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08 ジュディとアリス

 今日二度目の激痛。

 しかし、今回はシルファの時より時間が短い。

 僕とジュディは、すぐ立ち直った。

 

 「ご、ごめんなさい。取り乱して、その、すみません。」

 

 原作よりずっと小柄な体で、必死にこっちに謝る。

 この子ジュディだ、間違いない。

 気の弱いところも、恐れ多いことも。

 変わってない。

 

 「いいえ、こちらこそ。」

 

 シルファとユリエさんは、「何かしたのか?」の目で僕を見る。

 してはいない、少なくとも意図的にやってない。

 でも、何と無く分かる。

 多分僕は、今後昔の仲間や敵と出会う時、この脳に走る痛みは伴うものでしょう。

 ユリエさん達から見て、僕がシルファと、ジュディに何かしたように見えるかもしれない。

 でも、この違和感は何?

 

 「ちょっと待って、君は?君は何ともないのか?アリス。」

 「なんの、ことかしら。」

 

 アリスはその年に相応しくない、妖艶の笑顔で僕に答える。

 アリスも、アリスも昔の仲間だ。

 なんで彼女は、なんで僕と出会って、無事でいられるのか?

 なんで、アリスだけは。

 

 「やはり何かをしたのか?ラインハルトくん。僕に教えてよ。」

 

 違う。

 

 「お知り合いですか?ライニ。」

 「ち、違います。」

 

 多分、動揺が全く隠せない僕。

 

 「でもライニ、お名前を…。」

 「……」

 

 うっかりアリスの名前を言ってしまった。

 言い訳が思いつかない。

 

 「彼とは、ラインハルトとは、まだ知り合いではありませんよ。シルエファナさん。」

 

 アリスは興味深くシルファを見る

 

 「やりましたね、ラインハルト。まさか彼女を。」

 「な、なんで私の名前を知っているんですか?」

 

 シルファ、名前がアリスに当てられて、驚きが隠せない。

 しかしどう言う意味だ。

 僕は何かやりましたのか?

 アリス、相変わらず意味深なことを言う。

 

 「謎の美少女エルフちゃんの情報が複数の人間に握っていて、僕だけ知らないなんて。調査員として、ショックだな。」

 「え?複数?なんのことですか、ユリエさん!」

 「いや、なんのことやら。」

 

 シルファはまた混乱している。

 けど今は、彼女を構う暇はない。

 アリス、やはり君は怪しい。

 君だけは怪しすぎる。

 まさか、記憶が?

 僕の、原作の記憶でもあるということですか?

 

 「アリス、さしぶりとはなんだ?言ったよね、僕に。」

 「それも、なんのことでしょうか。」

 

 アリスはまた、惚けた笑顔で僕を見つめる。

 白ばくれるな。

 きっちり聞こえた!

 

 「あたいは、ラインハルトの質問に答えただけです。」

 

 答えてない!

 あんなの答えにならない!

 

 「あたいは、ラインハルト様が話しかける前に、何を喋ったのか?」

 

 ユリエさん、頭を軽く振った。

 シルファも。

 まさか空耳?

 いや、アリス限って、違う。

 きっと何かをやったに違いない。

 けど、俺には分からない。

 

 「そ、その。勇者のラインハルトさん、ですね。私達に、何か用、ですか?」

 

 先から黙り込んでるジュディは奇妙な沈黙を破る。

 そうだ、ちょっと混乱していた。

 用事が忘れた。

 僕は、ジュディとアリスに、パーティーの誘いをしにきた。

 アリスはやはり胡散臭いか、ジュディだけは、どうしてもパーティーに参加させたい。

 

 「お手並み拝見させて頂きますよ、ラインハルトくん。」

 「ハードルを上げないでください、ユリエさん。」

 

 考えてみれば、パーティーの誘いは初めて。

 ニールとリズはもちろん、シルファも自分からパーティーに入った。

 大丈夫か?

 特に今の状況。

 なぜアリスはいた、ジュディとともに。

 アリスとジュディは、何かの接点はあったか?

 原作では、二人は同時に登場したことはない。

 仲良しの描写ももちろんない。

 ここで二人は出会う意味ってなんだろう。

 僕には分からない。

 何かの陰謀なのか、それとも、運命を変えるチャンスなのか。

 

 「ジュディ、アリス。僕のパーティーに、入ってくれないか?」

 

 余計な事を考えてず、まず誘いを。

 

 「え?!私ですか?私なんかで、いいですか。ゆ、勇者様ですね。私は…」

 「落ち着け。」

 

 アリスは軽くジュディの肩を叩いた。

 

 「先に言います。ジュディ・マックヒールは、すでにあたいとパーティーを組む約束をしています。」

 「「えっ?」」

 

 僕とユリエさん、同時に驚く。

 まさか、アリスは先手を打たれた。

 何企んでいるだ、この女。

 

 「うそ、ジュディ・マックヒールは、今年のシーフの筆頭学生。彼女に巡っての争奪戦は、激戦区ですよ。なぜ、名の知れないあなたが、彼女を勝ち取るこちが出来る?」

 

 アリスは無名か。

 なら無名のアリスは、なぜジュディとパーティーを組めた?

 

 「ひどいこと言わないでくださいよ。あたいだって、勇者のラインハルト様に、名前を知られている存在ではありませんか。どこであたいの名前を知ったのが分からないけど。」

 

 怪しい。

 このなんとも言えない怪しさ。

 何もかも、アリスの手のひら。

 

 「アリス、君達、2人のパーティーですか?」

 

 でもまだ大丈夫。

 

 「それは、はい。まだ2人だけです。」

 「こっちは4人だ、合わせばちょうど6人のパーティーになる。どう?」

 

 ジュディはアリスの顔を見る。

 あくまで自分の意見を言わないつもりか?

 つまり、選択権は、アリスにある。

 

 「お断り、させていただきます。」

 

 アリスは、きっぱり断った。

 何と無く、僕は分かっていた。

 

 「断るんだ。」

 

 ユリエさんの小声が聞こえる。

 彼女から見れば、勇者の誘いを断ることが珍しいだろう。

 しかしなぜだ。

 アリス、君の目的はなんだ。

 自分とジュディをぼくのパーティーから引き連れて、なんの為になるんだ?

 正直、ジュディとアリス。2人は僕の運命にとって、どうでもいいと思ったけど。

 しかしこのアリス、何かを隠している。

 彼女だけは、常に何かを隠している。

 原作も、今も。

 僕はポケットの真珠を触る。

 予知の力で、アリスを見る。

 

 「……」

 

 何も映らない。

 やはり。

 アリスは特別だった。

 

 「何か、あったんですか。」

 

 またアリス、知らないふりを。

 まるで僕のしてことは全て看破されるような。

 もう慣れて来た。

 

 「ジュディ、君はどうですか。僕のパーティー、自慢ではないが、みんな強くて、優しい人だ。」

 

 アリスはもういい。

 僕の手に負えない。

 しかしジュディは、ジュディだけは。

 多少醜いやり方でも、ジュディを連れ戻す。

 

 「その、でも。」

 

 ジュディは僕とシルファを見る。

 シルファは、大きく首肯く。

 もう一押しだ。

 

 「絶対、みんなで君を守ってみせる。」

 「私からもお願いします!大丈夫、きっとみんなで助かけ会う。」

 

 シルファはジュディの両手を握った。

 彼女の力は大きい。

 彼女のカリスマなら、ジュディを説き伏せる力がある。

 

 「私は。」

 

 シルファに手を握られ、彼女の表情は柔らかくなっている。

 

 「私達のパーティーに入ろ!」

 「は…」

 「あたいとの約束。」

 

 アリスの冷たい一言で、ジュディは竦む。

 溶けた表情は一瞬でフリーズした。

 空気が一変に。

 

 「ごめんなさい、ラインハルトさんのパーティーに入ることは、出来ません。」

 

 その表情は、分かる。

 原作、シルファがジュディを誘って、他パーティーに移ろうの時。

 ラインハルトが怖くて、反抗出来ない。

 その表情だ。

 アリス、君は一体何を。

 ジュディに何をした?

 

 「ジュディ、ダメだ。」

 「ライニ?」

 

 僕の異変を気づくシルファ。

 そして冷たい目で僕を見るアリス。

 

 「お前はこっちなんだろう!」

 

 自分も驚くぐらいの大声。

 

 「すみません。」

 「ライニ、大丈夫?」

 「行きますよ、ジュディ。」

 「はい。」

 「行くな!」

 

 ジュディとアリスは、背後振り向けなく、去っていた。

 

 「ジュディは、こっちにいなきゃダメなんだ!」

 「また言ってるのか、ちょっと見っともないじゃないか、勇者様よ。」

 

 シルファは何も言わず僕の手を握ぎ、心配そうに僕を見る。

 手に伝わる柔らかさと温かさは、僕を現実に連れ戻った。

 

 「ごめん、ちょっと動揺しすぎた。もう大丈夫だ。」

 「凄く必死だったよ、ライニ。」

 「ああ、どうしてもパーティーに入れたい二人なんだ。」

 「そ、そうですか。わ、私は?」

 「シルファもだよ。6人なんだから。」

 「そ、そうですか。」

 

 シルファは恥ずかしいながら、握る手を離さない。

 やばい、やり過ぎた。

 にしても、シルファはちょっと大胆。

 

 「お二人、いちゃいちゃするのもほどほどにね。」

 「え?あっ!すみません!」

 

 シルファ慌てて僕を解放する。

 やばい、シルファが僕を懐くのが早すぎる。

 フィアンセのリズという釘でも、こうなるのか。

 ラインハルトのどこがいいんだ。

 

 「でも驚いたよ、勇者の誘いを断るなんて。」

 

 ユリエさんには、先と同様、どうもアリスとジュディの決断が理解出来ないようだ。

 

 「誰だって断る権利あるよ。」

 「いやはや、中々出来ないよ。冒険者にしても、女にしても。」

 

 そう言って、ユリエさんは意図的にシルファを見る。

 シルファは可愛く顔を背けた。

 うちのパーティーメンバーいじめないでほしい。

 

 「でも、ラインハルトくんがジュディ・マックヒールを候補にした時、僕はてっきり6人目はアンジェリーナ様だと思ったよ。まさか最後はあのアリスって子を選んだよね。」

 

 アンジェリーナ?

 誰?

 

 「結局二人とも失敗ですけどね。ところで、アンジェリーナさん?どなたのことですか?」

 「まったまた〜」

 

 なに?有名?

 正直、存在感のある原作未登場人物は怖い。

 ニール同年代の強者なら、原作に全部出てたはず。

 新キャラの出現は、すなわち異変を意味する。

 

 「ライニ、アンジェリーナさんのこと知れないの?」

 

 知れない。

 シルファも知ってる、僕は知らない。

 誰だろう。

 シルファの友達、原作に出てない友達?

 

 「この名簿の一番目玉の子、聖女アンジェリーナよ。知らないふりもほどほどにしてよ、この場所、この王都の人間、全て彼女のことを知ってますよ。」

 

 いえ、本当に知らない。

 聖女?

 聖女なら、西の国である、原作「聖女救出編」の新ヒロイン。

 シルファと同じぐらい、世界一、二を争う美貌で、ニール4番目の恋人のことじゃない?

 でもあの子の名前は、ソフィーリア・オヴィナル。愛称ソフィ。

 あの子以外また聖女がいるの?

 アンジェリーナとはなんだ。

 

 「とりあえず、僕のパーティーは暫く4人で行くよ。」

 「え?本当ですか?僕を惑わすつもり?」

 

 ユリエさん、また不信そうに僕を見る。

 

 「何で僕はユリエさんにそんなことする必要あるですか。」

 「ライニ、本当にアンジェリーナさんうぃ誘わないですか?アンジェリーナさんはこの国の教会の聖女、最強の治癒魔法が使えるお方です。私とも知り合っています、きっとお役に立ちますよ。」

 

 シルファの、知り合い?

 原作では全く触れないのに。

 

 「ええ?エルフちゃん、アンジェリーナ様と知り合いなの?どういう関係ですか。」

 「あっ!いいえ、なんでもないです、口走っただけです。私は通りすがりの普通のエルフ弓手です。」

 「うっそぉ〜」

 

 やらかしたシルファは黙り込んでいた。

 しかし、聖女。

 彼女のことは、慎重に扱わなければ。

 

 「とりあえず、残り二人のメンバーは、やはりジュディとアリス、この二人で行きます。アンジェリーナさんのことは、僕はまだ会ってないので、彼女と接触してから考えてます。」

 「さすが勇者様、聖女を補欠に当たるとは。余裕ですね。」

 

 ユリエさんはちょっと皮肉をまじえながら、僕を揶揄う。

 元メンバー二人の離脱、明らかに重要キャラであろう原作未登場人物。

 冒険学園の初っ端から、上手くいかないようだ。


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