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停留所でしばらく停車した後、バスが動き出すとともに、バス内の照明が完全に落ちた。
車のモーター音と、タイヤのコーンクートと擦れる音だけが、世界を埋め尽くしていた。
男は隣で口を開けて寝ている。
僕はバス独特の脚の落ち着かなさと、安定しない首の位置に苦しめられて、よく眠れなかった。
車内の静寂は、妄想を連れてくる。
もし夢の国があるのなら。
僕は白馬の馬車も、ぴったり入る靴も求めなかった。
もし願いが叶うのなら。
僕は皆を助ける医者にも、世界を救う勇者にもなりたくなかった。
ただ君に会いたいと、叶わない夢を、叶わない願いを持ち続けている。
そして、毎日のように彼女を夢に見る。
その度に、どこか救われて、どこか遣る瀬無い気分になった。
今日は、より一層彼女に会いたいと思った。
多分、男の話を聞いたからだろう。
夢は、浅い眠りの時に見るという。
バスの居心地悪さの中で、僕は静かに目を閉じた。
○
僕の見る夢は、決まって輪郭がぼやけている。
僕と彼女は、夕暮れ時の電車に乗っていた。
周囲に人がいることはわかるのだが、どんな人なのか、性別、髪型、全て判断がつかなかった。
僕と彼女以外は、カメラで言うところの、白く飛んでいる状態なのだ。
絞りを合わせればその人たちの存在は確認できるのかもしれない。しかし、その必要は僕にはなかった。
僕にとっては、僕と彼女以外、必要な情報ではなかった。
○
夜行バスは止まった。
まだ眠い目をこすり、周囲を確認する。
バスの客員はまだ眠っていた。隣に座って寝ている男も、いびきをかいて寝ている。
別にトイレ休憩に止まった訳ではないらしい。
それに不思議だったのは、カーテンから溢れる無数の白い光だった。
妙に、懐かしい感じがした。
言葉通り、夢のようだった。
僕は男に邪魔にならないように席を立つ。
導かれるようにバスの出入り口へ向かった。