40・参拝と手伝いと
月2更新すらできぬ
ログインすると、ハンモックの前には手を合わせ此方を拝む様にしゃがみ込んでいるモモさんがいた。足元ではスライム君が小さく跳ねまわっている。
――何をしているのか?
そんな疑問と共に周囲の色々な物に目が付いた、昨日はたしか木箱の間のスペースを使わせて貰った。現在も木箱は移動しておらず船もおおよそ動いていない。その目に付いた物は地面に置かれている瓶やらコインやら……。高価そうな物ではなくおおよそ見た事のある瓶と色をしている。
「何を……?」
「え、えーと……お参り……?」
「なんで疑問形なんですか……」
「……掲示板でねこさんがまたちょっと話題になってたので」
そう何度も話題になっているのか、とかは一旦置いておいて……。詳しく話を聞くと衝撃の事実、ハンモックで寝た状態でログアウトすると寝た状態のアバターがゲーム内に置き去りにされてしまうのだ!
他人からは触れられたりスクリーンショットに写り込んだりとかはないのでイタズラこそされなかったが、珍しいアバター故なのか縁起物としてこうしてお供えをするプレイヤーが出始めてしまったのだ。
幸か不幸か……自分にとっては恐らく不幸だが、お供えをしたプレイヤーの中に幸運が訪れた者が出て掲示板で話題になってしまった。良くも悪くもノリがいいのがインターネットとか仮想現実は今も昔も変わらない、こうしてこの大量のお供え物が集まってしまったという訳である。
どうして。
「とりあえず、これはどうしたら」
「貰っていいと思いますよ、全部」
「いいんですかね……」
気が引けて仕方がないが、所有権を放棄されたアイテムは自動で消滅するか誰かに拾われるかなのでMOTTAINAIの精神で回収する事に。回収して確認してみたオーバースペックなアイテムは無かったのが救いだ、なんか大事に使いどころを見極めようとして使わずに時間だけが過ぎていく事になりかねないからね。
一応、状態異常回復用のポーションとか見たことの無いポーションが数種類と合計3000Gほどのコイン、あとなぜか串焼きの肉と魚。どれも普通の品ばかりなのは気遣いなのか、それともその程度のお供えという事なのか……前者だと思う事にしよう。
「とりあえず、今回はいいとして……なにか対策を考えないと……」
「えー!やめちゃうんですか……」
「だって、何もしてないのにアイテムとかもらえるのはちょっと……」
「御利益ありそうなのに」
崇められる側はたまったものではないのだ、毎日この量とはいかずとも何もしなくても物がもらえるというのは精神衛生上よろしくはない。とてもよろしくはないのだよ……。
「とりあえずハンモックで寝るときは人に見つからない所を探します」
「残念……」
モモさんには悪いが決定事項。しかしながらハンモック自体をやめるつもりはない、せっかく!手に入れたのだから!
設置場所を探さなければいけないがそれは後で考える事にしよう、今日も元気にお手伝いだ。
「モモさんは今日は何をするんですか?」
「えーと、今日は頼まれてたポーションとか作る予定ですね」
「じゃあご一緒は出来そうにないですね」
「すいません」
「お気になさらず」
今日は1人でお手伝い、ハンモックを片付けて忘れ物がないか確かめる。モモさんと別れてとりあえず人の多そうな場所を目指して歩き出す事にする。
そういえば、ログアウト前にいたお兄さんがいないけど彼も祭りの準備とかで忙しいのであろうか。できればハンモックの設置場所の相談がしたかったがそのうち会えるだろう、その時に考える事にしよう。
とりあえずあの魚がたくさんあったあの場所を目指すか、それとも別の場所を目指すか……。どちらでもいいか、適当に進んでそこから考えよう。
そうして歩いていれば足元はいつの間にか桟橋と言えば……あ、これ筏だ。組まれた木の足場が船を繋いで広がっているのだ。もしかして陸地部分って少ないのかもしれない。
ちょっとこれは果てを目指して進んでみたくなる、そしてそこから街を見てみたい欲求に従いずんずん歩いていく。すれ違う人は船乗りばかりでプレイヤーと思しき人はいない。
ようやく船の隙間から船が見える景色から海が見え、間もなくして景色が開けた。
「お、来訪者か!いいところに来た!」
「細かい事は船に乗ってからだ!」
「え」
「いいからいいから!」
「ええ……」
――海神祭のお手伝い:物資調達 (特殊)を受注しました
なにやら忙しなく動く数人の船乗り、その一人に腕を掴まれこちらの返答も待たずにクエストを受注したことにされる。なんだこの強引さは。
そして中型の船、なんと呼ばれるのかは定かではないがそんな船に乗せられあっという間に海の上。陸から離れてはいるが穏やかな波で船を出すのには絶好の日和と言ってもいいだろう。ここまで離れると街の様子も船がたくさんあるなぁ程度にしか見えない。
そんなほっぽり出されて手持ち無沙汰な自分を置いて船上では慌ただしく準備に追われている人たち。未だに説明はない。
「えーと、何が始まるんです?」
「ほれ、これ付けて。」
「はい」
「潜って宝さがしだ」
「……はい」
・潜水ヘルメット(レンタル) ランクA+ 耐久値:100000
潜水用の特製ヘルメット、装備時にスキル「潜水(レベル5)」「水中呼吸(レベル5)」を付与
※レンタル品はクエスト完了時にインベントリから自動で消滅します
金魚鉢に短い管が取り付けられたような見た目のそれはヘルメットだった。
さっそく装備してみれば視界は変化なく、すっぽりと頭が覆われた。
装備の説明を見る限り水中での活動はできるっぽいしクエストとして受注されたのならこちらの能力は関係ないのだろう。
習うよりも慣れろではないがとりあえず海へ入るしかない展開ですねこれ。
「ところで宝って具体的には?」
「でけえ貝だよ、真珠が入ってる事があるからそれを探して欲しい。あと時折難破船の積み荷が流れ着いてくる事があるからそれも探してみるといい」
「なるほど」
海底宝さがし、どうとでもなれと船員達が次々と海へ飛び込んでいくのを追う様に海へ飛び込む。もちろん足から。
冷たい海水を心地よいと感じながらヘルメット越しに海の中を見る、そこそこ深く見えるがとても透明で底までしっかり見える。色とりどりの海藻やら珊瑚っぽいなにそれと魚の群れが果て無く広がってなんとも非現実的だ。
幾度となくこのゲーム内で綺麗な景色を見てきたがこれは今のところ1番じゃないだろうか……。
感動しながら浮いてはいるが自分自身、泳ぐことはとても苦手である。ギリギリ浮いていられる程度でプールにせよ海にせよもう何年も行っていない。
そんな自分でも苦も無く泳げるゲームのアシスト機能の恩恵に感謝しながら現れたヘルプウィンドウを見る。
いつの間にか現れていた青色の酸素ゲージ、これはヘルプが無くてもなんとなくわかる。
そして次は潜水の手引き……つまりアシストを受けるための手順っぽい。
1、海底を注視する
2、前転するように上半身を水中へ
3、後はバタ足
要約するとこんな感じだろう。
やってみない事には始まらないので早速やってみる。海底を見て、頭を下げて、足を動かす。
ズイっと体が海底の方へと加速する、2mほど進んでからゆっくりと止まってそのまま静止した。
頭が浮き上がり立っているような体勢へと変わったがそのまま水面へ浮いていってしまうという事はないようだ。
再び潜水と同じように動けば深く進み、体勢を上に向けながら足を動かせば浮いていける様だ。
今のところ酸素ゲージの減りは微々たるものでこれなら数分くらいは潜っていられそう。
動きの確認ができたならいざ、海底まで進んでから這うように移動しながら貝を探す。
「でかい」
早速見つけたのはでかいヒトデだ、赤くてゆっくりともぞもぞ動いている。ちょっとかわいい。
小さなエビや小魚は隠れるように海藻の陰に隠れていたり眺めているだけでもかなり楽しい、当初の目的を忘れないように気を付けなければ。
レンタル品の簡素な説明
・主にクエストにて一時的に獲得できる装備品
・クエスト達成に必要な装備であり、基本的にクエスト達成に有利なスキルが付与される
・付与されるスキルよりも高レベルのスキルを所持している場合、高レベルのスキルが優先される
・クエストの達成などで自動的に返却される




