戦闘描写が強さを決める件
「ソフィア……?」
ある晴れた午後、女剣士トライブ・ランスロットは、ライバルと言える女剣士ソフィア・エリクールの姿が目に入った。
ソフィアは、中庭のベンチに座って、本に見入っているようだ。
トライブが気になってソフィアに一歩近づくと、ソフィアはすぐに顔を上げた。
「あ、トライブじゃない。ちょうど本読んでたところなの」
「なるほどね……。あれ、これ……、私とそっくりのイラストが表紙になってる」
トライブは、その表紙に描かれているイラストを見て、思わず息を飲み込んだ。トライブと同じような金髪で、露出した肌の女剣士が、勇ましく剣を振っているようなイラストがそこにはあったからだ。
「当たり前よ。これ、私やトライブの活躍を小説化しただけなんだから」
「本当に?」
「本当よ。だって、中を見ても、ソフィアとかトライブとか書いてあるもの」
ソフィアがそう言って苦笑いを浮かべると、トライブも軽く苦笑いを浮かべる。意気投合したことを察したのか、その数秒後にはソフィアの手がトライブを招いていた。
「これは、トライブも見た方がいい。たぶん、すごい描写だと思えるから」
トライブは、ソフィアの横に座り、ソフィアが指で挟んだページを見た。
そこにカギ括弧で囲まれた文字に、トライブは思わず見入った。
――私は、こんなところで屈するわけにいかない!!
「まさに、私ね……」
苦笑いするトライブに向けて、ソフィアが軽く笑っていた。
「トライブ、たぶん……、私とトライブの戦闘の描写、違うと思うの」
「ソフィアは、どうやって書かれているの……?」
「そうね……。あまりうるさくないし、戦闘中の言葉に重みが感じられない。でも、トライブは剣を持ったら、そこからどの言葉も本気モードだし、見る側に戦っている感を与えているのよね」
「ソフィアだって、決して実力がないわけじゃないのに……、世間は私たちをこうやって見ていると思うと、なんかソフィアがかわいそうに思える」
全く同じ日に「オメガピース」に入り、同じようにステップを駆け上がってきた。それでも、最後のステップだけ上がれるか上がれないか、明確に分かれてしまった二人。
片方は、「オメガピース」のソードマスター。
もう片方は、上級兵止まり。
二人が剣を交えても、わずかの実力の差で、ソフィアがいつも苦杯を飲まされてきたのだった。
二人は、同時にそのようなことを思い浮かべていた。
そして、意識的にやや下を向いていたソフィアの首が、元に戻ったのは、その直後だった。
「それも、実力の差なのかも」
「えっ……?」
「トライブが気遣ってくれるのはいいんだけど、実力の差は、こうやってよそからの評価でも現れてくる。小説の戦闘描写ひとつを取ってみても……ね」
そう言うと、ソフィアは小説を閉じ、トライブに手渡した。
「ソフィア……?」
「この本は、私にとって見ちゃいけないものだと思うの。少なくとも、自分の描写がこれじゃ、いつまで経ってもトライブには勝てない」
そう言って、ソフィアは立ち去った。
戦闘描写でも差を付けられた、一人のライバルを置いて。