30・中ボスとレベルアップと
流れに乗ってもう1話
「マジックショット」
飛び掛かってくる狼の顔を横から叩く様にしながら体を捻る、ダメージを最小限に抑えた受け流しからのカウンターは狼を光の粒子へと変えていく。
何度も戦えば慣れるというか対処のパターンができてくるものだ。トレントも斧投げでダウンとアーツでの畳みかけの流れもかなり慣れた。
そしてついでにレベルが2つも上がってそろそろ大台の10レベルが見えてきたのだ。スキルポイントについてはイベント後にゆっくり考えるつもり、今やったら衝動的にスキル取得して後悔する未来が見えるからね。
先に進めば敵の行動パターンなんかも増えて「あーこんな時あのスキルがあったならな」とかあるかもだろうがまぁ、それはその時だ。
現在第15階層、実は秘境(仮)を見つけた後ほどなくしてログアウトし日を改めての再チャレンジである。
敵はトレントと狼だけで変わらないが複数がセットで来ることが常になってきている。ソロ故か4体以上を相手取る事はなかったが無傷とはいかない。
トレントへの対処練習での受け流し、狼2体を相手取っての戦闘でダメージを負いその内狼からの攻撃でHPの6割ほどを失う事に……なんて事が何度もあった。ポーションの在庫が減ったが収穫はそれ以上、何といっても獣の皮が必要数集まったのは精神的に大きなアドってやつである。
トレントの皮はあと1つだがもうこれは購入してしまおうかと思っている。集まるだろうとも思うが出なくてもいいやと思う事はこれも精神的なアドだ。アド大好き。
何はともあれあと1戦ほどで5の倍数階のポータルだ、ログアウトまでの時間はまだまだあるのでどうとでもなる。
そしてこの階層おそらくラストとなる相手なのだが……。
「でかーい……」
説明不要!――とはいかないがそれ以外の言葉がない。ただ大きなトレントだ、まだ擬態してはいるがこれ見よがしに不自然な木だ。
ボスというよりも……中ボスというのが適切だろうか。時間的に余裕は十分あるがタダでかいトレントなら短期決戦でもいけるだろう。アイテムの在庫もこの1戦だけなら十分だ。
「いざ特攻あるのみ」
根を使った攻撃の強化が考えられるので回避は早めに、そして大きく。それ以外は攻めの姿勢でレッツゴー。
呼吸を整えて斧を構える。天高く2本投げ、走る。2本の斧の着弾を待たずに木に掌底をあてがいアーツを発動させる。
「マジックショット!」
聞きなれたトレントの叫び声よりも低い音が響く、気にせず斧を生成し力任せに振り下ろす。
次いで撤退のためのマジックバーストを発動させて距離を取る、着地を待たずに斧を生成しアンダースローで投げつけておく。
太い根がのたうちまわる、何十とある根は辺りの瓦礫を破壊しながら広がりそのうち近くにある何本かがこちらへ鞭のように振り下ろされる。
回避に徹する用意はあったが思ったよりも状況は悪い、辺りに張り巡らされた根のお陰で足場が悪い上に此方が近づけば攻撃してくるだろう。
叩きつけられた根によって土埃が舞い、視界が悪い中2本3本と根による突きが襲ってくる。
「むぅんっ!」
ダメージを覚悟で防御アーツを纏った腕で根をそらす、HPバーが削られるが気にしている暇はない。
そのまま根を掴みアーツを発動させ破壊する。
派手な音を立てて襲い掛かってくる根を砕く、足場こそ悪いが攻撃は今のところ振り下ろしと突きだけの様でこれまでの対処練習が功を奏してくれている。
辺りの根をあらかた砕き距離を取る、ポーチからポーションを取り出して一気に飲み干す。削られていたHPがゆっくりと回復を開始する、まだまだこれからだ。
息を整えて周囲から放たれる突きを身を低くしながら走り、潜る様にして距離を詰める。
射程圏まであと少しという所で本体を守る様に根が重なり合う、どうやら初撃は不意打ちできまったが今回からはこの守りを超えないといけない様だ。
だがそんな事はお構いなしに掌底を根にあてがい、咄嗟に思い付いた実験も兼ねてアーツを発動させる。
「マジックバースト!」
破裂音というより昔聞いた空砲に近い音と木が砕け散る音――そして舞い散る根の残骸。
思った以上に凶悪な破壊力を以て根の守りを打ち砕いたが威力の調節を失念していたため此方も大きく吹き飛ばされる事になった。
空撃ちした時ほどのダメージはないが慌てて立ち上がり土煙を立てて姿の見えないトレントの方向を見る、まわりの根は慌ただしくうねっているがこちらを攻撃する気配はない。
視界が開けると大きなトレントは根の多くを失いぐらついていた、破損した根は根元からゆっくりと再生しているようにも見える。
チャンスではないが再生されるのはマズい、長期戦になるならなおマズい。
HPの残量は6割ほど、ポーションを飲みHPの継続回復を確認しながら斧を手に走り出す。
こちらの接近にトレントは残った根を順々に繰り出す、1本は潜る様に避けもう1本は体を捻りながら腕で受け流し斧で断ち切る。
そのまま次の根が迫りくる前に斧を新しい物に換え、サイドスロー気味に投げる。追加にもう2本も投げながら近づく。
飛来する斧を打ち落とそうと根がしなりこちらへ向かってくる根の勢いが削がれる。
余裕をもって回避しながら距離を詰め、跳ぶ。
「マジックショット!」
掌底に纏ったアーツがトレントの幹を抉る、反撃の有無を確認する前にもう片方の手で追撃を加える。
揺らぐ巨体に爪を立てしがみ付き最後の追撃を放つ。
「マジックバースト」
反動ダメージを一切気にしないアーツの衝撃は先ほどよりも強く、勢いよく体は宙へ放り出された。
視界の端ではステージを這う根が光に変わりレベルアップの音とウィンドウが眼前に小さく表れる。どうやら撃破できた様だ。
――職業『魔術師』レベル10に到達、ジョブエクステンド、マジックワードの解放、アーツ『マジックシュート』習得、パッシブアーツ『リバック』習得
吹き飛ばされながら体を捻り四つん這いの様な体勢で着地する。体術スキルってすごい、自分で動いているのに何処か他人事だがすごい。さすがあって損はない便利スキルだ。
ゆっくりと立ち上がり勝利の余韻に浸る、1人で討伐したボス(中)……この達成感……でも。
「あー疲れた」
その反動は疲労感、やり切ったというか燃え尽きた……とは違うが今日の冒険はここまでにしよう。この余韻をもうちょっと残しておきたいというのもあるがこれ以上は身が入らない。
ちょっとレベルアップのウィンドウに書かれている内容も気になるが忘れる前にドロップ品を確認する。激闘の果ての報酬は何物にも代えがたいのだ。
鼻歌交じりにトレントのいた場所へ近づくとそれはそれは大きな砂山――もといドロップ品のなんか手を突っ込める不思議空間……に手を進める。
手に取れたアイテムはトレントの皮が3つ、魔石のランクC、木材が4つ、そして百薬の葉というアイテムだった。
百薬の葉 ランクC
多種多様な薬に使える薬草の葉、万能薬の元
ちょっと大きいヤツデのような葉だ、それが一枚。ランクも高いし高く売れそうだ……。
最近アイテム手に入れては売れそうとかしか考えてないな?……これはまずい、けど売る以外の用途がない。
なら用途を作ればいいじゃない!なんて思ったら最後だ。永遠に時間を泥棒されて最後に残るのはきっとあれもしたいこれもしたいと時間に喘ぐ自分に違いない。
だから生産はもっと冒険してからにするのだ、まずは冒険。そして釣りだ。
その冒険の為にもレベルアップでなんか増えたと思しき諸々を確認する、アーツ2種の習得はわかる。マジックワードとジョブエクステンドとはなんぞや。
・マジックシュート 熟練度G
物体に干渉し、対象を動かす・射出する
・リバック
パッシブアーツ。無属性アーツ命中時にMPを回復、物理攻撃時に回復するMPの上昇
新規アーツは中々今のスタイルに合っている物じゃないだろうか。複製した斧を投げずに打ち出せたりできるだろうし、パッシブ……つまり常時発動する方はそのままMPの効率が良くなる。
つまり今まで以上に武器を複製して投げつけても大丈夫という……まさに強アーツじゃないだろうか。
興奮に任せて試し打ちしたくなるが、理性で押さえつけて検証は後日にする事にする。残りのよく分からない何がしの確認を進める。
ジョブエクステンド――職業スキル・通常スキルのレベルに応じて発生する。スキルを統合、進化を行い新しい職業スキルを獲得する
マジックワード――プレイヤーが習得した『ワード』を組み合わせ、新しい魔術アーツを作成する。『ワード』はスキルのレベルアップ、クエスト、魔術への理解を深める行動などで習得できる。
前者はわかる、ノワールさんやブルーさんの職業のように専業的になったりするやつだろう。
後者は……わかるようなそうでないような、これも要検証だがこの説明から考えると今のままではさしてできる事はないだろう。ワードなんて習得した覚えないし。
結論としては装備を更新したら後日色々と検証しよう。疲れた頭じゃきっと上手くいかない、そうに違いない。
別に明日の自分に投げっぱなしジャーマンかます訳じゃない。
起動したポータルで帰還しながらそう自分に言い聞かせながらも、ちょっと今から楽しみでもあるのだ。
はんだ
種族:ケットシー 職業:魔術師 Lv.10
装備-武器:なし
頭:なし
胴:冒険者のローブ+2
腰:なし
腕:獣革の戦籠手+5
足:精霊の輪
他:快速の腕輪・アイテムポーチ(冷)・種火の鉄手斧+5
スキル
有効
<体術 9><釣り 6><魔力操作 on><発見 4><採取+ 3>
<投擲 6><魔力効率+>