39・ボス戦の決着
これは月2回の2回目なんだ……(じこあんじ
「おおおおお!?」
足元から頭まで、ランダムなのか狙っているのか分からない起動で撃たれる水レーザーを転げまわって回避していく。
直接こちらを狙っているというよりも適当に撃って薙ぎ払うような軌道で攻撃している印象だ。
不意に他のメンバーを見てみれば後衛の3人はララデコイトさんが作った土壁の陰にどらやきさん、ぐんそーさんはそもそも水レーザーには狙われていない様子だ。
つまり。
「なんで俺だけぇっ!」
「がんばれー」
「がんばれー」
右に左に、前に後ろに。飛んだり跳ねたり転げまわったり。
被弾してもヒサカキさんが回復してくれている上にバフもかけてくれて体力は問題ないがなんか腑に落ちない。
土壁まで行こうにも距離がある、ヤド攻撃中に結構横に移動していたみたいだ。
そしてようやくレーザーの雨が止んでくれたのに合わせて後衛の3人も本格的に動き出した。
「やっぱり小さいの優先ですね」
「潰せば手数減って楽になりそうですよね」
「ねこさんまた張り付けます?」
「がんばります」
「じゃあいきまーす」というララデコイトさんの声を後ろに聞きながらヤドカリとの距離を縮める、地面が隆起して高さの異なる足場が3つ出現した。
勢いを殺さない様に足を大きく出して最初の足場へ、そしてそのまま2歩目で更に次へ。3歩目も同じ。
大ヤドカリのハサミが足場を砕くよりも少し前にヤドに向かって飛び出した。
揺れるヤドになんとかしがみ付く、思い出したように爪で必死に。
ゆっくりと振り落とされない様に移動して銛を投げ入れていく。定期的に発射される水レーザーのエフェクトでいるいないが分かりやすい。
着実に数を減らしせているしらぶでりさん達の攻撃でヤド自体もかなり破壊され大ヤドカリの身も露出してきている。
本体は任せてせっせと小ヤドカリを潰していく。
「ねこさーん、こっちは大丈夫なので本体叩いてくださーい」
「りょーかーい」
遠くからかけられた声にちょっと間延びしてしまうが出来るだけ大声で対応する。今度は破壊された殻からのぞく弱点を狙えばいい……ただこのまま行くと後衛組の射線に出てしまう。
ならばどうすればいいのか……それは……。
「本体まで通じててほしい……」
小ヤドカリのいなくなった穴に追い打ち、勢いよく射出された銛は硬い音を立てずに穴の中へと消えた。
これはつまり本体へ直通、これは勝った。まさに濡れ手で粟、違うか。
火力に回れる人員がほぼ全員本体に攻撃をしかけている。
――つまり。
「我々の勝利だ!」
「おつかれさまー」
「お疲れ様です」
倒れ伏し、光の粒子となっていくヤドカリを背に勝利のハイタッチ、大きい分粒子の量も多くて幻想的である。
そしてヤドカリの跡には大きな宝箱、見た目は普通の木製に金具というデザインだ。
――ダンジョン踏破!!経験値ボーナスが加算されます
「じゃあ勝利の雄叫び!うーわんわおーん!」
「「「わんわおーん!」」」
「……なんです?」
「うちの恒例行事なんです、ねこさんもどうです?」
両手を掲げて遠吠えの様に声を張る猟犬の皆さん、ヒサカキさんが丁寧にお誘いと共に説明してくれた。
もう一度ぐんそーさんの掛け声があるらしい……のでせっかくなので参加してみる事にする。こういうのはやったもの勝ちであり羞恥心も捨てたもん勝ちである。自己暗示って大切。
「うーわんわおーん!」
「「「「わんわおーん!」」」」
残念ながらどらやきさんは両手を掲げるだけの参加だったが、謎の一体感を得られた。
ボス戦の高揚感も相まってとても楽しい。
「おーい」
みんなで喜びを分かち合っているとスタート地点で待っていたはずの船乗りさん達が手を振ってやってきた。
大きな背負子を背負いツルハシを手に、船乗り感はゼロであるはずがバンダナだけで船乗りっぽさが出ている。不思議。
「いやぁ、これで採掘もできます。皆さんの中で採掘できる人がいれば手伝ってください」
「あ、私採取持ちです」
「自分も」
「じゃあこっちで」
ラブデリさんと自分が手を上げる。各自ツルハシを出して壁面に露出している青い鉱石へ向かう。各々が並んでツルハシを振るう、鉱石は比較的柔らかいようでひと振りで深く刺さり割れた。
・ラピスラズリ原石 (ランク B)
青色の染料の原料となる鉱石、また魔術の触媒にも使われる
手に取ってささっと回収していく、青色といえばと言った鉱石だ。
とりあえず声がまで適当にツルハシを振っていく、出てくるものは全てラピスラズリではあるが無心で振っていく。
「引き上げるっすよー」
「はいさー」
「はーい」
あれからどのくらい掘ったのか、多分直ぐだった気がするが撤収の号令。ヒサカキさん達が手招きしているので集まる。
そのままいつの間にか現れていた魔法陣に乗ると、視界が白んでいく。……そういえばボス撃破の報酬とかを貰っていない気がする。
「あれ、ボスの報酬は……」
「目録ウィンドウがどっかに格納されてません?」
メニューを開くと赤い!マークの付いたタグがくっついているのを発見したが視界が完全に白に塗りつぶされる。
ゆっくりと目閉じて、そして開ける。すると自分たちは街の入り口へと移動していた。
転移前に見えていた赤いタグをタップすると小さな火花を上げながらウィンドウが広がった。
――海神祭のお手伝い:物資調達 (ダンジョン)を完了しました、報酬は自動的にインベントリへ送られます
〔タップで報酬を確認する〕
メッセージを確認してからパーティーメンバーを視線を合わせた、これが本当のクエスト完了だ。
もしかしたらこのゲームで一番の冒険って感じの一日だったのかもしれない、心地よい疲労と満足感。
「おつかれさまでした」
「おつかれさまー」
「おつかれさま」
「お疲れ様でした」
「……おつかれさまです」
猟犬の皆さんとどらやきさんと別れる。パーティーは自動的に解散されていた。パーティーを固定するオプション設定をしないとダンジョンクリアやログアウトなどで自動的に解散される仕様との事。一期一会……とはちょっと違うけど独特の詫び錆びを感じてしまう。
もうちょっとこの満足感とかを大切にしたいがログアウトしなければならないがその前に少しやっておきたい事がある。主に2つほど。
なので街の大通りをそのまま早歩き気味に進む。
「すいません、これ買取できます?」
「お、タコか!いいぞ!ここにおいて置けば後で金は送るから安心しな!」
そうして歩いて数分、なんかでかい魚とかが並ぶエリアで元気一番な雰囲気のおじさんに声をかけてみるとなんと自動精算が可能だとの事、便利だぁ。沢山持ち込んで査定待ちの時間が惜しい時とか今みたいな時間がそもそもない時に便利だ。
なんて場合にとても助かるシステムに感謝しながら早速タコを台に置く。これでやっておく事1つ完了。
この一画を眺めていたいが時間が押しているので次はログアウトの為の準備をする。
時間はギリギリなので先ほどよりもちょっと大股かつ速足で人通りの少ない場所を探して歩く。
「すいません、ハンモックを設置できる場所探しているんですけども……」
「ハンモック?あー……ちょっと待て、船長ー!ここハンモック使えますー?」
今度は船が停泊されているエリアで休憩中と思しきお兄さんに声をかけた。煙管をふかしていたお兄さんは少し考えるような仕草の後、自身の後ろの船に向かって叫んだ。
「あー?ハンモックだぁ?んなもん適当に吊るしとけ!」
数秒後、顔も見せず、ガラガラ声が返ってきた。それを聞いたお兄さんは煙管を咥えたまま近くに積んである木箱の方を指さした。
「どこでもいいならここにでも吊るしてくれていい、ここなら邪魔にならないしな」
「じゃあ使わせてもらいます、ありがとうございます」
「気にすんな」
手早くもらえた設営許可。ありがたい。
木箱の間、そこそこあるスペースにハンモックを設置する。急いでメニューを開いてハンモックの設置をする。
洞窟で設置した時とは異なり今回は船のようなフレームが付いて自立してくれるタイプとして設置された。よくアウトドアショップでディスプレイされて売られているフレームだ。
「それじゃあおやすみなさい」
「おーおつかれ」
少し揺らしたり体重をかけたりして安定を確かめてからハンモックに横になりログアウトを開始する。
そして何気なく言った言葉に返され、意識が現実に引き戻されながらもふかされた紫煙を視界の端に捉え、ゆっくりと手を振っておいた。多分伝わったはずだ。
明日はどんな手伝いをするのだろうか、その前に報酬も確認してないし……。
少し遠くから聞こえる喧騒を耳に意識がゲームから切り離されていった。
はんだ
種族:ケットシー 職業:魔術師 Lv.12
装備
武器:なし
頭:森人の角笠+3
胴:渡者の服+2
腰:なし
腕:獣革の戦籠手+5
足:精霊の輪
他:快速の腕輪・アイテムポーチ(冷)・鉄の短刀+7
スキル
<体術 12><釣り 7><魔力操作 on><発見 7><採取+ 3>
<投擲 10><魔力効率+><棒術 2><格闘 3><追撃 5>