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36・ハンモックと相談

ヴァイキングしてたりロシアで魚釣りしていました


 砂浜あるいて何千里……いや多分30分くらいだろうかな?

 いやそんなべらぼうに歩いてはいない、ヤドカリはなるべく避ける様にして駆け足で逃げたり迂回したりで辿り着いた次第だ。セーフエリアに。


 波打ち際、そこから少し離れた岸壁の横穴。薄暗い中はそこそこに広く中央にはたき火跡がある。そして奥にはいい感じの湧き水ポイントに小さなポータル、中々に野営感。

 薄暗い中、だれかが置き去りにしたであろうポーションっぽい空き瓶があったので拾って水たまりの水を汲んでみる事に。瓶のアイテム名が『淡水』となり説明分でも飲料可能との文字が出てきたので生活するには最低限な環境と言える。サバイバルがしたいわけではないのだけど。

 海沿いだが近くに林も見えるので燃料は拾えるだろう、つまりこれで目的達成だ。


 「わーいってそうじゃない」


 こんな貧相な拠点で満足するものか……でもない。ポータルだポータル、街にある物とは随分と見た目が異なり水の入った地球儀……? のような感じだ。球の半分ほどに水が入ってるような感じの水球がゆらゆらと揺れていてどことなく神秘的だ。ちなみにとても小さい、軽く抱えられるほどである。


 ――海神のポータルの起動を確認しました(2/7)


 控えめに手をかざしてみたらウィンドウがデデンと出てきた、そしてみなれないもじがたくさん。わぁ。

 たぶんなんか同じようなものがあと5つ起動できるんだなろうなぁと思いつつ、今はそんな事気にしている時ではないのでスルー。

 

 「倉庫が使えない……リスポーンポイントの設定、じゃあ変更して……あ、イベントアイテムの交換はできる」


 あとポータル間の移動とかの機能は使えないのでほとんどリスポーン地点としての機能だけという仕様っぽい。つまり自分には影響がない。

 ならばさっそくクランハウスへと行く事にしよう……と思ったがその前にメッセージでヌカカメさんの所在を確認しておく。その返信があるまではイベントアイテムの交換をして時間をいい感じに潰そうと思う。


 交換アイテムは前に見たけどラインナップが少し増えている、全体的に消費アイテムか家具とか。パッと見、交換しておくべきだなって感じのアイテムはない……かな。

 ポイントはそこそこにある。好きに交換できるなら……とながめていたリストの中にふと目に留まるアイテム。


 ・安らぎのハンモック ランクEX

  セーフエリアで使用できる

  ログアウト時に使用した際、次のログイン時に経験値ボーナス(小)を付与する


 結構お高い、ポイントほぼ突っ込むことになりそうだけどハンモックに無性に引かれてしまう。使った事ないんだよねハンモック、使ってみたいよねハンモック。

 悩んだら行動、気が変わる前にちゃちゃっと交換。余ったポイントは回復アイテムとピッケルの予備にしておくことにして交換は終了。


 「さっそくハンモック」


 インベントリに入れられた新品のハンモックを取り出す、筒状に丸められたものを手に持つと半透明の設置イメージらしきものが出てきた。一緒に出てきたヘルプを見ながら歩いて設置位置を決めていく。

 どうやら壁が近くにあると壁面にアンカーを、何もなければ支持フレームが出てきてくれるようだ。せっかくなので片側を壁に設置するタイプでいこう。


 「おーなんかすごい」


 両端を壁のアンカーから吊るされたハンモック、まずハンモックを跨ぐようにしてから座る。そして寝る。しずむ体とハンモック、両足が離れて本当に吊るされて寝ている状態だ。なんだか不思議で体を揺らしてしっかり固定されているか確認してみる、まぁ外れるなんて事はないんだろうけども。

 そうして見上げる天井は岩、なんだかパッとしないがアウトドア感が増してテンションがあがるなこれ。


 ――メッセージを受信しました


 寝床という存在の大きさを感じながら今度は何をしようかと揺られていたらメッセージだ、宛先はヌカカメさん。今ちょうどクランハウスにいるとの事らしいので早速赴く事に。


 ところで、ここからクランハウスへは行けるのか……?

 物は試しにとウィンドウを操作してクランハウスへの転移を選択してみる。そしたらば注意文が出てきた。

 どうやら一部、仕様制限がかかるらしいが移動自体は可能らしい。ちなみに制限はゲスト待遇扱いになる……具体的に言えばアイテムの持ち出しとかに制限ができるとの事。

 つまり最初からゲストの自分には関係のない話なのである。万歳。


 「こんにちはー」

 「おー!ねこさん!まってたにゃー!」

 「こんちはー、お久しぶりです」


 やってきましたクランハウス、早速出迎えてくれたのは……、ヌカカメさんとダンボーラーさん……らしき人物だ。ダンボーラーさんは以前と変わっているのは丸くて大きな耳、ヌカカメさんはなんというか。


 「猫……になってる?」

 「そうなのだ!ねこさんとおそろいにゃー!」

 「おー」

 「フラグはわからんちんだけど、転生候補にあったのにゃ」

 「なるほど……?」


 猫になったヌカカメさん。クリーム色の毛並みに鼻先と手先、耳が茶色というカラーリング、髪はそのままショートボブだ。

 なぜそうなったとかは良く分からないのでさておき、確かめるようにずっと肉球を触られる。それはもう執拗に、ヌカカメさんにも肉球があるので互いにふにふにと柔らかい肉球の感触を感じている状態。なぜに自分のを触るのか。


 「ぬあー!ねこさんの肉球デカいのにやっこい!」

 「ヌカカメさんのも柔らかいですよ?」

 「大きいのがいいんだにゃー!」

 「はぁ」


 助けを求めて視線をダンボーラーさんへと向けると困ったような顔をしながら微笑まれた、見捨てられた。

 止まらない肉球おさわりを受けながら他に助けを求めて辺りを見るが人は居らず、二階部分に人影が見えるも奥の部屋へと姿を消してしまう。


 「あー、堪能した……」

 「おわったんですね……」

 「ごちそうさまでしたにゃー」

 「それは……どうも、ところで用事ってこれの事ではないですよね?」


 ふやけたように緩く笑うヌカカメさんはワンテンポだけ遅れてハッと思い出したかのように目を見開くといつもの顔に戻った。


 「そうだそうだ、ねこさん釣りスキル持ってたでしょ?」

 「持ってますね」

 「我々は今4番目の港町で大規模クエストを受けてるのにゃー」

 「大規模クエスト?」

 「そこでヌシクラスの魚が必要らしいのにゃ、ねこさんにも協力して欲しいのにゃー」

 

 まず、大規模クエストとは。それは大規模なクエスト……、簡単に言えば達成条件のために不特定多数のプレイヤーが関わらなければいけないらしい。

 純粋に戦闘だけではなく生産メインのプレイヤーから採集スキル持ちのプレイヤーまで多種多様な作業が必要との事。今回は港町で執り行われるというお祭りのお手伝い、主に神様への捧げものと祭りで振る舞われる料理の材料集めがクエスト内容になるらしい。そのためヌカカメさん達『新鮮組』は方々へアイテムを探しに出回っているのだとか。

 その中でもヌシ魚介、住人達の力では難しい食材の伝手が足りないとの事。ちょっと前に出会った釣り師クランさんにも手伝ってもらっているがそれでも足りないのだとか。


 「ぶっちゃけ言うと別の街でも大規模クエスト発生してて、大体のプレイヤーがそっち行ってるんですよね」

 「あ!ボーラー、バラすにゃー!」

 「そうなんです?」

 「モンスターに襲撃されて壊滅した街の復興だそうですよ」

 「……大手ギルドがそっち行っちゃって、こっち不人気なんだにゃー」


 ダンボーラーさんの暴露から離し始めた頃の勢いは消えて、困った様な顔でしゅんと耳を伏せてちょっと小声気味に話すヌカカメさん、この感じだと自分への連絡前にも何人か同じ話をしていたのだろう。そして何人か振られたと。


 こっちには断る理由がない、街の位置もセーフエリアの先っぽいし。そしてヌシっぽい魚にはとても心当たりがある、実際に釣ったので1匹は確保できそうだし。

 

 「ヌシは多分心当たりがあるんですが……」

 「あるんですか」

 「意外だにゃ」

 「心外すぎる」


 今はどう見られてたとかは置いておく事にするが、あの黒い鯛だとするとあの人混みの街へ戻るのはちょっと気後れしてしまう。

 

 「始まりの街で1匹釣ったことがあるんですが、今人が多くて……」

 「ねこさん目立ちますからね」

 「私もたぶん目立つにゃー」

 「なので、釣り方というか状況教えるので誰かに頼む事できます?」

 「ねこさんが情報開示するならおっけーにゃ」


 ボーラーさんがちょうどいい知り合いがいるらしいので口頭でなんか黒いエビを捕まえてそいつをエサに釣れたと教える事に。名前はなんだったか……電気エビ?雷エビ?そんあ感じのエビ、潮だまりで捕まえてーって思い出しながら説明する。いうほど情報量がないけれども。


 「じゃあ自分は早速知り合いに会いに行ってきます」

 「おねがいします」

 「よろしくにゃー」


 手書きのメモを書き終えるとボーラーさんはちゃっちゃかクランハウスから移動していってしまった、どらやきさんとは別行動なのか1人で行ってしまった。

 しかしながら、自分が呼ばれた用事が早速終わってしまった。何かやる事があるのだろうか?


 「じゃあねこさんは適当に釣りしながら街に来て欲しいにゃ、そこで色々お手伝いしてほしいにゃ」

 「了解です」

 「そうそう、ゲスト待遇だから今はこれしか出せないけど来てくれたお礼にゃ」

 

 手渡されたのは……ホットドックだ、なんか赤い刻んだ野菜ソースのやつ。ホカホカでとても美味しそうだけどなんかソーセージが赤い。これチョリソーじゃないかい?

 ヌカカメさんは笑顔で頷くだけだ。まぁ辛い物は嫌いじゃないから一抹の不安と一緒に大きく一口。


 「ん、おいしい……?ん」

 「今、街の住人さん達に大好評のレッチリドックにゃ」

 「からぁい……」

 「でも美味しいでしょ?お口直しはこれどうぞー」


 ひりひりする口、アツアツ旨味たっぷりの肉汁が追い打ちをかけてくる。たぶんゴロゴロした野菜のソースも唐辛子なのだろう、食感もシャキシャキ小気味よい。

 そして二口目には痛辛いのも美味しく感じてしまうから頷くしかない。

 食べ終えると同時に渡されたのは飲むヨーグルトっぽいドロッとした飲み物。さすがのアフターケアだぁ……。 


 「あぁ……さっぱりする」

 「これとセットで売ってたら大規模クエスト発生させたみたいなんだにゃー」

 「これで……」

 「どうやら住人さん達の好感度みたいなのがフラグみたいなんだにゃ、これで住人のハートをがっちりにゃ」

 「なるほど……?」


 漁港というか海産物が多いせいか肉料理が人気になったんじゃないか、とは検証クラン談。ついでに辛さに特化させた料理も珍しくてそれも受けたらしい。

 もともとは新しい食材が輸入されてないかと探る目的だったらしい、そしてNPC達との交流はそういう情報の入手源としては鉄板だとか。仲良くなるというかよそ者から顔見知りになる為に屋台で色々していたのがそもそもの発端になると。


 ある程度街の情報も含めて聞いてみたが建物は平屋が多くて道がとても広いのだとか、主に船からの積み荷を運ぶためなんだそうだ。

 プレイヤーは別の大規模クエストの影響か少な目で自分でも変に目立つことも無いだろうと、それならば向かわねばなるまい。


 「じゃあいってきます」

 「いってらっしゃーい、現地で会ったらよろしくにゃ」

 「そいでは」


 ハンモックで寝るのはもう少し先になりそうだ。

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