前哨戦①
新出人物
石沢先生
二年前に南中学校に赴任してきた、音楽教師。
吹奏楽部の顧問。
ぱっと見はぱっとしない中年男性だが、指導者としての実力は本物。
瀬谷 雪名
吹奏楽部の副部長。楽器はテナーサックス。
冷静沈着で、並大抵の事では驚かない。
青い縁の眼鏡をかけている。
綾瀬 蓮花
合唱部部長。
天才的に頭が良く、運動神経も申し分ない。
偏差値75の県内トップ校の推薦を狙っている。
「はいはい、厳粛に厳粛に。」
いやいや、無茶言うな。
殺し合いしろと言われて静かにしろって、無茶にも程がある。
「まあ、驚くのも分かります。ですが、これは冗談ではありません。本気です。とりあえず、ルールを説明...」
「校長先生!!」
校長を遮って話したのは、生徒指導専任の山村先生。
厳しい先生だが、真面目な生徒には優しく、校内でも人気が高い。
「何を言っているんですか!?生徒に殺し合いをさせるとか、正気ですか!?」
「私は正気ですよ?なんなら、この場で証明してみましょうか?」
「ああ証明してみろ!」
「これを見ても言えますか?」
背広から取り出したのは、なんと拳銃。
見た目からして、おもちゃではないことは明らかだ。
「どうせおもちゃなんでしょう?」
バンッ!!
乾いた銃声が響き、生徒から悲鳴が聞こえる。
床には血がこぼれている。
「わかりましたか?今なら、命だけはたすけてあげますよ?」
「こっ...これが教育者のすることか!」
「これは、『学校行事』です。学校に関係する以上、あなたには協力する義務があります。」
再度、乾いた音が響く。
続いて、ドサッという、人が倒れる音が聞こえる。
「全く、反対するからこうなるんですよ。」
体育館の中は、大混乱に陥っている。
黙り込む者、友人と顔を見合わせて同然とする者から、恐怖のあまりへたりこんで失禁する女子、こらえきれずに嘔吐している者さえいる。
「皆さんも他人事ではありません。この学校の周りは、完全装備のハンターが待機しています。生きて帰りたければ、この戦いに勝つしかないですよ。」
体育館が、不気味なほど静かだ。
「それでは、全員、各自の部室へ向かってください。そこで細かいルールなどを説明します。あ、間違っても学校の敷地から出ないでください。一歩でも出たら、命は無いですよ。」
ひとまず命拾い。
生徒達は、一斉に体育館を出ていった。
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吹奏楽部の部室は、音楽室とは別の、異常に広い教室。
なにせ、部員が100人を超えているので、このくらいの教室でないとおさまらない。
しかも、楽器庫は別の部屋。
ここまで贅沢にスペースを使っている部活は、他に存在しない。
そこに、我らが顧問、石沢先生が入ってきた。
二年前、この学校に赴任してきて、弱小だった吹奏楽部を、予選にあたる市大会を軽々と超え、関東大会まで駒を進められる中堅校に仕立てあげた、すごい先生だ。
「みなさんこんにちは。話は聞いたと思います。多くは話せませんが、殺し合いをしなければ行けないというのは本当です。今から、配布物があります。」
最初に配られたのは、液晶付きのトランシーバーみたいなもの。
「それは、情報が入って来る通信機です。常時携帯するように。」
電源を入れてみた。
『連絡』『死亡者リスト』
...物騒な名前が出てきた。
「あと、これルールブック。しっかり読み込んでおけ。」
ルールブックを、研二と一緒に確認する。
・運動部と文化部に分かれ、殺し合いをする。
「マジかよ、恐ろしいな...」
・部長は司令塔として活動する。部長が殺された場合、その部活動は敗退とし、その部活動の部員は他の部に編入されるが、ペナルティとして1日食料の支給を停止する。
「部長だけは死守するってか...」
・学校の敷地から出るのは禁止。破った場合、処刑する。
「...だろうな...」
・初期陣地は、運動部は新棟とグラウンドと周辺の建築物、文化部はA棟、B棟、その周辺の舗装された面とする。境界線は、グラウンドと舗装面の境目とする。
学校の敷地は、正方形に近い形をしていて、丁度真ん中がグラウンドと校舎のある辺りの境目となっている。
グラウンドから見て手前にはA棟、その奥にはB棟。
A棟とB棟は渡り廊下で繋がっている。
そして、一階層に10クラスほどあるため、めちゃくちゃ横に広い。
あと、A棟の真ん中辺りには、通路があって通り抜けできるようになっている。
新棟は、グラウンドから見て右端、他の棟から見ると垂直な場所にある。
その他、左端には屋上にプールを備えた体育館、いくつかの部の物置...もといプレハブがいくつかある。
運動部を攻めるとしたら、否応なしにだだっ広いグラウンドで真っ向勝負しなければ行けなくなるので、その点は不利だ。
でも、こちらの校舎の守りは固い。
4階建ての校舎は、籠城するのにはもってこいだ。
突入されたとしても、広い校舎内に分散してくれれば、各個撃破することもできる。
恐らく、先に行動を起こすのは、血気盛んな運動部だろう。
「雄一郎、どうかした?」
「え?ああ、何でも?」
ぼーっと考えていた俺は、どうやら不審だったようだ。
・告知日から数えて三日間を『前哨戦』とし、その期間は自陣営の陣地内に罠や仕掛けなどを設置したりしてもいい。この期間中に戦闘や、相手陣営の設備の破壊などを行った場合、最初に手を出した者を処刑する。
「前哨戦か...つまり、窓を覆ったりとかするのか。」
・先に部長が全員殺された方の陣営を負けとし、その陣営の行き残っている者を全員処刑する。
「マジかよ...」
・食料、各個人の常備薬、生理用品など、最低限必要なものは支給する。
「俺らにはほぼ関係ないな。」
・ただし、食料は運営の判断で支給停止する可能性がある。
「まあ、こう書いてあるってことはそのうち止まるんだろうな...」
・道具に関しては、自らの陣地にあるものなら何でも使っていい。敵陣営から略奪した道具等も可。
・建築物は、自由に破壊していい。
・通信機を故意に破壊した者は、処刑する。
・非戦闘員を攻撃した者は、処刑する。
「これは...」
「つまりあれだ。運動部の連中だけをフルボッコすればいいんだよ。」
・各部活は、幹部として、部長、副部長の他、現場での指揮を担当する戦闘部長を設置する。
「戦闘部長か...やりたくないな。」
「はい、皆さん。ルールブックは後で読み込むにして、戦闘部長のところは見ましたね?」
顧問の言葉に、全員がルールブックを閉じる。
「戦闘部長は、先ほど部長と話し合って決めました。」
血気盛んな運動部なら、立候補で決まるかもしれないが、そのやり方では吹奏楽部はまず決まらないだろう。
「それでは発表します。...山西雄一郎君。」
「...え?俺!?」
マジかよ!
「はい、雄一郎君です。あなたは、喧嘩が強いと聞きました。というか、正直に言います。雄一郎君以外、いませんでした。」
うへー...マジかよおい...
「現場での指示は、すべてあなたに一任します。」
勘弁してください...
「それでは、4時から文化部の幹部の会議があります。部長、副部長、戦闘部長は、1階会議室へ集合です。」
「はい!」
「はい。」
「はい...」
やたらと元気な部長、クールな副部長、そして既に疲れている俺。
「雄一郎、良かったな。」
「何言ってんだ研二。」
「あの絶世の美少女って言われてる、あんずと行動を共にできるんだぞ!?」
「俺はそういうの興味無いからな。」
「...」
何言ってんだこいつ。あいつと一緒に居れると言っても、その代わりに戦闘部長だぞ。陣頭指揮だぞ。
「雄一郎っ、早く行くよ!」
「おう...」
あんずに呼び出され、他の男子部員が羨望の目でこっちを見るが、気にせず会議室へ向かう。
一緒に向かうのは、あんずと副部長の瀬谷雪名。
いつも冷静な副部長だが、研二に言わせてみればそれがまたいいんだそうだ。
「雄一郎。」
「どうした?」
「戦闘部長って、大変なの?」
「いや、知らねーよ。」
「あ、そう。」
冷静というより、コミュ障なだけにも見えるが。
会議室に到着すると、吹奏楽部以外は集合していた。
13ある部活の幹部が一堂に会している。
その数、総勢39人。1クラス作れそうだ。
「全員集まった?」
仕切るのは、合唱部部長、綾瀬蓮花。
学校トップの学力を誇り、県内トップ校への推薦を狙っている、絵に書いたような天才だ。
「じゃあ、文化部の会議を始めるよー。」
そう言って、会議が始まった...
読んでいただきありがとうございます、ぬこたそもふもふ戦隊隊長です。
新しく出てくる人物を、前書きにまとめました。