04 悪役勇者は、未登場人物を研究する
「ホジョハレ」の原作では、僕が住むこのクロスナイト領、というよりこの村では、登場人物は少なかった。
主役のニールはもちろん。
噛ませ犬の僕、ラインハルトも大事。
幼馴染のヘレン、おっさんのハンス以外、今村の住人はほぼ登場しなかった人物ばかり。
他はラインハルト母はハンスの会話に出たぐらいだ。
そういえばラインハルトは弟という情報も、ラインハルトの処刑後出て来た。
今はまだ生まれてないと思う。
隠し子じゃないよな?
ともかく、ここの村人は僕の原作知識範囲外ばかり。
それもそうだ、別に村の奴らに特筆することはない。
原作の物語が始まる時は、ニールが冒険者学園卒業半年後のことだし。
女の子と冒険する話だから、村の描写をするわけがない。
けど村人達は別にニールにとって重要ではないが、今の僕にとっては重要な可能性はある。
村ではラインハルトの悪評、それは消せなければならない。
死んでも良い奴のまま、最優先事項だ。
幸い、ラインハルトはまだ10歳。
悪事を働いてもスケールはまだ小さい。
もう数年をすれば、きっととんでもない悪事を働くに違いない。
確かエリザヴェータは、ニールのパーティーにスパイとして潜った時、ハーレム一味と女子話で、自分が12歳のごろラインハルトに無理矢理乱暴されたとか。
同情を引くのが目的だったけど、でもこれは思い切り嘘でもない。
ラインハルトはそういう生き物だった、下半身で思考をする男。
10歳でよかった。
まだ取り返しのつかないことやってなくて。
とりあえず印象改善するには地味にやるしかない。
食材や料理のおすそ分け、村人自主の魔物の退治に参加、農作業の手伝え。
どれもラインハルト母にもう反対したが、父が了承したので問題ない。
特に農作業。
貴族、それもまだ10歳の子供、1日かけて「これでもか」村人が引いてるぐらいやっていた。
過ぎたるは猶及ばざるが如し、途中「こいつやってるじゃねえ?」と村人に思わせるのは怖かったが、やはり10歳の子供だからか、それともみんな純朴だったのか。
僕の改心はみんなにすっかり認めてくれた。
少なくとも僕が村に出回るとみんなは挨拶してくれる。
印象の改善はうまくいったと言えよう。
少なくとも悪童の印象はほとんどなかった。
当然エリザヴェータこと、リズも僕の方針で優しいお嬢様になっていた。
令嬢の鏡と言える人物に成りづつある。
これで、リズと僕の運命が変えられたらいいけど。
原作に登場した人物ではなく、且つ僕今後の運命にとって大切な人を僕なりに観察しました。
やはり一番気がかりのは、ラインハルトの父、エドワード。
父は僕にとって重要な人物に違いない。
男爵の息子の地位を与えて、金銭面ではラインハルトを困らせたことなかった。
しかし彼の不完全な教育で、ラインハルトとその側の人達に不幸を与えた。
僕はそう思う。
エドワードは原作では未登場人物だ、例え息子のラインハルトは処刑される時も登場しなかった。
小説だから、登場する必要ないかもしれないが、今の状況は僕にとっては小説ではない。
ラインハルトの父に徹底的に調べたい。
しかし原作ではエドワードの全ては謎。
知ってるのは、ラインハルトの父は元平民、いくさでリノワール伯爵の下、武勲だけで男爵位置まで登った。
武勲が大きいならば、多分ラインハルトの父、一定の実力があるだろう。
しかしどれぐらいは分からない。
ジュエルの色も分からない。
隣国の大将軍は金色のSS級冒険者だった、でもそれは参考にはならない。
ここクロスナイト領に、B級魔物が出る迷宮があった。
リズから聞いて話、ここの迷宮はクロスナイト領になった以来、一度も魔物問題は起こらないという。
格下の衛兵でここの迷宮を治には、エドワードは少なくともA級冒険者ぐらいの実力がある。
実力の情報はそれしかない、自分の父親なのに何も教えない。
そしてこの男爵家の財力について。
男爵は末の貴族として、そこまで裕福ではないとされることが。
このクロスナイト家はとっても裕福だ。
同然僕にはそれを判断する術は欠けている。
男爵はみんな裕福かもしれない。
ここはやはりリズに聞く、リズは伯爵領内の男爵の中、クロスナイト家の納税は上から二番目だという。
そしてクロスナイト家の屋敷は男爵の中一番立派だと。
だからクロスナイト家は男爵家としても裕福の方だと結論つけた。
原因は幾つあると思う。
先ずは、人が少ないから。
ラインハルトの父エドワードは、妻と息子以外の親族はない。
両親が亡くなったか孤児だったのか。
とりあえず、親族に当たるものはなかった。
それは母からの情報だ。
養う人が少ないと、当然出費も減る。
そしてラインハルトの父は、金を使わない奴だった。
酒色は好まず、武器防具も伯爵からの恩施の一式しかない。
食事は母の強い要求で贅沢な物だったが、少食。
妾ももちろんない。
家の使用人は、母の実家からの専属メイドのおばちゃんに、5歳上の僕専属のメイドのお姉ちゃん。
ほかは料理人兼庭師兼馬の世話のおっさん。
そして最近うちに来た居候のハンスぐらいだ。
たまに馬の散歩をするらしい。
多分目的地は賭場。
最後理由はやはり、ラインハルトの父は有能だった。
領内は安泰。
連年の戦ではことごとく武勲を立て続ける。
聞けば最近の戦では、伯爵はすでにエドワードを名代にし、指揮権を任せた。
恩賞も外さなかったんだろう。
しかし、その父の人格はいまいち分からない。
分かる術はない。
普段無言である。
無言の人のタイプは、僕の経験からすると何種類もある、しかしエドワードに当たる類はない。
恥ずかしい、口下手ではない。
表情からも感情は読みとれない。
友達もいない。
妻の母とも、あんまり喋らない。
母は伯爵側の親戚の娘。
最初はここ、クロスナイト領に嫁いて不満だった。
しかしその不満はすぐ治った。
母は父に文句を言う時、父が返すセリフは一つだけだ。
「何が欲しい。」
と。
その言葉で、母の願いは大体叶える。
高価の洋服、靴。
高級の食材で出来た食事。
身分に余った屋敷。
ただただ願いを叶えるだけ。
そして母はいつも、
「あなた、好きよ。」
と抱きつく。
浮気したのに。
その時の父はいつも無表情で母を抱き返す。
しかしそに目に一方的に感情がない。
まるで機械だったようで。
父は寛大は母だけにではない。
僕の要求もすぐ叶える。
僕は冒険に行きたいというなら、「いいだろう」という。
畑仕事するのも拒まない。
ハンスの召し抱え、ニールの冒険者学園の学費仕送りも。
全て文句言わずに了承してくれた。
不気味ぐらい。
しかも理由も聞かない。
僕が悪いラインハルトのままではよかったものの、もし昔のままのラインハルトなら、どうなったでしょうか。
好きな武器、防具の買い上げ。
村での悪事の黙認。
考えるだけでゾッとする。
しかし、その父の寛大はあくまで物と態度に限る。
僕は剣術が学びたいと言う時は、父は拒絶した。
忙しい、と。
そして母の所望に対しても。
夜だけにしろ、と。
とこかで、冷たい人だ。
そして家にいる時間も少ない。
原作のラインハルトは悪党なった原因は、意外と母だけの影響ではないと思う。
そんないい加減な父親も、ラインハルトのひねくれた性格に影響を与えたかもしれない。
母親は、特に変なところはない。
欲深き貴族の奥様なだけ。
そしてさすがイケメンラインハルトの母、美人。
人格には問題大有りですが、想定通り過ぎて逆に驚くことはない。
最近ハンスさんが来たが、二人に何が起こる気配もない。
ハンスだって命は欲しいだろう。
まぁ僕は父親がハンスを殺す像は浮かばない。
そもそも怒るか、あの人。
たまに母はまんざらでもなくハンスを接近する。
ハンスは困るけど、僕はいつもさりげなく割り込んで、ハンスを助ける。
そのせいか、ラインハルトは母とは疎遠になっていた。
メイドの話だと、ラインハルトは母にべったりだった。
それを聞いてちょっと悲しく思うが、僕もやりたいことたくさんある。
27の大人の改心を図る気力はない。
まぁ、真珠の予知では、ラインハルトの両親は今後無事に過ごせるし。
ラインハルト自身とリズの未来を考えるべきだ。
「アデール、お土産です。」
「ありがとうございます、ラインハルト様。」
アデール、僕専属のメイド。
10歳から僕の家で働き始め、すでに五年は過ぎた。
お姉さん系の大人しい少女である。
メイドと主人の身分はともかく、彼女もまたラインハルトの幼馴染、お姉ちゃんとも言える存在。
でもラインハルトはここ二、三年、彼女にあんまり良い印象を与えてない。
まぁ、「ホジョハレ」のラインハルトからすると、アデールに性的酷いことしてなくてマシだと思う。
してないよね?
最近僕の異変に明らかに積極的印象に変えたし、過去を引き攣ってもいない。
「今日もまた、ニールくんと冒険ですか?」
「えっ?あ、はいです。」
僕とニール、たまにリズも一緒だった。
D級魔物の退治を少々。
実際はスキルの確認とか、練習に兼ねて。
本番の冒険とは程遠い。
いや、そもそもニールにとって冒険の険しいの文字は存在しないかもしれない。
そして毎回行くたび、僕の家から二人は剣や杖を持ち出し、カッコつけながら構えて、アデールに見せつける。
10歳の子供にしては微笑ましいが、精神年齢高校生の僕にとってはきつい。
一緒にされるのは辛い。
早く二人の厨二病は治して欲しい。
せめて冒険者学園に入学するまで。
「よかった、ラインハルト様はニールくん達がすっかり仲良しに戻って。」
「昔の僕は、どうかしてるんですよ。」
「まぁ、それは、あはは。」
さすがにあの時のラインハルトはきついか。
アデールの顔はちょっと辛い。
「でも今のラインハルト様、とても優しくて、堅実で、村のみんなに好かれてるんですよ。」
「そ、そうなんですか?」
印象改善は思ったより早い。
僕に一番ビビったヘレンも、普通に友達に戻った。
「しかしやはり、ラインハルト様とニールくんは、離れてみ運命が引き合うですね。」
「ん?」
どう言う意味だろう。
アデールの顔は赤い。
「いえいえ、なんでもないです。」
寒気がする。
アデール、あなた腐ってるわけじゃないよね。
「まぁ、ラインハルト様は優しく子に戻られてよかったです。以前のままでは、ラインハルト様が成人するまで、ここで働き続けるかどうか。」
「す、すみませんでした。僕、酷いことをしてないよね。」
「さぁあ、どうかな。」
アデールは小悪魔の笑顔を見せつける。
10歳の子供に色気を使わないで欲しい。
「うそうそ。大げさだな、ラインハルト様。性格変わり過ぎというか。でも良い方向でよかったです。」
やはり性格の改変は激しいようで、身近のアデールは違和感感じたか。
しかしラインハルトの重症は、重い薬でしか治らないよな。
「そういえば、アデール。契約は僕が成人するまでですか?」
「ええ、そうなります。」
「その、後の仕事は?」
「まだ、考えてないですね。その時は、私も20だし。」
そうか、こんな僕に青春を費やすのはどうかなと思うけど。
でも二年後僕は冒険者学園に行くから。
実質、彼女の契約は2年しか残ってない。
でもまぁ、多分冒険者学園に行く前に、弟が出来るから、失業にはならないと思うけど。
さすがに、メイドは学園についてくるわけじゃないよね。
冒険者学園に、メイドを連れ込んだ奴、幾ついたけど。
ラインハルトは学園時代、メイドが付き添った描写もない。
大丈夫でしょう。