07 悪役勇者は、残り二人のメンバーを探す
「ホジョハレ」では、ラインハルトの勇者パーティーは六人。
剣士のラインハルト、魔法使いのエリザヴェータ、補助魔法しか使えない魔法使いのニール(主人公)、アーチャーのシルエファナ。
そしてこの世界に転生した僕は、既にこの四人を確保している。
残りは二人。
シーフのジュディと、ガンナーのアリス。
原作では、ニールとシルファは主人公とヒロイン。
ラインハルトとエリザヴェータは悪役。
ジュディとアリスは、悪役のモブ。
シーフのジュディは、気が弱い、幸の薄い女の子。
盗賊の腕ならA級冒険者の中でも一流。
彼女はラインハルトの暴威にビビって、彼の言うことは大体大人しく服従する。
初登場は原作の一話、ラインハルトがニールを追放する時。
シルエファナは、辛うじて追放の決断を多数決に持ってきた。
ジュディは内心ニールの追放を賛成していない、それでも手を挙げた。
自分の決断で、自分を追い詰めた。
ニールがを抜けたせいで、勇者パーティーの活動が以前のようにうまく行かない時。
彼女はニール替わり、常にラインハルトの八つ当たりの対象となる。
ラインハルトとエリザヴェータのやること、気に食わないシルファは、ジュディを連れて別のパーティーに入ろうと誘った。
けど気の弱い彼女は、やはり大丈夫だと、シルファを断った。
こんな軟弱なジュディを見て、はじめてシルファはこの勇者パーティーのことを断念した。
辞退。
そして、ジュディはもう一度、自分の決断で自分を追い詰めた。
シルファが辞退する次の日、ジュディはラインハルトに襲い、乱暴された。
絶望である。
そこから、彼女はあんまり喋ることもなく、ただ勇者パーティーの仕事をこなすだけ。
原作、「聖女救出編」の時、ラインハルトはニールをはめようとし、ハーレムの女の子達に返り討ちにされた。
ラインハルトとエリザヴェータは重傷を負い、勇者パーティーはそのまま解散した。
まぁ、それは一回目の解散だけだ。
しかし一回目の解散を機に、ジュディはシルファとハーレムの女の子達に助けられ、実家に帰った。
以後、再登場することなく。
もう一人、ガンナーのアリスは、謎のキャラ。
原作の最初、パーティー六人の一人なのに、登場していない。
温泉街の卒業旅行を丸一年満喫したとのこと。
彼女がサボったせいで、勇者パーティーは常に5人。
彼女の登場は、原作の中盤から。
ラインハルトが一時退場した、「聖女救出編」の、次の次の章。
丸一章休んだラインハルトの完全復活に伴って。
彼の新しい勇者パーティーに、アリスはいた。
アリスは、勇者パーティーの一員というより、真のリーダー的存在。
底知れない能力、所々出る腹黒さと黒幕疑惑発言、なにより彼女の指揮で、勇者パーティーはかつてないぐらい行動力を発揮した。
けどその後、結局ラインハルトとエリザヴェータはボコボコにされ、二度目の解散になる。
しかし彼女だけは、蝉の殻。
読者はよく彼女のこと、「黒幕」、「ラスボス」とか言った。
けど、物語の最後、魔王が倒されて、ラインハルトが処刑される時でも、彼女は何もしなかった。
二回目の解散と同時に、消え去った。
読者は「何なんのこのキャラ?」「作者に忘れた。」ぐらいしか、言い様がない。
この二人が、当然シルファぐらい重要な人物ではなく、僕とリズ今後の運命に関わることはないだろう。
それでもこの二人を、僕のパーティーに入れて欲しい。
特にジュディのほう。
ジュディは多分、エリザヴェータの次に、ラインハルトに深く傷つけた女の子のランキングの二位だ。
いや、デブ姫もラインハルトに利用された、使い捨てされたから、並んで二位か?
けどデブ姫の場合、ラインハルトは彼女に性的欲望がないのに、行為に至ったので、傷付合うことになるから。
やはりジュディは二位だ。
僕は、新生・ラインハルトとして、彼女に償いたい。
原作では、彼女は性格弱く、幸の薄い女の子、きっと今後もロクな男と友達に出会わないだろうと、シルファの精霊の一人が彼女に教えた。
きっとその設定、この世界にでも通用するだろう。
だったら、歴史を改変する可能性を持つ僕が、ついでに彼女を助ける。
少なくとも、彼女を傷つけないようにする。
アリスの方は、どうだろう。
アリスの性格は腹黒しか分からない。
人格もよく分からない。
でも運は凄く強そう、何せ一度もやられたことないから。
彼女をパーティーを入れるには、彼女を救うという大層な理由はない。
成り行き、なんとなく彼女をパーティーに入れたい。
一人だけ原作と違うのが、違和感を覚える。
彼女の実力も強そうだし。
どれぐらいは知らないけど。オーラーだけは最強クラス。
しかしデメリット、彼女の神出鬼行、そして長時間無断欠勤。
何とかなるといいだけど。
「ユリエさん、ついでにもう一人の名前、確認してくれませんか?」
「まだあるの?さすが勇者ね。名前は?」
「ジュディです。」
「ジュディね、家名は?」
「家名は知らないです。」
本当のことです。
ジュディとアリス、原作では家名は書かれてない。
「またまたぁ。」
またユリエさん、不信そうに僕を見る。
シルファの時は失敗してから、今度は隠すつもりか?
でも、今度は本当に知らない。
「まぁいいわ、その子、職業希望は?それを知ったら探す手間は省けるけど。」
「多分シーフ。」
「シーフ・・・」
ユリエさんは「シーフ」の言葉を聞いて、呆れた顔
「どうしたですか?」
「いやどうしたも、僕を揶揄うのをやめてください。」
「はい?」
本当に、なんのことが、分かりません。
「すみません、揶揄うつもりはないです。ジュディ、それともシーフという職業は気に障ったのか、教えてください。本当に知らないです。」
「まぁ、ラインハルトくんを信じよう。シーフ希望のジュディといえば、多分ジュディ・マックヒールのことだと思う。」
「分かりますか?」
「我々業界では有名ですね。」
なるほど、ジュディは有名人だったか。
それもそうだ。
彼女は将来、優れたA級冒険者になるだから。
シルファみたいに個人情報を隠してないなら、当然調査員の情報網に引っかかる。
ユリエさんは資料を見ず、ジュディの情報を洗い出した。
「天才までには行かないが、注目の秀才ですね。父親はA級冒険者のシーフ、彼女も小さい頃、盗賊スキルをマスターしていた。今回のシーフの特待生枠、一番の有力候補。また容姿も可愛いし、えっと、六位ですね。」
ジュディはリズの一位上か。
どうかな。
好みは人それぞれだけど、身内贔屓かもしれないが、僕は完全リズの方が上だと思うなぁ。
今の彼女は気品もよく、スタイルだってジュディよりいい。
原作のイラスト、凄い巨乳らしい。
「六位か、判断基準ってなんだろう。」
「あら、可愛いフィアンセを贔屓するか?」
「いえ、そのつもりは。」
「いいの、いいの。まぁ、そのフィアンセは原因でもあるよ、婚約があるなら当然株は落ちる。伯爵の娘さんは、フリーだったらもっと上位になってもおかしくないよ。」
はぁ?
今すぐ、心の中リズの株が落ちた奴を、殴りに行ってもいいか?
「でも、驚いたよ。まさかラインハルトくん、あんな隠し玉を持ってるなんで。あの子なら余裕で一位よ。いや、そもそも僕は、彼女以上の美少女を知らない。まさかラインハルトくん、わざわざ見せびらかしてるじゃないわよね。」
「そんなつもりないです、誤解です。」
「まぁいいわ、お陰で貴重な情報が貰ったけど。」
「何の話ですか?」
いつの間にか、シルファはテストを終え、ここに戻った。
「な、何でもないです。どうですか、テストのほうは。」
「お陰様で一位です。」
「おめでとうございます。」
「ありがとうございます、ラインハルト、さん。あっ、まだ自己紹介をしていませんね。私はシルエファナです、家名はありません。見ての通りエルフです、本来なら隠すつもりだけど・・・まぁ、よろしくお願いします。」
「よ、よろしくお願いします。僕はラインハルト・クロスナイトです。」
見なくても分かる、僕はユリエさんに怪しんでいる。
幸い彼女は、僕がシルファのフルネームを知ってることを、指摘するつもりは無さそうだ。
「僕は次のパーティーメンバーを探すけど、シルファさんも一緒にどうですか?今後の仲間を見に。」
「し、シルファ・・・」
やばい、つい愛称で呼んだ。
シルファは照れくさく、下をむいた。
これはまずい。
「し、シルファと呼ぶなら、いっそのこと呼び捨てにしてください。」
彼女はちょっともじもじして、上目遣いで僕を見る。
やばい。
可愛いすぎる。
「じゃあ、僕のこともライニと呼んで欲しい。仲間もそう呼んでいる。」
「ら、ライニ。」
何か僕も恥ずかしくなって来た。
シルエファナはラインハルトをライニと呼ぶ日が来るなんて。
「ドゴンっ!」
何か後ろに、鈍い音がした。
「どうしました、ユリエさん。」
「いえいえ何でもありません。ただ婚期を逃した一女性として、今目にした輝かしマセガキのイチャつく光景の感想を形にするだけです。」
「すみません。」
「ううん、嫉妬深いお姉さんが悪いから。」
僕も調子が乗りすぎた。
あんまりにもシルファが可愛いから、ついやっちゃった。
これはしょうがないだ、男なら。
シルファは、ニールの女だ。思い出せ!
感謝するよ、ユリエさん。お陰様で目が覚めた、
「ライニ、この方は?」
「冒険者ギルドのユリエさんです、今彼女に頼んで、仲間探しの手伝いをしているところです。」
「シルエファナです、よろしくお願いします。」
「はいはい、よろしく。」
ユリエさんは、僕とシルファをシーフスキルのテスト会場まで案内する。
その間、僕はリズとニールのこと、そして次に会うジュディのことを、シルファに紹介する。
「許嫁って、ライニは婚約を約束されている方ですか?」
リズのことを話す時、シルファの驚きは隠せない。
ちょっと寂しい表情。
自意識過剰なら良かったけど、でももしかすると、シルファは僕に恋愛感情を持つようになったら、これ以上まずいことはない。
シルファはニールの正妻だ。
他人の恋人を奪うのは、ある意味原作のラインハルトより悪質。
死に至る行為だ。
先の僕は取り乱した。
ユリエさんがいないと、危ないところだった。
ここはきちんと、その線を絶ちる。
「エリザヴェータ、リズは、僕の自慢のフィアンセです。」
「そ、そうですね。ラインハルト様みたいな優秀なお方は、婚約が約束されない方がおかしいですね。」
「正気?」と言わんばかりの顔で僕を見るユリエさんは無視。
僕だってシルファが大好き。
前世、「俺の嫁」の夢を叶うチャンス。
けど、そんな僕でも、やっていいことと悪いことは分かる。
ラインハルトの二の次は嫌だ。
そして僕はリズ一筋だ。
そもそも、正常のルートでは、シルファは必ずニールの恋人になる。
僕はそっと彼らを見守るだけでいいだ。
「いたよ、ジュディ・マックヒール。顔は覚えているよ。」
その指の先、小さな影を見る。
ジュディだ、随分幼いけど。
「また?」
脳の底を掻き混ぜる痛感は瞬く間、襲来。
ジュディも同じか。
苦し紛れにジュディの方を見る。
彼女もまた、頭を抱えている。
そしてその傍に。
「あ、アリス?!」
あの女、アリスは、ジュディの隣に興味深く僕を見る。
僕のもがき苦しむ姿を見て、魔性の声で。
「久しぶり。」