7・VSヌシ
わぁい、ブクマがすごいふえてるめう!
謎の震えが止まらないめう……吐きそう……
「なにか食材の保存できる道具とかないですかね?」
「お前はほんとに突然来るよな……」
やって来ました雑貨屋さん、あの後普通にゲームを終了して日を跨いでしまっています。
取り敢えず情報収集はここから始めるのが癖というかお約束となってきている感じはする。
「……ない訳ではないんだけどなぁ、これはちょっと高い」
「ダメ元だったんですけどねぇ……あるんですか……」
そんな雑貨屋さんを便利すぎるとは思っていなかった、いなかったけど今度から便利すぎる雑貨屋さんと認識を改めざるを得ないだろう。
そうして店主が持ってきたのは小型のポーチ、俺の腰の部分についているものに似ている。異なっている部分は留め具の部分が青い綺麗な石がはめ込まれている部分だろうか。
「容量は少ないが、こっちには内部のアイテムを冷蔵する効果がある。魔石を入れておけば……そうだな、スライムので1日は冷やせるな」
「高いって言ってましたがどのくらいするんです?」
「んー、容量が少ないと言ったがそれを加味しても20000Gってところだな」
「高いですねぇ……」
「だろう?言っておくがマケないからな」
その気はなかったが釘を刺されてしまった、現在の残高は5000Gほど。あと15000ほど、釣りで金策が一番いいだろうか…。
「誰かに買われたりしませんかね…?」
「大丈夫だと思うぞ、お前さん以外には話してないからな」
「じゃあなるべく取っておいてください、お金は用意しますので」
「あいよ、他に何か買っていくかい?」
ここで何も買わないのはちょっと気が引けたので消費したポーションと採取用のナイフに使う砥石を買う事にした、しめて1000G。
店を後にしてからルアーとか買ってもよかったなと思いつつも資金を集めるためいつもの様に港にて竿を出す。今回はあの日の雪辱を晴らすため、逃がしたヌシに挑戦したい。
もちろんいきなり挑戦せずに港を歩きながら肩慣らしだ、大物も狙っていきたい。
場所は港の防波堤の先端、なんとなく大物というか未知の魚がいそうな雰囲気だ。
今回は初めから使っているメタルなんとかでいってみよう。
そして適当に投げるのでなく遠くへ投げることを意識する。大物って遠くにいそうという安直な発想だ。
何回か投げて糸を離すタイミングを意識して最適なタイミングを掴んでいく、ゲームのアシストが効かない動作はこうやって慣れる他ない。
だがしかし、現実は非情である。時として幸運の女神さまは残酷だった。
―スキル取得『投擲』が解放されました
ちょうどタイミングも取れるようになってこれから本格的に釣るぞってタイミングでのスキル解放。
更にちょうど現在のSPは1、この勢いで取ってしまおうそうしよう。
自身で掴んだタイミングにスキルの補正なのか先ほどよりもスムーズにルアーが飛んでいっている気がする。
「嬉しいような、寂しいようなっ!」
ちょっとアンニュイな気分になりつつも唐突なヒット一発目、竿をぐっと立てて合わせる。やはり釣りはこの瞬間が一番ワクワクするかな。
いつもの様に魚の動きに合わせて竿を動かしリールを巻くが、この引きの強さはそこまで大きくはなさそうだ。
:サバ ランクD 鮮度100(3時間後に0)
庶民に愛される魚、脂がのっていてとても美味。
釣れたのはスーパーでも見られるサバ。
でも待って、ちょっと鮮度落ちるの早くないですか?早いですよね、サバってそんなに足が早い物なんですか。
一人暮らしで食べるサバなんてパックのシメサバか出来合いの味噌煮くらいだしちょっとこれはそのまま食材屋さんに持っていってみないと…なんか捌くのをためらわれるし、こう逆に傷んでしまいそうでね?
一人で言い訳しながら竿をしまいサバも活きが良いままインベントリにしまい急いで街の中へと走り出す、マップを開いてナビゲーションを開始するのも忘れない。
この日、俺はゲームで初めて息切れをした。
●
「サバはね、ここに指を入れて首を折る。で、エラを取って……するとほら内臓が取れた」
「ほぉー……綺麗に取れるもんですねぇ」
やって来ました食材屋さん、早速店長さんに相談したところ捌き方を教えてくれるというので実演してもらってます。これが文字通りのサバ折りってやつみたいですかね。
どうやらサバは〆めて血抜きをしないと鮮度がどんどん落ちていくそう、所謂生き腐れと呼ばれる物らしい。
ゲームの表現的に血は出ないが実際やるとなればかなりグロテスクな事になりそうだが、なんとか出来そうだ。
ただ教えられるのは申し訳なかったので授業料代わりにサバは差し上げて再び釣りへと向かう事にする、次からはサバも大丈夫そうだ。
来た道を歩きながらも大雑把にお金の計算をする、港で釣れる魚は基本的に一匹300G前後、サイズが大きければそれだけ値段は上がるが釣ってみないと分からないので考えない事にする。
単純計算60匹以上となるが、まぁ一日で集める物でもない上にゲームだ。楽しんで集める事を意識しよう。
釣れるポイントを探したり大物を狙ったりできる事を試していればそのうち集まりそうだ。
港まで戻ってくる。今度は防波堤の先端、まさに大海原に向けて竿を出す。遠くへ、なるべく遠くへルアーを投げる。
数秒ルアーを沈ませてから巻く、そして止める。これを繰り返して魚を誘っていく、おそらくちょっと深めの場所を探っている状態だと思う。
そこから投げる位置と探る深さを変えて魚を探していく。
「よし!」
三投目にて魚が掛かる、グググっと強い引きを感じまた大物なのではないかとテンションが上がる。
:アヴェツオ ランクC 鮮度100(7時間後に0)
赤身の肉が特徴の食用魚、すこし贅沢したい時に良く食される。
本日二匹目の新しい魚、カツオかマグロの様な見た目の魚だ。活きが良すぎるのかビチビチと震えるように跳ねている。大きさは40cmないくらい、先ほどのサバと同じくらいだ。
こちらはサバほどではないが鮮度が落ちづらそうだ。
大きさも似ているので食材屋さんから教わった方法で捌く事にしよう。
「ここに指を入れて……そいやっ」
一度見ただけで実践できるかは不安だったが思ったよりも上手くできた、最後に内臓を取り出して完了だ。
:アヴェツオ ランクC+ 鮮度99(24時間後に0)
赤身の肉が特徴の食用魚、すこし贅沢したい時に良く食される。手早く処理したため鮮度がいい。
上手く捌けたからなのかランクが上がっている、でも他の魚より時間がかかっているのに手早くとはこれ如何に。いや全体の鮮度から見てって話か。
もしかして鮮度が落ちやすい魚は釣り上げて直ぐに処理をするとランクが上がるのだろうか?
もう一匹カツオが釣れたら同じように捌いてみよう、気持ちゆっくりと作業して同じようになったら処理のタイミングが原因と考える事にしよう。
でも次は表層、つまり海面付近を探ってみよう。本来なら海面を狙えるルアーもあるのだが今は無いのでミノーで何とか代用してみる、ほぼ我流で適当にだが。
しかしそんな適当ではダメだと言わんばかりに五投目を超えても魚が掛かる様子はなく、諦めて別の場所を探る事に。
お金に余裕が出来たら色々なルアーを買いそろえてみたいな。
お次は海底を狙ってルアーを動かしてみよう、まずは沈むルアーを投げてからしばらく待つ。ゲーム内では根がかりがないのを良い事にかなり適当に待つ、そして巻いていく。簡単でしょ?
体感的にはこの海底から少し上付近を狙っている時が一番魚がかかる印象だ、じゃあ海面を狙わなければいいじゃないとも思うが無駄だと分かっていても探索は隅から隅までしないとしっくりこないアレだ。
「よっしゃ二匹目っ」
今度は若干小さいかな、先ほどのカツオモドキよりも引きが弱い。大きさがすべてではないがちょっと残念だ、大物を狙っているなら猶更。
:アジ ランクB 鮮度99(10時間後に0)
カツオモドキの後では引きに物足りなさがあったが、恐らく自己最高記録になるであろう大きさのアジだ。ランクもBと初めて見るランクだしね。
意外な大物にウキウキしながらも一旦別の場所へ移動することに、いい感じに釣れているし今日は調子がいいのかもしれない。
調子が良いかもしれないのなら挑戦してみようヌシに。
堤防を歩いて街を囲う壁の近く、ほとんど磯と言っても良いような場所。それが前回ヌシと勝手に呼んでいる魚を逃がした場所だ。
前回の反省は最後まで気を抜かない事、慢心注意怪我一生。とにもかくにも陸に上げるまでが釣りです。
しかしながらじゃあ釣りましょうとはいかない、ヌシを釣るには専用のエサが必要だ。憶測でしかないがあのファンタジーな青色エビが必要だ。
「ようやく一匹かぁ……」
潮だまりを探し、そこでエビを探す。潮だまり自体がそこまで多くなく4つしかない。
エビ自体も数が少ないのか結局一匹しか見つからず、少し不安な挑戦となりそうだ。
文句を言っても始まらない、前回だって一発で来たじゃないかと自分を励ましながら釣りの準備をする。
ルアーを外しインベントリからエサ釣り用の仕掛けを取り付ける、エサのエビは外れない様にしっかりと付ける。
投げる位置も足場もしっかり確認した、あとはヌシが掛かってくれることを祈るばかりだ。
「いってこーい」
振りかぶって投げる、仕掛けはほぼ狙った位置に投げ込まれた。ウキが波に揺られている、後は祈りながら待つだけだ。
待つだけの時間、前回もそうではあったが暇である。
波の音、これだけ近いのに微かにしか感じない海の香り、少し涼しいくらいの気持ちのいい風。
特に変化はないウキが波間に揺れているがやはり暇だ、この暇を楽しめれば一流だろうが如何せん俺は素人、そう釣り上げる瞬間が待ちきれないのだ。
年甲斐もなくはしゃいで魚がかかった瞬間を喜ぶ少年の心を…、そういえば前もこんなこと考えてたような。
そういえば海でも心地よいのだから山もいいのだろうか、高地の湖…草原とかでキャンプとか中々楽しそうだ。
フィールドでの活動で夜を明かす事もあるだろうしキャンプ用品も探してみよう、色々と終わった後になりそうだけども。
「そこはお金が貯まった……お?」
細かく動き始めるウキ、魚がエサを食べようとしているのだ。しかし慌てない、まだ慌てる時ではない……。
2回3回とウキがちょんちょんと動く、4回……5回目で遂に速く、そして深く沈んでいく。かかった。
「ヒッツ!」
竿を一気に立てて合わせる、しっかり針がかかった証拠にそのまま相手は逃げようと強く走る。
ごくりと唾を飲み込んで焦らないように心がける、リールも巻き過ぎないように。
心拍と興奮は上がっていく、こんなワクワクは最近感じたことの無いほどだ。やっぱりこのゲームはすごい。
竿の向きを調節しいなしながらリールを巻く、やめる、巻く、やめる。
一番離された時からおおよそ半分ほどの距離まで引き寄せた時、相手が海面付近で跳ねた。
黒い身体に黄色いライン、それは間違いなくあの時に逃がしたヌシだ。
同時に出てきた赤い矢印に驚きながらも竿を振る、これはあれだ。相手のスタミナを削ぐゲーム的アクションだ。
中途半端にリアル、一瞬そうも思ったがそのゲーム的な演出が逆に今のテンションと相まって気持ちがいい。最高にハイってやつだ!
コントローラーでなく自身の身体で行うアクションは心地いい、これがダイブゲームの面白さかな。
恐らく人生で一番アドレナリン出てる気がする。
順調に相手との距離を縮め、もうあと2mというところまでやってきた。陸へ引き上げるのも秒読みという所だ。
……しかし今回の俺は前回とは違う、最後の最後に暴れられたので今回は電撃戦を敢行する。待てばよかろう? いや限界だね!
「いくぞぉっ」
もう手が届きそうな場所まで来た時、一気にリールを巻いて竿を上げて引き上げる。暴れて糸が切れようが構わない、だってそこは陸だもの。はんだ。
結局、糸は切れなかった。そしてヌシは今まさに足元でビチバタと跳ねている。
・轟黒ダイ ランクA 鮮度100(24時間後に0) ヌシ
祝いの席で出される高級魚、王族や貴族への献上品としても重宝された。
「おおおお……」
初めてのランクA、そしてヌシの文字。もっとこう叫ぶほど喜ぶべきなのだが、こみ上げるものがなんかこう……声に出来ずに漏れ出す感じというのか。
唯々喜びに震えるだけなのだ。
しかし見ているだけではいけない、ナイフで内臓を取り出しておかなければいけない。何時もの通りに、でもなるべく丁寧に捌いていく。
「これは……魔石?」
・水の魔石 ランクC
水の属性を帯びた魔石、魔道具に使用すると水の属性を付与できる
属性付きの魔石らしい、スライムから出た魔石には何もなかったはずだからあれは無属性とでもいうのだろうか。そしてこの感じだと他の属性もあるのだろう。
内臓も取り出し終え、インベントリ内へ収納し竿も畳んで帰り支度。これはどれほどの値段になるのか今から楽しみだ。
●
「まさかこの魚が持ち込まれるとは驚いたな……」
「そんなに珍しい物だったりすのですか……」
個人的な予想としては「すごいの釣ってきたな!」って割とフランクな感じで驚いてくれるものだと思っていたが、どうやらこの魚はシリアスな驚きをもたらしてしまったようだ。
「こいつは昔、国王への献上品なんかにされたほどの魚でな。この辺りではもういなくなってしまったと言われているんだ、まさかこの目で見れる事になるとはな」
「あー……ところでこいつは買い取ってもらえるんですかね?」
正直なところ金にならないとどうしようもない、俺は料理できないしね。
「ああ、すまない。そうだな…状態も良いし高級魚だ、8000Gってところだな」
「おお……」
過去最高取引価格である、嬉しい。
他に釣った魚、アジとカツオモドキも買い取ってもらい今回の収入はしめて10300Gほど、あと4000ちょっと稼がなくてはならない計算ではある。
しかしながら今日はもうやり切った感じがあるから釣りはもうやめておこう、ボス戦の後の余韻……とまではいかないが達成感を味わいたい。
時間もちょうどいい感じだし、今日もここまでにして続きは明日にしようかな。
はんだ
種族:ケットシー 職業:魔術師 Lv.3
装備-武器:なし
頭:なし
胴:冒険者のローブ
腰:なし
腕:なし
足:なし
他:快速の腕輪
スキル
<体術 3><釣り 4><魔力操作 on><発見 2><採取+ 2>
<投擲 1>