01 悪役勇者は、コツコツ運命を変えるしかない!
翌日、リズは伯爵家に帰る時。
僕ら一家は、当然伯爵の令嬢であるリズを見送る。
「エリザヴェータさま、どうかお父様の前ではうまいことをいってくださいまし。」
「分かってますよ、クロスナイト男爵夫人。わたくしの許婚のご実家ですから、絶対抜け目の無いように、パパに言い伝えますわよ。」
「それはそれは、ありがとうございます。」
僕の母さんは、毎回リズが帰る時、そのやりとりをする。
飽きないぐらい。
「母上のことはいいから。リズ、帰ったらちゃんといい子にしてくださいよ。」
「いい子?なんのことかしら。」
「そうですね。周りの人を大切にしてください。そして目上の人でも、目下の人でも、ちゃんと礼儀を守るように、接してください。」
「めした?下々のことですか?」
「下々って、まぁ、そうなりますね。」
「なんでよ!下々の人間なんざ、虫けらだと。ライニ、いつもそう言ってたじゃないの?」
そうだ、言ってた。
やはりラインハルトの影響か。
ごめんなさい。
昨日まで、ごめんなさい。
「今は違うよ。」
「なんでよ!」
「勇者になるためだよ。」
「勇者になるって、わたくしが下々に礼儀を振舞うとどう関係あるわよ。」
「関係あるよ。僕の許婚だから。五年後のことだし、もう既に僕のお嫁さんになったかもしれないよ。僕は勇者になるんだから、この世界の人々を救うだ。それでもって、一人一人を平等で接してあげないと。勇者のお嫁さんのリズも同じだよ。」
「お、お嫁さん・・・」
エリザヴェータはまた顔を赤くして、自分のキャラクターである縦ロールを可愛く弄る。
これは聞いてないなぁ。
「リズは人々を平等に接せないと、僕は困りますよ。」
「平等ってなんだよ。」
「だから、目上の人も、目下の人も、ちゃんと礼儀を守るように、接すること。」
「嫌だわ。」
「それが出来ないと、リズをお嫁さんとして迎えるなんて、出来ないよ。」
「えっ?」
エリザヴェータは一瞬戸惑ったが、すぐ怒り出した。
「なによなによなによ!ライニのお母様、いつもわたくしに媚を売ってたじゃないの?パパがライニのお父様を国王に立ててくれなかったら、ライニ達今庶民ですわよ!わたくしを逆らうってどうなるか知っているの?」
うぁー、このセリフ。
「ホジョハレ」のエリザヴェータそのまんまだ。
でも、今になって、ラインハルトの視点である僕しか分からない。
エリザヴェータはただのわがままではない。
彼女は怯えているんだ。
僕が彼女のことが好きじゃないかもしれないから、だから家のことを持ち出した。
それも褒めることではないが、彼女はこうなったのは、昔の僕のせいだ。
彼女は僕のため、死んでも構わないと知った。
彼女はどんな悪女になろうと、僕は彼女を責める立場はない。
だから、今の彼女のひねくれた性格を、正さなければ。
「逆らえないよ、僕はリズに。」
「そ、そう?分かっていればいいのよ。」
「でもこのまま、リズのこと、嫌いになるかもしれない。」
「ど、どうしてよ!わたくしに逆らえないと言ったでしょう、じゃなわたくしのことを好きって言いなさいよ。」
「無理だよ。逆らえないと好きと別物だよ。権力は人の心を変えないよ。」
「な、なんでよ。」
エリザヴェータはようやく、泣き出した。
10歳の女の子を泣かせるなんて、ちょっと罪悪感。
「僕は別に、今のリズが嫌いではないよ。」
「ほんと?」
「むしろリズのこと大好きだよ。」
「でもぉ〜うぇーん〜」
僕はそっとリズを抱きつく。
「リズがいい子にするなら、僕はもっとリズのことを好きになる。」
「ほ、ほんどぉ?」
「本当よ。そしてリズも多くの人達に好かれるよ。」
「いいわよ、リズはライニが好きって言ってくればいいわよ。」
「ううん、僕は、他人に好かれるリズが、もっと好きだ。」
「じゃあ、いい子にする。」
「約束ね。」
めそめそのエリザヴェータは、馬車を乗って伯爵家へ向かった。
これでいいだろうか。
真珠の力で未来を見る。
「やはり駄目ですか。」
未来はそう簡単に変えられない。
真珠は、リズは人間の女に殺されると、僕に教えた。
画面とかの機能がないから、ハーレムの誰かに殺ったのは知らないけど。
真珠の力は、ただ僕の脳に、未来を概念として植え付ける。
知っても、どうにもならないだ。
彼女達はいつも正しいことをやってたし、
でも、これでいい。
未来が変えなくても、リズをあんなわがままで、性格悪い女の子に育てはいけない。
これだけは、免れたい。
さき僕との会話は、彼女をどれぐらいを変えるのが分からないけど、絶対悪い方向に進んでないはずだ。
そして僕も考えた。
昨晩、必死に「ホジョハレ」の内容を思い出して整理した。
僕は当時「ホジョハレ」を読む時、あんまにラインハルトの部分が好きではなかったから。思い出すのも時間が掛かった。
ちなみにラインハルトの噛ませ犬ぶりには楽しんでいた、嫌いなのは彼が悪事を働く時、
好きな部分といえば、ニールの五人の美少女ハーレムはちゃんと覚えている。
ダンジョンからベッドまでのことも。
「ホジョハレ」、ちょっとエロい小説だったからなぁ。
あっ、ヘレンもハーレムの一人だったか。
ギリ幼馴染なのに、彼女のことを忘れた。
そういえばヘレンのベッドシーンは書いてなかった。
さすが不人気だな。
まぁ、俺がよる深く考えたことは、もちろんニールのハーレムのことではない。
僕が考えたのは、ラインハルトの死因と、敗因だ。
もちろん、ラインハルトはクズだ。
紛れもない、クズの極みだ。
幾つの女の子を遊ばせ、使い捨て。
ハーレムの女に手をつけたいが、逆にニールの好感度イベントにされ。
何度も幼馴染であるニールを暗殺しようとし、失敗。
毎回ニールに助けられるのも礼を言わない。
自分が大物ぶって、腰抜け。
ゴミクズ噛ませ犬とは、まさにラインハルトのことだ。
でもそれだけではない。
もちろんラインハルトの人徳の無さは、彼の死因に直結する。
でもそれは、今の僕にあんまり関係ない。
敢えて言おう、僕は前世、善良の日本市民の一人だ。
そして今世、人徳の溢れる人間の鏡になろうとも思っている。
でもそれだけじゃあ駄目だ。
現に今、僕の未来は変えていない。
それは、もう一つ重要な敗因に死因が、解決していないからだ。
もう一つ重要な敗因、それもまた、最も重要で、根本的な敗因とされる。
ラインハルトは、弱いだからだ。
そう!弱い。超弱い。
勇者のくせに?
そう、勇者のくせに。
弱い、にしても弱い、どう考えても弱すぎる。
「ホジョハレ」の初期、ラインハルトは強いとされた。
あれは彼の勘違いだった。
ニールの能力で倒された魔物が、自分が倒したと勘違いしてた。
彼の強さには、以下の描写がよく使われた。
「彼の身体能力だけでも、A級冒険者の中でも随一!」
一見凄そうだが、A級だ。
「ホジョハレ」の「SS級はどこにでも居る、S級なんて野良犬ぐらい溢れる」の後期では、そのちっぽけな身体能力はなんの役にもならない。
「その剣は、確か帝都最強の鍛冶師が作った「ビロー」という名剣!」
確かにラインハルトは名剣を持つが、「ホジョハレ」の初期、ていうか三話で、ニールは既に村のおっさんから低価で聖剣を買った。
名剣なんか、聖剣の比べ物にもならない。
ちなみに「ホジョハレ」の後期、ニールは八本の聖剣をすべて集め、「八式」という技をまなんだ。その技で名剣の「ビロー」は切断された。
流石読者の僕も、ラインハルトを同情するところだった。
まぁ、ラインハルトいじめは、「ホジョハレ」最大の楽しみの一つだ。
「彼は「略奪の勇者」と呼ばれる男、敵への攻撃はそのまま彼の生命値になる!」
それも凄そうだが、問題は比例、倍率だ。
100を削る攻撃から、50しか回復するってなんの役に立つ?「SS級はどこにでも居る、S級なんて野良犬ぐらいあふれる」の世界観で、A級冒険者並みの腕力のラインハルトに、何を期待している?一撃で殺されるボスの攻撃で、なんの回復になる?
そして「ホジョハレ」の中の先生風の奴らはいつもニールにそう言う。
「ラインハルトは恵まれる勇者だった。彼の能力は、努力するやつにとって一番使いやすい能力だ。他人より優れたHPの回復線維持と魔物狩りの効率を持つ彼は、最もポテンシャルのある勇者だ。しかし彼は努力しない。だから報われないだ。」
最高最悪の噛ませ犬ラインハルトに、何努力を期待してんだよ。
ラインハルトが優れたところは、むしろニールと莫大な力の差にも気にせず、何度も何度も挑戦する自信と、国王相手でも平気に嘘をつく、その度胸ぐらいだ。
それも僕の前世の人格によって、無くなってた。
まぁ、いいものじゃないけど。
そして最後のいいところは、普通マンのニールに対して、ラインハルトはイケメン。
なぜだがハーレムの超絶美少女達には全く通用しないイケメン顔が、ペラい女の子達にやけにこのイケメン顔が利く。
娼婦、未亡人はもちろん、敵国のデブ姫も通用する。
その女の子達の金と地位を利用して、ニールを落とす作戦も幾つあった。
当然ハーレムの超絶美少女達に返り討ちにされるが。
僕もこのイケメン顔を利用するつもりはない。
僕はクズじゃないだから。
それにしても、ラインハルトは弱い。
その弱さは、直接彼の死を結ぶ。
彼は魔物に殺されてないのは、ニールがパーティーに居る時のお陰。
そしてニールが追放された時も、ラインハルトのピンチはいつも彼が助けに来る。
にしても礼を言わないラインハルト。
とりあえず、今の目標は、強くなる。
ニールより強くとは行かないが、強くなる。
ていうかニール越えは絶対無理だから、二番目を目指す。
まずその暁には、村の聖剣を買う。
ニールのチート道具の一つだが、買う!
こっちとら命のやりとりだから。
当然ニールを死の底を押し付ける気はない。
そもそもニールは、チート道具なしでも最強だ。
彼はSS級スキル、S級スキル、A級スキル。生まれつき一つずつ持っている。
SS級スキル、「因果応報」。自分への致死の一撃のダメージを、自分が全くきずづけずにそのまま相手に転移する。自分はもちろん傷つけないが、他人だけが応報を受ける今作最強最大なチートスキル。
当然連続の使用はできないが、クールダウンはやけに短い。読者曰く「デ●オぐらいのクールダウン時間」。そしてたちの悪いことに、S級スキルとA級スキルがこの「因果応報」にびっくりするぐらいピッタリのスキルだった。
S級スキル、「絶境復生」。自分のhpが少なければ強力になるリジェネ系回復スキル。そしてhpは限りなくゼロに近い時、「絶境新生」のバフが付き、ニールの身体能力とhpmpその他もろもろのステータスは底上げして、最強の男になる。
A級スキル、「HPカスタム」。文字通りhpを上げる下げる出来るスキルだ。10%のhpしか上がらないからゴミスキルだとラインハルトに馬鹿にされたが。もちろんお察しの通り、自分のhpを限りなくゼロに近いに下げることは出来る。
これがあれば、ニールはいつでも最強の男になれる。
そしてこれがあれば、ニールはいつでもいいタイミングで「因果応報」を使える。
ちなみにこのA級スキルは、ハーレム女の一人と繋がった原因で、敵と自分が同時に発生するスキルになって、魔王殺しの王手に至って、最強スキルとなった。
そういえばニールはよく、「お前達が見くびるこのA級スキルでも、時々凄いスキルになるんだ。」
そして敵は悔しむ。
でもニールよ、そのスキルはA級でも、時々(いつも)凄いでもないだよ。
チートだよ。
まぁ、ニールの悪口を言うつもりはない。
ハーレム男だけと、彼は良い奴だ。
そして仲間だ。
彼とは、ずっと一緒のパーティーに居るつもりだ。
未来を変えるためにも、一緒にいたい。
追放なんか絶対しない。
だから、お前のチートアイテム、ちょっとばかし借りるから。
お前は十分強いだからさ。
僕はナンバーツーを目指して、いつまでもお前の背中を追い続けるだけでいい。
02話は、11月9日に更新する予定です