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37・いざ船の街

データが飛んだりして不貞腐れてたりしてました


 クランハウスからセーフエリアへと戻るとなんだか薄暗くなっていた。


 夜になったわけではないだろうと外を見れば、鉛の様に沈んだ空からはしとしとと静かに雨が降っている。しかしながら風はなく海もまだ荒れてはいない。

 ゲームを始めてからそこそこ日数が経つけれど初めての晴れ以外の天候だ、鼻孔をくすぐる雨の匂いは遠い昔の記憶をじんわりと思い出させてくれる。

 独特の匂いと湿度を感じながら横穴から一歩外へ出る、雨粒が服と毛皮を濡らしていく感覚はある、あるが雨の当たらない位置へ戻るとあっという間に乾いていく。ゲームらしい現象だ。


 これならば濡れネズミになったらたき火にあたったりして乾かさなくても良いのは嬉しい仕様だ。猫だけども……いや猫でもか。

 このまま雨の中を進むのもいいが折角なので少しばかり釣りでもしていこう、ヌカカメさんからも頼まれているし。


 濡れながらもまだ穏やかな海にむけてルアーを投げる、今回は雨だし底の方が釣れる気がする。気がするだけだけどズルズルと海底を感じるように引いていく。


 2回目、ゆっくりめにリールを巻いていると何かに引っかかるようなあたりを感じて咄嗟に竿を立てる。引きは左右に暴れるというよりも重く、縦方向にぐーっと引っ張られつつも引きずってくるような手ごたえ。無生物ではない事だけしかわからない手ごたえだ。


 「タコだ」


 そして釣れたのはタコだった。

 茶色い迷彩柄っぽいというか独特の体色に8本足をうねうねしながら足元をうごめくタコだ。なんでこれが火を通すと真っ赤になるんだろとか、日本人としては美味しそうと思えるがファンタジーなこの世界だとどうなろか、などとどうでもいい疑問が頭をよぎってしまう。

 だがしかしそんな事よりも早くシメないといけない、タコは吸盤でどこでもひっつくしクーラーボックスとかこじ開けて逃げるとか聞くし。インベントリに入れてしまえば大丈夫だとか思っても、もしも出てきたらかなりビビりちらかすと思うのでシメる事は絶対だ。


 確かタコの体は胴、頭、足という構造だったはず、そして頭をどうにかすればよかった……はずだ。多分。

 

 「南無三」


 手を合わせてナイフを構えて思い切って目の間に小さく振り下ろした。

 上手くいったのか色が一瞬で変わり暴れまわっていた足もぐったりとする、持ち上げてみても動く事も吸盤で岩に張り付く事もない。成功だ。

 ちょっと色の変わり方が面白かったな、これ。また釣れないかな。


 ・タダコ ランクD+ 鮮度100(24時間後に0)

 近海で獲れる海産物、悪魔の眷属とされる事もあるが悪魔に打ち勝つためにと広く食用として重宝される


 どうやら普通に食べられているようだ、ちょっと安心。これなら街に持ち込んで買ってもらえるだろう。

 食べて打ち勝つとするとは割とこの世界の人たちは逞しい、これだと意外なゲテモノ系食材とか出てくるのかなぁ……こわいなぁ。


 虫はともかく……ともかく、いや虫もどうだろう。想像しうるゲテモノの限界が虫くらいしかないからどうなんだろう……。


 ――などと思考が変な方向に進んでいく中で竿を振る、今度はちょっと沈め過ぎないようにしてリールを巻く。

 けれども……。


 「かからない」


 合計8回、底を狙うとタコが釣れるのみで魚は全然かかる様子はない。引く速度とか竿に動きを付けたりとかもしてみたが変化はない。

 底を狙ってタコだけ釣っても気分が乗らないのは雨のせいか、それとも大規模クエストというお祭りの話を聞いてしまったからからなのか。タコの引きがなんだか物足りないからなのか。

 

 ――もしかして、全部?

 

 最初こそやる気があったのになぁ……と自嘲しながら何もかからなかったルアーを回収する。


 とりあえず街にいく事にしよう。そこから考えよう、ハンモックとかは後回しだ。

 竿を畳んで横穴の中のハンモックも回収して、忘れ物を指さし確認して出発する。雨も強くなる気配もないしこのまま海沿いを歩いていっても大丈夫だろう。


 ●


 「ナイフシュートッ」

 

 霧雨が舞う砂浜にて、今自分は大きめの白い鳥と戦っている。ぶっちゃけるとカモメっぽい見た目にファンタジーよろしく冠羽やらちょっと綺麗な水色の羽根が混じっていたりしている。

 ナイフとアーツで簡単に倒せるので苦戦はしていない。数も多めだけれども攻撃が突進だけで直線的、回避先を狙われる事もないので対処自体は楽なほうだろう。

 

 だがしかし、無視して逃げられない理由がある。ドロップ品だ。

 風属性の魔石、アプデ前の食事会で教えてもらった炭酸水のレシピに必要なアイテムである。これはちょっと集めておきたい、今後の活動意欲とかのためにも。


 「バースト」


 2羽同時に突っ込んでくるのに合わせて自爆、最近は自分へのダメージが微々たるものになってきている自覚がある。これは自分のプレイヤースキルの成長か、それともレベルアップとかアーツの熟練度だったかの成長か。多分後者。


 そういえば熟練度って上昇してもアナウンスがないなと思いながらバーストに巻き込まれていない1匹にナイフ2本を射出する。なぜ2本なのかはそのくらいが撃ち漏らしが少ないなぁという感覚からだ。

 

 1本が翼を穿ち、もう1本が胴を射抜いた。現実の鳥ならばこんな事できないが、ゲーム故か滞空してくれているのが優しい所だ。ビュンビュン飛び回られたらもうカウンター以外に選択肢は無くなってしまうだろう……。

 地に落ちたら銛でトドメを指して残りに向かってナイフを投げる。


 この一連の動きで残る2匹も簡単に仕留める事が出来た。

 

 最後に砂浜に落ちたドロップ品、羽根と薄緑の魔石を回収する。

 緑というのはこのゲームにおいては風属性を表してくれる、火は赤で水は青など直感的にというか昔から使われている表現だ。

 

 今回の魔石はランクD、炭酸水を作るのには十分な大きさだろう。これは街に着くのが楽しみになってきてしまう。


 数はこのくらいでもう十分、これ以上は街に着くのが遅れそうだし逃げに逃げて走り抜けよう。


 「よーい、ドンっ」


 呼吸を整え砂浜を強く蹴って進む、ヤドカリやカモメを振り払って進んで進んで……そして。


 すぐに街が見えてしまった。

 正確に街とは呼べるものとは言えそうにないものだが。

 

 入り江に並ぶ船に船、さらに船。むしろ船しかない。大きなものから小さなものまで、港もないのになぜこんなにも集まるのだろうか。

 近づくにつれて建物も見えてきたがどれもバラックというかあばら屋、とりあえず木材で立てましたーみたいな物ばかり、一応物見やぐらも見受けられる。


 そして近づいていくと聞えてくる人の声、わいわいとせわしなく物を運んでいく人々も見えてくる。


 「来訪者がきたぞー!」

 「おーい!」

 「よーきたな!」


 やぐらで物見をしてた人が街の方へ、簡素な門にいた2人が手を振りながらこちらへそれぞれ声を張り上げた。

 とりあえず手を振り返して歩を進める、どうやら歓迎されているようではある。 

 

 どちらも普通の男性っぽい、服装はザ・船乗りって感じだ。バンダナ巻いて腰にカトラスだっけか、独特なバナナ状の剣を刺している。


 「お祭りがあると聞いてやってきました、はんだです」

 「手伝いに来てくれたんだろ?助かる」 

 「早速だけどあんた、ここまで1人で来たんなら腕立つだろう?ちょいとダンジョンに行ってきて欲しいんだ」

 「ダンジョンですか……?」


 ――大規模クエスト『海神祭のお手伝い』が発生しました

   このクエストは自動的に受注され、報酬はクエストの終了時に獲得となります


 ――海神祭のお手伝い:物資調達 (ダンジョン)を受注しました


 どうやら勝手に始まってしまったクエスト。手伝いと名の付く仕事をどんどこ手伝っていくのが大規模クエスト……事前に聞いていた内容の通りらしい。

 そして今回は早速荒事のお手伝いらしい。


 詳しく話を聞くとお祭りで使われる祭壇とか太鼓とかの装飾なんかに使われる塗料の原料の鉱石を手に入れてくるというもの。なんかややこしいな。

 船乗りさん達からは3人ほど鉱石採取用の人手が応援に来てくれる、しかしながら道中の戦力としては当てはならないとの話。


 じゃあ自分ひとりで護衛を?なんて思ったがどうやら他にも声をかけたプレイヤー達と協力してダンジョンへ向かうらしい、野良パーティーってやつだったか。


 そしてちょうど人数的にもダンジョンへ行けるとの事なので早速顔合わせとなるのだった。

はんだ


種族:ケットシー 職業:魔術師 Lv.10


装備

武器:なし 

 頭:森人の角笠+3

 胴:渡者の服+2

 腰:なし

 腕:獣革の戦籠手+5

 足:精霊の輪

 他:快速の腕輪・アイテムポーチ(冷)・鉄の短刀+7


スキル

 <体術 10><釣り 7><魔力操作 on><発見 5><採取+ 3>

 <投擲 7><魔力効率+><棒術 1><格闘 2><追撃 2>

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