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35・旅立ちとか

ストックはできてないけど新章だよ



 メンテ明け、それは混雑する時間。

 メンテ明け、それは行列のできるお店の開店直後のような人混み。

 まして御新規さんが初ログインする日となれば輪にかけて混む。自明の理だ、しかし私はそんな事思ってもみなかった。


 いやだってね、ほんとにこんな混むとは思っていなかったんだよ……初詣で近所の神社に行った時以上に混んでて予想の甘さを痛感した時以上だよ。

 いや最初にここに来るのだからそうなるよねって言われたらそうなのだけどね……?こんなにいるとは思わないじゃん?思わないからこうなってるんだよ?

 自身がスタートダッシュから遅れて始めたのもある、きっと最初期もこんな感じだった事だろう。そうしたらきっと前もって移動してからログアウトしておくとかしていたことだろう。

 

 さて現実逃避は終えて、こんな大型連休の観光地のような人混みだと街の外にでるのも一苦労……なんて、そんな事はない。

 忘れておりませんとも、農場へ出る門がある事。そしてここからなら大通りを横断せずともその門から街の外に出れるという事も。完全に偶然でラッキーなのだけれどね、僥倖僥倖。


 そして今日からは新たな活動拠点を探す事を目標に活動していくのだ、さすがにこの混雑する街で活動するのは不便がありそうだし、いい加減色々なロケーションへ出向くべきだろうとも思っていた。雑貨屋さんには悪いがしばらくの間さらば……きっと新規さん達で賑わってくれる事でしょう。


 とりあえずセーフエリアでもなんでも見つけられれば御の字という気持ちで街の外へ出る。夜明けの薄暗い中農場の中を通り水路沿いに歩く。

 実は忘れていたアーツとかイベントポイント交換とかあるけれどまずは移動なのだ。


 どこへ向かうかと考え、とりあえず海岸を歩こうとひらめいた。海沿いなら漁村とかありそうだしなにより釣りポイントに困らない。

 早速農場の水路沿いから街の壁を沿う様に進路を変え、波打ち際の岩場を歩く。岩場は起伏こそあれ足場には困らない程度の物でその他の場所もゆるい斜面だったりするおかげで直線行軍に支障はない。

 そうして岩場を直進しつつ海沿いを歩くこと数分、直ぐに砂浜に出た。朝日に照らされた水平線がきらめいている、眩しい。一応記念に写真を撮影しておいて歩き出す。

 しかしこうなるとイベントも無くただただ歩くだけだ、まだ朝方の砂の冷たい感触と波の音を楽しみながらひたすらに歩く。


 かわいらしい足跡が残っているがそれも楽しくなってうねうねと蛇行してみたり途中で流木のちょうどいい感じの枝を拾って線を引いたり童心に帰って遊ぶ、しかし目的は忘れていません。だいぶぐねぐねしたけど。


 ――メッセージを受信しました


 蛇行にも飽きて流木の棒きれを杖の様にしながら街が見えなくなって数分、システム由来の通知音と共に砂が隆起する。

 咄嗟に飛びのく、砂に足を取られて思ったように飛べなかったが多分十分に距離はとれた。きっと反応が遅れていたら餌食になっていただろう。

 隆起した砂から出てきていたのは大きな蟹のハサミ、そしてもぞもぞと全身が這い出てきた。ヤドカリだ。

 腰よりも大きなヤドカリ、宿はなんだろ……貝ではないな。なんか大きな殻だ、ごつい卵のような殻だ。なんだあれ。 


 どう見ても友好的なmobではない、しかも先制攻撃までしてきている。

 つまりは戦うほかない、硬い殻を考慮してナイフではなく斧を複製して投げつけていく。

 初めて見る敵に対して加減がわからないため4本も投げてしまった上に追撃用の2本も用意しているが考えてみればここは始まりの街にまだまだ近い、先日までの同格との闘いの流れで攻撃してしまったのだ。

 その結果なぞ火を見るよりも明らか、2発着弾で派手に殻をぶち破り光の粒子へと還るヤドカリ。残りの2本は先の砂に刺さって消えた。

 ちょっと斧を2本も構えた自分が恥ずかしい……。

 

 ・甲殻のヤド欠片 ランクE

 海辺に生息する甲殻種モンスターのヤドのかけら

 防具などに加工できるほどの大きさはない


 誰も見てないからセーフと言い聞かせそそくさとドロップ品を確認する、それは手のひらサイズの白い殻だった。説明文からするとあまりいいモノではないっぽい。防具に出来ない欠片を集めても……ぱっと用途が思いつかない。

 つまりあんまり相手しても美味しくない、経験値もさしてもらえてないはず……。なればなるべく戦闘は避けて先に進んだ方がいいだろう。目指せ未開の地だ。

 でもその前にちゃんとメッセージの確認だ。送り主はヌカカメさんだ。


 件名:どこにいます?

 ねこさんに見せたいものがあるにゃー、時間がある時にクランハウスに来て欲しいにゃー


 どうやら急ぎではないっぽいが待たせてしまうのも悪いのでちょっと急ぐことにする、具体的には小走りで。

 ちなみによくスポーツ漫画で砂浜を走るトレーニングを見るがこうしてゲーム上ではあるが体験するとその厳しさを進行形で感じている。


 スタミナはあるんだかないんだかわからないゲームの仕様上息切れするほどに疲れなどは感じないが走りずらい、踏ん張れないからなのかとにかく足が重く感じる。なんというか大変だ、うん大変なのだ。

 気を紛らわせようと海を眺めながら歩を進めていると遠くのほうに船が見えた、白い帆を掲げ水平線を進む数隻の船だ。もしかしたら港が近くにあるのかもしれない――なんて思ってしまったらテンションがどんどん上がっていく。


 しかしながらテンションとは裏腹にえっほえっほと途中で小走りから競歩のような早歩きへと妥協して進む。どうも頑張れないのは年を取ったからだろうか……。

 なんてごちごちと考えを巡らせつつヤドカリを数匹回避した後、砂浜が終わり岩場に変わった。そして更に歩くと小さな湾へと出てきた。見えている船は近くなってきているし数も増えてきた。

 岩場の高い所に登って湾を眺めれば向こう岸というか遠くに家屋が見える。桟橋に船、漁村だ。カモメっぽい鳥も飛んでいてなんとも絵になる光景だ、写真を撮っておこう。 


 早速出会えた集落に思わずガッツポーズだ。やったぜ新天地。



 「おはようございます」

 「ど、どうも……あぁ、来訪者の方ですか。おはようございます」

 「朝からこんなところに何用ですね?」

 「来訪者でもなかなか見ない出で立ちですなぁ」

 

 村に入ってすぐの所、ここにもあった東屋にて火に当たる3人の漁師と思しき男性達、一応あいさつは大事だ。


 「確かに珍しいらしい……ですよ?今日は拠点になりそうな場所を探してまして」

 「猫人はこっちにもおるがお前さんみたいなのは初めてじゃのぉ」

 「拠点ってーと宿か?うちにはそんなたいそうなもん無いなぁ」

 「来訪者さんの拠点って言ったら御神体の事でないか?」

 「あー御神体、今来訪者さんが使えるのはここのじゃなくても1個先の村だな」


 御神体is何?そんな疑問は3人が口々に話す内容で完全に理解できた、完全に、多分。御神体isポータルだ、どうやらあれはこちらの住人達には神様の杖を象った御神体とのこと。

 なぜ本人ではなく杖なのか。それは神様が姿を見せる時、老若男女問わず色々な姿で登場するからだと。なんだそれはと思うがそういう世界観だと思えばなんでもない、小難しく考えるのが苦手な人類は設定そういうものだとしてしまえばいいのだ。考察とかは詳しい人がやってくれるのだ。

  

 「じゃあこのまま海岸歩いていけばいいんですね?」

 「んだな、そういやお前さん武器は持ってないが大丈夫か?」

 「この先はモンスターも強くなるな、お古だが無いよりましだろ」

 「気ぃつけてなぁ」

 「ありがとうございます、それでは」

 「達者でなー」


 漁師の銛+1 ランクD 耐久1232

 刺突攻撃ボーナス、水生特攻


 受け取った長めの銛を手に村を後にする、短い出会いだったがいい人たちだった……。もうちょっと長居して釣りとかもよかったかもだが先を急ぐ旅……、朝日を受けてクールに去るぜ。


 なんてカッコつけて脳内ナレーションも流しつつ新しい杖替わりの銛を軽く振り回す。

 釣具店とかで見た事のある三つ又の物ではなく1本の芯に返しが幾つも付いたタイプだ。穂先の部分は20cmほど、柄も長く中々に槍っぽい。

 投げて使かってもいい、むしろ今までの戦闘スタイル的にはそれがベストだろう。


 ――しかし、ここで衝動。


 イベントにて上がったレベル、貰ったスキルポイント。余らせている、とても。

 12ポイントにも及ぶ残高、リストを眺めながら『棒術』の説明を確認する。『槍術』ではないよ。

 棒術と槍術は別物だが簡単に言えば棒術は適応範囲が広い、サブウェポンとして取得するなら器用貧乏なスキルが良いだろうという判断。あと計画性がないからリカバリというかなんとかなるだろうという魂胆。

 そして更に『格闘』『追撃』スキルの取得、格闘は体術とアシスト内容が一部かぶっているが攻撃向けのアシストが多い格闘と回避とか移動のアシストがメインの体術という区分らしい。つまり素手なら両方のスキルを活かせるのではという考えである。

 追撃は文字通り追撃時にダメージが上がるスキル、連撃ではないのはヒット&アウェイでの立ち回りが多いと自覚しているので追撃の方がメリットが大きいと思ったからだ。ちなみに追撃判定は相手がダウン状態の時や攻撃してから敵との距離が変化した際が追撃判定となる……らしい。文字で書かれても分からないから使いながら確かめる事にする。

 棒術が2ポイント、追撃が3ポイント、格闘が3ポイント。合計で8ポイントのお買い物である、まだまだ使えるがこれは必要になったら取る事にしようと思う。属性スキルも今後候補に入るかもしれないしね。


 ――ジョブセレクトが可能になりました


 スキルの取得を終え、ウィンドウを閉じると新たなウィンドウが開いた。

 どうやら最初に選んだ職業スキルを変更できるようになったらしい、何がどう変わるのかは分からないのでひとまずそのままにしておく事に。

 ちなみに選択できた職業は初期の魔術師に軽闘士、拳闘士の3つだ。格闘と棒術がそれぞれ対応しているっぽい。


 職業はともかく新しいスキルにウキウキな気分で銛をふりまわす、ぐるぐると回して持ち替えて……ひとしきりぶんぶんして感動する。なんというか手と身体に銛が吸い付くような感覚というか挙動をしてくれる。これがアシスト。

 とはいえ銛は突くのがメインになるのでそのうちちゃんとした槍を買う事にしよう。棒でもいい。


 手悪さをしながら数分、早速目視したヤドカリ。砂に隠れていないその個体に向かって駆け出し真正面から銛を突き刺す。


 「お?おおっ!?」


 殻は堅いだろうからと真正面から口付近を狙い、見事にリーチ差を生かして攻撃する事は成功した。それはもうぐっさりと。しかしながら銛の返しがいい感じに機能して抜けなかったのだ。

 暴れるヤドカリ、とりあえず銛から手を放しバックステップしながらナイフを射出する。そしてナイフの着弾時に今まで見た事のない赤いエフェクトが弾け飛びヤドカリが大きくのけぞる、そうかこれが追撃。

 ならばと今度は一気に距離を詰めながらナイフを2本打ち込む、今度はいつも通りの白い弾けるエフェクトと共にヤドカリは光の粒子となって崩れていく。刺さったままだった銛は砂の上に落ちた。

 

 もしかして追撃は連続で発生しないのか、それともなんか条件が色々なのか。思案しつつ落ちた銛を回収し、ドロップ品を確認する。


 ・甲殻のヤド板 ランクD+

  耐久も大きさもそこそこにあるヤド、色々な物に加工できる


 座布団以上の大きさのヤドの平板だ、これほどの大きさの貝があるのかと聞かれたら困るがあるのだろうなぁ……と言えなくもない、でかい貝くらいありそうだしねこのゲーム。

 これは回収しておこう、売れそうだからね。

 

 なにはともあれ先を急ごう、速く拠点を確保して色々しなければ。

 


はんだ


種族:ケットシー 職業:魔術師 Lv.10


 装備-武器:なし 

 頭:森人の角笠+3

 胴:渡者の服+2

 腰:なし

 腕:獣革の戦籠手+5

 足:精霊の輪

 他:快速の腕輪・アイテムポーチ(冷)・鉄の短刀+7


スキル

 <体術 10><釣り 6><魔力操作 on><発見 5><採取+ 3>

 <投擲 6><魔力効率+><棒術 1><格闘 1><追撃 1>

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