42・報酬とバンダナと釣りと
積みゲーから逃げるな
――調達クエスト(特殊)・エクストラルートに成功
報酬はインベントリに自動的に収納されます
街に帰るまでがクエスト、そういえばダンジョンでの報酬も確認していなかったのを思い出した。
「おつかれさん、早速だが追加で報酬って訳だが……おまえさん、なにか欲しいものはあるか?」
「おつかれさまです。そうですね……釣り具といい感じのポイント教えてもらう事ってできますか?」
「あぁ……そんな物でいいのか?まぁ、いいが。ちょっと待ってろ」
なにやら心当たりがあるのか大きな船の1隻へと行ってしまった船頭さん。
ただ待つもなんなので早速報酬を確認しておく。
主に経験値とお金、これはクエストクリア時に受け取った事になっていたらしくレベルが上がっている事に今気が付いた。あとでスキルとか眺めてみよう。
そしてダンジョンで出てきたモンスターのドロップ品。これは以前も手に入れたヤドカリの殻と蟹の殻である。それぞれランクC-と意外と高品質。
・いい感じの食器セット ランクA
とても高級感のある食器とカトラリーのセット、どこでも優雅
そしてボスドロップと思しき……食器セット。皿が何枚かとナイフとフォーク、スプーンがそれぞれ4本。こういうのって順番があるんだっけか、そういうレストランとかには縁が無いのでちゃんと揃っているのか……とか良し悪しとかは全然分からない。
よし、ランクは高いけどヌカカメさんあたりに売りつけよう。あそこなら腐らないだろうし、持て余すよりましだ。
気を取り直して次は今回の報酬……これも経験値とお金、あとは自分が現地で拾った宝石の類と報酬として追加されている宝石だ。
特別な報酬とかはなかったが、船頭さんから釣り具を現物支給されるので不満はない。むしろさっきみたいに持て余すものを貰わなくていいのかもしれない。
思ったよりもスムーズに終わった報酬確認、船頭さんはまだ戻ってこないので手ごろな木箱に座る。
拾った宝石と報酬で貰った宝石をそれぞれ並べてじっくり見ていく。
個人的にはジャスパーの赤色が好みだ、渋い色をしている。アクセサリーに加工できないだろうか。
次にヒスイもいい色をしている、博物館で見た事のあるものよりも青みがつよい気がするが、そのうちの1つは両手サイズのデカイ塊であった。これが追加の報酬のやつだろう。
ランクもB-と高いので加工したら中々に高価なものになるのではないだろうか。これは自分の装備用にしよう。
「おーう、報酬はこれとこれ。あとこれだ」
「おー」
・船乗りの釣り竿 ランクC 耐久7650/10000
・サビキセット+ ランクD
サビキ釣り用のセット、撒き餌のレシピ付き
・船乗りバンダナ ランクD 耐久5000/5000
船乗りの証、大海原を旅する彼らは度々目印としてバンダナを着用する
――簡易作成『撒き餌(初級)』を習得しました。
釣り竿はのべ竿タイプだ、4mくらいか。おおよその人が想像する釣り竿っぽいカラーリングをしている。
そして新たな仕掛け、サビキ釣りだ。沢山の針が付いていて小さな魚を1度にたくさん釣れるやつだ。
カゴが付いているタイプが普通だと思っているがこれにはカゴがない。多分撒き餌をしてから使うのだろう。
そして簡易作成のレシピ、炭酸水と同じく誰でも作れるというやつだ。確認したら魚やエビとかを細かく刻めばいいらしい。ナイフもあるしそのうち作ってみよう。
「そうそう、そのバンダナをしてれば船に自由に出入りできる。俺たちの仲間って事だ」
「おー」
赤いバンダナ、直線で描かれた模様はなんのモチーフなのかは分からないが中々雰囲気があっていい。
早速装備してみると首に巻かれるように装備された。赤色はいい感じのアクセントになってオシャレなのではないだろうか。
「似合ってるな、そんじゃこれからもよろしくな」
「よろしくおねがいします。あ、釣りできる場所と釣り餌買える場所ありますか?」
「釣りか……街ん中じゃみんな適当な場所でしてるな、餌は中央の魚市行けばいい」
「ありがとうございます」
船頭さんに別れを告げ、彼が指さしていた方へ歩き出す。魚市って事は多分、先日タコを売ったあそこでいいのだろう。サビキ釣りもいいが今はのべ竿でエサ釣りがしたいのだ。そういう気分なのだ。
●
「餌にするなら……これ、オキアミだ。尻尾を切って針を通せばいい、1セット1000Gね」
「じゃあそれでお願いします」
そうしてやってきた魚市、カウンターっぽいところで暇そうにしていた女性に釣り餌の事を聞いてみたら早速ありました。海老っぽいやつ。
どうやら自分たちの食べる分を確保するためだったり余暇だったりで釣りをする船乗りはそこそこ多いらしい。そのための釣り具は小遣い稼ぎになるのだそうです。
バンダナしてたから安くしておくよ、なんて早速役に立ってくれたバンダナ。どうやら船に乗れる以外にもいろいろ特典があるっぽいな?
それはそうとエサも手に入れ、レッツフィッシングである。
安直にあの桟橋に向かおう。ほぼ一直線だったと記憶しているし、なんだか開けた場所の方がいい……気がする。
気持ち速足で桟橋へと到着、しかしながら多くの船乗りさんが船に乗り込んで海へ繰り出そうとしていたり帰ってきていたりと忙しない。……なんだかここはあまりよろしくないな?
「釣りねぇ、停泊してる船からでも邪魔にならなきゃどこでも大丈夫だぞ」
とりあえずちょうど帰ってきていた船乗りさんにオススメのスポットを聞いてみるとなんとも気前のいい回答をもらえてしまいました。
目に付いた大型船に乗り込む事に、ちなみにバンダナを付けているという事で簡単に乗せてもらえました。バンダナ万歳。
デッキの手すりに腰かけていざフィッシング。波もまだまだ穏やかでなんともいい感じ。
エサを付けて投げ込む、波に揺れる丸くてかわいらしいウキを眺めながらアタリを待つ。中々に手持ち無沙汰になりそう。
でもそれを楽しむのだと言い聞かせながらふと、お供えとして不本意ながら貰ってしまった串焼きを思い出して適当につまむ。
1尾まるまるの焼きものというよりも切り身の串焼き、なぜ未だに温かいのかはゲームの仕様と流しながらひと口。
見た目から塩だけかと思ったが香草っぽい独特の香ばしい匂いが魚の味を引き立ててくれる。ほろほろと解れるというよりもしっかりとした身質のお陰で食べ応えがある。
骨も無く食べきれば串だけが残るのも個人的に嬉しい所。
2本目は肉の串焼きに……と手を伸ばした時、ウキが動き始める。チョイチョイと揺れてからぐぐっと引かれる。
竿を立てて合わせれば竿がしなり今までとは違う魚の引きを感じられる。これがのべ竿。
竿を立てたまま、魚に合わせて左右に竿を動かしていれば魚が上がってきた。そのまま手元まで引き上げて糸を掴む。
・アジ ランクD+ 鮮度100(10時間後に0)
庶民に親しまれる魚、調理方法も多く食味も良い。
20cmに満たないくらいのアジだ、でもこの大きさなら十分に大きいのではないだろうか。
そして大きさに比べて引きの手ごたえもいい、アジがというよりものべ竿だからというのがあるのだろう。
とりあえずその場で内臓を取り除き……そういえばこの内臓、直ぐに消えてしまうが撒き餌さとかに加工できないだろうか。
そのうち調べよう、今はその時ではない。今は釣りの時間だ。
串を咥えながら2投目、魚が集まってきているのか直ぐにウキが動く。しかしながら決定的なあたりは全然来ない、なんといじらしい時間だろうか。
竿を引き上げたくなる衝動を抑えて待ちに待つ。今、心を無にして精神統一の先……。
「来たっ」
完全に思考が横道に逸れ始めた瞬間に強く引かれて竿を立てる。しかしながら竿からは何も感じず針の先にも何もかかっていない、エサも綺麗にない。盗られてしまった、これはかかってから逃げられるのよりも悔しいかもしれないな。
だが諦めない、餌を丁寧につけて投げる。
まだまだ集まってきたままの魚達、直ぐにウキが動き始める。
小刻みに揺れるウキに集中して……集中して……しゅうちゅうして……。
「ここっ」
張ったままの糸、伝わる振動、しなる竿。
言い表しずらい何とも言えない快感というか感動が今、この瞬間。
・カワハギ ランクC 鮮度100(10時間後に0)
小さな口で餌を盗んでいく、身は美味で人気がある魚
ここに来てゲーム的なアレンジが加えられていない魚が連続できた。特段気にする事ではないけども。
エサ取り名人、皮が手で剥ぐ事ができるからカワハギと呼ばれる……と聞いた事がある。
おちょぼ口とつぶらな目が愛嬌こそあれど憎きエサ取りだ。しっかり内臓を取り出してやろうと考えながら糸と掴んで手が止まる。
「肝がおいしいって聞いたことが……」
でもあれは冬がいいんだっけか……?ああ、でも旬はこのゲームだと関係ないんだっけ……?
いまだ糸の先で元気よく暴れているカワハギ君、このまま捌くべきか。
「あ」
先人に聞こう、先人というか詳しい人達だけど。
カワハギを回収して竿を持ったまま片手でメニューを操作する。クランハウスへの移動を選択。
白くぼやける視界もなんだか慣れてしまった、そして変わる景色。木造のオシャレなクランハウスだ。
「たのもー」
「あ、ねこさん。こんちゃっす」
「お、魚ですか!ちょうどいいもんあるんですよ!」
ハウスのエントランステーブルで談笑していたのは褐色肌のエルフさんと……角の生えたお兄さん。
多分ダークエルフってやつだろう。角のお兄さんはわからない。
はじめましてだなぁ……と思っていたらダークエルフさんは食事会とかで会っていた豪さん、種族を変えて髪型とかも変えていたので全然気が付きませんでした。
角のお兄さんは夜叉゜さん。種族は鬼だそうです、自分と同じようなレアな種族らしい。
種族も色々なんだなぁと感心しながらも要件を簡単に伝えると豪さんが「やっぱり!」と嬉しそうに立ち上がりスキップしながら厨房の方へ、そして満面の笑みを浮かべながら持ってきたのはなにやら壺。
夜叉゜さんも自分もそれが何だか分からず、首をかしげながら小皿とかまな板とかを準備する豪さんをただ見ていた。
このカワハギと何か関係があるのかは分からないが捌いてくれる流れっぽいので見守る。
「これ、試作段階ですが醤油なんですよ」