。

 奴隷への絶対命令権の行使。

 何故青年がそれを使ってまで幼女を座らせたのかは幼女には分からない。

 しかし主人である青年は不要なことはしない効率主義な人物だ。

 冒険者として動いている時は普段より口数が少なくなり、必要なことしか話さなくなる。

 だからこれも必要なことなのだろう。

 幼女はそう納得して疲労の溜まった足を手で揉みほぐす。

 戦闘の際、すぐに動けるように。


「帰るぞ」

「え?」


 休憩を取ってから影の位置が少し変わった頃、青年は岩から腰を上げてそう言った。

 幼女は一瞬なんのことか分からなかったが、主人である青年が立っていて自分が座っているわけにはいかないとすぐに立ち上がった。


「ギルドに報告して今日は終わりだ」

「は、はい……」


 何故急に帰るなどと言い出したのか幼女には皆目見当が付かなかった。

 幼女は驕っているわけではないが、ある程度の不測の事態であれば対処出来るくらいの実力はあると自負している。

 獣人としての鋭い感覚、強靭な肉体、高い身体能力、そして何より腰に下げた青年より貸し与えられている魔剣『風刃』まである。

 未だC級に留まっているが、いずれはB級、A級も夢ではないと考えている。

 故に青年の判断に少しだけ不満を抱く。

 安全マージンを大切にするのは幼女にも理解出来る。

 青年の慎重で正確な判断力によって窮地を脱したのは幾度もある。

 それでも……。

 幼女はいつの間にか拳を握り締め、歯を食いしばっていた。

 一年……もう一年が経ったというのに、私は未だにご主人様に信頼されていない。

 そう思うと急に胸が苦しくなる。

 胸元の奴隷の紋章が痛むのではない。

 そんな表面的なものではなく、もっとその奥深くが苦しい。

 苦しくて苦しくて、悔しくて、情けなくて、泣きたくなってくる。

 幼女の前をゆっくりと歩き出す青年の背中が遠く感じる。

 青年は幼女よりも弱い。

 凡庸な人族の平均的な力しか持たない青年。

 獣人ではあるが、未だ幼い幼女にも身体能力の劣るか弱い人族の青年。

 だというのに、その背中が果てしなく遠く感じる。

 いずれ背中ではなく、その横顔が見れる位置に辿り着きたい。

 もっと役に立ちたい。

 そう思うと、体が自然と動いていた。


「ん?……っ!?『止まれ』!!!」

「うぐっ……ぅあっ……っ!」


 青年に背を向けて全力で走り出す。

 足音で気が付いたのか青年は振り返り、どんどん小さくなる幼女の姿を視認して力ある言葉を叫ぶ。

 その言葉に反した行動を取り続ける幼女の胸元の紋章が強く光り、幼女に確かな苦痛を与える。

 しかし、そんな程度の痛みで幼女は止まる気は無かった。

 もっと深い部分の痛みに比べれば、こんなものは気にもならなかった。

 次第に紋章の光は収まり、幼女はその勢いのままどんどんと森深くに進んでいく。

 私なら出来る……だから、待っていてください。

 幼女はただ一つの思いのためにかけ続けた。


「命令無視……これは今夜晩飯抜きだな。全裸で街中を闊歩させるのもありかもしれない」


 既に見えなくなった幼女。

 流石は獣人と言うべきか、追いかける気にもならない速さで何処かへと行ってしまった。

 奴隷の生存確認は主人である青年には容易い。

 生きて帰って来るならばそれで良い。

 また新しく奴隷を手に入れて仕込む必要がなくなる。

 死んで帰って来なくともそれで良い。

 代わりはいくらでもいるのだから。

 今の所持金であれば奴隷を買うには十分だ。

 今度は二人買って、違った育成方法を試してみるのも良いかもしれない。

 しかし折角C級にまで上がったと言うのに、それが振り出しに戻るのは少し面倒だな。

 冒険者のランクは個人の実績、パーティの実績によって上がるための権利が得られ、上がるためにはいくつかの試験を受けなければならない。

 青年はパーティのランクさえ上がれば良いと考えているため、個人のランクは実績に伴い自動的に上がるE級止まり。

 対する幼女には権利を手に入れれば積極的に試験を受けさせ、少し前に漸くC級に上がった。

 一年足らずでC級に上がれる者は少なく、幼女は有望株としてギルドから注目されており、その知名度は昨日の取材からも分かる。

 天才幼女剣士などと煽てられて良い気にでもなったのだろう。

 実に愚かしい行為だ。

 何より命令無視をする奴隷に意味などない。

 少し可哀想だと、緩めの契約にして温情をかけてやったのが間違いだったかもしれない。

 次の奴隷にはちゃんと、死ぬ間際まで苦しむ絶対命令権を刻み込むべきだな。

 既に何処へ行ったかも分からない奴隷のことなど気にすることなく、青年は踵を返して街へと帰った。


 冒険者には報告義務というものが存在する。

 依頼中、何か不可解なこと、異常なこと、想定していないことなどが起こった際、その詳細をギルドに報告しなければならない。

 その報告を聞いたギルドは情報を精査し、他にも同様な情報がないか収集し、原因を調べる。

 原因が確定するまで、事が重大なことに繋がる可能性があれば冒険者への特定地域への立入禁止命令が出たりする。

 青年もその例に漏れず、義務ならば仕方ないと今日森で感じた違和感をギルドの受付にて報告した。

 すると受付嬢が青年を睨み付けるようにして問いかける。


「貴方……それ、本当ですか?」

「詳細は不明だ。しかしいつもと様子が違った。森に何か潜んでいる可能性は高い」


 報告は聞き返す事なく、一度でしっかりとメモなり何なりを取って終わらせてほしいものだ。

 青年は特に急いでいるわけではない。

 しかし青年がこの場に長居する事をよく思わない奴が多い事を理解している。

 故にギルドには必要最低限しか顔を出したくないのだ。

 青年は義務は果たしたとばかりに受付から去ろうとすると、その肩を受付越しに掴まれて止められる。


「そうじゃありません!あの子を放って逃げたのかと聞いているんです!」

「放って逃げたとは人聞きが悪いな。撤退命令を無視して独断専行した愚か者を追いかける義務は俺にはない。ただそれだけだ」


 青年の言い分に間違ったことは一つもない。

 パーティのリーダーである青年が撤退を判断した時点でそのパーティは一旦引くべきである。

 依頼中に無茶をして命を落とした冒険者は数知れず、このようにキチンと状況を判断して安全マージンを取るのは素晴らしいことだ。

 それは受付嬢も理解している。

 しかし、きっと何かがあった筈だ。

 受付嬢は幼女のことを良く知っている。

 一年前、突然目の前の青年が連れて来た奴隷の幼女。

 初めはこんな子に戦わせるのかと青年を罵りたい思いで登録手続きをしたのを覚えている。

 それから幼女はメキメキと実力を伸ばしてC級にまで上がった。

 そんな幼女が酷使されている現状を打開するため、受付嬢は幼女に奴隷解放の提案をしたことがある。

 ギルドにはそれをするための力があり、将来有望な冒険者を守るためならば主人に強制力を持って命令することも出来る。

 しかし、それには本人の同意が必要であった。

 受付嬢から提案を聞いた幼女はこう言った。


『私はご主人様に付いて行きます』


 辛そうに、悲しそうに、苦しそうにそう言ったならば、すぐにでも幼女を解放する準備を始めるつもりだった。

 しかし幼女は笑っていた。

 作り笑顔ではない、ちゃんと心から笑っていた。

 だからギルドは様子見ということで幼女の解放を見送った。

 だが、やはりそれは間違いだったと今ハッキリと受付嬢は理解した。

 歯を食いしばり、青年への憎しみが胸の中を渦巻く中、受付嬢は吐き捨てる。


「……クズがっ」

「いつもお前らが言ってることじゃないか。俺はクズだよ」


 そう、目の前の青年はクズだ。

 あんな幼気な幼女を酷使し、自らは何もしない最低のクズだ。

 受付嬢は必死に頭を回転させ、何かこの青年に一矢報いたい気持ちが膨れ上がり、一つだけ青年が動揺しそうな揺さぶりをかける。


「仲間を見捨てることは重大な規則違反です……冒険者資格の剥奪もあり得ますよ?」

「規則をちゃんと読み直せ。それは奴隷には適用されない」

「くっ……!」


 クズのくせに!クズのくせに!

 冒険者の大半は規則なんてちゃんと読まない。

 基本的には犯罪行為に繋がるような言動を謹んでいれば特に音沙汰が無いからだ。

 受付嬢は目の前のクズもその中の一人だと思っていた。

 しかしクズのくせに、いや、クズだからこそ細かい規則を把握することで穴を見つけているということか。

 受付嬢は悔しさを抱く以外何も出来ず、青年が背を向けるのを今度は止めることが出来なかった。


「報告は以上だ」


 徐々に遠くなっていく背中を睨みつけながら、受付嬢はそんなことくらいしか出来ない自分を呪った。

 そしてどうか幼女が無事に帰ってくることを祈って待つしか出来なかった。

 しかしその祈りは届かなかったようで、青年がギルドを出ていく直前、勢いよくギルドのドアを開いて中へ雪崩れ込んで来た数人の冒険者が叫んだ。


「ブラッディファングだっ!!!」

「森に真っ赤な化け物がっ!!!」

「ヤバい!マジでヤバい!!!」


 必死の形相で叫ぶ冒険者を皆が遠巻きに眺め、その内容を聞いた者は各々異なる反応を示す。

 狼狽える者、恐怖する者、絶望する者が殆どで、実力者の中に動揺を何とか隠せている者が少しいるくらい。

 当たり前のことである。

 ブラッディファング、通称『赤き死神』とも呼ばれる狼の魔物。

 特徴的な真っ赤な毛並みを持ち、その強靭な爪と牙は鉄製の鎧を紙のように切り裂き、噛み砕く。

 身体能力もズバ抜けており、出会ったら最後、逃げる事はほぼ不可能とされている魔物。

 その強さ故に危険度はA級。

 このような辺境の地では対処することが出来ない程の凶悪な魔物だ。

 直ぐに王都の本部へ応援要請を送らなければ。

 受付嬢は席から立ち上がり、上司に報告するために走る直前、一つの疑問が頭の中をよぎった。

 撤退不可能故に付いた死神の通り名。

 それなのに何故彼らは生きてこの場に辿り着けたのか。

 思考を巡らせ、受付嬢が答えに辿り着く前に冒険者から解答が出される。


「誰か!『白狼』の嬢ちゃんを助けてやってくれ!」

「一人で応戦してるんだ!このままじゃ嬢ちゃんがいくら強くても死んじまう!」

「っ!?」


 青年の報告にあった森の異変の正体。

 それがこの凶悪な魔物の出現による生態系の崩壊だとしたら納得がいく。

 弱小なゴブリンなど強大な魔物にとってはただの餌でしかない。

 恐らくここら一帯の弱い魔物はブラッディファングの餌食となったと見ていいだろう。

 受付嬢は報告に走る前にもう一度ドアの方へと視線を向けた。

 もしかしたらこの報告を聞き、何か心境に変化が訪れるかもしれないと淡い期待を抱いていた。

 しかし黒髪の青年は雪崩れ込んできた冒険者たちを一瞥するだけで、そのままギルドから出て行った。

 その姿を見ても、既に受付嬢は何の感情も抱かなかった。

 今はただ、早く報告を急がなければいけない。

 受付嬢はそうして走り出した。


「王都の本部に応援を要請しても、遅いだろうね」


 この街の冒険者ギルドのギルド長の部屋にて、受付嬢は今起こっている騒動の要点をまとめて報告し、王都への応援要請の依頼を提案した。

 しかしそれに対して返って来た返事がそれだった。

 若くして辺境の街とはいえ冒険者ギルドのギルド長となった人物。

 漆黒の髪を伸ばし、鋭い金色の瞳は全てがお見通しのような雰囲気を醸し出す。

 必要最低限のものしか求めない性格故に、ギルド長の使う机としては質素な物に頬杖をつき、自慢の黒髪を指先で弄る。

 応援が遅くなるのは受付嬢とて理解している。

 だがこのまま放置していれば幼女どころの話ではなくなり、街にだって被害が及ぶ可能性があるのだ。


「し、しかし!」

「ここからどれだけ早馬を飛ばしても最低片道三日はかかる距離だ。本部で人員を集めてこちらに来るのに更に時間がかかる。間に合わない」

「くっ……」


 食い下がろうとする受付嬢に対し、ギルド長は冷静に事実のみを述べる。

 受付嬢はただ悔しさでいっぱいだった。

 もし自分に戦う力があればと思わずにはいられない。

 何より、目の前の女性がもし戦える状態であればと望みの薄い期待をするしかない自分が情けない。

 元A級冒険者『漆黒』のオーレリア。

 未だその二つ名の所以となる黒髪と、腰に下げた黒き魔剣は健在であるというのに。

 机の側に立て掛けられた杖が彼女の現状を物語っていた。

 報告するべき事は終えた。

 これ以上は自分の手出し出来る範囲を逸脱している。

 後はギルド長に任せるしかない。

 俯き気味にギルド長室を出て行こうとする受付嬢に、ギルド長が声をかける。


「でも、その子を助ける方法がないわけじゃない」

「っ!?」

「私の知人が重い腰を上げてくれれば、の話だけどね」

「ブ、ブラッディファングに対抗出来る程の実力者が!?ど、何処に!?」

「この街さ」


 驚愕の事実が受付嬢にいくつも降りかかる。

 幼女を助ける術がまだこの街に残されている。

 何よりギルド長の知人であれば相当な実力者に違いない。

 何よりそうでなければ今この場で話に出てくるわけがない。

 驚きを隠せず、浮き足立つ受付嬢。

 そうと決まれば早くその人物にあって話をしなければならない。

 受付嬢はギルド長に打診する。


「な、なら早く頼みに行かないと!」

「多分行っても無理かな」


 しかし、受付嬢の言葉は冷たくあしらわれた。

 自ら話を出しておいて無理とはどういう事なのか。

 受付嬢にはギルド長の考えが全く掴めずにいた。


「何故ですか!?それ程の実力者ならば街の危機を救う義務が──」

「──無いよ」

「……え?」


 今度は更に冷たく、いや、冷たくもない。

 無感情な表情、声色で否定される受付嬢の言葉。

 まるで蛇に睨まれた蛙のように、何も出来ずにいる受付嬢に対し、ギルド長は諭すように語る。


「街の脅威への対応義務が生じるのは国所属の戦力及び冒険者ギルドに所属する個人ランクB級以上の冒険者だ。彼はそれに含まれない」

「ですが!」


 そのくらい受付嬢も理解している。

 しかし今は緊急事態なのだ。

 危険度A級の魔物が街に降りて来ればこの街は壊滅する。

 それ程の脅威が迫っていて、規則や義務などと言ってる場合ではないはずだ。

 そんな思いを知ってか知らずか、ギルド長は続ける。


「動かなければならない時は動くよ、彼は。でも今はまだ動かない。そういう男だ」

「何故ですか!?」


 未だ正体の分からない彼という存在。

 しかし現状はその彼に頼るしかこの状況を打開する方法がない。

 遣る瀬無い気持ちを抱きつつも受付嬢は食い下がる。

 そんな受付嬢の必死な眼差しを受け止め、ギルド長は言い辛そうに口を開く。


「ブラッディファング程度に興味が無い。普通に面倒臭い。後は──」


 受付嬢はこの後、聞かなければ良かったと後悔することになる。

 しかしこの時の受付嬢はギルド長が口にする言葉を聞かないという選択肢は存在していなかった。

 ギルド長は一拍置いてから、ハッキリと聞こえやすい声で言い放つ。


「──奴隷を助けて何になる?って所かな」



 私はきっと、途轍もない程の愚か者だろう。

 ご主人様の命令を無視しただけでは飽き足らず、ご主人様の命令以外で死のうとしている。

 何故言うことを聞けなかったのだろう。

 いつも通り素直な私でいれば、きっと今日もご主人様と温かいご飯が食べれただろうに。

 ……馬鹿だな、私は。

 一年前と何も変わらない。

 変わったのは見た目だけ。

 汚れていない、光を反射して眩しい真っ白な髪。

 物心ついた時から汚れた灰色をしていて、自分の髪が本当はこんなに白いと知った時は驚いた。

 顔も煤けてなく、栄養のある物を与えてくださったために艶を取り戻した皮膚。

 服だって、今は冒険者としての装備だが、休日用に買っていただいた服はどれも私には勿体無いくらいの物。

 そして今、私の命を預けている剣。

 魔剣のことはあまりよく知らないが、ご主人様が私に貸し与えてくれた大切な剣。

 貸し与えられているのだから、ちゃんと返さないといけないのに、多分それは無理だろうと私は悟る。

 目の前にはギラギラと妖しく光る真っ赤な眼光。

 私の目によく似た赤い瞳。

 同じ赤でも、私の赤は鮮やかな赤色と褒められたことがある。

 あんな血のような赤ではない。

 毛並みは幾多の生物の返り血を浴びてかドス黒く変色している。

 それはまるで、汚れていた昔の私のよう。

 獰猛な牙をチラつかせ、口の端からは大量の涎が垂れている。

 初めて焼肉を目にした時の私みたいに、ご馳走を前にして待ち切れないといった様子。

 一体、何故私はこんな危機的状況だというのに、そんな事を思い出しているのだろう。

 襲われていた冒険者の人たちはもう逃げてくれただろうか。

 逃げて応援を呼んでくれれば幸いだけど、きっとそれまでは持ちこたえることは出来ないだろう。

 何故なら相手はA級冒険者が数人がかりで相手にするような強力な魔物。

 対する私はC級、実力が足りてなさ過ぎる。

 勝つ事など不可能で、ほんの少しの時間を稼ぐ事くらいしか出来ないだろう。

 それでも私はこの凶悪な魔物に立ち向かう。

 全身が恐怖で震えているのが分かる。

 でも逃げる事は出来ない。

 何故なら私は剣だから。

 あの人の剣となると誓ったから。

 私に優しさをくれたあの人を守ると決めたから。

 あぁ、でもやっぱり──



──死ぬのは、怖いな……。


 幼女の目の前には大きな口が開かれていた。



「これはこれは、アルケミー様。ご来店を我々一同、心よりお待ちしておりました」


 街の薄暗い路地裏の更に奥、人があまり住んでいない区画の廃墟の地下に二人の男がいた。

 一人はこの地下空間の主人とでも言うべき小太りの男。

 黒のスーツで身を包み、高価な指輪やピアスをいくつも身に付けている。

 対するもう一人の男は見たところ中肉中背。

 目深に黒のローブのフードを被り、顔には奇妙な仮面を着けているため素顔は分からない。

 小太りの男はその男を知っているようで、彼のことをアルケミーと呼ぶ。

 当然本名ではなく通称のようなものだろう。

 しかし両者は相手が何者であっても関係はない。

 これから始められるのは商売の取引。

 片や売る側、片や買う側。

 両者の間に信頼関係や素性の怪しさなどは意味が無い。

 ただ一つ、金を持っているか、否か。

 重要なのはそれだけであった。


「良い奴はいるか?」

「申し訳ございません。今は『白狼』程上質な品はこちらにはありません」


 アルケミー様の質問に対し、私は正直に答える。

 どうでも良い客であれば適当にいろいろとでっち上げて在庫処分をする所だが、目の前の男はどうでも良い客でもなければ、目が腐っている奴らとは違う。

 しっかりと自分の目で見極めることの出来る男だ。

 そういった客に一つでも嘘を吐けば小太りの男のような商売人は一気に信用を失う。

 客は金が全てであるが、商売人にとって信用は命よりも重い。

 ほんの小さなミスで全てを失いかねないほど繊細に扱わなければならないもの。

 故に小太りの男は誠実に対応する。


「手に入る見込みは?」

「当然、アルケミー様のご依頼とあれば用意させていただく次第でございます」


 これも嘘ではない。

 上物の保管には気を使うため、あまり売買のためだけのこのような辺境の街には置いていない。

 しっかりとした保管場所にて宝石を扱うように丁寧に、慎重に保管している。

 故にここに無いのは確かであるし、保管場所にはアルケミー様が気に入りそうな上物が幾人かいた筈だ。

 故に後は金の問題となる。


「なら近日中に用意しろ。前金はいくら必要だ?」


 近日中、という言葉が小太りの男には引っかかった。

 『白狼』以降あまり姿を見せなかったアルケミー様が急に現れて新たな商品を所望している。

 それも見たところ急ぎのご様子。

 これは先ほど入ってきた話は本当のようですね。

 小太りの男は頭の中でいろいろな要素を加味して計算し、額を提示する。


「100程頂ければ大変有難く思います」

「……200だ」


 100程という言葉に敏感に反応し、ローブの男は小さく舌打ちをする。

 ローブの男とて無理を言っているのは理解していた。

 多少想定以上の額を提示されるだろうとは考えていたが、100程などという相手に任せた言い方をする小太りの男が気に食わなかった。

 ここで本当に100など渡した時にはローブの男は小太りの男からの金と言う名の信用を失うことになる。

 故にローブの男は倍の200を出して文句を言わせる隙を与えなかった。

 小太りの男はその即座の英断に感激し、恭しく金の入った袋を受け取って頭を深く下げる。


「これはこれは、毎度ありがとうございます」

「相変わらず気に食わない男だ」

「私はアルケミー様を愛していると言っても過言ではございません」

「なら、上物を用意しておけ」

「畏まりました」


 そう言い残してローブの男は地下の空間から地上へと上がる階段を上っていく。

 その後ろ姿を見つめながら小太りの男はほくそ笑む。

 小太りの男であっても、これほど面白い客はそうはいない。

 商品の扱い一つから他の客とは一線を画すローブの男。

 大切に扱っていると思えば、冷静に状況を見極め切り捨てることを厭わない残酷な性格。

 初めてローブの男に商品を売った時のことを小太りの男は一生忘れることはないだろう。


「さてさて、次の商品もアルケミー様は気に入っていただけるでしょうか」


 笑いを堪えられない様子の小太りの男は地下空間の奥へと消えていった。



 カツン。カツン。


 薄暗く、細い路地裏に響き渡る地面に硬い何かを叩きつけるような音。


 カツン。カツン。


 段々と近付いてくるその音が杖を突く音であるのに気付いたのは、音の発生源を目視したためだ。


 カツン。カツン。


 目深に黒いローブのフードを被り、奇妙な仮面を付けた男と、杖を突いて歩き辛そうな黒髪金眼の女性がすれ違う。


 カツン。カッ。


 すれ違った両者はそのまま一歩進み、そして立ち止まった。

 路地裏に漂う異様な雰囲気。

 互いを認識しつつも、何もせず佇む両者。

 静寂は暫く続き、背中を向け合う両者は何も語らない。

 語ってはいないが、互いの意思はぶつかり合っているように思える。

 女性は語りかけ、男はそれを拒絶し続ける。

 両者が何も語らずに佇んでいると、遠くからカラスの鳴き声が聞こえて来た。

 それが静寂を乱し、杖を突く女性が遂に沈黙を破った。


「行かないのかい?」

「行ってどうなる」

「愛らしい幼女が死なずに済む」

「どうでも良い」

「新しい子は見つかった?」

「注文はした」

「薄情だね」

「あれはただの消耗品だ」

「私がお願いしても、ダメかい?」

「……」


 間髪を入れない会話のキャッチボールに、ほんの少しの間が空いた。

 女性はこの台詞をあまり使いたくなかった。

 この言葉は強過ぎる。

 これを言われたら、男が拒否出来ないことを分かった上で使っている。

 私はなんて愚かなのだろう。

 今まで素っ気なく対応していた男が沈黙し、女性はその隙を見逃さない。


「ゴメンね、卑怯だよね……でも、私には私の義務がある」

「……」


 男は何も答えない。

 背を向けたまま、何を思っているのか読み取れない。

 でも、既に会話の方向性は定まった。

 もう一押しすることなく、男は首を縦に振るだろう。

 だがしかし、女性はそれでももう一押しを決行する。

 彼だけが辛い思いをするのはもう沢山だから。

 少しでも私に責任を押し付けてくれるように。

 女性は男の方に振り返り、その背中に頭を付けて、そっと抱き締めた。


「お願い」

「……」


 男の鼓動を感じる。

 昔からよく聞いていた。

 生まれる前から聞いていた。

 私が一番安心する音。

 私の一番、大切な音。


「ねぇ、クラフト……いえ、ギル──」

「──行けば良いんだな?」


 これでもう大丈夫。

 自らを魔女と罵ってくれたって良い。

 それでも私は貴方を使う。

 私には私の守るべきものがある。

 戦う術を失った私には、他人を頼ることしか出来ないから。

 でも頼るなら、絶対なんとかしてくれるような、信頼出来る人じゃないと怖くて頼めない。

 だから私は貴方を使う。

 そっと男から離れた女性は、俯き気味に小さく謝る。


「うん、ゴメン……私はもう戦えないから、君に頼るしかない」

「別に気にしないよ……姉さん」


 そう言って振り返った男は、フードを脱ぎ捨て、顔に付けていた奇妙な仮面も外していた。

 女性と同じ黒髪で、瞳の色は男が母親に似て青く、女性が父親に似た金色で、よく見ればとても良く似ている二人。

 同じ日、同じ時に生を授かった双子の姉弟。

 片や元A級冒険者で、今は街のギルド長。

 片や現E級冒険者で、周囲からヒモと呼ばれるクズ。

 両極端な姉弟であるが、互いに信頼し合っている。

 少なくとも姉はそう思っている。


「これ、要る?」

「要らない」


 ギルド長は腰に下げた自慢の魔剣に手を添えて問いかけたが、青年は即座にそれを断った。

 ギルド長の黒髪とセットで『漆黒』と呼ばれるようになった所以である黒い魔剣。

 魔剣の名は『漆黒』ではなく『影斬』。

 世界中に存在する魔剣の中でもその性能は最上級、『六剣』と呼ばれるS級魔剣の一つ。

 A級とは隔絶した能力を持つ強力な魔剣である。

 そんな魔剣を簡単に渡そうとするギルド長もギルド長であるが、それをまた断る青年も中々凄い。

 だが青年の気持ちを考えれば、仕方ないことであろうとギルド長は納得する。


「そう言えば、あの子には何を持たせてるの?」

「『風刃』」

「『風神』じゃないんだ」

「まだ早い」

「まだ……ね、ふふっ」

「チッ……調子狂うな」


 既に青年の中で幼女を助けることが確定しているようで、ギルド長は安心して笑ってしまった。

 そんなギルド長の態度が気に食わなかったのか青年は舌打ちをしてから愚痴を吐く。

 しかしA級魔剣の『風神』であればある程度安心出来るのだが、C級魔剣の『風刃』となると既に状況は最悪かもしれない。

 主人である青年がまだ生存を確認出来ているということは、何とか持ちこたえているのか、それとも既に負けて虫の息か……。

 こんな時にあれを持たせていたら時間稼ぎには持って来いだったのに。


「そう言えば『銀鎖』は?こういう時にはピッタリでしょう?」

「あんな失敗作を馬鹿みたいに欲しがる物好きにやったよ」

「そう、貴方が他人に魔剣を譲るなんてね……」

「……」

「ねぇ、たまには──」


 ほんの一瞬目を離した隙に、青年は路地裏から姿を消していた。

 久し振りにまともに会話をしたのだから、もう少し色々と話したいことがあったのに。


「──行っちゃったか」


 上を見上げると、建物の隙間から赤く染まり始めている空が見えた。


「ギルバート……貴方はまだ、自分が許せないの?」


 既にこの場にいない人物に向かって、ギルド長は悲しげに呟いた。



 ……ここ、は?

 頰に当たるヒンヤリとした感覚で目を覚ました幼女はゆっくりと目を開ける。

 周囲は薄暗く、目が覚めてすぐの不明瞭な視界では自分が何処にいるのか判断出来ない。

 まずはここが何処かを調べないと……。

 幼女は重苦しい体に力を込めて四つん這いになりながらも何とか起き上がる。

 体に異常は見られない。

 全身の細かな傷が痛むがこんなものは擦り傷だ。

 重要なのは未だに自身の命が繋がっていること。

 気を失う前の記憶が曖昧だ。

 赤い毛並みが特徴的なブラッディファングに襲われている冒険者を見つけ、自分では敵わないと知りながら注意を惹きつけて逃げることに促した。

 そして暫しの逃走を繰り広げ、追い付かれた後……そうだ、私はブラッディファングに負けたはず!

 負けた私が何故生きているのか。

 そんなものは魔物の生態を考えればすぐに思い至る。

 餌の確保。

 今回の森の異常事態は十中八九あのブラッディファングが生態系を乱した影響。

 ブラッディファングによって弱い魔物は狩り尽くされ、残った魔物たちも姿を隠した。

 ならば恐らく今のブラッディファングは少なくとも空腹状態ではない。

 ブラッディファング程の強力な魔物となるとある程度の知恵を持っている。

 森の中の餌が少なくなったことに気付けば非常食を用意することくらい考えるだろう。

 つまり、今の私は餌として長持ちするように生け捕りにされた状態と考えるのが自然。

 ……絶望の一歩手前と言ったところでしょうか。

 不幸中の幸いで、装備はそのまま。

 魔剣も腰に下げている。

 だが、ブラッディファングには通用しない。

 このまま息を殺して隠れて機会を伺うしかない。

 時間が経てばブラッディファングの情報が伝わり、強い冒険者が助けに来てくれる。

 強い……冒険者が……。

 その時、幼女の頭の中に浮かんだのはただ一人であった。

 届かない背中に必死に追い付こうと走り続けても、未だ全然追い付けないあの人。

 あの人はきっと来ない。

 あの人は私を切り捨てる。

 だって私にはその価値が無いから。

 私はただの奴隷、ただの消耗品だ。


「もし、私が普通の女の子だったら……貴方は助けてくれますか……?」


 ジャリッ。


「っ!?」


 地面を踏み締める音が薄暗い空間に響き渡る。

 音の反響具合からしてここは洞窟のような場所のようだ。

 段々と暗さに慣れて来た目で周囲を見回し、警戒心を強める。

 音は近かった。

 幼女は腰に下げた剣の柄に触れ、敵に気付かれないよう慎重に魔力を通す。

 魔剣に魔力を通すと、緊張で固まった全身がほんの少しだけ解れていく気がする。

 不思議な感覚。

 何故かこんな窮地に立たされているというのに安心してしまう。

 そして、思い出してしまう。

 あの人と過ごした日々を。

 あの人に買われ、教育され、戦わされ、笑い合った日々。

 とてもとても大切な、私の思い出。

 こんな所で終わりたくなんかない。

 幼女の気持ちはまだ折れてはいなかった。

 幼女は腰を落とし、柄を握りしめ、スッと息を殺して気配を消す。

 臭いに関してはこの空間が既に強烈な汚臭が漂っているため、幼女自身よく分からない。

 だがそれは相手も同じ。

 先に見つけた方が先手を取れる。

 幼女はこの魔剣を貸し与えてくれた青年に感謝した。

 先手を取るにあたって、この魔剣はそれにとても適した性能を持っている。

 魔剣『風刃』の能力は斬撃で風の刃を作り出し、遠くに飛ばすことが出来る。

 離れた敵に対しては遠距離攻撃として働き、近くの敵に対しては距離を開ける為の牽制として働く汎用性の高さを持っている。

 それに加えて自身の身体能力が合わされば、縦横無尽に駆け回り、四方八方から飛んでくる風の刃で敵は切り刻まれる。

 それが幼女の必勝パターン。

 それで幾多の魔物に勝利し、C級にまで上り詰めた。

 だがそれで勝てるとは幼女も思っていない。

 今回は相手が悪すぎる。

 しかし、ほんの一太刀でも良い。

 幼女は自身が必死に戦ったという爪痕を残したかった。

 もしあの魔物が討伐された時、誰かが、あの人がその爪痕に気付いてくれれば、どれ程嬉しいか。

 そんな未来を想像し、幼女はほくそ笑む。


 ジャリッ。


 再び聞こえてくる足音。

 先程よりも近付いてきている。

 だが相手もまだこちらに気付いていない。

 後少し、洞窟内の反響で上手く位置が特定出来ないが、後少し近付いてくれればハッキリと分かる。

 心臓の鼓動が激しく、敵に聞こえてしまうかもしれない。

 落ち着きたくても落ち着けない。

 手汗が酷く、何度も柄を握り直す。

 自身に死が迫っているという耐え難い緊張感、圧倒的恐怖に今頃捕われてしまう。

 覚悟を決めたなど口先だけだ。

 結局幼女はどうあっても死ぬのが怖かった。

 まだ十歳の女の子。

 生死を分ける戦いに身を投じてまだ一年。

 生物として幼く、剣士としても若過ぎる。

 そんな街中で遊び回っているような年齢の幼女が、このような絶望的な状況に耐えられるだけの精神力を持っている筈がない。

 幼女が戦えたのはただ一つ。

 側にはいつも青年がいたから。

 青年が側にいてくれれば、幼女は何でも出来る気がしていた。

 きっとこんなに怯えることなく、ブラッディファングにも勇敢に立ち向かえただろう。

 しかし今や青年は幼女の側にはいない。

 当然のこと。

 幼女が自ら離れたのだから。

 幼女は震える手で柄を強く握りしめ、ほんの少しでも青年を感じたくて魔力を注ぎ込んだ。

 その時だった。


 ジャリッ。


「っ!」


 足音が幼女の耳に届き、漸く確定した敵の位置。

 幼女はそこに向かって自らの全力の一撃を放つ。

 鞘から剣を抜き放ち、その勢いのまま魔力を注いだ刀身で宙を切り裂く。

 宙を切り裂く幼女の斬撃は風を纏い、刃となって一直線に敵へと向かう。

 やった!?

 自身でも今までにない威力で放たれた風の刃。

 これで無理なら諦めもつく。

 幼女は斬撃が飛んで行った方を注視し、次の瞬間には驚きのあまり目を見開き、開いた口が塞がらなかった。


「子供の反抗期にしては危な過ぎるな」


 幼女の放った斬撃は呆気なく霧散し、その場には見慣れた黒髪青眼の青年が佇んでいた。

 幼女を見据え、微笑しながら語りかけるその姿は、見まごう事なき幼女のご主人。

 世間での評価は下の下の最低最悪な人物であれど、幼女には最高のご主人であるその青年。

 幼女は驚きと歓喜のあまり顔をぐしゃぐしゃにしながら、声を殺しながら号泣した。


「なっ、なん……なん……で……?」

「ようポチ、元気そうだな」


 感動的再開なのに、幼女とは打って変わっていつも通りすぎる青年の対応が幼女にとってはとてもありがたかった。

 生きて帰って来れた気がしたから。


 幼女の様子を確認し、体の欠損がないことを確認した青年は取り敢えず一安心した。

 あそこまで言われてもう死んでましたでは洒落にならない。

 だが体中に外傷が見られ、血は止まっているようだが環境が悪いせいか膿んでいた。

 流石にこのままでは戦えない。

 ブラッディファングと幼女の力量差は青年が思うにそれほど大きな開きはない。

 幼女のランクはC級ではあるが、実績さえ足りていればB級でもおかしくないと青年は分析している。

 万全の状態で、勝つための戦略を立て、間違わずに実行することが出来れば、勝てない戦いではない。

 しかし一つだけ、懸念材料があるとすれば……。

 青年は鞘から抜いた幼女の持つ魔剣の刀身を見つめる。

 落ち着きを取り戻した幼女も青年の視線が気になり、手に持つ剣の刀身を見て目を見開く。


「す、すみません!大切な魔剣を!」


 幼女は即座にその場で土下座した。

 しかし青年は気にした風もなく幼女から魔剣を奪い取る。

 その刀身はボロボロに刃こぼれしており、既に魔剣としての性能を失っていた。

 故に先程幼女が放った風の刃が最後の一発。

 幼女はそれを理解してゾッとした。

 もし近付いてきたのが敵だった場合、本当に終わっていたのだと。


「C級魔剣なんてまた作れば問題ない」

「は、はい……」


 落ち込む幼女を見た青年は、取り敢えずもう不要な剣は要らないとその辺に投げ捨てた。

 その光景を見て驚く幼女だが、この青年であれば当然かとも納得している自分がいた。

 そして青年はその場で立ち上がり、その右手に魔力を宿す。


「ふむ……『魔導倉庫(マジックボックス)』」


 青年の右手、その手首から先が宙に現れた歪んだ謎の空間の中へと消える。

 俗に魔導師と呼ばれる魔力を用いて魔法を扱う者たちが使う魔法、『魔導倉庫』。

 魔法によって作り出した異空間に物質を保管することの出来る便利なもの。

 青年はこれを使えるため、常に軽装で冒険に出かける。

 それにしたって無防備過ぎる服装はやめて欲しいと心の中で願う幼女。

 今も青年の服装はいつも通りだ。

 A級魔物が近くに潜んでいるかもしれないというのにも関わらず、何処にでもいそうな一般人の服装。

 そんないつも通りな青年を見て安心感を覚えてしまう幼女も、大分感覚が麻痺しているとも言えるのだが。


「これで治して……後はこいつか」


 そう呟きながら青年は『魔導倉庫』の中から右手を出すと、そこには二本の抜き身の剣が掴まれていた。

 恐らくその二本とも魔剣なのだろうと幼女は察する。

 こんなにも簡単に魔剣がポンポン出てくる『魔導倉庫』も珍しい……はず。

 幼女は自分の持つ常識が最近信じられない。

 青年が規格外な存在であることは理解しているが、それでもおかしいと思わずにはいられなかった。

 青年が取り出した剣の一本は美しいエメラルドのような刀身を持ち、もう一本は何処か見覚えのある特に変哲も無い鉄の剣。

 青年はエメラルドの剣を右手でしっかりと柄を握り締め、ただの鉄の剣を左手に持つ。


「避けるなよ?」

「え……っ!?」


 いきなりの指示に幼女が疑問を抱いていると、青年はそのエメラルドの刀身で幼女の体を斬りつけた。

 幼女は呆気にとられ、動けずにただただ青年からの攻撃を受けてしまい、その場に倒れ込む。

 青年に斬られた箇所を手で押さえ、痛みに苦しむように蹲るが、幼女はそこで違和感に気付いた。

 痛く……ない?

 ハッと顔を上げ、青年の様子を伺うと、そこにはもうエメラルドの剣を再び『魔導倉庫』に仕舞う姿があった。


「これを使え」


 地に膝をついたままの幼女に青年は左手に持っていたもう一本の剣を無造作に投げ渡す。

 ガチャと音を立てて幼女の前に落ちる鉄の剣。

 よく見ればやはり幼女はこの剣に見覚えが、いや、その程度の話ではない。

 何故ならこれは先程まで幼女が使っていた剣と瓜二つ。

 魔剣『風刃』であった。


「これは……『風刃』……?」


 しかし幼女はそれを断言出来るだけの情報を持ち合わせていなかった。

 何故なら幼女は知っている。

 この世に同じ魔剣など存在しないことを。

 どれだけ精巧に、同じように作ったとしても、必ず何処かに違いが生じる。

 故にこれがいくら『風刃』に似ていたとしても、これは『風刃』のはずがないのだ。

 幼女の疑問を呈するような言葉に、青年は答える。


「一々失敗作に名前を付ける趣味はないが……『暴風刃』って所か」

「『暴風刃』……?」

「使えば分かる、使えればだがな」


 青年の幼女を試すような物言いに、幼女は先程まで絶望の淵に立っていたとは思えない程の活力に満ちた瞳を持って立ち上がる。

 新たに与えられた魔剣を手にし、抜き身の『暴風刃』を鞘に納める。

 本当に瓜二つな剣だ。

 『風刃』で使っていた鞘にピッタリと納まるのを確認して幼女は今一度思った。

 立ち上がった幼女の体には既に傷一つなく、先程の魔剣の効果なのだろうと幼女は察する。

 傷も治り、体力も魔力も全快に近い万全の状態。

 ならばするべきことは一つだ。

 幼女は青年の前で跪く。

 これは幼女なりのケジメであった。


「クラフト様、愚かなる私めに慈悲を与えてくださったことに感謝いたします。そして今一度私めに汚名を返上する機会をお与えください」


 頭を垂れ、暫くの沈黙に耐える幼女。

 頭上から突き刺さる視線の圧力に耐え、震えそうになる体を必死に押さえて判決を待つ。

 永遠にも感じる静寂の中で、漸く青年の声が耳に届く。


「ポチ」

「はい」


 最初に出会った時から変わらないその呼び名に安心する。

 最初は嫌で仕方なかった。

 幼女は自身の本当の名を覚えている。

 ちゃんとその名で呼んでほしかった。

 しかし、今やこれが私の名前と胸を張れる。

 ご主人様がくれた、前に踏み出すための名前。


「失敗作とはいえ俺の魔剣を使う以上、お前に敗北は許されない」

「はい」


 C級魔剣を失敗作と堂々と言い切る青年はいつも通りだ。

 幼女が覚悟を決めて死地に向かうのを当然のことのように受け止める。

 それは絶対の自信故に。

 あのような赤いだけの狼に、青年の魔剣が破れることなどあり得ないという確固たる実績がそれを可能とする。


「命令だ。ブラッディファングを討ち取れ」

「はい!」


 幼女は命令を下されて顔を上げてハッキリと答えた。

 失敗は許されない。

 まだ死ぬことを許されていない。

 幼女は立ち上がり、初めて前に踏み出した時よりも力強い一歩を踏み出した。



 冒険者ギルド内は騒然としていた。

 突然のA級魔物の出現に対し、辺境の街の冒険者ギルドはそれに対抗する術を持たないからだ。

 今このギルドに所属する冒険者の中で最強と噂されるのがC級の『白狼』。

 つまり既に最高戦力である幼女が出向いている状況で、これ以上何かをすることが出来なかった。

 『白狼』の救出に赴こうとも、A級魔物に対して他のC級、D級冒険者をいくら集めたところで焼け石に水。

 犠牲者が増えるだけだろう。

 しかしこのまま何もせず黙って指を咥えているだけなんてゴメンだ。

 冒険者ギルド内にいる冒険者、職員の全てがそういう思いだった。

 そんな中、一人の冒険者がギルドのドアを勢い良く開けて現れた。


「おいおい、みんな俺のことを忘れてないか?」


 突然現れたのは赤い髪の青年。

 歳は成人しており16歳。

 青年は燃えるような朱色の瞳をギラギラと光らせながらギルドの中へ入って来る。

 動きを阻害しない軽装備に、腰に下げた赤い鞘の剣。

 『白狼』と同時期に冒険者となり、今はC級に近いD級というこちらも将来を期待されている冒険者だ。


「ルーク……」

「流石にあいつでも……」

「『炎帝(自称)』だもんな……」

「おいそこ聞こえてんぞっ!」


 周りのヒソヒソ話す声を聞き逃さないルークと呼ばれた青年。

 通り名の『炎帝』とは、青年が将来そう呼ばれると自身で確信しているからこそ、自らそう名乗り早い内から名を知らしめておくためだそうだ。

 その名の由来は腰に下げた赤い鞘の剣。

 名も無きD級魔剣であるが、その性能はC級に届くとも噂されている。

 青年はその剣を『紅蓮』と名付けている。


「嫌な予感がすると思って来てみれば、『白狼』のちびっ子が大変そうじゃないか」


 否、この青年はただの寝坊である。

 今日は早朝から森に出向くつもりをしていたが、昨夜の深酒が影響し、先程飛び起きて急ぎギルドに赴いただけだ。

 その証拠に少し寝癖がついている。

 青年は受付へと近付き、そこにいた受付嬢に提案する。


「『白狼』は同期で、俺の丁度良い踏み台だ。運良く俺より先にC級に上がりやがったが、実力の差を見せつけてやる良い機会だ。俺が『白狼』を救ってやる。この、『炎帝』のルーク様がな!」


 青年の勢いに圧倒される受付嬢。

 面白そうだと囃し立てる周囲の冒険者。

 先程とは違った騒がしさの中、背後から受付嬢の肩を叩く存在が現れることでその場が静まり返った。

 その存在は威勢の良い青年であっても例外なく黙らせる。


「良いよ、許可しよう」


 一瞬で静寂に包まれたギルド内に、良く通る女性の声が響き渡る。

 受付嬢はその声に振り返り、驚きの表情を示す。


「えっ!?」


 受付嬢の背後に現れたのはこの冒険者ギルドのギルド長であるオーレリアだった。


「流石美人ギルド長!話がわか──」

「──ただ、君の出る幕はないだろう」

「なっ!?」


 このギルドの責任者であるギルド長からの許可が降り、テンションの上がる青年に対し、その勢いを遮るかのようにギルド長が水を差した。

 許可が降りた途端に出鼻を挫かれた思いの青年は驚き、ギルド長を見ても特にギルド長の反応は変わりなかった。

 そして淡々と現状を語られる。


「既に『白狼』の安全は確保された。後はブラッディファングが討伐されるのを待つだけだ」

「そ、それって!?」

「どういうことだよ!?」


 ギルド長の言葉に受付嬢と青年は共に驚きの声を上げるが、その意味合いは両者で異なっていた。

 事前にギルド長の知人の話を聞いていた受付嬢は例の彼が動いてくれたのだと察し、青年は聞いていた話と違うことに困惑する。

 そしてギルド長は今一度告げる。


「ルーク、行きたいなら行けばいい。良い勉強になるだろう」

「っ……チッ、余計なことしやがって……」


 青年はギルド長の言葉に一瞬戸惑いを見せ、冷静を取り戻すと舌打ちをしてから踵を返した。

 ギルド長は青年の実力を正確に把握していた。

 そして青年自身も己の実力を嫌という程理解している。

 青年ではA級の魔物に手も足も出ない。

 例え今持っている魔剣以上の物を持っていたとしても。

 結局魔剣とは使い手次第で強力な武器にも、ただの鉄グズにもなり得るもの。

 青年が扱える限界が今手にしている『紅蓮』であり、それ以上の性能を求めても扱いきれないことをしっかりと理解するだけの賢さを青年は持っていた。

 なら何故青年はそれでも行こうとしたのか。

 先程の喧騒が嘘のように静まり返っているギルド内を抜け、外に出た青年は暗くなりつつある空を見上げた。


「また……俺は何も出来ないのか」


 腰に下げた剣を握り締め、鞘から炎が燃え上がる。

 弱々しい炎。

 雑魚しか燃やすことの出来ないちっぽけな炎。

 それが今の自分を表しているようで、途轍もなく悔しかった。

 ギルド長が許可を出したのは既に実力者が救助に向かったから。

 きっとそれが無ければ許可など出なかった。

 それが今の青年の評価。


「勉強になる……ね」


 青年は頭を振って雑念を消す。

 自分を信じれなくなったら終わりだ。

 俺は強い、俺は最強、俺はいずれ英雄になる男!

 既に青年の目に迷いはなく、真っ直ぐと前だけを見つめていた。



「ギルド長、結局誰なんですか?その彼というのは?」


 ギルド長と受付嬢は二人、ギルド長の部屋にて向かい合っていた。

 先程の会話から救援要請を受けてくれたと思われるギルド長の知人。

 ギルド長が断言していた故にその実力を疑うわけではないが、どのような人物なのか受付嬢は気になって仕方なかった。

 そんな受付嬢の気持ちを察してか、ギルド長は机に頬杖をついて溜め息を吐いてから忠告する。


「……他言無用だよ?」

「っ……は、はい!」


 いつにも増して真剣な表情で言われた言葉に対し、受付嬢は背筋を伸ばした。

 少し上擦った声で返答すると、ギルド長は呟くように語る。


「アルケミーさ」

「アルケミー……って!?あの天才錬金術師の!?」

「本人はそれを否定するだろうが、世間一般ではそんな風に言われているね」


 アルケミー。

 世界中でこの名を知らない者の方が少ないと思われる程の有名人の名前がギルド長の口から出て来て受付嬢は度肝を抜かれた。

 天才錬金術師アルケミー。

 アルケミーは本名ではなく、それを知る者はほんの僅かと言われている。

 アルケミーの名が有名な理由。

 それは一重に、彼が作り出す魔剣の性能の高さ故だろう。

 超一流の歴史上優れた錬金術師の作り出した『六剣』。

 その他S級と認定されている魔剣には及ばないものの、彼の作り出す魔剣はA級とS級の中間と言われている。

 更に彼が天才と言われる理由、それは作り出した魔剣の多さ。

 錬金術師が魔剣を作るのは稀である。

 錬金術師と言えばポーションの作成や便利な魔導具の作成が主であり、魔剣は作るための費用、難易度が高く、利益率が低いという理由からあまり作られない。

 それに対しアルケミーは数多くの魔剣を世に出している。

 それは彼が魔剣専門の錬金術師であり、尚且つ魔剣をいとも容易く作り出すその高い技術故だ。

 彼の魔剣の中で最も有名なのはA級魔剣『飛燕』。

 その性能は至ってシンプルで、剣筋が速くなるというもの。

 しかしその力は使い手によって大きく左右され、現在の持ち主である『剣舞』ならば音を置き去りにする程の剣速であるとか。

 これが受付嬢の知るアルケミーという人物の情報。

 しかしここで一つ疑問が浮かぶ。

 確かにアルケミーは凄い人物である。

 だが天才錬金術師であって剣士ではない彼が救援に向かっても大丈夫なのだろうか。

 そのように考えているのを受付嬢の表情から読み取ったのか、ギルド長は小さく笑う。


「彼は渡しに行っただけだろうね」

「渡す?何を?」

「彼が渡す物と言ったら一つだよ。後は『白狼』次第……かな」

「まさか……アルケミーの魔剣を『白狼』に!?」


 アルケミーの魔剣と言えば最低でも金貨500枚は必要な程高額な物だ。

 アルケミーは魔剣を時折オークションに出品する。

 その性能はA級であったりC級であったりと様々であるが、その製作者の名前のブランド力から常に高額で落札されると有名だ。

 それを一介の冒険者である『白狼』に「渡す」と聞いて受付嬢は驚きのあまり開いた口が塞がらない。

 そして同時に納得も出来た。

 ギルド長が何故ここまで落ち着いているのかを。

 下手をすれば街にA級の魔物が襲ってくる可能性がある状況で、これ以上何かをしようとする素振りがないのかを。

 そんな受付嬢の様子を見てギルド長は小さく笑った。


「さぁ、異例ではあるが準備をしなければね」

「何をでしょうか?」

「B級認定試験の準備さ」

「ほ、本気ですか!?『白狼』はまだC級に上がって間もないのに!?」

「ブラッディファングを討伐したとなれば実績は十分だろう」


 冒険者登録をしてから一年の『白狼』がB級認定試験に挑む。

 こんなにも早くランクを駆け上がった例など過去にあっただろうか。

 あったとしても恐らくそれは過去の英雄たちと並ぶ程の超人たち。

 現に目の前に座るギルド長であってもC級まで上がるのに一年半、B級に更に一年、A級に上がったのは『影斬』を手に入れた故の特別昇級だったと聞く。

 それ程までに険しい道のりをあんな幼い子供が一年で駆け上がっている事実に受付嬢は驚嘆する。

 そしてそれと同時に歓喜した。

 B級冒険者にはある程度の地位と権利が与えられる。

 それを使えば『白狼』は奴隷ではなく普通の冒険者となることが出来る。

 最終的には本人次第となってしまうが、それでもギルドが介入しなくても本人の意思で奴隷解放を望むことが出来るのは大きい。

 それを考える受付嬢は内心でほくそ笑み、『白狼』が無事に凱旋することを願った。



「はぁあああ!!!」

「グガァッ!!!」


 激しい衝撃と共に幼女と狼の間に距離が出来る。

 幼女は全身に軽傷を負い、血だらけの状態。

 対する狼は血でドス黒く変色してはいるがその全ては返り血であり、狼自身にダメージは皆無だった。

 ブラッディファングと接敵してから約数分の攻防で既に勝敗は見えたと言っても良い。

 両者の戦いを遠巻きに眺める青年は水袋を取り出して喉を潤す。

 これでもし死んでしまったらどうするか。

 目の前で今にも死にそうな幼女を眺めながら青年は考える。

 ……それならそれまでか。

 青年は幼女の戦いを観察する。

 幼女に新しく渡した魔剣、適当に名前を付けた、えっと……そう、『乱風刃』。

 いや、『嵐風刃』?まぁいい。

 あれは言ってしまえば『風刃』を作る過程で出来上がった失敗作の失敗作。

 手軽に威力の高い風の刃を作り出せるようにするため、『風神』を設計のベースに用いているが出来上がったあの魔剣は酷いものだった。

 手軽とは正反対のピーキーな性能の『激風刃』。

 魔力制御を少しでも誤ると風の刃が暴走し、魔剣所持者が傷付くという最悪なものだ。

 その制御に苦労しているらしく、魔物から受けた傷よりも魔剣の暴走で受けた傷の方が多い幼女。

 何度かそれなりの風の刃を出しているが、そんな中途半端な攻撃がA級の魔物に効くはずもなく無残に掻き消されていた。

 幼女が狼に勝つ方法はただ一つ。

 あの失敗作の魔剣をこの場で使い熟すこと。

 そうすれば威力だけは『風神』の一歩手前までは出せる性能だ、理論上は。

 再び魔剣と魔物の爪がぶつかり合う音が響き渡る。

 直接攻撃を受けてもいないのに自分へと跳ね返ってくる風の刃が腕に刻まれ、苦痛の表情を見せる幼女。

 買ってから一年、まぁ割と持った方だろう。

 今までの奴隷はどいつもこいつも半年も持たずに死んだ。

 早い奴だと数日なんて奴もいた。

 そう考えればポチは優秀だ。

 しかし未だあの程度の魔剣も満足に扱えないとなると話は変わる。

 魔剣も碌に扱えない無能になんて用はない。

 奴隷の使い道なんてのはそれ以外に無い。

 実戦での試し斬り。

 数多くの魔剣を作り、魔剣の性能を実戦で試し、問題点を洗い出し、改善策を考え、また新たな魔剣を作る。

 青年は錬金術師。

 作り手であり、使い手ではない。

 それを青年自身は嫌という程理解している。

 故に青年は作ることのみに専念する。

 だからこそ、その性能を逐次確認するために、使い勝手の良い使い手が必要だった。

 その上で奴隷というものが青年にとって最も理に適っていた。

 使い易く、使い潰し易く、他に情報が漏れる心配がない。

 一つ懸念材料があるとすればそれは使い手の練度。

 弱い魔剣の試行回数が増えた所で大した発見はない。

 A級魔剣の試行回数を増やしたい青年にとっては幼女との一年も大した意味を持っていなかった。

 最初はそんなものだろうと高を括っていた青年だったが、そろそろ潮時と感じていた。

 故に、今回の命令無視は良い機会だったかもしれない。

 敗北は許されない。

 幼女に対し青年はそう言いつつも、内心では負けると踏んでいた。

 確かに自身の作る魔剣がA級の魔物程度に敗北するのは業腹であるが、既に検証を終えている魔物に関してはどうだって良い。

 だからこそ青年は幼女には扱えない魔剣をわざと渡した。

 扱えずに敗北するならそれまで。

 扱えて勝利するならばまだ使う。

 今回に限って、青年は魔剣の試し斬りではなく幼女を試していた。

 もはや同じような光景の続く攻防。

 治してやった前よりも傷だらけで、魔力もそろそろ底が見え始めるくらいに浪費し、疲労も限界に達しようとしている幼女。

 手には目の前の魔物を仕留めることの出来る性能を持った魔剣があるにも関わらず、自らの実力が不足しているがために勝利を掴めない状況に歯を食いしばる幼女。

 そんな姿を冷めた目でジッと見つめる青年の脳裏には、その姿とは全く正反対の光景が映し出されていた。

 何故今そんなことを思い出してしまったのか。

 似ても似つかない幼女の姿に何を感じたというのか。

 青年はこめかみを押さえて思考を切り替える。

 新しい奴隷は既に当てがある。

 幼女の時以上の前金を払っているのだ。

 これで無能を連れて来ればあのいけ好かない男を殺したって文句は言われないだろう。

 そうして良いくらいにはあの男には良い思いをさせてやっている。


「そういや、まだエルフは試したことがなかったな……」


 早くに結果を求めていたが為に今までは身体能力の高い獣人を選んでいたが、この数年で落ち着いてきた今、それ程早さを求めていない自分がいることに青年は気付いた。

 落ち着いた、ということが感情が薄れてしまっているせいとは考えたくはないが、青年はより良い結果を求める為にはもっと時間が必要だと考え直す。

 その点で言えばエルフは良いかもしれない。

 魔法に関してこの種族の右に出るものはいないとまで言われ言われる程の素質を持つくらいだ。

 当然のことながら魔剣を扱うのに必須な魔力制御などお手の物。

 実戦で扱えるかは訓練次第だが、エルフならばA級の魔剣も早くに扱えるようになるかもしれない。

 帰ったらあの男にまた会いに行くか。

 そうして考えがまとまった頃、幼女は地に伏せ、狼が咆哮を上げていた。


「ガオォオオオオオオオン!!!」


 負けたか。

 多分良い戦いだったのだろう。

 よく見れば狼の前足に一筋だけ真新しい斬撃の痕が残っている。

 決死の一撃、とでも言えば良いのだろうか。

 最後の最後で『豪風刃』の本来の性能を偶然引き出せたと言ったところか。

 さて、帰っ──


「──『白狼』!?」


 咆哮を上げている狼を放置して踵を返そうとした時、青年とは真逆の離れた場所から声が上がった。

 まだ若い青年の声だった。

 恐らくブラッディファングの情報を聞きつけ、駆け付けに来た冒険者だろうと青年は推測する。

 まだ情報が出た当日。

 応援要請が王都に届いているはずもなく、あのギルド長が直接青年に頼みに来たことを鑑みれば、街にA級魔物と戦える冒険者など存在しない。

 運良く偶然街を通りがかった実力ある冒険者が……なんてのは都合が良すぎる。

 それに青年は先程の声に聞き覚えがあった。

 思い出すだけでも胸糞悪い『煉獄』を所持している赤髪の冒険者。

 何故それをあんな無能が持っているのかは不明だが、その性能を発揮し切れていないのもまた腹立たしい。

 青年は振り返ることなくその場から立ち去ることを選んだ。

 どう足掻いても戦況は変わらない。

 魔剣の性能だけは共に戦えるレベルに達しているが、使い手がそのレベルに達していない。

 現実とは非情なものだ。

 こんな窮地に陥った時、物語の英雄なんかは眠っていた本来の力が目覚めたりするものだが、そんなものはあり得ない。

 そんなものがあり得るなら……っ!


「……馬鹿馬鹿しい」


 青年は一瞬歯を食いしばったが、その後直ぐに溜め息を吐き、愚痴をこぼして歩き始めた。

 恐らく幼女の息はまだあるだろう。

 赤髪の冒険者が助けようとするだろう。

 狼はそれを許さず攻撃するだろう。

 そして仲良く二人は死ぬ。

 どのような過程を経ようとも、結末は変わらない。

 例え青年が介入したところで変わらない。

 同じでも、同じじゃない状況。

 過去と重なる状況から逃げるように青年は足早にその場から去って行った。



 帝国の辺境の街に二人でパーティを組む冒険者がいた。

 一人は男で一人は女。

 あぁ、良くある冒険者同士がくっ付いたパターンの話か、とは少し違う二人。

 男は中肉中背、イケメンでもブサメンでもないフツメンの黒髪青眼の青年。

 特徴的というか特徴がないというべきか、冒険者として男を見た場合、何の職業なのか判断しづらいという特徴を持つ。

 何故なら装備がただの服なのだ。

 街中にいるような普通の服。

 きっと彼の私服なのだろうシャツとズボン。

 動きやすくはあるのだろうが、森や山に入って魔物を倒す冒険者としては何ともお粗末な装備だ。

 せめて急所くらいは守れる防具を着ろと誰もが言いたくなる。

 対する女はこれはこれで特徴的。

 まず人族ではなくエルフ族で、種族特有の長い耳を持つ。

 髪の色は燻んでおり、元は美しかったであったのだろう金色。

 汚れて煤けた肌は見る者を同情させる。

 顔立ちはエルフであれば当然とはいえ、それでも尚言いたくなるくらい幼いながら整っているが、その瞳は生気を失い、森のような鮮やかな深緑の筈が黒く見える。

 年はまだ幼く、青年が成人の十五をとうの昔に過ぎた二十歳くらいで、少女はまだ成人前の十歳といったところ。

 そして特徴的なのはそれだけでなく、少女の装備を見た者は更に驚く。

 腰に携えた剣、急所を最低限守れる程度の汚れた皮鎧、ギリギリ前衛職の剣士であると分かる。

 ただの一般人と少女、いや幼女剣士。

 そんな凸凹な二人の冒険者。

 しかし、これでも彼らはこの街で最強の冒険者パーティ、『金色』と呼ばれている。

 そこに男の要素は一切無い。

 人々は彼らのことをこう評価している。


『最狂のクズと悲劇の剣士』と。


「と、いう訳で……その……実際のところ、どうなのですか?」

「えぇ、巷の噂通りですね」

「そ、そうですか……」

「噂の通り記事をお書きになれば良いかと思いますが、まぁ『最狂のクズ』というのは少し気になりますのでもう少しマシな表現をしていただけると助かります」

「えっと……はい、分かりました……」


 場末の酒場にて面と向き合って話す黒髪青眼の青年と帝国内で色々と噂の絶えない『金色』取材をする記者。

 差し当たって記者が持っている巷の噂程度の話を振ってみた結果が今の状況だった。

 記者にとって今回の取材はあまり気に乗らなかった。

 帝国の辺境とは言えそこで実力を伸ばし、B級にまで半年で到達した異例の早さ。

 それだけならば是非とも取材したいと思うのだが、記者はその裏に隠された……いや、全く隠れていない様々な話を聞いて会いたくないと感じていた。

 今回の取材では上からその辺りの真実を聞いてきてくれと言われているが、既に答えは出ているようなものだった。

 青年の落ち着き過ぎている態度に困惑しながら記者が黙り込んでいると、テーブルに置かれたエールの入ったジョッキを煽って喉を潤した青年が話を振ってきた。


「何か他に質問は?」


 そう聞かれた記者は足元をチラ見し、固唾を飲むと同時にいろいろと聞きたいことも飲み込んでから口を開く。


「で、では、今最も帝国で勢いのある『金色』ですが……最近王国で同じくらい勢いのある『白狼』……いえ、『白炎』に関して……何かあれば……」

「『白炎』?『白狼』なら聞いたことがありますね」


 記者が絞り出した質問に対して青年は淡々と答えた。

 知名度で言えば遜色ない二つのパーティであるが、その印象、イメージは全くの真逆。

 『金色』を黒とするならば『白炎』はその名の通り白。

 あちらは悪い評判など一つも聞かない。

 記者としてはあちらの取材がしたいものだと内心思うが決して顔には出さないよう注意する。

 それにしても『白狼』とは面白い名前が出てきたものだ。

 帝国にまではあまり話が回っていなかったが、王国内ではそこそこ噂になったパーティだ。

 しかも『金色』と似ている。

 そんな事を考えながら記者は話を続ける。


「そ、そうでしたか……えっと……『白炎』とは『白狼』の剣士とソロで活動していた剣士がコンビを組んで結成した新しいパーティでして、ランクは『金色』と同じB級。冒険者パーティでは珍しい二人共魔剣使いとあって、王国では飛ぶ鳥を落とす勢いらしいです……」

「へぇ、それはそれは」


 何処か興味深そうな表情で頷いてみせる青年。

 やはり同じような構成である『白狼』を知っているだけあって何か気になることでもあるのだろう。

 記者はそう思いながら更に質問を重ねる。


「共に新鋭の冒険者パーティとしては気になってきたのではありませんか?」

「そうですね。きっと優秀なお二人なのでしょう。こちらは実質一人ですから、頑張っていただかないと」

「ッ!?」


 笑顔で記者に応対する青年。

 しかし言葉の最後を言い終えると共に動いた右足。

 その右足は酒場の綺麗とは言えない床に直に座る金髪幼女の脇腹に刺さり、幼女は苦痛の声を必死に殺して耐えていた。

 この金髪幼女こそ噂の『金色』の主力、いや、唯一の冒険者である。

 いくら奴隷とは言えこの扱いは酷過ぎる。

 一般的な奴隷の扱いはここまで酷くない。

 最低限の人権は守られるのが昨今の普通である。

 時には酷い折檻を受ける奴隷もいるだろうが、それでもたまにだ。

 ある程度ちゃんと管理しなければすぐに潰れる事を理解している飼い主たちが多い中、ここまで酷使するような者はそういない。

 幼女の辛そうな姿から目を逸らし、狼狽えながらも、記者は少しだけ幼女意見が知りたかった。


「っ……そ、そう、ですね……えっと、そちらの方の意見は……」

「おい、記者さんが聞いてるだろ、早く答えろゴミ」

「ッ……特に、ありません……」

「だそうです」


 聞かなければ良かったと思ったのは後の祭りだった。

 記者の質問のせいで幼女は青年に再び蹴られ、苦痛に耐えながら、青年の起源を伺いながら小さな震える声で答えた。

 それを聞いて青年は先程から変わらない仮面のような笑顔で締めくくった。


「そう……ですか……では今回の取材はこれで……」

「はい、またよろしくお願いします」


 最後まで変わらぬ青年の笑顔、その足元で死んだ目をしている幼女。

 その二つを同時に見なければならない精神的苦痛に耐えられず、記者は予定より随分早くに取材を切り上げて逃げるように酒場から出て行った。

 それを笑顔で見送り、記者が出て行ったのを確認すると青年の着けていた仮面が外れた。

 表情が無く、何を考えているのか分からない怖さを持つ仮面のような青年の素顔。

 記者が置いて行った報酬の入った袋を手に取り、その中身を確認しながら呟くように言う。


「『特にありません』か……そこは『死ぬ気で頑張ります』くらい言えないのか?ゴミ」

「も、申し訳ありません……ッ!」


 ゴミと呼ばれた幼女は震えながら青年に謝罪する。

 謝罪しても蹴られることには変わりないが、謝罪しなければもっと痛くなることを幼女は体で覚えていた。

 青年の言うことに意を唱えればどうなるか、嫌という程骨の髄まで染み込んでいた。


「A級が扱えなきゃ話にならん。それ以下はゴミだ。良いな?」

「はい……」

「B級までに半年もかかってるんだ。そろそろ、分かるな?」


 表情の乏しい、幼女の事など何とも思っていない顔から放たれる冷たい視線。

 その目を向けられると幼女の体は凍ったように固まってしまう。

 しかしそのまま何もしなければ教育が待っている。

 幼女は震えながら頭を回転させて答えを導き出す。

 少しでも痛くならない答えを。


「はい……死ぬ気で、頑張ります……」

「うん、偉いぞ、ゴミなりに学習してるじゃないか」

「ありがとうございます……」


 表情が少しだけ綻び、幼女に向けて笑顔を見せる青年。

 しかしその目は全く笑っておらず、視線は冷たいまま。

 こういった時、碌なことがないのは分かりきっていた。


「さて、取材費で稼げたし、飯でも食いに行くかな」

「分かりました……」


 青年が立ち上がったため幼女もそれに続いて立ち上がる。

 飯ということは今日はもう特に何もないのか、と安心した幼女に対し、それを見越したかのような青年の言葉が幼女に突き刺さる。


「ん?お前はワイバーン狩るノルマがあるだろう?」

「え……今日も、今から……ですか?」


 幼女には冒険者となってから常にノルマが提示されていた。

 毎日毎日、休むことを許されず、どれだけ体調が優れなくともノルマを達成することを課せられていた。

 B級になってからのノルマはワイバーンを十体狩ること。

 ワイバーンの巣のある山岳地帯へ行き、多数のワイバーンに一人で応戦しなければならないこのノルマは一日がかりで、既に昼を過ぎたこの時間からだと確実に今日中に街へ帰ってくることは不可能だった。

 つまりは単独での野宿が必要となる。

 しかしそんな装備を青年が用意してくれているわけもなく、ただただ冷たい視線だけが突き刺さり続ける。


「死ぬ気で頑張るってのは、嘘か?」

「っ!?ご、ごめんなさい!ごめんなさ──」


 幼女が青年の眉の動き一つで青年の感情を察することが出来るようになったのは買われてすぐの頃。

 そうでなければきっと、幼女は今まで生きてこれなかっただろう。

 必死に頭を下げて謝罪する幼女だったが、青年はその声を煩わしそうに眉を顰めて力ある言葉を発する。


「──『黙れ』。周りに迷惑だろ?」

「ガッ!?ゴェッ……ァ……ッ!?」


 幼女の胸元に刻まれた奴隷の紋章が激しく光り輝く。

 その光は幼女に耐え難い苦痛を与える。

 死にそうな程の激痛に襲われる幼女が床にのたうち回る姿を見下ろしながら青年は淡々と告げる。


「じゃあ、ちゃんと十体狩ってギルドに報告出来たら、ご馳走をあげよう」

「ハァ……ハァ……ぇ?」


 漸く治った苦痛の余韻に耐えている幼女に対する青年の言葉に幼女は疑問が浮かんだ。

 ご馳走とは一体なんだろうか。

 幼女にとってのご馳走とは、既に薄れて忘れかけている少ない家族との思い出の中にある何の変哲も無い食事。

 あれが今では幼女にとってご馳走と思える程、普段幼女に与えられる食事は酷いものだった。

 そんな中告げられたご馳走という言葉に、ほんの少し期待してしまったのが間違いだった。


「宿の残飯を貰えるように店主に言っといてあげるよ」

「あり……がとう……ございます……」

「うん、じゃあ頑張ってね」

「はい……」


 もう、悲しくとも、辛くとも、涙が出なくなった幼女は、笑顔でそう告げた青年が酒場から去っていくのを死んだ魚のような目で見送った。



 翌日、街に帰ってきた幼女は久し振りに涙を流した。

本当は連載で割とほのぼのした感じのを書こうと思っていたのですが筆が進むにつれてどんどん悪い方向に向かって行くのが楽しくなってしまい短編にしました。

もし青年がポチをちゃんと助けていたらこんな結末ではなかっただろうなぁ(他人事)。

評判が良さそうならちゃんとポチ救出して続く連載を書く可能性が微レ存。

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[良い点] オチが胸糞悪すぎて最高。主人公がクズで感動しました。(一応褒めてる) [気になる点] 何故、エルフ幼女は涙を流したのでしょう……? 普通そこはエルフ幼女の使っていた剣と血痕が発見されて主人…
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