21・洞窟とツルハシとフリマ
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「よかった、洞窟だ」
早速手に入れたツルハシを使うためにダンジョンへと移動したものの、一瞬洞窟以外の場所にでたらどうしようという疑問が頭をよぎったが杞憂だったようだ。
そもそも景色が変わるのは特定の区切りのいい階層ごとだっけか。うん、そうだったよね。
まぁ兎にも角にも最初の1階はどうせ簡単な構造なのだし気楽にいくことにしよう。
進んで曲がって辿り着いたのは大きな部屋、今回は分かれ道もなくやってきた。そして前回通りに現れるスケルトン。今回は両手に小さなナイフを持っているものと弓を持ったもの……2体で登場とは初めての経験だ。
しかも片方は遠距離武器だ、これは優先的に狙わないと危ないかもしれないなぁ。
「よしっ」
駆け出して一番に狙うのはナイフ持ち、一気にケリをつけるべく反撃覚悟で一気に距離を詰める。
一旦止まってアーツを発動させながら後ろへ飛ぶ。
「マジックバーストッ」
砕ける骨を後目に残りの弓持ちに対して円を描く様に移動する、相手はギリギリと軋む弓を引き絞り此方へ狙いを定めてくる。しかしその動きはガタガタでブレにブレている、これはチャンス。
シュっと音を立てて山なりに飛んでくる予想よりも遅い矢を大きく避けながら前へ進む、距離を取ろうと後ずさりするスケルトンに詰め寄り頭にアーツをぶち当てる。1階層だけあって一撃で倒せるようでそのまま崩れ落ちる。
全滅を確認し一息吐いてからドロップ品を探る、戦利品は魔晶の塵が3つ。弓持ちの方から2つも出てくれたのでちょっといい気分。
さっさと採掘ポイントを探そうと奥へ進む、そして部屋を出てすぐに分かれ道にさしかかった。目印を置いて今回は右へ進む、突き当りまで行ってポータルなら引き返して行き止まりなら採掘だ。
進む先を見ればうっすらと照らされた坑道の先、突き当りが見えている。見えてしまっている。
「おーしやってやるぜー」
小走りで突き当りまで行くと早速ツルハシをバッグから取り出して採掘を開始する。ガッガッと色の違う壁面へツルハシを突き立て壁を崩していく、ヒビが入ればそこを広げる様に何度かツルハシを打ち付けていると一抱えほどの大きさの岩がごろりと崩れ落ちた。
・銅鉱石 ランクD
銅を含んだ鉱石、数を集めて精錬すると銅になる
銅、つまり武器には使用できない感じだろうかRPGではよく初期装備とかで銅の剣とかあるけど……。まぁこのゲームでもあるかもしれないが、どちらかと言えば鍋とか装飾品とかに使える素材だろうか。
それから幾度か銅鉱石を採取すると硬い岩盤が露出し、採取できませんとウィンドウメッセージが出現したため採掘はやめて次の階層を目指す事にする。ちょっと気になったがこの坑道の壁も掘れば広がるだろうか……それとも岩盤がすぐに出てくるだろうか……。
さすがに風情というかせっかくの探検だし、やめておこう。正規ルート正規ルート。
「目指せ、いっかくせんきんー」
気を取り直して先を目指す。
本当に金が出る訳ではないだろうがそこそこの稼ぎにはなるだろう、けれどもコツコツと貯めていけばきっと大きな買い物も夢じゃない……家とか?うん、思いつかないね。
まぁともあれ、あって困るわけではないし冷蔵ポーチみたいな物に今後のためにね。うん、頑張ろう。それに金貨でごっそりもらえた時のあの小袋の重みって独特の達成感というか気持ちいいからね。
ささっと戻ってポータルのあると思しき道へ進む、そしてポータルを見つけて次の階層へと進む。
「また洞窟か」
景色が白んで景色がハッキリと浮かんでくると、そこはまた同じような洞窟だった。
先ほどまで見ていた坑道と広場のような広い空間、違うのは最初から二手に道が分かれている事。
まぁやる事は変わらない、向かう方の地面に線を引いてから進んでいく。石で線を作るのは面倒だったのでツルハシでガリガリと線を引く。
そして分かれ道はまずは左から、今決めたルールだけどあっちこっちとフラフラするより幾分かマシだろう。さっきの事など覚えていない。
もちろん地面に目印の線を引くのを忘れない。
「そしてまさかの宝箱」
行き止まりにあったのは宝箱であった。さっきから最初に選ぶ道は行き止まりばかりではないだろうか。
しかし今は宝箱宝箱と形容するには些かみすぼらしい簡素な木箱ではあるが、ダンジョンに置いてあるのだから宝箱なのだ。どうせ中身はしょっぱい筈だけど開けるのが宝箱であり、宝箱の宝箱足りうる所以なのだ。
「要は開けるまでが楽しー」
躊躇なく開ける。足で蹴るようにして開ける、お行儀が悪いけど一回やってみたかったので許してほしい。
開けてびっくり、中身は短剣……いやナイフか。
・アンブッシュ:ランクD:耐久(1500)
盗賊の使う短剣
不意打ち成功時:耐久消費減少・ダメージ増加(中)
そのまんまの名前に付加効果、アサシンプレイをしている人なら中々いいものではなかろうか。
初撃で相手一枚落とせるもしくは大ダメージスタートというのはかなり優秀だろう、その後は他の武器やら立ち回りが必要だろうけど。
まぁパーティー組んでればその後は仲間に頑張ってもらえるし強い効果かもしれない。
自分で使わないからこれは売ることになりそうだけどいい値段になれば嬉しいかなぁ。
「次行ってみよう」
鉱石に宝箱、なんだか金運が回ってきた気がする。この流れに乗ってドンドン稼いでいきたいよね。
やはり鉱山はアメリカンな夢が詰まっているのだ、ゴールドラッシュだよ全員集合ってね。なお金は出ない。
でも鉱山だけだと飽きるからそのうち水辺にも行きたい、釣りもしたいし採取もしたい。
そんで少し贅沢して買い食いもしたい。イベント事の出店での買い食いはやめられないものだからね、あったらの話だけど。
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「こんにちは、ダンジョンで入手したアイテムって売れますか?」
「どうもー、買い取りしますよー鉱物は色つけちゃいますよー!」
戻ってきた広場でなんとなく目に入った露店のプレイヤーに声をかける。
あの後、5階まで何事もなく進み採掘と骨との戦闘だけで危なげなく進んできたのだ。そして5階層ごとに途中退場してもリスタートできるポータルがあったので帰ったのである。
声をかけたのは炉と鉄床を出して剣やら槍の穂先っぽいのを広げ小さな身体で大きなハンマーを振っていた癖っ毛の少女……?少女だ、うん幼女ではない。
座った状態だから正確には分からないけど小柄な体躯に長い赤い癖っ毛、先で纏めているけど中々の量だ。翡翠と言えばいいのか、透明感のある鮮やかな緑の大きな目。少しそばかすのある顔立ちは体躯も相まってカントリーな……うん、なんというか伝わってほしい。田舎娘と言えばいいのか……?
そして種族はドワーフ……かな、設定できる身長が小人族より少し高い程度の種族。
鍛冶+小柄という安直な推理であるが、外してないと思いたい。
そして彼女は限界まで小さく設定したのかもしれない?
リアルもここまでの低身長はそうそういない……はず、俺のアバターもかなり高身長だしそういう設定だろうと思われる。
「いやぁ、皆採取頑張ってくれないから装備の修理しか仕事がなくて退屈だったんですよねぇ」
「戦闘は避けられませんからね……」
「そうそう……お、砥石に銅に……塵にナイフ。色々ありますね!」
なんだか嬉しそうに渡した品物を確認していく少女は紙に数量と値段を書き出していく。手慣れているようで流れるように検品が進んで行く。
書き出された値段を見ていくとやはりと言うか安いようだ、ダンジョンの浅い場所だし仕方がないか。それでもポーションなどの消耗品は使っていないので結果的には十分に利益になる、うまあじ。
「はいはい、じゃあ全部で2500Gってところだね。結構品質も安定してるからこっちも助かります」
「じゃあそれでお願いします」
「あ、せっかくだしフレンド申請しておきますね。装備のこととかでお困りでしたら『浪漫至上主義』が相談にのりますよー」
いきなり送られてきたフレンド申請ウィンドウに内心驚きながら送り主の少女の名前を確認する……。
「えーと、フレンド認証……おふとん2世……さん?」
「えーと、はんださんね。噂の猫さんと知り合えるとは僥倖ですね、私のことフトンとでも呼んでください」
「じゃあフトンさんで、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いしまーす」
断る理由もないしフレンド枠なんて余らせるだけだろうし認証する。
なんだかすごい人と知り合った気分だが鍛治関連のフレンドは頼もしい、折角だしお金を貯めてオーダーメイドの装備も作ってもらうのも良いかもしれない。現段階だと防具限定だけど。
お金も受け取りフトンさんの露店を離れる、他にも露店はあるが興味惹かれるものはぱっと見ない。
ならばと時間を見ればまだもう少し時間がある、これは6階層へお試し挑戦するべきだろう。イベントだからね。
「えーと……6階層から……っと」
端末を操作し善は急げと転移を開始する、まだ踏み込んでいない階層ではあるが5階を踏破すれば自動的に転移先に設定できる仕様のようだ。
転移が始まり白けた視界が開けるとそこは水平線の彼方まで続き、海と見紛うほどの湖だった。
なぜ湖とわかったのは遠景に見える高い山々がこの湖(仮)をぐるりと囲うように連なっているからである。たぶん飲めばはっきりする。
その湖(仮)には小島がいくつもありそれを桟橋が繋いでいる、舟とかあったらショートカットできそうだなとか思うけど作るの大変そうだ。
景色もいいし感じる風は心地よい、そもそもダンジョンと言われ最初が洞窟だったから地下へ潜っていくものばかりだと思っていたがそうではないようだ。特定の階層ごとに景色とかフィールドとかが変化していく感じだろうかな。
「でもまぁ、これは」
釣りをするほかあるまい。




