3・戦闘をしてみて街を歩こう
街の外へ向かう途中、大きな広間へと差し掛かった。
通りには人、NPCやプレイヤーと思しき人たちが行きかい露店で物を売り買いしていたり屋台で料理を売っている者もいる。どうやらここは市場の様な場所のようだ、そのうち自分でも露店を出すのも楽しいかもしれないな。
それにしても人と形容したが猫耳や犬耳の女性や耳の尖った人、角の生えた人にトカゲの尻尾のある人などその姿は多種多様だ。服装も鎧や胸当て、ローブなどいかにもという感じしか見られない。
俺のような人は居なかったが。ちなみに俺の服装は初期装備である深緑の丈の長めのコートのような物、説明にはローブとあったが……とゆるめの長ズボンだ。
「串焼きかぁ……買ってみたいけど今はまず戦闘に慣れないとな」
しかし屋台で売られている食べ物の匂いがなんとも香ばしくて食欲をそそる、風などもそうだが仮想だと忘れてしまいそうだ。
見たところ塩のみの味付けらしいがテーマパークの屋台というか街の雰囲気も相まってついつい買い食いしたくなってしまうな。
しかし目的がブレてしまわない様に極力屋台は見ないようにしながら街の外へ歩き出す、地図を見てから港とは反対方向の大きめな門から外へ出られるようだ。
辿り着いた門は開け放たれており、馬車などが検問を受けていた。何か審査とかが必要なのかと思ったが来訪者、つまりプレイヤーは特に必要ないと言われた。
ただし問題を起こすとほかの街へ手配書というかリストが作られて監視されると言われた。ゲームだと言って何をしてもいいわけではない様だ、する気は毛頭ないが。
「おおー」
そうして初めてやってきた街の外は一面の草原であった。踏み固められた道を除いて一面の緑である。
割と近くに森も見えるがどうせああいった場所は初心者殺しなエリアに違いない。色々と慣れてから挑むことにしよう。
いざ戦闘とその前に周囲にほかのプレイヤーがいないか確認する、すでにサービス開始から1週間も経っているからなのか思ったよりも人はまばら…もといいない。街にはそれなりの人数が居たと思うが……やはり初心者用のフィールドには旨味が少ないのだろうか。
一応遠目に何人か見えたがどうやら森へ入っていくようだった。装備も良さそうに見えたし俺も早くレベルを上げて挑戦してみたいところだ。
周りに人がいないのを確認すると軽くチュートリアルのおさらいをしてみる。
まずは簡単に素振り……杖は無いので素手での正拳突き、蹴りなど取りあえずゆっくりと練習し次にできるだけ早くという段階を経て動きを確認する。直接的な攻撃はこれくらいだ。
昔好きだったゲームの主人公の動きをマネしながらだけど……うんいけそうな気がする。まぁきっと経験者からみればへっぽこだろうが出来ないよりましかな。
次に魔術、一応職業スキルは魔術師だからね。
職業スキルはレベルが上がると対応したアーツと呼ばれる技を覚えられる、それをいかに活用できるかがこのゲームの戦闘の醍醐味でもある……と公式サイトに書いてあったのでそうなのだろう。
「マジックショット」
魔術師初期アーツのマジックショットを試しに撃ってみる、本来は光弾が一色直線に飛んでいくのだが杖がないためか光球は手のひらから動かずに弾ける様に消えてしまった。
ならばと手を前に打ち出すようにして発動すると飛んでは行かなかったが前方へ弾ける様に消えたのだ、弾けているエフェクトには攻撃判定がありそうである。
色々動きながら試し打ちをしてみるがどうやら腕の動きに合わせてエフェクトが出るようだ。
これは近距離でないと敵に攻撃できないっぽいな……。
……いやでも近接職でもいいなぁって思ってたし、 殴り僧侶とかあるし殴り魔術師というのもいいかもしれないな、なんだか気を操る格闘家みたいでカッコいい……波○拳とかできそう。
「そうとなれば実践あるのみ!」
街のすぐそばには敵モブは居ないようなので草原を歩いて探す、そうしてすぐに見つけたのはRPGでお馴染みのスライムだった。
青いゲル状で目も口もないそいつは一体でただぷるぷると震え、そこらへんをグルグルと動き回っている。
こういった街の周りの草原にはこちらから攻撃しなければ敵対しないタイプのモブしかいないはず、なので周囲に他に敵がいないか確認してからそこらへんに落ちていた石を拾いスライムに投げつけた。
こういった自然物が利用できるのもこのゲームの特徴だと公式サイトのプレイ動画で見た。というかスライム相手のデモ動画の真似だ。
――ちゃぷっ
当たるとは思っていなかった石は見事スライムに命中し、体内へ。こちらに気が付いたスライムは少し貯めるような動作をしてからとびかかってきた。
しかし石による先制攻撃のため、相手の動きを見てから十分に余裕を持って回避ができる。
二回三回と避けてスライムの行動がとびかかってくるだけだと確認してから、飛び掛かりに合わせて拳を振る。
「硬い……のかな?」
確かデモムービーだと一発だったけど……素手だとやっぱり威力はないのか。そうだよね、素手で剣と同じ攻撃力とかないよね知ってる。
ならば今度、やる事は一つ。
「マジックショット!」
ちょうど打ち返す様な感じにアーツが決まりスライムのHPバーが真っ黒になり光の粒になって消える。
一応自分のHPバーも確認するが変化はない様だ、所謂カウンターヒットとでも言うのか相打ち判定にならなくて良かった。
それからスライムだけに喧嘩を売って、格闘と魔術の練習に励んだ。
さすがスライムとでも言うのか10体ほど倒してようやく魔術師のレベルが上がった、探す手間などを考えれば早いとは言えないだろう。
他の敵にも挑んでみたかったが動きの確認が目的なので我慢する事にした。
そしてそれよりも魔術師のレベルが上がった事により新しくアーツを覚えたのだ。
・魔力防御 (アーツ) 熟練度G
魔力を消費して自身の身体に薄い防御膜を展開する、展開箇所は調節が可能
簡易的な防御なのだろうか…MPバーを見てみると全快しているのでとりあえず掌に展開してみる事にする。
「防御展開」
うっすらと光る手を確認しながら視界の端に映るMPバーを見ればゆっくりとではあるが減っている、この光の部分に防御判定が有るのだろう。
こういったアーツの発動調節はスキルの魔力制御によるもので、効果はこのように魔術の範囲や威力を調節できるようになるスキルなのである。
所謂マニュアル操作の様なものらしく、あると戦略の幅が広がるらしい。その分操作難易度はあがるのだとか。
今は手に展開しているが全身に展開したら俺のアバターの体格的に馬鹿な消費量になるのだろうか。
何度かアーツを発動させて遊んでいたら日が傾いてきておりもうすぐ夜になりそうだ、ファンタジーの夜は難易度が跳ね上がるのがお約束…。今の俺なら直ぐに街に送還されるだろうから寄り道せずに帰ろう。
●
「夜間は門を閉じるんだ、申し訳ないが夜の間は街の外へは出られないよ」
門まで戻る衛兵さんに注意というか説明を受けた、どうやら夜間は街へ入れないし出られないようだ。早めに帰ってきてよかった……。
夜間に戦闘する場合は気をつけないといけないかな、外に簡易でも拠点や安全地帯が確保できれば大丈夫なのだろうか。
とりあえず街を歩いているが、如何せん人が多い。
ログインした時にはそんなに居なかったはずなのになぜこんなに居るのか…。
なので人混みを避けて路地を歩いてみるがゲームだからなのかそこそこ明かりがあって歩きやすい。現実ならもっと暗くて歩きにくい上に治安も悪くなりそうだ。
しかし路地だからなのか人は誰一人いない、ごろつきとか居そうなのに出くわさないのは治安がいいという解釈でいいのか。
そうしてランタンの明かりに照らされた路地を歩きながら今日わかった事をまとめてみる。
スライムとの戦闘で分かった事は飛び掛かり中なら真横からだろうが正面からだろうがこちらの攻撃はカウンターヒットのような物になる事、スライム自身は打撃に耐性がありマジックショットなしでは簡単には倒せなかったという事。
そしてマジックショット自体は性能が良い事、連射も利くので現段階での重要なダメージソースだ。
一応戦闘で動いたりアーツを使っていたので体術のスキルレベルも2と順調に上がっている。
適当にぶらぶらしているが時間はまだもう少しあるようだ、そういえば職業レベルが上がった際にSPをもらえたのでスキル取得をしてみようかな。
行動によってスキルは獲得できるがこうして職業スキルのレベルアップによってもらえるポイントでも覚えられるのだ。
メニューからスキル取得を選んでリストを見てみるがSPから取得できるスキルは初期に選択したものよりも多くは無い様だ、あくまで此方はスキル取得の補助という感じなのだろうか?
「お、これ良さそう」
・魔力効率+ 必要SP5
アーツ使用時の消費MPを軽減
どう見ても良スキルの予感しかしないがコストが高い、レベルアップで貰えるSPは2だったのであと2レベル上げないといけない。
ならばと他のスキルを見てみるがどうやらコストはスキルによって異なるらしくSP1で取れる物もいくつかあるようだ。
気がついたけど火属性や水属性などのスキルもあるがもしかして魔術師は属性スキルを取らないといけないのなのだろうか……。
だがしかし現段階では必要性を感じないし後回しでも大丈夫だろう、必要SPも2だし。パーティーを組む予定もないし。楽しんでなんぼのゲームだ、気にせずいこう。
だけど残りはどれもいまいち心惹かれない物だった、生産スキルと呼ばれる物もあるが今のところ何かを作りたいとは思わないな……手先が器用な方ではないからね。
これは大人しくレベルを上げて魔力効率とった方がいいかもしれないな。
そういえば何気なく、そう違和感なくこのアバターを動かしているが改めて腕などを確認すると自分の腕とは思えない。
手には肉球があり触ると柔らかい、爪も一応意識すると出たり戻ったりする様だ。足も同じような感じで実物の猫と違うのはかかとがしっかりと地面についている事くらいだ。というか骨格はほぼ人間だろう。
そして毛並みはサラサラのふかふかのような気がする、海水に濡れたり動いたりしたはずなのにごわごわしていないのはゲームだからだろう……か。
そして次に気になったのは尻尾だ、先ほど猫耳尻尾の女性や犬耳尻尾の男性などを見かけたので気になったのだ。
意識するとなんとなくは動かせる、右に左にと簡単な動きしかできないが。そして握ってみた感覚はふわふわしているが触られているという感覚はない、他人から触られたりすると違ってくるのだろうか……。
デブ猫は見たり触ったりする分にはいいが自分がなるとどうにも複雑な気持ちだ。しかも動いている時の違和感がないので猶更。
一応意識して使う必要がありそうなのは爪くらいだろうか……?
実践しようにも時間もないしまた今度ということにしよう。
「ふぅー、あ……もうこんな時間か」
時計を確認するともう寝る時間になりそうだ。
なんだか観光気分も味わえたので目的は果たせずともなんだか満足な散歩だったな、こうしたレンガ造りの街並みも今では中々お目にかかれない物だし……。
そういえば屋台があったんだし今度は食べ物片手に景色のいい場所を探すのもいいかもしれないな……。
やってみたい事が増えていくのは楽しいが今日のところはお開きにしよう。
ちょうど路地だし、少し壁よりに移動してログアウトをはじめる。
目を閉じてゆっくりと意識が沈んでいき、仮想現実とのリンクが切れていく。
こうして俺のVR初日は幕を閉じたのだった。
はんだ
種族:ケットシー 職業:魔術師 Lv.2
装備-武器:なし
頭:なし
胴:冒険者のローブ
腰:なし
腕:なし
足:なし
他:なし
スキル
<体術 2><釣り 2><魔力操作on><発見 1><採取+ 1>