6・教会に登ろう、木にも登ろう
あとがきのステータスを書き出すのが大変(前回のを修正)
着々とブクマが増えてて怯えてます
「なんかここ登れそうだよな」
路地を進むこと10分ほど、大きな時計のある教会のような場所にやって来た。改修しているのか木の足場が組んである。
こういう登れそうな場所には登りたくなるのはきっとあのゲームのおかげだろうか……、でもゲームとはいえ登っていいものなのか……。
ちょっとした好奇心と良心というか社会人としての常識がせめぎあう。
悩む事数十秒、結局好奇心には勝てなかった俺は足場に手をかけ登り始めた。
手足が滑らないのを確認してからゆっくりと、時折壁の出っ張りなども利用しつつ危なげなく登っていけた。組まれた足場は高所作業の為に頑丈に組まれていた、足場の安定感があるだけで余裕を持てる。
屋根の上まで来ると明るい街がよく見えた、特に明るく見えるのは大通りだろうか。壁の上と思しき場所にも明かりがついている、衛兵さんが見まわりでもしているのか明かりが動いている。
普段見れない景色を堪能しつつも上を見上げる、それは時計台。頂上には鐘が設置してある、きっと時刻を知らせるためのものだろう。俺自身は聞いたことがないので憶測ではあるが。
登るしかない、中年と言えど心には小学生はいつもいるものである。
ここまできたのなら行けるところまで行かなくてはもったいない。
今度は足場のない本物のフリークライミング…、昔プレイしていたあのゲームを彷彿とさせるな。
出っ張りに足をかけ、手に力を入れる……。
「お?」
ぐっと力を入れると無意識に爪が出て壁に引っかかる、手全体で掴むのではなく指先を引っ掛ける感覚で掴むと爪が出る様だ。
そのまま懸垂の要領で出っ張りを伝う様に登っていく、初めてでも意外にも登れる物である。現実では腕立てすら10回もできないが苦労せずに登っていける。
途中、取っ掛かりが無くて塔の反対へぐるっと回ってしまった。下は見ないようにしつつもここまで来たなら後戻りはしない、そう言い聞かせで登っていく。
「あっ」
呼吸を整えて焦らない様に心がけていても素人、数メートル登ったところで足がズルリと滑り体はそのまま滑り落ちていく。
「のわぁぁぁあ!?」
急速に遠くなる時計台。
咄嗟に体を捻れたのは無意識なのかゲームの仕様なのか、今度は迫り来る石畳に初めて体験する恐怖を感じている。
ゲームだからと言っても落下の恐怖というか肝が冷えるあのヒュンとした感覚は現実そのままだ。よく考えたら五感もあるのだから当たり前だと思ったのは落下した後の事。
そうして俺は落下した、落下したはずなのだが痛みもなく平然と地面に着地した。
こういった場合は落下ダメージが発生するのがお約束だし、こんなにリアルなゲームで落下ダメージがないというのはおかしい気がする。
一応HPを確認してみるが減ってはない、ドキドキと変な興奮を抑えるように深呼吸をしながらヘルプ画面をメニューから開いて『落下』と検索をかけてみるとちゃんと落下ダメージがあるということが明記されているページを見つけることもできた。
「つまり……落下ダメージ減少?」
猫の体だし高いところから落ちても平気ってことなのだろうか?
スキル欄には特にそういった記載もないので隠しパラメーターとかそういうのだろうか。
一応後で確かめてみた方がいいのかもしれないなぁ……。
まぁ、兎にも角にもアホなことして初めての死に戻りとかそんな悲惨な事にならなくて良かったと思うことにしよう。
メニューの時刻を見てみると夜明けまではまだまだ時間があるようだ、一旦ログアウトして気分転換でもしてこうかな。まだ心臓がバクバク鳴っている気がするしね。
また路地の端へ移動してログアウトを始める、今日は色々と初体験が多かった……。
●
一旦気分転換するといったな……あれは嘘だ。
あれから読書でもしていたら寝てしまった俺です、LoA4日目です。
ログイン当初は夜だったが、ちょうど夜明け近かったらしく直ぐに門が開いてくれました。また路地でうろうろするところだったから僥倖です。
今日も今日とて森へ採集と狩りですが、どちらかと言えばレベル上げをメインにやっていこうと思う。
レベルが上がればできる事が増える、できることが増えれば楽しくなるのはゲームに限らずだ。
もう一つ、今回試してみたいことがある。戦闘が有利になればいいかなぁくらいの感覚だけど確認は大切である。
前回と同じように森へと入るが今回は少し奥へ進んで見ることにする、周囲に気を配りながら進んでいく。こういう藪とまではいかないがやはり初めての場所って緊張しない?しないか。
―カタカタッ
しばらくして聞こえた木を打ち鳴らす音の方向へ身を屈めて行ってみれば見慣れたマネキン1体、いつものように辺りをウロウロしている。
バッと出て行ってちゃちゃっと倒してもいいが、今回も試したいことがあるので相手に気付かれない様に忍び足で行動する。
最初に試してみたいのは木に登れるかだ、昨日は建物に登れたので木にも登れるだろうという事である。
しっかり爪を立てる事を意識して一気に体を持ち上げるように登る、枝の又に足をかけ三点で体を支えるように心がけながらマネキンの移動経路上へやってくる。枝が折れるか心配だったが今回は上手くいった様だ。
未だに俺には気づいていない様子のマネキンが俺の真下付近まできた、俺はなるべく音を立てないように飛びかかる。音は立てないように丁寧にだ。
「マジックショットッ!」
光を帯びた手で上からそのまま押し潰すように襲いかかる。
アーツが当たったパンッという乾いた破裂音と共にマネキンの頭部が弾け、そのままクシャっと潰れるように光の塵へと崩れていった。
感触は紙袋を潰したようではあるが相手が生きていた場合は手をついた様な感じになるのだろうか……。
……その時になれば分かるだろう、それよりも今はこの成功を喜ぼう。
アサシンプレイとまではいかなだろうが木に登っての奇襲は可能であり有効の様だ、相手が相手なのでどこまで通用するかはわからないのが疑問ではあるけども……。
だがしかし戦闘だけでなくても木に登れるなら木の実もたくさん採れるわけだ、リンゴとか美味しかったしね。色々可能性が広がった気がするぞ。
「よーし、どんどん狩っていくぞー」
その後も木に登ってリンゴやなんか見たことのない果物を取りつつマネキンに奇襲を仕掛けては撃破を繰り返してしてみた。今回のあれこれで分かったのはある程度の枝ならばこんな体でも乗れる事、恐らくだが直径5cmほどまでは乗れそうだ。
次に枝から枝へジャンプした際は距離がありおもいっきり飛んだ場合にはそれなりに木が揺れる。相手がマネキンだからか気付かれなかったが、この先では気づかれそうだ。
ある程度戦ったので休憩がてらに木の上で先ほど取った見たことのない果物を食べてみることにする。
・キヌハの実 ランクD 鮮度99(50時間後に0)
どこにでも分布し人々に親しまれている果物、みずみずしく微弱だが解毒効果がある
見た目はオレンジ、皮を剥いてみると果肉は桃のようだ。日本でおなじみの白桃と呼ばれるタイプの桃に近い。
毒はないようだし早速食べてみれば桃のような優しい甘さの果汁が口の中に広がって果肉というよりも果汁を食べていると言ったほうがいいレベルでみずみずしい。
リンゴと比べると甘さがスッキリしていてみずみずしいので生食が一番相性が良さそうだ。いやジャムとかコンポートとかでも美味しいかもしれない……かな。
もう1つ食べようかと思ったがこれは取っておいて街に帰ってから食べることにしよう。
時間を確認してみても時間に余裕があるどころではなく、ゲーム内時間の正午にもなっていない。
ならばもう少し狩りでもして、その後に採取をしていこう。
そうして7体ほどのマネキンを撃破したところでレベルが上った、これでレベル3。魔力効率のスキルはもう少しだ。
さらに先ほど新しいアーツを覚え、スキルが解放された。
――アーツ取得『マジックバースト』
――スキル『隠密』が解放されました
・マジックバースト 熟練度E
指定した座標に魔力による小規模な爆発を起こす。
・隠密:気配と移動時の音を消す、不意打ちダメージに補正
隠密のスキルは木に登って不意打ちしていたためだろう、効果も分かりやすい。そして気になるのは覚えたアーツだ。
どうやら攻撃用のアーツらしいが、説明を見る限り危なそうな匂いしかない。爆発ですよ、爆発。
素手で発動したら大惨事になりそうだけど……。
「物は試しだよな……」
●
小走りで森の入り口、切り株の点在する場所へ戻ってきた。
回復アイテム、ポーションの在庫の確認とレベルアップで獲得したSPを使って魔力効率+の取得もしておく。
そして周りに障害物がないこと、後ろを特に確認してから手を突き出して腰を落として衝撃に備える。
「……マジックバースト!」
掌から50cmない位置に光球が出現した、そして弾けた。とてつもない衝撃を伴って。
「ぐえっ」
ゴロゴロと地面を転がる事3回転ほど、回る景色と衝撃の後に地面に仰向けの状態で止まる。
HPバーも2割ほど削れている、このゲーム始まって以来の大ダメージです……。
「はぁ……」
起き上がって服に着いた汚れを叩く……まぁ汚れてはいないけどね。
この感じだと普通に杖で使えてもパーティー組んでいたら迂闊に使えなさそうだ。
攻撃なら足りているし複数の相手に攻撃する機会も今のところないしこのアーツは使わなさそうだな……。
……いやでも緊急時の脱出なんかには使えそう、そう考えるともうちょっと練習とかしてみてもいいかもしれないな。
「マジックバースト」
今度は威力をできるだけ弱める事を意識しながら、かつバックステップをしながら発動してみる。動きながらの発動は今までの経験で慣れているのでいい感じのタイミングでアーツが発動する。
先ほどとは異なり姿勢を維持したまま後ろへ吹き飛ばされる、ふわっとした浮遊感を感じた後着地。一応動きとしては上手くいったのではないだろうか、HPバーもわずかしか減っていない。
「よし、もう少し練習して物にしよう」
一応チュートリアルでもらったポーションを使いHPを回復してから再びステップしながらアーツを振る、一回目でコツを掴んだのか順調に回数をこなしHPの減少をできるだけ減らしていけたと思う。
発動するタイミングやステップの方向、走りながら振り向きなど出来るだけ多くのシチュエーションを考えながら練習をしていく。真上に飛ぶことは出来ないようだがそれ以外の挙動では問題なく運用できそうである。
そうして熟練度もDランクまで上げ、HPも心もとなくなってきたため切り上げで一旦街へ帰ることにしよう。
MPの効率はさすがに良くは無いが連射する機会はそうそうないだろう、それ以前に無茶をしないように心がければいいかな。
●
意気揚々と門をくぐり昼の街を歩く、インベントリの中身は果物であふれているので売ってしまおう。
慣れた道を通っていつも魚を売りに来ている食材屋へ、今日も店主は買い物客に色々と勧めているようだ。
「こんにちは」
「おや、こんにちは。また魚でももってきたのですか?」
「いえ今日はこれを買い取ってももらいたくて」
「キヌハとリンゴですか、傷もないですし天然の物は美味しいと評判ですからね。全部で……1500Gというところでしょう」
「じゃあそれでお願いします」
「はい、代金はこれね」
店主が置いた籠に果物を入れ、麻袋に入ったお金を受け取る。
自分が食べる分は2個ほど取っておいてある、屋台で何か買って一緒に食べようと思っている。
「こんにちは、串焼き……とサンドイッチください」
「あら、この間の。いらっしゃい、サンドイッチに串焼きですね」
露店が並ぶ大通り、偶然見つけた先日と同じ女性の店へやってきた。やはり知っている店というのはついつい行ってしまう物だ。
前回と同じく串焼き2本にしようと思ったが新しくサンドイッチのメニューが表示されていたので咄嗟に注文、650Gだ。
「メニュー増えたんですね」
「スキルレベルも上がって食材もそこそこ安定して買えるようになりましたからね。あ、全部で900Gです」
メニューから代金を渡し肉が焼けるのを待つ、鉄板で焼かれる肉は大きく跳ねる脂と香ばしい香りがとてもおいしそうだ。
食パンっぽいパンに葉物の野菜、トマトっぽい物、肉、そしてトロッとしたソースを挟んで完成の様だ。
「はい、おまちどうさま」
「おいしそうですねぇ」
「これでも料理スキルは高めですから、バフもしっかり乗りますよ」
「バフですか?」
「あら?料理を食べるとHPの最大値とか増えるのですよ」
「知らなかったです……」
彼女の簡単講義によると料理には長時間の能力上昇効果があるのだそう、食材の組み合わせや料理人のスキルで効果は結構変わるらしい。
そして現在人気の食材は体力と力の上がる肉と防御が主に上がる野菜が人気だそうです。
ちなみに魚は体力と力が上がるそうで肉と効果が被るらしい、入手のしやすさから肉の方が人気で魚は相対的に不人気らしい。そしてパンも体力上昇の効果があるみたいだ。
「だけど料理好きとしては魚も料理したいのですよね」
「魚でしたら自分、釣りするので持ってきましょうか?」
「えっ?いいの!?」
「買い取りの形でお願いしたいですけど……」
「十分十分!釣りスキル持ちの人って自分で使う人が多いので、自分で釣るにも時間も無くて……住人の店でもいいのですけどそんなに量を買えないのですよ」
意外と需要はあるところにある物の様だ、隙間産業万歳。
「じゃあ今度何匹か釣ったら持ってきますね」
「あ、フレンド登録しておきましょう?連絡取りやすくなりますし今後の魚のために」
ポンとゲーム上のアナウンス、メニューを開くとフレンドの欄に更新を知らせるアイコンが。
―『シソ』からのフレンド申請 フレンドになりますか?
はい/いいえ
彼女……シソさんとフレンドになった、でもシソって……。
「えーと……はんださんですね、よろしくおねがします」
「こちらこそよろしくですね」
まだ温かいサンドイッチと串焼きを手にシソさんの屋台を後にする、そういえばフレンド第一号さんだな。
串焼きを齧りながら今度魚を渡すときは釣っている時に連絡した方がいいのかなとか鮮度はなるべく良い方がいいよなとか考える。
今度はサンドイッチ、ソースがパンに染み込んでいるがそれがまた何とも言えない。新鮮でシャキシャキしてて肉を引き立ててくれる。
サンドイッチというよりもハンバーガーに近いかもしれない、違いを説明できるわけではないがそんな感じだ。
そういえばクーラーボックスとかないのだろか、食材の長期保存ができる施設ないし輸送用の何か……。




