33・レイド戦闘と空飛ぶ少女
誤字報告ありがてぇ
「どうも、フトンです。今回はイベントレイドで最高ダメージを目指そうと思います」
空中に固定されたカメラに向かって鎧装備のフトンさんが喋っている。
そして周りにはそこそこ人が集まっている。集合時刻に来てみたらちょうどブルーさんとノワールさんがいたので挨拶をして付近で屯している。知らない人ばっかりだとちょっと緊張しちゃうからね。
話によるとやはり彼らも参加者で、自分と同じくフトンさんに声をかけられたらしい。
そして集まった人々は中々に戦闘力が高めの人がちらほらいるらしい、正直自分が悪い意味で浮くんじゃないかとひやひやしている。
ちなみにモモさんは呼ばれていないらしい、あの時はスキル券とレアアイテムの為に戦っていたのであって今はあのスライムと生産活動に精を出しているとの事。
「ねこさん、よろしくにゃー」
「ヌカカメさんも居たんですね、よろしくおねがいします」
「大船に乗ったつもりで安心するにゃー!これでも戦闘職20レベにゃー」
知り合いが増えると安心感が増す、だけどヌカカメさん……俺よりずいぶん強いんですね……。
意外な一面を垣間見つつも周りには人が続々と集まってくる。
エルフにドワーフ、ゴツイ鎧の大男……。ファンタジーって感じのビジュアルが大集合、ちょっと興奮。こんなに集まるの初めてだからね。
「じゃあ集まったみたいなので自己紹介……と言っても初参加で初見はねこさんだけなので皆さん、ねこさんに自己紹介どうぞー」
「うぇ?」
一斉に集まる視線、好奇心とかそういうわくわくとかが大半を占める。そして各人が順々に自己紹介をしていく。
気が付かなかったがダンボーラーさんとどらやきさんもいた。初顔さん達は合計9人、一応名前と顔は覚えられたと思う。
そしてパーティーはブルーさんとノワールさん、ヌカカメさん、ヒーラーの可食はごろもさん。
はごろもさんは大柄の男性、筋肉モリモリマッチョマンの変な人だった。見るからに戦士みたいな革鎧にメイス、キャラメイクで付けたのか古傷も相まってどうみてもやっぱり戦士ですな見た目ですがヒーラーです。そして笑顔が眩しくとても様になっている人です。
「前線に出ますが回復もするのでHP減ったら遠慮なくヘルプって呼んでくださいね」
「一応こちらでも回復補助するのでねこさんはとにかく攻撃しててください」
「了解です」
ちなみにヌカカメさんはショートソード二刀流だそうで遠距離攻撃手段を持っているのが2人という編成になった。
一応、遠距離攻撃手段を獲得したことを伝えると飛行する敵を優先的に攻撃して撃墜して欲しいとの事。もともと戦力としては微妙だったが仕事ができたのでちょっと安心。
「あ、フレンドリーファイアはダメージ無いんでじゃんじゃか打ち込んでくださいね」
「そうなんですか」
「なので遠慮なく狙ってあげてくださいね」
「オイ」
「ハハハっ」
――敵性反応接近
いい感じの雰囲気で打ち合わせが終わり、戦闘開始準備のログが現れて雰囲気が変わる。
草原の村を背に、ABCと分けられたパーティーが並ぶ。一応この村を防衛するというシチュエーションらしいが別に敵はこちらしか狙ってこないとはブルーさん談。
大概は村に近づく前に殲滅できるからとノワールさんから補足をもらった時、カウントダウンが始まる。
――戦闘開始まで10、9、8……
各人が各々の武器を構える、十人十色な武器と構え。こうして並ぶとかっこいい、とてもかっこいい。
まぁ自分は武器はないがとりあえず構える、息を整えて開始を待つ。
――3、2
遠くの景色が歪んで異形が姿を現す、ダンジョンで見たキノコに大きな黒い鳥、透けている布切れのような……多分ゴースト。
それらがごちゃごちゃに並んで此方へゆっくり進んでくる。
――1、戦闘開始
「おおおおおおぉぉ!」
タンクの3人が駆け出し、それに続いて前衛のメンバーが駆け出す。一応自分は後衛ポジションなので2テンポほど遅れてスタートする。
雄叫びを上げて突撃する3人がそれぞれ扇状に散開、後続はそれに続いてパーティー毎に分かれていく。
「ねこさん、どんどん攻撃していいですからね」
「了解です」
接敵まで少しの所でノワールさんからゴーサイン、早速ナイフを2本手に持ち走りながら大きく振りかぶって打ち出す。
初弾が命中したのを確認しながらもう1本も投げる。それぞれキノコ2体に刺さりヌカカメさんの一太刀で切り伏せられる。
次は黒い鳥、優先的にと言われたがノワールさんがどんどん打ち落としていくので正直狙いづらいがすこしはぐれた様な個体を狙ってナイフを投げる。
体力がどんなものか不明なので保険と様子見を兼ねて打ち出した2本のナイフはそれぞれ翼と胴体を貫き、打ち落とす。
これは中々ナイフシュートの精度もいい感じだ。調子がいい。
ノワールさんはあまり動かずに魔法を展開していくがこちらは動き回って個別撃破を心掛けて動いていく。
「ボス、大キノコ!」
ブルーさんの声と共に鉄くずゴーレムほどの大きさのキノコが現れた、でかい!説明不要!
計3体、それぞれのパーティが引き受ける形で分断していく。
そしてそのまま全員の攻撃が大キノコに集中していく、時折取り巻きと思われる普通サイズのキノコが出現するがヌカカメさんが素早く処理していくのでナイフを大きな的にむけて投げるだけの作業になってしまう。
時折減る前衛組のHPもはごろもさんがいい笑顔のまま回復させていく、一歩下がって回復してからメイスを振りかざしてボスへ……。
なんというか切り替えが早い、ヘルプの声が聞こえる前に回復の準備している。
かく言う自分は先ほどからまったく変わらず安全圏からナイフ投げるだけなのでこうして各々の動きを観察できるという訳でもある。
●
切って躱して切り倒して、近接戦闘に慣れてしまったプレイヤーの動きの滑らかさよ……。でっかいトレント相手にひーこら言いながら倒していた自分との差をまじまじと感じております。
デカキノコを倒した後、オオカミやトレント、コウモリも追加されて所謂wave2が始まり序盤より動きが激しくなるパーティメンバー及び他のメンバー。
そして燃え盛る双剣で全身こんがり(?)焼かれたデカトレントが今まさに倒れてあっという間にwave2が終わってしまいました。なんという速さ、置いてけぼり感がすごい!
「こっからラスト、ゴーレム3体を2PTで相手します。俺が1人で1体釣るので残りの2体おなしゃす」
「補助入るよ」
ブルーさんとノワールさんがもともとフトンさん達がいた方向へ駆け出す、そして最後のボスが登場……なんだそうです。
背景が揺らいで現れたのは鉄くずゴーレム、しかしながら最初から盾と鎚装備が1体。両手が剣のような棒状のが1体、最後は弓の様な腕のやつ。
バリエーションあるんですねぇなんて感心する余裕も無く弓持ちが天にむけて一発なにかを発射する。
「散開!」
はごろもさんの号令に各々散らばるように駆け出す、2秒ほどの余裕をもって着弾。打ち出されていたのは剣や槍でありイベント中に見慣れた鉄くずシリーズ。もしかして体の一部を打ち出しているのではと思ったがどんどん単発で打ち出される諸々にそんな事はないのだなぁと早々に悟りました。はい。
「猫さん、弓持ち行きますにゃー」
ブルーさんノワールさん2人は盾持ちを相手に、残ったメンバーで弓持ちへと向かう事になった。
はごろもさんが先導し、中距離で打ち出される弾をいなしていき。残った2人でとにかくゴーレムを叩いていく。
「はごろもは自分で回復できるからとにかく叩けばいいにゃー」
「了解です」
今回も足を狙う、ダウンさせる、コアを殴るの繰り返し。なんとシンプル、とってもシンプル。
一見すると簡単そうだがタンクが中距離で射出される鉄くずをあまり動かずに捌いていかなければならないらしく、とてもじゃないが自分には無理だろう。
先人という名の廃人たちの努力の結晶である、効率的な狩り。システマチック。
1人の時の試行錯誤もいいけど、これはこれですげーってなるので楽しい。
そして過剰気味の火力でもって早々にゴーレムが沈む、なんともあっけないがこれにてこのイベント戦闘が実質終了である。
「あっちはそのままでしたっけ?」
「そそ、そろそろ準備できるはずだけど」
「何するんですかね」
「見てからのお楽しみって言われたからなぁ」
「向こうでやってるあれがそうなのかにゃー」
ブルーさんが引きつけたゴーレムを囲んでの談笑、安全圏とは言えなんだかシュールである。他のメンバーも腕組みしてたり座ったりと完全に観客気分。
そしてヌカカメさんの指さす方角ではオフトンさんのパーティーが木材を組み立てている。
それは一見というか完全に投石機である、でかいスリングショット形式?というよりスプーンみたいな発射台形式である。その発射台に鎮座するのは身の丈ほどもある大斧を持った小柄な女の子、そうですオフトンさんです。
その光景になんとなく分かってしまった結末を見守っていると拡声器の様なエコーがかかったオフトンさんの声が響く。
「標的座標よーし、発射準備確認3……2……1……」
カウントダウンの後にガシュっという音と共に跳ね上がる発射台。そして発射される幼女、大きな弧を描きかなりの高さまで飛んでいく。
とてもシュールです。しかしながらその軌道はさながら栄光の架け橋……。
「おおおおおおぉがクラッシャーっ!」
勢いそのまま腰に捻りを加え回転落下しながら叩きつけられた斧がダウンさせられたゴーレムのコアを打ち砕いた、轟音と立ち込める土煙。
こういう時って言いたいセリフがあるが言うとよろしくないので言わないように努める。
「やったか!?」
「やったかにゃ!?」
お隣が口をそろえてそのセリフを言ってしまった、完全にフラグであったが何事も無くファンファーレとクエストクリアのアナウンスが流れる。
ちょっとだけ言えばよかったなと後悔しつつも目の前に出現した報酬の缶バッチを手にする。なんともちゃっちい作りというか探せばなんかありそうな柄というのがなんとも言えない。どうしろというのだ。
そのまま缶バッチはインベントリへ、多分君に会う事はないだろう。
――村の防衛に成功しました、おめでとうございます
「生還!」
土煙の中から両手を掲げ、笑顔のオフトンさんが出てくる。湧き上がるほどほどの歓声、一応合わせて拍手をしておこう。
装備はボロボロ、斧もボロボロ。満身創痍が歩いているような出で立ちとなった彼女は駆けてきた投石機のチームに抱き上げられ胴上げされる。
なんだかとても楽しそうな雰囲気のなか仄かに感じるモヤモヤ、なんで人間大砲よろしく彼女は飛ぶ事にしたのだったか……。
はんだ
種族:ケットシー 職業:魔術師 Lv.10
装備-武器:なし
頭:森人の角笠+3
胴:渡者の服+2
腰:なし
腕:獣革の戦籠手+5
足:精霊の輪
他:快速の腕輪・アイテムポーチ(冷)・鉄の短刀+7
スキル
<体術 12><釣り 6><魔力操作 on><発見 6><採取+ 3>
<投擲 8><魔力効率+>