06 シルエファナ・シェンドラル
「シルファ。シルエファナ・シェンドラル。」
僕は、あの子の名前をあげた。
シルエファナ・シェンドラル。
「ホジョハレ」、ホロイン五人の最初の一人。
ハーレムモノの中、主人公の正妻のポジション当たる女の子だ。
物語の最初、彼女は普通のエルフ弓手と装い、そに実際は治癒魔法と精霊術が大の得意とする、エルフの国の姫様。
原作の描写では、彼女はこの世、一二を争う美しい容姿を持つ。
読者の人気投票でも、いつも一位。
そして僕、元の日本人高校生吉村晴斗一押しのキャラクター。
あの頃はよく、「俺の嫁だ」なんて言ってた。
可愛い子と聞かれたら、自然と彼女の名前を上げた。
しかし、今彼女ヘの感情は、そんな単純なことでは無くなっている。
僕は吉村晴斗ではなく、かのラインハルト・クロスナイトである。
彼女はラインハルトにとって、天敵の存在に当たる。
ニールはラインハルトを信じる時、いつも水を差す。
ラインハルトは密かにニールを加害しようの時、ラインハルトの計画を破る。
リズに至っては、彼女は自分を殺された相手。
「さすがはラインハルトくん、いきなり知らない名前を上げたね。どれどれ。」
ユリエさんは手元のノートをめぐりはじめた。
「これは、何ですか?」
「今期の入学生の名簿。」
「そんなものも持ってるんだ。」
やはり。
プライバシー感じないな、この学校。
「冒険者ギルドは冒険者学園の名簿を持たなくてどうするのよ、伊達にスポンサーやってないわよ。」
確かに。
「でもさすがに名前が多いな、探すのは面倒くさいよ。その子、シェンドラルって家名ですね、エルフのハーフとか?」
バリバリエルフです。
そういえば、エルフの家名って「シェンドラ」が入りがちだった、原作でも。
「まぁ、そんなとこかな。」
「でも、エルフのハーフなら目立つのよ、なんで僕の情報網に引っかからないだろう。」
いや、僕が話す時点でもう引っ掛かったじゃん。
でも確かに、異世界の冒険者学園なら、もっとエルフやドワーフなどの種族、出てもいいのに。
完全にない。
町はちょいちょいいたけど、学園には全く。
しかし、ユリエさんは冒険者のヘッドハンティングの調査をするのに、なんで美少女を探すだろう。
でもまぁ、案外いい線行ってるかもしれない。
実力の方も、シルファは今期の学生では二位ぐらいだと思う。
今後の僕が彼女に敵うかどうかぐらいの。
彼女の実力を上回らなければ、色々危険かもしれない。
「いました!」
「はぁあ。」
やはりいたのか。
当たり前のことだけど。
複雑だ。
シルファがいた。
彼女はいなければ、物語が何者より、改変されるかを心配そうになる。
しかし、いたらいたで。
不安。
「でも名前はシルエファナのみとなってるね、家名はないわ。なんでラインハルトくん、彼女の家名を知ってたの?」
「いや、その〜」
まずった。
まさかシルファ、能力だけではなく、在学中家名まで伏せたとは。
知らないところで、シルファの邪魔をしたかもしれない。
余計な口しなければ良かった。
「まぁどうでもいいわ。シルエファナって子は弓の実技の特待枠を受かるつもりよ。向こうだわ、ラインハルトくん、移動するよ。」
「えっ?」
シルファに会うの?
会っていいの?
いや、会うためにここに来たけど。
でもいきなり、強引に引き合わせるじゃなくて、もっとスムーズな接し方が。
心の準備が。
ユリエさんは問答無用に俺を引っ張られて、向こうまで移動した。
「彼女の番号、13番だそうよ。今年弓の内定は、基本2人、最大3人ね。去年より減ったな、1個。いや0.5個かな。」
「よく知ってますね。」
でも弓の実技か。
やはりシルファ本人間違いない。
「どう、ラインハルトくん。このシルエファナちゃんの実力は?」
「いいえ、ユリエさん、誤解してます。」
「はい?」
「僕はシルファ、いやシルエファナさんとは、知り合いではありません。」
「ふん〜」
信じてない目だ。
「王都にそういう名前の人が来たと、噂を聞いただけです。」
「噂、ね。まあいいよ。」
多分僕の演技が下手くそ過ぎてだけど、しかし先の失敗を最小限に抑えるため、僕は下手でも白ばくれる。
「いた、13番。げっ、顔見えない。焦らすなぁ。」
ユリエさんが指差したとこを見る。
マントを被る弓手発見。
多分、その子はシルファ。
背が小さいけど、シルファだ。
ちょっと緊張してきた。
12歳、スーパーレアのシルエファナ、☆五。
「でも確かに、顔小さそう。」
顔全く見えないのに、ユリエさん勝手に推測する。
しかし異世界の女の子でも好きだな、この表現。
顔が小さいって。
「マント被ってのに分かるんですか。」
「同じ女子だから、分かるのよ。」
本当ですか?
僕もマントの奥を探る。
その顔を見えそうな瞬間、脳髄を掻きまわれそうな痛みは走る。
またか!
「どうした?!その子。ねえ、ラインハルトくん見て。あの子倒れてるよ。」
ごめん、今他人を見る余裕はない。
痛い。
この痛みは、あの時と。
十歳の誕生日のあの日と同じだ。
二年ぶりだ。
「ら、ラインハルトくん、君もどうした!しっかりして!」
痛過ぎて、僕を抱えてるユリエさんの体の触感も感じずに。
そして見える。
ラインハルト、シルファ、そしてエリザヴェータ。
原作に発生したことを。
頭の奥底に、走馬灯みたい。
「だ、大丈夫ですよ。ユリエさん。ありがとう。」
痛みから解放された僕は体を起こす。
「いや、相当苦しかったよ。」
確かに。
でもその痛みはその時だけ。
終わった後意外となんともない。
「先、シルエファナさんはどうした?」
「ああ、聞いていたんだ。シルエファナって子も、君みたいに苦しそうにしてたよ。」
まさか。
シルファの方を見る。
苦し紛れからか、彼女のマントはおろしていた。
はっきり見える。
シルファだ。
幼い顔だけど、確実にシルファ。
淡く輝いた金色の長い髪、透き通った雪のような肌。
まだまだ子供でも、この世にないと思えるぐらいの、麗人。
顔色が悪くてもなお、さらにその上品な雰囲気を漂う。
やはり、彼女に会えて、嬉しく感じる。
不安でも、恐怖とかなく。
感動、感激、感謝。
そして彼女も同時に、俺の方を見る。
「うそ……」
隣のユリエさんの囁きと周りの騒めく。
みんな、シルファを見て驚いてる。
驚き過ぎて、誰も動けない。
それもそうだ。
シルエファナだからだ。
そんなフリーズした時間の中、シルファはこちらへ向かった。
「あなた、さき何をしていたか?」
別に嫌味など感じずに、ただシルファは、俺に聞いてるだけ。
でもその声は、俺をシルファと出会う感動から、引き寄せた。
落ち着け。
シルファと喋るには、用心しなければいけない。
彼女には。
「いいえ、僕もただ苦しかっただけだ。何もしてません。」
「そうですか。」
シルファは納得して、軽く頷いた。
「君こそ、何を見ていたか?」
俺も気になっていた。
彼女は、まさか僕とリズの未来を。
「見ていた、とは。あなた、何を見たのか?」
シルファは僕の話に興味を示す。
質問に答えて欲しかったけど。
「何も見てないなら、構いません。」
「そういうあなたは、見ていたの?何かを。」
質問を質問で返した、2回目。
「見たとしても、内容を喋り出す意味はありません。」
僕の答えを聞いて、シルファは軽く下唇を噛みながら、不興。
しかし、まだまだシルファは、俺を見つめる。
そして彼女は突然、
「あなたとは、いつか会いしたこと、ありますか?」
美少女の類似逆ナンの言葉で、僕はチェックメイトされる。
「逆に君は、僕に会ったこと記憶、ありますか?」
僕も質問で返した。
「ないですね。」
シルファははっきり言い切った。
即答。
「僕は生まれつき、特定の人としか会えなかった。ましては王都、君みたいなエルフの方に、会うこと……」
「嘘ね。」
思い切り打ち切った。
やはり、シルファ違う。
彼女の、言葉の精霊に祝福された力では、偽りの言葉は見破る。
ラインハルトの嘘は、何度も何度も彼女に見破る。
エリザヴェータに愛の誓いの時も、
自分が口説かれる時、ラインハルトの野獣の本望も。
見破る。
そして今回も。
しかし、こうも簡単に精霊の力を使うとは。
彼女は原作でニールと新しい仲間と出会うまで、この能力にコンプレックスを抱えていた。
今の彼女は、まだそんなこと気にしていない。
そして周りから。
「おいおい、この子、可愛過ぎじゃね?」
「エルフの学生って初めて見た。」
「話してる男の子、誰?かっこいいですけど。」
「クロスナイト家のラインハルトだよ。」
「次期勇者の…」
にしても、なんでみんな僕のことを知ってるんだ。
「ラインハルト、勇者。」
シルファはまた目が釘付けに、僕をじいっと見る。
しかしその目は先のと違う、どこかに、憧れを持っていた目だ。
さすがに、これは恥ずかしい。
「ラインハルトさん、今から私の力をお見せします。どうか、私をあなたの勇者パーティーに加入させて頂きたい。」
シルファは、自ら、僕のパーティーに参加したいと?!
いや、確かに、原作では、シルファが勇者パーティーに参加する理由は分からない。
彼女はラインハルトが大嫌い。
同じチームだったニールが気にし始める時も、ニールが追放した後。
ラインハルトのパーティーに参加する理由は全く謎。
でも、なるほど。
多分、彼女は最初から、勇者パーティーに参加するつもりだった。
原作の影響で、勇者と勇者パーティーの名誉を甘く見過ぎたかもしれない。
ラインハルトはグズでも、勇者はクズではない。
勇者パーティーに参加したい自体、立派な理由となる。
そして勇者パーティーをその名を相応しくするのも、僕の目標でもある。
「いいよ、見せなくても。」
「えっ?」
拒絶されたと思ったか、シルファ小さく口を開く。
僕は彼女に近づけ、彼女の耳元で囁く。
「既に精霊の力、存分に見させて貰った。歓迎する。」
彼女の能力をむやみに、スカウトだらけのこの場にバレされたくはない。
「へ?!」
シルファは顔を赤くして、一歩下がった。
やばい、近過ぎたか。
僕としたことは。
「す、すみません。そんなつもりじゃ、」
慌てて謝る。
「だい、大丈夫です。ご馳走様、いいえ違くて。あ、ありがとうございます!」
シルファは両手を振り、返す言葉全部おかしい。
混乱させてしまったのか。
本当に申し訳ない。
「その、僕のチームに入るって決まりだよね。」
「はい!よろしくお願いします!」
「こちらこそ。」
どうした、シルファ。
君はもっと落ち着いた子なはず。
顔、赤いよ。
やはり、まだ年が幼いか。
まだ落ち着かない年齢だ。
「私、先にテストを。」
「はい、お邪魔してすみません。」
シルファは慌てて試験場向かう。
途中振り向いたけど、すぐ顔をひね返した。
でもやはり振り向いて、可愛らしい小さく手を振る。
こんなシルファは新鮮だ。
しかしまさか、こんな簡単に最初の仲間を見つかるとは。
「ラインハルトくん。」
「どうした、ユリエさん。」
先から意外と黙り込んだユリエさん、やっと喋り出した。
「意外と女でも、先の君を見ると、腹立つわよ。」
「なんのことですか?」
どこが腹立つですか?
意味分からない発言をしたユリエさんを見ると、彼女は指で野次馬の群れを指した。
何があった?
「あれ?」
みんな、目に火か宿っている。
特に男の人の方は。
舌打ちの人もいる。
何で?
僕、何がしたのかな。