00 悪役勇者は、思い出す
この日、世界が新たな勇者を迎える。
そう、俺様のことだ!
ラインハルト・クロスナイトだ!
俺は今日、つじかみの儀で、宮廷占い師は、俺が五年後勇者になると予言した。
かつての勇者はみな、宮廷占い師による予言で現れる。
そしてこの俺様は、次の勇者になるんだ。
まさに勇ましいに高貴な俺に相応しい称号だ。
父の代から、武勲だけで男爵の地位を得たクロスナイト家。
この俺は、公爵、いや、皇帝まででも登るて着る!
見てろ!この俺が!
「よかったわ、ライニ。勇者こそ、我が許婚に相応しいわ。」
この女、エリザヴェータ・リ・リノワール。
クロスナイト家の領地も含めて、多くの地を治める大領主、リノワール伯爵家の一人娘。
こいつが呼ばないと、忙しい宮廷占い師様はこんなちんけなクロスナイト家の息子の予言しに来ないだろう。
けどリズよ、お前は墓穴を掘った。
この俺はもうすぐ勇者になるんだ。その時は、オメエみたいの女なんかより、よっぽどいい女を探してやる!
たかが小さき伯爵家の娘の目の色を伺う日も、今のうちだ!
考える途中、突然脳に衝撃が走る。
「っ!」
「どうした?ライニ。具合でも悪いですか?」
リズは心配そうに俺を見る。
「クソ、なんだこれ!」
脳の中、掻き回すような痛み。
「ライニ!ライニ!」
「うるせー!」
「でも、ライニ、苦しそう。」
そうよ、苦しいよ!何とかしてくれよ!
そして俺、いや、僕が思い出した。
俺は勇者でも、クロスナイト男爵家の長男でもない。
俺は普通の日本の高校生、吉村晴斗だ。
そしてラインハルト・クロスナイトは、俺が読んだ小説「補助魔法しか使えないロクでもない魔法使い、最強パーティーに追放されたが。実は最強につき、ハーレムを作った。」略して「ホジョハレ」の人物だった。
何を隠そう、主役ニールを追放した勇者ラインハルト張本人だ。
自惚れで、主役への態度酷くとって、女癖の悪い悪役勇者だ。
最後主役のニールと魔王倒しの功勲を奪うため、国王に大嘘をつけたらバレ、物語の最後死刑で無残に殺された。
これは、なんだろう。
僕はラインハルトに、転生したんだろうか?
よりによって、あのラインハルトに。
「ライニ、だ、大丈夫?」
「あっ、僕もう大丈夫よ。」
「えっ?ぼく?でもまぁ、よかったわ無事で。」
「心配してくれてありがとう、リズ。」
「と、当然のことですわ!」
顔真っ赤の女の子、リズ。
フルネーム、エリザヴェータ・リ・リノワール。
この子もまた、「ホジョハレ」の重要人物。
ラインハルトの幼馴染にして、許嫁。
身分の低い主人公のニールに対し高い態度をとり、見下ろす金髪縦ロールのお嬢様。
勇者パーティーで、主人公のニールをいじめるキャラのツートップ。
この子の性格と人柄はよくないが、終始ラインハルトに一筋だった。
ラインハルトに何度も浮気されても、見捨てられるも、文句を言えず、ついていた。
最後はラインハルトの命令で、ラインハルトを裏切る振りをして、主人公ニールのパーティーに加えた。
ニールを殺害しようが、ニールハーレムの一味にバレ、殺された。
ラインハルトは彼女の死をなんとも思わなかった。
悲惨な結末だ。
「本当にありがとう、リズ。」
「ど、どうしたのよ。ラインハルト、覇気が足りませんわ!わたくしの許婚だから、もっと洒落た態度を取るべきだわ。」
エリザヴェータは顔を顰めて、恥ずかしながら俺に言う。
「勇者か。」
「そうよ、ライニは勇者ですわよ!」
彼女は凄く嬉しそうだ。
それは、好きな男が勇者になれると知ったから、嬉しいだろう。
でも、僕はもっと知っている。
僕と、リズは、これから死ぬんのを。
「ちょっと、夜涼みに。」
「わたくしも一緒に行きますわ。」
「リズが一緒なら、護衛さんもついていくんだからいいよ。」
「でもぉ。」
「大丈夫、すぐ戻る。リズのプレゼントも楽しみにしてるから。」
「うん!」
あの悪女のエリザヴェータ、流石に10歳の時はまだ子供特有の天真爛漫が残ってる。
そして僕にも甘えてる。
どうして、あんなのになったんだろう。
家のせいか?それとも、ラインハルト、僕の影響か?
俺は夜道を歩いながら、考え込む。
「ら、ラインハルト様!」
そして小さな人影が現す。
この男の子、俺もよく知っている人物だ。
「ニール・・・」
「ホジョハレ」の主人公、ニールだった。
「その、誕生日、おめでとうございます。」
「ああ、ありがとう。」
「えっ?いや、どういたしまして。」
ニールは困惑してる、多分僕の態度が原因だろう。
ラインハルトは他人に感謝するなんて、ありえない。
僕は彼のことを見下ろしていた。
「ホジョハレ」にも、ラインハルトとニールは幼馴染だった。
クロスナイト男爵家の領地は、ちょうどニールが住む村でした。
七歳まで、ニールはラインハルトと仲良くしていた。
けどラインハルトは母の影響で、だんだん下々の人間を軽蔑するようになった。
その後、ニールはいじめられ、こき使いされる。
それでもニールはラインハルトに対し、幼馴染の頃仲良くだってのをずっと忘れなくて。
小説の展開で、ラインハルトは幾つの殺し合いでニールに木端微塵に破れたが、ニールは一度もラインハルトを殺すという考えに至らなかった。
ハーレムの一味は、悪い悪いラインハルトを殺したくて殺したくてしょうがないのに。
彼は最後まで、ラインハルトの改心を待っていた。
国王に嘆願した。
「あのね、ニール。」
「どうしました、ラインハルト様。」
「ライニでいいよ、敬語もいい。昔のでいい。」
「そんなこと。」
ニールはありえない表示で俺を見る。
不思議すぎてしょうがないだろう。
「いいから。」
「じ、じゃあ、ライニ。どうしたの?」
「僕、勇者になるんだ。」
「え?本当?」
驚きが隠せないニール。
「本当だよ、リズが招いた宮廷占い師が予言した。」
「す、凄いよ!」
「ニールも、15になったら、冒険者になりたいか?」
「え、冒険者様ですか?俺、力弱いし、魔法の才能もないのに、出来ないよ。」
「出来るよ。」
むしろ出来まくりだよ。
ラインハルト、僕よりは。
「僕、畑仕事のほうが向いてるよ。」
「ニール、知ってるか。僕が勇者になるってことは。今後、魔王が現して来る。」
「ま、魔王?」
「そう、魔王よ。その時、畑仕事どころか、村のみんなが巻き込まれる。僕も、ヘレンも。」
ヘレンとは、ニールとラインハルトの幼馴染。
戦い術のない、ニールが村に戻る時しか登場しない地味の村娘。
一応ニールのハーレムの一人だが、出番が圧倒的少ない。
精々孤児看護などのバックアップの仕事を任される役目しかない。
本編より特典の方が出てくるので、よく読者と視聴者に「不人気」と弄る。
しかし現在の彼女は、ニールにとって一番大事な人だ。
「そんなの、嫌だよ!」
「だからニール、君は冒険者を目指して頑張りましょう。いつか僕とパーティーを組むんだ!勇者パーティーを。」
「僕、出来るかな。」
「出来る、待ってる。」
「う、うん!頑張るよ!今日は嬉しいよ、ラインハルト、いや、ライニとまたこんな風に喋れれる。そして僕も、ライニの頼りになるんだ!」
「そうだよ、頼りになってくれ!」
俺は、ニールとの熱い会話の後、屋敷に帰った。
「これで、いいだろうか。」
ラインハルトがニールに、自分が勇者になると告げるのは、十歳の誕生日ではなかった。
翌日だった。
ラインハルトは自分が勇者になれると自慢し、ロクでもないとニールを馬鹿にした。
お前なんか、俺様の最強パーティーに入れさせないとかも言った。
ニールもその日から、冒険者を断念していた。
とあるきっかけで15歳の時また冒険者になり、更なるきっかけで、ラインハルトチームのレンジャーの子に勧誘された。
今の会話で、未来は変えるものでしょうか。
僕とニールの仲、もっとスムーズになれるだろうか。
今の僕、男爵家の息子は。
村人のガキ一人を殺すのも容易いかもしれない。
少なくとも五年ごよりは。
けどそんなことしたくない、むしろ出来ない。
吉村晴斗には無理だ。
特に好きな作品の人物。
むしろ、ラインハルトこそ、早く殺せるべきだ。
僕は、円満解決が欲しい。
屋敷に入る前、煙突を弄る宮廷占い師を見えた。
彼は興味深く俺を見る。
「面白い。」
「な、なんのことでしょうか。」
占い師は楽しそうに俺を観察する。
「僅か二十分というのに、未来を変えようとするなんて。実に生意気で素晴らしい。」
「え、なんで知ってるんですか?」
やはり占い師だからか?
「いや、勘違いされるでない、坊主。お前らみんな、我々は全てを知っていると思いやっているが、我々ただ一点の未来が見えるだけだ。坊主が何をしたのが全然分からない。」
「そうですか。」
「ああ、坊主がたった今、未来を変えようとする痕跡が見つかっただけだ。」
「変えようとおしゃいましたが、変わってないですか?」
「変わってないな。」
やはり。
そう簡単に変えるものではないと、僕も予想した。
「僕、死にますか。」
僕の言葉を聞いた占い師は黙り込む。
煙突から一服をした後。
「本来なら、我々業界の「人間なら、いつか死にます」という誤魔化しを使うべきだったが、どうやら坊主、貴様自分が近い未来、死ぬのを分かっているようだな。」
「はい、事情は、詳しく話せませんが。」
「話さなくていい、興味ない。」
「はい。」
達観している。
この占い師。
「でもまぁ、自分の未来を見れるなんて、坊主ひょっとして占いの才能があるかもしれない。」
「僕、勇者になるから、占いを学ぶ時間は、多分今後ないです。」
「いや、違うな。学ぶんじゃない、これ、あげるよ。」
占い師から真珠を貰った。
「これは?」
「僕の能力の秘密、これをつければ、才能によりある程度自分と他人の未来が見れる。」
「商売道具ではないか?僕にあげていいですか?」
「いいよ、僕五年後、死ぬし。」
「えっ?」
さり気なく過ぎて、びっくりした。
「どうせ僕の予言は五年空けにしていたから、これからデタラメを言ってもばれないし。」
「でも、死ぬと分かったら、尚更これを利用して、未来を変えるではないですか!」
やっと、手に入れたチャンスなのに。
「やってた、二十年もずうーと。飽きたよ。」
「でも・・・」
「未来はさぁ、そうそう変えるものじゃないのよ。」
「そうでしたら、別に僕に上げても。」
「でも先の坊主、未来を変えないものの、すっごく大きな痕跡を残ったよ。あれは強力だ、あれぐらいやり続くと、坊主には出来る、死亡回避を。」
「・・・」
「僕には出来ないだ。」
ごめんね、占い師さん。
せめて、お前が小説での名前を残ってくれば、俺は何とか出来るかもしれない。
「真珠、ありがとうございます。」
「うん。」
「名前、伺えてもよろしいですか?」
「僕の?僕の名前はトンクス・トレンだ。どう?手掛かりある?」
「すみません。」
聞いたことのない名前だ。
「でも、トンクスさんは、帝都にいるよね。」
「まぁ、帝都在住ですね。」
「僕、二年後、帝都の冒険者学校に行くんだ。」
「言い切ったね、二年後のことなのに。」
「行けます!その時は、トンクスさんの、死の未来を変えるのを手伝わせてください!」
「好きにすれば?ほら、お嬢様も待っているんだぞ。」
屋敷から、待ちくたびれたリズが出てきた。
僕の顔見て、すぐ微笑んだ。
「やはりリズも、死ぬんですか。」
リズの誕生日は二ヶ月前、トンクスも占ったはずだ。
「やはりお前、知っているな。」
「僕が絶対阻止します。」
「僕のぶんも期待している、君に出会うのも、運命かもしれない。」
「ライニ、あなた何トレン様と話し合ったいるの?早く上がりなさい、プレゼントコーナーよ。」
リズが大声で僕を呼んでいる。
リズのプレゼントは知っている。
帝都随一のドワーフ鍛冶師の逸品で、「ビロー」と名付けた両手剣。
一度ニールとの戦いで真っ二つに切断され、「役立たず」と罵れた剣だ。
自分とニールの差は武器だと勘違い、ニールの聖剣を盗み取ろうが、ハーレムの一人に見破り、その一人に半殺しにされた。
でもこの剣は、紛れなくラインハルトと五年以上戦った。
そしていい剣だ。
「どう?ライに、いい剣ですわよ。」
「ああ、とっても気に入ったよ、リズ。ありがとう。」
「いいわよ、礼なんて。ライニはもっと覇気を出して喋りなさいよ!」
「この剣で、リズを守るよ。」
「な、なに仰るの?恥ずかしいわ。」
リズは顔真っ赤にして、僕に笑った。
運命を変えるのを難しいかもしれない。
死を免れるのも難しいかもしれない。
けど、やれることはやりたい。
死にたくない。
死んでも、良い奴のままで死にたい。
あんな死方はいやだ。
リズがするのもいやだ。
俺は今日から、全力であの結末を阻止する。
ニール、絶対、お前を俺の最強パーティーから追放しない!